異聞帯がロスリックだった件 作:理力99奔流スナイパー
アメンボ狩りしてたぜ☆
というかデモンズリメイクってデジマ?
制作フロムじゃないらしいから不安だけどPV見る限り面白そうでプレステ5買う理由が出来てしまったじゃないか!
じゃけんBloodborne2も出しましょうね~
◎
__美しいものを視た。
__自らの愚かさを知った。
そして、その為に戦うと決めた。その為に今ある人生のすべてを費やそうと決意した。
人間の力を、その可能性を証明する為に。
「__否。人に可能性など、存在しない」
崩れ落ちる時間神殿。その中で対峙する男は、私の言葉を高らかに否定する。
「例外こそ認めよう。しかし、どこまで行っても、人は人だ。例え蛹となり、天使となろうと、暴走させ、膿に成り果てようと、結局はその本質を変えることは出来ない。それが我らという存在なのであり、その変異性すら失った今、人という獣の一体どこに可能性があるというのか」
腹部に大穴を空けながら、口から夥しい量の血を吐きながら、平然とした様子で立ち、男は笑いながらそう言った。
そんな彼に、私は毅然とした態度で問う。
「例外、か……それを看過している時点で、君の理論は破綻している。誰しもがその例外と成り得る可能性があるのだから、それはつまり人の可能性というものではないのかい? 今の君は正しく矛盾の塊だ」
「……例外は例外、だ。それが現れるのは当然のことだった。元より人とは個の生き物。個であるが故に解り合えず、また多くの者が人こそ可能性の獣だと誤認した。けれど、決して同一ではない個という存在でありながら人は人の在り方を変えられず、その中に多くの例外が現れたにも関わらず、何も変わることはなかった。変わらなかったのだ、愚かな我らは」
私の指摘に彼は悠々と語る。ここまでの問答で既に理解していた。彼は人間という種を別に敵視している訳でも、憎悪している訳でも、その在り方に絶望したのでもない。
最初から人間とは、そういうものだと受け入れている。だから期待もせず、失望すらしていないのだ。
快楽的破滅主義者__彼を恐れ、忌み嫌う多くの者たちが呼んでいたそれは真実ではなく、彼が人類を端から度外視しているからであった。
彼の思い浮かべる救いに、人類は存在していない。
__そうだ。彼が、本当に期待し、そして絶望したのは人類史ではなく、この世界そのものだった。
「だからこそ、世界とは悲劇なのであり、それは人間性を捧げようと、絶望を焚べようと、火が消え、闇が訪れようと変わりはせず、悪夢は巡り、終わらず、怨嗟は積もるばかり。人が人で在り続ける限り__」
彼は、世界各地を旅していたと言っていた。よくその時の出来事を話してくれたのを覚えている。その時に語られたのはとても楽しげな内容だったが……。
「◼️◼️◼️◼️……君は、一体何を見た? 何を知ってしまったんだい?」
何が君をそこまでさせる? 何が君を世界を焼き払うなんていう暴挙に出るまで追い詰めた?
長い戦闘の影響で満身創痍の身体に鞭を打ち、私は問い掛ける。
「さあ、な……俺もその答えを探している。けれど、これが本来の物語ではないことは分かっている……元より、俺と貴公だけが生き残るなど、有り得ぬ話だった」
そして、その返答に驚愕する。
ああ。彼も鴉郎さんと同じように、気付いていたのか。
「! __そう、か。本当に君には驚かされる。最初から理解した上で、ここまで来たのか」
「……その反応からして、並行世界という訳でも無さそうだ。察するに、夢のようなものか? となれば“上位者”でも絡んでいそうだな」
彼の言う通り、この世界は虚構だった。今までの旅も、戦いも、すべてが仮初め。
だが、そこにある思いは紛れも無き本物だ。例え夢から覚めればすべて忘れてしまうとしても__。
「まあ、どちらでもいい。俺のやることは、変わらない。腐った絵画は焼かれるべき……ならば俺は何度でも、幾度でも繰り返し、成し遂げて見せよう」
「何度でも、か……」
思わず笑みが溢れる。
「実はね、◼️◼️◼️◼️……こうして君と対峙するのは一度や二度ではないんだ」
「……何?」
「いつも君は私たちの前に立ち塞がった。大抵はこの時間神殿だったが、もっと前から襲ってくることもあった。オルレアンでは、死を覚悟したよ」
「! ……まさか貴公。そういうことなのか?」
「そういうこと、さ」
彼から笑みが消える。すべてを察した様子で驚愕に目を見開き、私を見据えていた。
私は、言葉を続ける。
「最後に君と旅をすることになった時、私は心の底から期待した。今度は、今度こそ君が敵ではなくなるんじゃないかと。君と一緒にこの人理を修復出来るんじゃないかと……」
オルレアンでは、初の共闘に四苦八苦したが、何とか邪竜を打ち破った。
ローマでは、彼が模擬戦の時はまだ本気ではなかったことを目の当たりにした。戦闘は殆ど彼に任せっきりだった。
オケアノスでは、二人でヘラクレスを打倒した。実は彼が泳げないという意外な弱点も判明した。
ロンドンでは、初めて四つ目の特異点まで二人で突破出来たことに歓喜し、希望が持てた。
アメリカでは、彼が芥と同じように人ではなく、不死であるという衝撃的な事実を知った。同時にあの爆発では彼は死んでいないのではないかと疑問を抱いた。
エルサレムでは、珍しく楽しそうでテンションの高い彼に私も楽しい気分になれた。漸く、この特異点でも思い出が出来た。
メソポタミアでは、彼が漸く本気を見せた。闇の魔術で女神を屠る姿は圧巻だった。英雄王と仲違いした時は焦ったが。
__そして今、激闘の果てに魔神王ゲーティアを打ち破った矢先に、彼は牙を向いた。
今までと同じように、彼は人理の裏切り者のままだった。
「……そうか。それは残念だったな。俺はどこまで行っても結局、俺でしかない」
「ああ、本当に、残念だ__」
漸く友になれた、そう思った。だが、どう足掻いても彼とは敵対する運命にあったようだ。
「……難儀なものだな。◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️」
だから、そんな顔をするのは意外だった。
「分からないか? 元より誰も、望んではいないのだ。貴公は充分に過ぎるほど理解したはず……世界とは悲劇なのだと。だというのに、貴公は俺を否定し、こうして立ち塞がる。実に不思議で仕方が無い」
「悲劇、か……確かにそうなのだろう。だが、それは人の可能性を否定する理由にはならない。いや、この世界が悲劇だったからこそ、私はそれに気付くことができた」
世界とは悲劇。彼がよく口にする言葉。そんなものは、あの少年を死なせてしまった時から、とっくに理解している。
しかし、だからこそ、人間の美しさを、その可能性を、理解できたんだ。
その為に、私はすべてを賭ける。
「……貴公は、それで良いのか? そうまでして戦ったその先に、一体何があるというのだ?」
「フッ……あるとも。破滅に救いを見出だした不死よ。とても、とても嬉しいことがね」
それに、これで最後だ。
「漸く、現実で皆に会える__」
そう言うと彼は一瞬きょとんとした表情を浮かべる。フッ……君もそんな顔もするんだな、少し驚いた。
勿論、皆の中には、君も含まれるよ。
「ク、ククク……ああ、そうか、そうか、貴公は本当に愉快な男だ。強く、気高く、優しく、純粋で……ああ。貴公のような人間こそが、きっと__」
くつくつと笑う彼。しかし、その表情はどこか寂しげだった。それだけで、この旅で育んだ友情が、決して偽りではなかったことを知る。
ああ。そうか、君もまた、私と同じように、譲れぬ信念を持っているんだね。
「__さあ、そろそろ終わらせよう。友よ」
私は、杖を構える。
「……ああ。決着の時だ。貴公は、俺にとって真の意味でイレギュラーだった。所詮はレフの爆弾で死ぬような輩と、無意識に侮っていたのかもしれない」
彼の身体を、禍々しい深淵が纏う。
それは人間性の闇。神を蝕み、人すらも害を及ぼす猛毒。触れるだけで死に至るそれと相対しながら、私は一歩も引かない。
「けれど、こうまで追い詰められれば認めるしかあるまい。◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️……貴公こそが、俺の敵に相応しいのだと__」
ああ。それはとても光栄だ。漸く、彼は私を認めてくれた。敵対しても、これだけは嬉しい。
「故に、簡単には死んでくれるなよ?」
「__無論、全身全霊で応じるとも」
勝てるかは分からない。彼はまだ、本気じゃないのかもしれない。しかし、どちらにせよ私は全力で彼を止める。
「__今こそ、悲劇の再現を」
彼の左手には、馴染みの長杖ではなく、黒い聖鈴が握り締められていた。
「__
「…………!」
祈るようにぶつぶつと呟き始める彼。それは詠唱なのだと即座に直感し、驚いた。何故なら彼は今までずっとほぼ無詠唱で魔術を行使していたからだ。
そんな彼が詠唱を行う。それはつまり、今までのとは比でない超抜級の大魔術を行使するということ。直ぐ様私も詠唱を始める。
幸いにもこの空間は神代に限り無く近い。最大級の“惑星轟”を放てるはずだ。
「__
「__
「__
「__
「__
「__
「__
「__
「__
「__我らは
彼の纏う深淵が、より強くなる。
「__
詠唱が終わるのは私の方が速かった。無数の星々が彼を焼き尽くさんと降り注ぐ。
「__今ここに我が人間性を捧げ、
彼はそれをただ見上げ、笑い、そして遂に最後の詠唱を呟く。
「__追い、求め、貪れ。
次の瞬間。彼を中心に出現した暗い奔流が竜巻のように渦を描きながら空へ躍進し、隕石群を押し返し、呑み込まんとする。
「…………ッ!!」
星と闇。二つの力は拮抗。その余波で私は吹っ飛ばされ、戦いの結末を見届ける前に意識が暗転してしまう。
然れど、確信していた。
__私の力は、彼に届いたのだと。
これは誰も知らない物語。私のみが記憶する、破滅に希望を見出だしてしまった憐れな呪われ人との旅路だ。
ああ。願うならば、彼と、皆と一緒に世界を救いたかった。共に笑い合いたかった。
けれど、だからこそ。
「__ほう。呼び掛けに応じてみれば……異聞帯、だと? 知らない物語だ。一体何が起きている? 貴公」
あの旅路を忘却し、久しぶりに見た現実の彼は相も変わらず無表情だったが、どこか困惑した様子で問い掛ける。
もう一度私は止めなければならない。もう一度私は倒さなければならない。
そして、次こそは__。
◎
「__ロードラン?」
告げられたその地名にカドックは目を見開く。
「ロードランって……あのロードランか? 火の時代の?」
それは火の時代について記された唯一の叙事詩“ダークソウル”の最初の舞台。多くの不死たちが使命の為に訪れ、そしてたった一人を除いて道半ばで心折れた魔境だ。その中には英雄とも呼ばれた猛者たちも居たという。
「そうだ。君が博識で助かったよ。太陽神グウィンの復活に伴い、このロスリックに流れ着いた古い王たちの地……この“北の不死院”は今やそこへ向かう為の唯一の経路だ」
「どういうことだ……まさか僕に“火継ぎ”でもさせようっていうのか?」
巡礼、この異様な頭部の女は確かにそう言った。
カドックがロードランの巡礼と聴いて思い浮かぶのが火継ぎ。ダークソウル第一部は、正しく火継ぎの物語だったと記憶している。
世界を照らす為に自らのソウルを燃料とする謂わば人柱のようなものだったが、例え伝説や伝承に名を残す英雄や王者でも成すことが困難な偉業であり、火を継いだ者たちは“薪の王”と呼ばれ、生け贄にも関わらず偉大な王として扱われている。
特に三部では歴代の“薪の王”たちが甦り、その強さがありありと語られている。エルデンが管理する異聞帯の王もまたその“薪の王”だったと聞く。あまり詳しくは知らないが……。
「いいや、私は肯定派ではないからね。そもそも君は不死人じゃないから“はじまりの火”を継ぐことは出来ないし、それ以前にこの異聞帯だと火は奪われてしまって継ごうにも継げない状態だ」
「……奪われた?」
「そう、それがこの異聞帯の分岐点だ。だからこそ、この世界は“時が止まった”ように進まず、退廃したまま続いている」
「……訳が分からない。というか、マーリン……なんだよな? 何だその頭は」
「そうさ、私はマーリン。花の魔術師マーリンという。頭は気にしないでおくれ……と言っても無理だろうね。仕方ないし説明してあげるよ」
アーサー王伝説に登場する花の魔術師。女だったのかという疑問が消し飛ぶくらいには衝撃的な、先程から目を引くその奇抜な被り物について指摘すると彼女はあからさまに不機嫌そうになる。
それを被っているのが不本意なことであるのならば当然の反応であった。そもそも前は見えているのだろうか。
「こいつは私のマスターにして君の友人、エルデン・ヴィンハイムが召喚したキャスターの宝具にして本体さ。人呼んで“黄衣の頭冠”……またはハスター・デーモンとも言うべき存在さ」
「エルの……? それにデーモンって悪魔のことか?」
__
カドックの知識においてその言葉が示すのは第六架空要素。人間の願いに取り憑き、その願いを歪んだ方法で成就せんとする存在としての悪魔だが……。
「ああ。けど真性悪魔なんかとは格が違う。況してや混沌のデーモンでもない……かつて、この星に降り立った“古い獣”の尖兵。元々は生物ですらない無色の存在だけど、自身の周りの生物・土地・環境・伝説・信仰・概念……ありとあらゆるものを学習し、写し身とする……コレが写し身としたのはある翁が見えた狂気であり、他者へ寄生する性質を持つ自我を宿した黄衣さ」
「……そんな訳の分からない奴を、サーヴァントとして召喚出来るものなのか?」
訝しむカドック。メデューサやミノタウロスを代表的に人間じゃない魔性の反英霊を召喚することが可能なのは知っているが、マーリンの語る黄衣の詳細は些か信じ難いものだった。
少なくとも真性悪魔を“なんか”などと断ずる時点で、彼にとって次元の違う話をしている。
「機械を召喚出来るんだ、不可能ではないさ。ある世界だと“疫病”という概念が召喚されたこともある。それに一応は宝具扱いでサーヴァントとして喚ばれたのは彼が過去に寄生していた老人だ。まあ、彼は黄衣が宿主を私へ鞍替えした瞬間に消滅したけど……」
「……そうか」
ぽつりと呟く。平静を装っているが、内心理解が追い付いていなかった。そんな彼を見透かすようにマーリンは黄衣の裏で笑い、話を続ける。
「あの老人はこの黄衣に操られ、別世界から優秀な魔術師を召喚しようとした。それにたまたま選ばれたのが私であり、しかも私はサーヴァントという枠組みに押し込められた。エルデン・ヴィンハイムの入れ知恵でね。流石に別世界のマーリンである私が召喚されたのは予想外だったみたいだけれど……にしてもプロトマーリンってどういう意味だろうか?」
「おい待て。何? 別世界だと?」
「あ、言ってなかったね。私はこの世界とは違う、並行世界のマーリンさ。本物はきちんと男だよ。代わりにここじゃアーサーが女らしいね」
「……頭が痛くなってきた」
「ははは。まだまだ序の口だよ?」
「ああそうかい……それで、僕にロードランを巡礼させて、一体どうするつもりだ?」
話を戻し、カドックは問う。
「結論から言ってしまえば、エルデン・ヴィンハイムの計画を阻止したい。その為に君の力が必要だ」
「またそれか……アンタは、エルのサーヴァントじゃないのか?」
「そうさ。けどまあ、彼が召喚した八騎のサーヴァントの内、彼に協力的なのは最初に召喚した奴と三騎士クラスの連中だけだ。アサシンなんかあからさまに敵対してるし、最高戦力のライダーは一応は従えているものの手に余っているようだ。バーサーカーに至っては未だに制御出来ていない」
「八騎……だと? あいつ、そんな数のサーヴァントと契約し、従えてるっていうのか?」
「ああ。直接召喚していない、現地で契約した者も含めれば、彼が支配下に置いているサーヴァントはもっと居るさ」
驚愕すべき事実。あのキリシュタリアでさえ神霊とはいえ三騎だったというのに。
そんなこと彼は定例会議では言わなかった。契約しているサーヴァントについて訊いたこともあったが、ただ火の時代の英霊を召喚したというだけでクラスについてははぐらかされてしまった。
思えば、不自然だ。真名ならともかくクラスまで隠そうとするなんて、エルデンらしくない。
「……エルの奴は、一体何を企んでいるというんだ?」
「どうだろうね……企んでいるし、企んでないのかもしれない」
「は?」
思わず間抜けな声を出してしまうカドック。対するマーリンはその黄衣の裏で神妙な表情を浮かべる。
「ただ一つ言えるのは、彼は__あの人間性の怪物は、何だかんだ理屈をこねくり回しているけど、要するに自分の存在理由の為に、災厄を振り撒こうとしているんだ。何が世界とは悲劇だよ、透かしたことばっか言って、結局のところ単なる自己満足に過ぎない……そして、それを自覚しているのだから余計タチが悪い」
「……人間性の怪物、か。夢でもそう言っていたな?」
「ああ。彼は“生まれるべきではなかった”。本来ならば気付くことも目覚めることもなく、その生涯を終えるはずだった“暗い魂”を受け継ぎし、古い人の末裔……それが何を間違ったか異界の記憶を受信し、現代において覚醒してしまった。現実が虚構だと悟り、そして虚構が現実となったことを理解した怪物は、答えを追い求め、一つの世界を使い潰さんとしている」
覆い隠されたその表情を伺い知ることは出来ないが、十中八九顔をしかめているであろう花の魔術師。彼女の評するエルデン・ヴィンハイムは、まるで恐ろしい化け物かのようであり、カドックは首を傾げざるを得なかった。
人間性の怪物? 古い人の末裔? 異界の記憶? 現実と虚構? 彼女の言葉を先程から理解出来ていないカドックは戸惑うばかりだった。
そして、マーリンはそれを説明する気はないようだ。
「さっきから訳が分からない……が、アンタがエルを異様に恐れているのは分かった。だけど、僕みたいな無様に敗北した負け犬が、アンタの言う怪物を止められると? 況してやロードラン巡礼など命が幾つあっても足りやしない」
「安心したまえ。何も持たせずにロードランに放り出すなんて無意味なことはしないよ。それに案内人も用意している。異聞に抗う者たちは、君に全身全霊で協力してくれるだろう」
「っ……おい……ちゃんと説明を__!?」
その時、胸に激痛が走る。
「がっ…………!?」
「……おや? 意外と早いね。やっぱり彼のソウルは、君と相性が良いようだ」
うずくまるカドックを見下ろしながら彼女は動じるどころか心配する素振りすら見せずに笑う。
「ぐぅ……僕に、何をっ、した__!?」
「あー、流石に只人のままだと不安だったからね。ある者の魂を君の魂に混入させてもらったよ」
あっけからんとマーリンはそう言う。
「大丈夫、直に馴染むさ。失われたソウルの業……それもこの黄衣の母、“古い獣”の権能を起源とするものなんだから、失敗なんて有り得ない。魂の持ち主も君との融合に同意してくれてるしね」
淡々とした説明。そんなものは、もがき苦しむカドックの耳には届いていなかった。痛みだけではない。何かが身体の中を這い、蠢く感覚に襲われる。
__魂の融合。かの花の魔術師は、黄衣から与えられた叡智によってそのような外法を容易なものにしていた。
そして、彼女にそれを躊躇う道徳心は元より持ち合わせていない。
「まあ、頑張りたまえ。上手く行けば、あの愛しの皇女様と、再会出来るかもよ?」
「_____!?」
しかし、彼女の発したその言葉は聞き逃さず、カドックは目を見開く。
「それは……!」
__どういう意味だ。
呻き声をあげながら、どうにか振り絞るように声を出してう問おうとしたその時、鮮血が飛び散る。
「なっ……」
「____っ!?」
マーリンの胸から、漆黒の刃が生えていた。
「卑怯とは言うまいな? 魔術師よ」
そして、彼女の背後に二回りほど大きな人影が立っていた。
背に大弓を携えた上裸の男。黒髪でその顔立ちからしてアジアかその辺りの地域の人物だろう。
「アーチャー……! 驚いた、もうバレたのか……!」
「ああ。お前のことは以前から叛意があると疑っていた」
驚きを隠せないマーリン。
「む?」
しかし、同時に彼女の姿は消える。どこへ行ったかとアーチャーが辺りを見回せば彼女は牢の外に居た。
「へぇ……てっきり君は忙しいと思っていたからこうして出張ってくるとは思わなかったよ」
「幻術か……面妖な……」
「卑怯とは言わないよね? 君とまともに殺り合っても敵いっこないのは充分に理解している。だからさっさと逃亡させてもらうよ」
「……逃がすと思うか? 夢に逃げられぬお前など、童を捕らえるよりも容易い」
一瞬にして鉄格子を細切れにし、切っ先を向けるアーチャー。ここでカドックは気付く。彼が自分のことを認識していないことに。
(認識阻害の魔術を掛けてある。しばらくはいくら騒ごうと気付かれないさ)
するとマーリンが念話で語り掛けてくる。サーヴァントの目すらも欺く高度な幻術。しかし、悠長にしている暇は無い。アーチャーが僅かでも違和感を感じ取ればすぐに露見してしまうだろう。
故に、マーリンは出来る限りカドックからアーチャーの注意を逸らせようと挑発する。
「抵抗しなければ、命までは取らんでやるかもしれないぞ」
「不死殺しの刀を片手に何を言ってるんだい。君たち“黒炎コンビ”がサーヴァントの首を求めてるのはよく知っている」
吐き捨てるようにマーリンは言う。彼女はこのアーチャーが同じくエルデンに召喚されたランサーと組んで汎人類史側のサーヴァント狩りを行っていることを知っていた。
そして、主であるエルデンから、対価を貰おうとしていることも。
「君の方は祖国の救済だっけ? その願いは、分からなくもないけれどね」
「……そうか。ならば潔く死ね。葦名の為に」
「はっ やだね」
マーリンは杖を構える。
「__浮遊するソウルの矢」
すると彼の周りに五つの青白い発光体が出現する。カドックは目を見開く。それはエルデンがよく使用していた“追尾するソウルの塊”と似ていたが、より始まりに近い……何故だかそんな風に思えた。
一つ一つが膨大な魔力の塊。対するアーチャーは然して表情を変化させずに刀を構え、地面を蹴り駆け出す。
二人の距離が縮まると浮遊するソウルの矢は自動的に射出され、アーチャーへと向かっていく。狭い通路だったためそれは回避されることなくそのまま彼へ命中するかに思われたが__。
「__ハァ!」
アーチャーが切り払うように刀を振るう。
すると刀身から黒い炎が発生し、それが波状となってソウルの矢を焼き尽くす。
「…………! 相変わらず脳筋だね君らは……!」
それを予見していたマーリンは即座に後方へ退き、更なる一手を撃つ。
__ソウルの光。
彼女の杖から青白い一閃が射出される。それは先程のソウルの矢よりも速く、鋭い。
「むっ……」
しかし、アーチャーは驚異的な跳躍力でそれを飛び越え、即座に大弓を構える。
「!? まずっ__」
ヒュン、と空気を切り裂く音が三回。まるで拳銃の速撃ちのような速度で矢が放たれる。
マーリンは寸前で魔力障壁を展開し、何とかこれを防ぐも空中に居る状態で正確無比な速射を連続で行うというその弓の腕前に目を見開く。
「くっ……凄いな、弓の腕はトリスタン以上じゃないかな?」
「ああ。弓ならば、誰にも負けぬ」
着地すると同時にアーチャーは駆け出し、即座に刀へ持ち替えて感心しているマーリンへ振り下ろす。
「わっ!?」
障壁はその一撃で砕け切り、尚も勢いを止まらずマーリンを真っ二つにせんとする。
しかし、腐っても英霊。ギリギリでバックステップすることでこれを回避し、彼女は背を向けた。
「ここじゃ不利なようだ! 場所を変えさせてもらうよ!」
「! __待て!」
全力で走り、逃走を図るマーリン。当然、アーチャーもそれを追う。
どうやら敏捷はアーチャーの方が遥かに上ですぐに追いつかれそうだ。マーリンもまたそれはよく理解しており、彼女の目的は彼をカドックから引き離すことにあった。
(この先の広場にある大扉を通れ! そこの崖でロードランへの道は切り開かれる!)
(っ……マーリン……アンタは……!)
(恐らく僕が味方になれるのはここまでだ! 本当に短い間ですまない! 君の巡礼が成功することを祈るよ!)
それが彼女の最後の言葉となり、彼らの姿は暗闇へと消える。残されたカドックは怒涛の展開に落ち着く暇も無く、ただ混乱していた。
「ハァ……ハァ……一体何が、どうなっているんだ……?」
少しだけ痛みが和らぐ。とりあえずあのアーチャーにバレるのはまずそうだと判断し、ほとぼりが覚めるまで身を潜めようと牢の角へと移動する。
「解らない……が、こんな所で、死んでたまるかっ……」
__生き延びる。
何が起きてるか、何をすべきなのか、理解出来ないことばかりだが、彼のその目的だけははっきりしていた。
何も得ず、何も成せず、自らの異聞帯もサーヴァントも失い、無様に敗北し、生き恥を晒し続ける負け犬……しかし、だからどうしたと吐き捨てる。
彼の心は、未だに折れていない。
「アナスタシア……君との約束もある。一度は破ろうとした約束にすがるなんて愚かなことだとは思うが、それでも僕は生き抜いてみせる……」
『__その後悔を抱いて生きなさい』
『__だから、心折れてくれるなよ、貴公』
過る二つの言葉。何もかもを失った己に唯一残ったモノ。故に、何がなんでも生き延びなくてはならない。心が折れるようなことがあってならない。
そんな不屈な精神でカドックは自身の細胞一つ一つに活を入れ、決意する。
これから始まる絶望を、彼はまだ知らない__。
上裸のアーチャー……一体何者なんだっ!?
冒頭のオリジナル魔術の詠唱が厨二臭い……こんなのが後々まだ何個か出てきますんでご了承を。
ところでアンリ殺してからヨエルで亡者になってもユリア出て来ないの今更知ったわ。