ジオン帝国の宇宙要塞『デスフォートレス』攻略のため、イーリス隊と共同で作戦を行うこととなった反ジオン帝国組織『
しかし地上から宇宙へ上がるのに手間取り出遅れていた。
一刻も早く戦域へ向かうため、機動部隊メンバーの一人ヌタ・グラベルが提案した作戦とは……。
これはTwitter上で連載されている作品群『機動戦士ガンダムGRID』の二次創作外伝です。
ある程度作品群を知っていることを前提としたストーリーとなっています。ご了承ください。
どこまでも漆黒が支配する
ぐんぐんと加速を続けるその機体もまた漆黒に塗られているが、取ってつけたように背面に接続された二本の大型プロペラントタンクだけは白。
その驚異的スピードには相応のGがかかるらしく、コクピットのパイロットはその負荷に歯を食いしばって耐えていた。
「ぐっ……自分から言い出したこととはいえ、コイツはキツイな……」
シートに押し付けられてそう呟く青年はヌタ・グラベルといい、漆黒の機体の名はマスタングという。
『ブラックレビン』といえば思い当たる者もいるだろうが……今は関係ないだろう。
現在は反ジオン帝国組織『
話は数十分前に遡る……。
「艦長、デスフォートレスに到着するのにはまだ時間がかかりそうか?」
叢雲の旗艦『
一見すると場に不釣り合いのようにも見えるが、その表情は一流の戦士のもの。
とある事情で成人女性から子供の姿に変わっている彼女こそ、叢雲の創設者でありリーダーであるナディア・ホロゥ・叢雲その人である。
「はい、天叢雲も最大戦速で飛ばしていますが……地上でマスドライバーを確保するのに手間取ったのが響きましたな。
すでにユウキ少尉らイーリス隊はデスフォートレス周辺へ到着し、攻撃を開始したようです」
「そうか……しかしここは耐え時というものだ。天叢雲の全速力以上に早く到達できる手段はない、か」
現在叢雲はジオン帝国の重要拠点であり衛星兵器を有する宇宙要塞、デスフォートレスの攻略をイーリス隊と共同で行うところである。
しかしつい先日のユウキ少尉救出作戦で叢雲の存在を大々的に公表し全世界指名手配された都合上、地上から宇宙へ上がるのに手間取り出遅れていたのだった。
ジオン帝国は自身に反抗的な都市を衛星兵器の照射により一瞬のうちに消滅させるという暴挙を行っている。
デスフォートレスの攻略、そして破壊は一刻も早く行わなければいけない作戦であるが……。
「機動部隊のメンバーには引き続きコクピット内での待機を命じておけ。デスフォートレス周辺まで到達したらすぐ出撃できるようにな」
「了解! 機動部隊メンバーに通達……」
女性オペレーターの一人がそうアナウンスを流しているところだった。
「ホロゥ、艦長、相談……いや、提案がある」
扉を開いてブリッジへやってきた人物がいた。
鋭い目つきの青年、ヌタは開口一番そう呼びかけたのだった。
「ヌタか……コクピット内での待機を命じていたはずだぞ」
ホロゥが少しばかり険しい顔をして返す。
デスフォートレス攻略前の緊迫した状況だ。下手なことを言えばその逆鱗に触れることになるのは間違いない。
見た目こそ愛らしい美少女であるものの、見た目通りの性格でないことは叢雲のメンバーならば誰しも知っていることであった。
しかしヌタも承知の上か、意には介さない。
「そう怖い顔をしないでくれよ、単刀直入に言うぜ。イーリス隊だけの戦力でデスフォートレスの攻略は厳しい。
一人でも多くの手練れが必要なはずだ。……今から俺が先行してイーリス隊に合流する」
「お前が? 力量を考えれば……その提案自体は妥当だな。だがどうやって?
マスタングでは天叢雲の最大戦速以上のスピードを継続的に出しての航行など無理なはずだ」
ホロゥがそう返す。その指摘は至極真っ当なもの。
それこそミノフスキー・ドライブ等を搭載したMSでもない限り、戦艦に搭載されたまま移動した方が効率的であるはずだった。
「そうだな……マスタングは大幅にカスタマイズしてるとはいえごく普通の汎用機だ。
プロペラントタンクを取り付けて最大速度で飛ばせば天叢雲以上のスピードは出せるが、途中で燃料切れになるのがオチ。
だけど前に話していたよな? リバイバル粒子を使っての遠隔補給の案。技術班から提案されて、何度かテストもしてたはずだ」
「あれか……ここ最近はジオン帝国との戦闘が激しくテストは進んでいなかったが。まさか、それをぶっつけ本番でやるつもりか?」
リバイバル粒子、天叢雲のメイン動力炉にも使用されている新物質。
散布すればMSの損傷を修復し、エネルギーの代替としても振る舞うなど未だ未知の部分が多い粒子である。
ホロゥはその秘密を多少なりとも知っているようであるが、天叢雲のメンバーの大多数は「よくわからないが使えるから使っている」という状況であった。
「話に聞いた遠隔補給の件、興味があって以前から技術班と何度か話をしてたんだが……役立つのは今だと判断した。
プロペラントタンクとブースターを全力稼働させ天叢雲より先行する。途中で燃料は切れるが、その直前のタイミングを事前に計算して遠隔補給を行い再加速。
そのままイーリス隊の元へ最速で到達するって寸法だ」
その言葉を聞いて、ホロゥを目を閉じて数秒考えていた。
次に目を開けると、
「艦長、どう思う?」
「そうですな……この提案を持ってきたということは技術班のお墨付きを得ているんでしょう。
あいつらが失敗する可能性の大きい、実験のような作戦に賛同するとは思えませんからな。
以前のテストでも失敗例は少なかったですし……仮に遠隔補給に失敗してマスタングが立ち往生するようなことになっても我々が後から通るルート上ですから、その時に回収してやればいい。
やってみても良いのではないでしょうか」
それを聞きホロゥはうなずき、ヌタに向き直る。
「いいだろう、やってみろ。だがやるからには失敗は許さんぞ。
そうだな……もし失敗したなら私直々に鍛え直してやろう。地獄の猛特訓というやつだな」
「ゲッ、マジかよ。こりゃ失敗できねぇな」
ヌタはそう軽く返すが、むしろ衝撃が走ったのはブリッジ内であった。
オペレーターの面々、主に女性達がヒソヒソと話し出す。
「ちょっと、今の聞いた? 可哀そうに……ヌタくん……」
「死んだんじゃないの~?」
「フフフ……この世の地獄……他人の不幸は蜜の味……」
その様を横目で見て、うっすらと後悔の念が湧き上がってきたが時すでに遅しである。
「こら、警戒態勢中だぞ! マスタングの発進準備を格納庫に通達! 技術班には遠隔補給の準備をさせろ!」
「「「了解(!・~・……)」」」
ブリッジがにわかに騒がしくなり、各部署へと通達が飛び交う。
事前にヌタからの相談を受けていた技術班は出番が来たとばかりに動き出し、すでに調整がなされていたマスタングへプロペラントタンク、そしてブースターを接続していく。
両手に保持された武装はビームバズーカとハイパーバズーカ。単騎で最大の火力を叩きこむためのものである。
動力炉に火を入れられた漆黒の機体は唸り声を上げ、自らの主人が乗り込むのをただ待っていた。
「さて……ヌタよ、お手並み拝見といったところだな」
「ははは……まぁ任せてくれよ」
「天叢雲、装甲展開! 戦闘態勢へ! 格納庫より通達、マスタング発進準備よし!」
「マスタングより連絡~カタパルト上へ移動完了~!」
「射出までカウント……3、2、1、発進……!」
かくしてそれが数十分前の話。今、マスタングとヌタは永遠にも思える漆黒の宇宙をひた走っていた。
モニターに表示される燃料計の数値は刻々と減っていっている。このままではあと数分で燃料切れだろう。
「さて、頃合いだが……ちゃんと来るか?」
モニターのレーダー画面を注視するヌタ。すると、光点がその端に現れみるみるうちに近づいてくる。
「よし、予定通りだ! いい仕事してるぜ、班長達!」
それはすでに後方カメラから表示される映像で視認できるほどに近づいていた。
光を放ちながら飛翔するそれは、一発のミサイル……いや、ロケットである。
そのロケットは徐々にマスタングへ近づき、追い抜いていく。と、その時先端部分が火花を散らしながら切り離された。
切り離されたものはすなわち、ロケットに搭載されていたリバイバル粒子弾頭。
そのまま起爆されたそれは黄金色の粒子をまき散らし、その中へマスタングは突入していく。
「うおっ……これは……」
わかってはいたものの、視界一面が光に包まれ一瞬動揺するヌタ。しかし、その輝きもあっという間に宇宙へと溶けて消えていった。
あとに残されたマスタング。そのエネルギー残量は大幅に回復しており、その名の通り力に満ち溢れた荒々しい駆動音を再び響かせている。
その心地いい振動を背に感じながら、ヌタは独り
「へっ、なんとかうまくいったか……これでもうひとっ走り走らせられるぜ」
フットペダルを押し込み、出力を全開へ。
青白い噴射光を吐き出していたバーニアは代替となったリバイバル粒子の影響か、今は黄金色の噴射光を噴き上げる。
漆黒の
ここまで近づけば通信も十分に可能。そう思った矢先、どこからか無線が紛れ込んできた。
「ほらほ……どう……ガンダム!?」
「要塞に近……敵……数が多い……足止め……なんとか……」
一方の声に聞き覚えのあったヌタは楽しげに口角を吊り上げた。
レーダーに示される光点、そして表示される友軍信号。
「やれやれ、相変わらず世話の焼ける世界の希望だ。ここは俺が助けてやらねぇとな!」
白と青、そして放つ輝きは緑のサイコフレーム……ガンダムダブルオーグリッター。
プロペラントタンクを切り離したマスタングは戦闘に割り込むように飛び込んでいった。
「よう、来てやったぜ! この辺は俺が片付ける! お前は先に行け!!」
(了)