異聞帯がロスリックだった件 作:理力99奔流スナイパー
◎
かつて、俺は無知だった。
__出来ることなら、ずっと無知のままで居たかった。
知りたくなかった。知るべきではなかった。
俺は両目を潰し、舌を噛み切り、耳を引き裂く。無意味なことだと理解していても。
叶うなら、忘れてしまいたかった。目を背けたかった。もう逃げ出したかった。
けれど、俺の魂は許しはしなかった。
俺は自分が思っていたよりもずっと愚か者だった。真実に蓋をして覆い隠すことも、諦めて見て見ぬフリをして生きるような賢さすら持っていなかった。
魂が、叫ぶのだ。
忘れるな、見過ごすな、逃げるな__成すのだ。己に出来ることを成さなければならない。
例えその果てが破滅でしかなかろうと、道半ばで心折れることなどあってはならない。
俺は困惑し、そして漸く理解する。
__ああ。
この、これが、俺の“
◎
__そうさね。
そこはロスリック。火を継いだ、古い“薪の王”たちの故郷が、流れ着く場所さね。
けれど、今や火は陰り、そして奪われた。世界は闇に呑まれ、神の枷は外れ、人々は呪われる。
だからロスリックは、ありとあらゆる土地が漂流する“吹き溜まり”に成り果てたのさ。
そして、あの予言は再現される。
“火は陰り”。
“王たちに玉座なし”。
再び鐘は響き渡り、一人の灰によって玉座に焚べられたはずの古い薪の王たちは、もう一度焼かれる為に、呼び起される。
__深みの聖者、エルドリッチ。
__ファランの不死隊、深淵の監視者たち。
__罪の都の孤独な王、巨人のヨーム。
__血統の末、ロスリックの聖王。
そして、太陽と光の神。
__大王、グウィン。
けれどね、王たちは、玉座を捨てるだろう。最初の薪の王、グウィンすらもきっと。
そして、“火の無き灰”たちがやって来る。
名も無く、薪にもなれなんだ、呪われた不死。
けれど、ああ、だからこそ。
__灰は残り火を求めるのさね。
存続か、滅亡か。
とっくの昔に終わってしまった世界。これは本来の物語ではない。
世界にすら見捨てられ、剪定された行き止まりの人類史。あり得たかもしれない可能性……その中でも、最悪の未来さね。
人間性を捧げ、
絶望を焚べ、
そして、死に祈りを__。
「最高のエンターテイメントだろう? 貴公」
◎
『__選ばれし君たちに提案し、捨てられた君たちに提示する』
男の脳内に、空虚な声が木霊する。
深い眠りに付いていた男の意識は覚醒し、不快そうに顔をしかめる。
『__栄光を望むならば、蘇生を選べ』
暗闇と静寂に満ちた空間内で、己の現状を把握するよりも先に、意味不明な選択を迫られた。
『____怠惰を望むならば、永久の眠りを選べ』
男は困惑する。何故ならばそのどれも男が必要しない選択であったからだ。故に、男は何者か、ここはどこかと声に対して尋ねるが、質問に対する答え以外は求めていないらしく、悉く無視されてしまう。
少しばかり苛立つ。眠りを妨げられたからではない。己にはやるべきことが、成すべきことがあるというのに、こんな所で時間を費やしている場合ではなかった。
その為に、人を裏切り、獣に加担したのだ。
『____神は、どちらでもいい』
その空虚な声に、男は確かに傲慢さを感じ取った。己を神と自称する存在にロクな奴などいない。
けれど、面白そうだ。
男は笑い、声の問いかけに頷く。その瞳に暗闇よりも暗い、深淵を覗かせながら__。
そして、