異聞帯がロスリックだった件   作:理力99奔流スナイパー

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エルデン視点


世界を見通す者と世界を知った者

 

 

__嵐の壁。

 

それは中核を成す“空想樹”の影響で、各異聞帯の周囲に常時発生している外と繋がりを断絶するもの。

 

オーロラを伴っている影響であらゆる電磁波が遮断され、嵐そのものも鉄を捻り切り、都市を破壊し、生命を根絶させる、核爆弾に匹敵する規模のエネルギーを持つ雷雲となっているため、異聞帯への通常の方法での侵入・脱出は不可能である。

 

「__導きの月光よ」

 

その一つ、北欧異聞帯を覆う壁の一部が、光の奔流によって破壊された。

 

「ふむ、ここが北欧か。存外、美しい」

 

一時的に開いた大穴から現れた男…セイバーは輝く月光の刃を霧散させ、北欧の大地へと足を踏み入れる。

 

ラスプーチンを撃退し、シャドウ・ボーダーから降りた後、彼は当初与えられた命令に従い、そのまま徒歩でこの北欧異聞帯まで赴いたのだ。

 

「……さて、君たちは迎えということで良いのかね? 眷属たちよ」

 

暫し燃える雪景色を眺めていたセイバーは、突如そう問いかける。すると上空に光の翼を持った三人の少女が出現した。

 

彼女らはワルキューレ。大神オーディーンの娘として存在する、戦死した勇者の魂をヴァルハラへ連れて行く戦乙女だ。

 

「……驚きました。嵐の壁をどう通過するのかと思えば、まさか力業で突破するとは」

 

「なになに今の青い光! 凄く綺麗だった!」

 

「落ち着きなさいヒルド……貴方が、他の異聞帯からの支援者ですか?」

 

一人は驚愕し、一人は目を輝かせ、一人は警戒した様子で戦乙女たちは嵐の壁を破壊した白き外套を纏う剣士へ視線を送る。

 

対するセイバーは無表情のまま戦乙女たちを見上げ、悠然とした態度で口を開く。

 

「我がマスター、エルデン・ヴィンハイムの命により、支援のため馳せ参じた。セイバーのサーヴァント、“聖剣”と言えば分かるはずだ」

 

ここに、聖剣の狩人が降り立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何故怒らせてしまった?」

 

__火継ぎの祭祀場。

 

オフェリアとの通信を終え、エルデンは怪訝な表情を浮かべながら呟く。

 

曰く、鈍感。他者の感情をあまり理解出来ない彼だが、それでも彼女が苛立ちを覚えていたのは容易に把握出来た。しかし、その原因はいくら考えても解らなかった。

 

「ハハハッ……確かに君には女心は分からなそうだね」

 

そんな呟きに彼の足下に転がる黄衣の魔術師が、乾いた笑い声を出す。

 

「……貴公には分かるのか? プロトマーリン」

 

「そりゃね……一応これでも女だからさ。恋する乙女の気持ちくらい簡単に察せられるよ」

 

「……ふむ、確かにオフェリアはヴォーダイムを好いている。けれど、それで何故俺との会話で苛立つのだ? 全く以て理解出来んな」

 

「……あー、そう。ハァ……彼女が不憫でしょうがないよ」

 

「……どういうことだ?」

 

「教えると思うかい? 幼気(いたいけ)な少女にこんな酷い仕打ちをした相手に」

 

溜め息を吐くマーリン。その態度は対照的に彼女は仰向けで血の海に沈んでいた。

 

四肢に幾つもの矢を受け、鎖で繋がれている凄惨な姿。破けた黄衣の隙間から整った美しい顔を覗かせている。

 

「……心外だな」

 

それをエルデンは見下ろす形で立つ。

 

「むしろ俺は貴公を始末しようとしたアーチャーを止めたのだ。感謝こそされようとも悪く言われる筋合は無かろう」

 

「そのアーチャーに殺されかける羽目になったのは誰のせいかな?」

 

「無論、我らを裏切った貴公自身のせいだろう。全く以て自業というものだ、花の魔術師よ」

 

悠然とした態度でエルデンは言う。これにマーリンは呆れた様子で首を横に振る。

 

「酷いなぁ。それに私としては殺された方がマシだったさ」

 

「……アヴァロンには帰れんぞ?」

 

「知ってるよ。今の私が消滅したらどうなるか、くらい……ね。けれど、こんな頭で生活するよりはマシだ」

 

「……そうか。なかなか似合っていると思うがな」

 

「__ぶっ殺すよ?」

 

「面白い冗談だ」

 

「君のは笑えない冗談だけれどね」

 

それもこれも、目の前で他人事のように笑う男のせいだ。マーリンは殺意すら覚えていた。

 

こんな感情は初めてだ。召喚され、千里眼で全てを知った時にはもう手遅れだった。自らの肉体は奪われ、使い魔として隷属させられた。そして、密かに裏で暗躍していたが、それもバレてしまい、このザマだ。

 

けれど、悔いは無い。既に種は蒔き終えた。

 

「……私が言えた話じゃないが、一応忠告してあげるよ、我がマスター。そんなんじゃ、女心どころか人の心すら理解出来ない。自分とそれ以外を完全に“区別”してしまっている今の君じゃあね……」

 

「……人とは、そういうものだろう? 夢魔よ」

 

吐き捨てるように言ったマーリンの言葉に、何を当たり前のことをとばかりにエルデンは首を捻る。

 

「俺は俺、私は私。こっち(わたし)あっち(あなた)は違う。受け売りの言葉だが、俺はその通りだと思う。人間がこの世に生まれてから、何ら変わらなかった。その果てが貴公らが人理と呼ぶこれ、この有り様なのだ」

 

自分は相手とは違う。互いがそう思うからこそ、解り合えず、争いが起こり、怨嗟は積る。そうして世界という絵画は腐っていくのだ。

 

人とは、決して同一の存在など居ない個の生き物。各々が各々の思想と理念、正しさを持つ。そのすべてが真の意味で理解し合うことなど到底不可能な話なのは明白だった。

 

だからこそ、人類は幾度も同じ歴史を繰り返す。今も昔もこれからもずっと__。

 

エルデンはその人の業を、あるがままに受け入れた。故に、憐憫の獣のように悲観することも絶望することもない。そういうものなのだと初めから見限っていた。

 

けれど、だからこそ、彼は救いを求めた。

 

「貴公も俺とは違うと思っている。違うか?」

 

「ああ。だけど、それはあくまで自分と他人だろう? 君が区別し、隔絶しているのはこの世界そのものだ。だからこそ、平然と使い潰そうとする。君にとって世界も、そこに存在する人も、物も、全てが取るに足らないモノなんだ」

 

マーリンは気付いている。エルデンという男はその在り方自体が矛盾の塊であり、彼の展開するその理論にはいつも肝心の彼自身は含まれていないことに。

 

彼はどこまでも、狂ってしまっていた。

 

「……………」

 

「異界からの知識を得て、自分がより高尚な存在になった気でいるのかい? だとしたらとんだ勘違い野郎だ」

 

「……確かにそうなのかもな。あの日から、俺の世界を見る目は変わった。今までこの目で視ていたものが、全て幻想に思える程に」

 

全面的に肯定するエルデン。それを見てマーリンは忌々しげに顔をしかめる。

 

この男はいつもそうだ。何を言ってもどこ吹く風。自身の過ちも、愚かさも最初から自覚しているのに、その上で容認し、ただ突き動かされるままに暴走を続けていた。

 

一体何が、彼をそうまでさせているのだろうか。マーリンにはつくづく理解し難かった。

 

「けれど、我らは立ち止まる訳にはいかない。求め、探し、漸く見つけたのだ」

 

「……その先に、幸福は無いよ?」

 

「ああ。幾度もの死と悲劇を積み重ねたこの世界に、幸福など在りはしない。けれど、だからこそ、我らが見出だすのは小さな希望に過ぎない__」

 

それは火の時代に生きた者たちの小さき願い。法王も、神喰らいも、双王子も、亡者の国も、終わりの先に希望を見出だしている__。

 

だからこそ、エルデンは高らかに語るのだ。世界とは一枚の絵画であり、悲劇なのだと。

 

「はっ 希望、希望ときたか。そんなちっぽけでくだらないものの為に、世界を滅茶苦茶にするっていうのかい?」

 

そして、それがどれだけ馬鹿らしく、極端なことなのかを、マーリンは理解していた。

 

「__そうだ。俺にとっては、そのちっぽけでくだらないものには、それだけの価値がある」

 

「……そうかい。この分からず屋」

 

マーリンは彼のすべてを見た訳ではない。彼が視てしまったものは垣間見たが、それで彼が何を思ったかは把握し切れていなかった。

 

けれど、彼女は、彼女に残っていた僅かな人間性が同情してしまう。

 

己の正しさを信じて、間違いへ向かい、破滅する。そんな人間を彼女は何人も見てきたのだから。かつての彼女ならばそれは仕方のないことだと見過ごせたのだろうが、生憎と今は違う。

 

__ふと脳裏に、ある男の姿が思い浮かぶ。第六の獣の討伐の為に送り出した彼は、今頃どうしているだろうか。

 

「……貴公には理解してもらいたかったが、非常に残念だ」

 

「ふん……よく言うよ。私の裏切りなんて予見していたくせに。君のことだ、最初から私がどういう性格なのか何から何まで知っていたはずだ」

 

「……いや、俺はそれなりに貴公を信用していたのだぞ? だからこそ、黄衣を取り憑かせた」

 

「……何だって?」

 

悪態をつくマーリンだったが、エルデンのその言葉に眉をひそめる。

 

「私を召喚したのは偶然だろう? 君は高位のキャスターなら誰でも良かったはずだ」

 

「前者はその通り。けれど、後者は違う。メディアや玉藻の前では黄衣の狂気に耐えられず、やがて“古い獣”の呼び水になるだろう。それは駄目だ、まだ早い、すべてが台無しになってしまう」

 

くつくつと笑うエルデン。これにマーリンは目を見開く。よもやそこまで理解していたのかと。

 

「俺は“黄衣の翁”を召喚した際、どうしたものかと思い悩んだものだ。アレは渇望のままにソウルを喰らう実にデーモンらしいデーモンだ。既に色のない濃霧が北の地にて出現している」

 

時空が歪んでいるロスリック。それは火の時代よりも遥か昔に存在した北の大地とそこにもたらされた災厄を引き寄せた。

 

__引き寄せてしまったのだ。

 

「今でこそ聖王の力で封じ込めているが、かの獣が目覚め、活動を開始すればそれも無意味と化す……拡散の霧はロスリックを呑み、やがて惑星そのものを苗床とするだろう。そうなれば不死とデーモンが永遠に殺し合い続ける更なる地獄が待っている。俺は老王とは違い、世界が悲劇だからといってそのような自棄を起こす気など更々ない」

 

「__そこで、私ということかい?」

 

「そうだ。マーリン……夢魔の血を引き、千里眼で世界を見通す花の魔術師よ。貴公ならば黄衣の狂気に呑まれようともその力を制御し、呼び水になることはないだろう。故に、貴公を召喚出来たのは幸運だった。だからこそ、このような形で裏切られるのは……実に残念だ」

 

「……意外だよ。君が私をそんな風に思ってたなんて」

 

てっきり単なる黄衣の宿主に過ぎない。そう思われているとばかり考えていたマーリンは尤もらしい返答に心底驚いた様子だった。

 

「けれど、それでも私は君には従えない。知っていると思うけど、バッドエンドは嫌いでね……君の思い描く結末には、吐き気すら催してしまう」

 

「……概ね、ハッピーエンドだとは思うが?」

 

「どこがだよ。君の基準はイカれてる。私にとっては今のままでも世界は充分に美しい」 

 

「そうだ。美しい、美しいのだよ……」

 

噛み締めるように、エルデンは言う。

 

「だからこそ、腐り果てる前に焼くべきなのだ。これまで多くの悲劇を見てきた貴公ならばそれくらい、理解出来るだろう?」

 

「__いいや。理解出来ない、心底理解出来ないね。僕がやるとするならば焼却ではなく修復さ。この世界の命運は、君ごときの物差しで計り、決めて良いものじゃあないだろう」

 

「……そうか」

 

相反する意見。エルデンは諦めた様子で彼女へ背を向ける。

 

「貴公の言い分はよく分かった。しばらくはそこで苦痛を受けているといい……カドックを助けなかった罰だ」

 

「おや? それだけで済ますのかい?」

 

「言ったろう。黄衣に認められ、それを抑え込めるのは貴公だけだ。まだ利用させてもらう」

 

「そうかい……というか、まだカドックがカルデアに居ると思っているのかい?」

 

「……何?」

 

ぴくりと、エルデンの耳が動く。

 

振り返った彼の顔からは一切の表情が消えていた。対するマーリンはぐにゃりと顔を歪めてほくそ笑む。

 

そして次の瞬間。彼女の身体は吹っ飛んだ。

 

「__かはっ!?」

 

「__どこへやった?」

 

バレーボールのように何度もバウンドしながら石壁へ叩きつけられる彼女。視線を向ければエルデンはすぐ目の前まで近付いていた。

 

「っ……は、ははっ 漸く表情を変えたね?」

 

「__答えろ」

 

首を絞め上げ、床へ叩き付ける。それだけで床は陥没し、砕けた破片が飛び散る。

 

とてもじゃないが、人間が出していい力ではない。

 

「ぐぁっ……やはりっ、やはり彼らクリプターは君にとって特別な存在のようだ……! 私の見込みは間違ってなかったよ……!」

 

「……質問に答えろ、プロトマーリン。カドックはどこだ? 生きているのか?」

 

「はっ 教えるとでも?」

 

そう言えば、首を絞める力が強まる。マーリンのか細い首など容易くへし折ってしまうだろう。

 

「がぁっ……!!」

 

「__今ここで殺すぞ?」

 

エルデンは勘違いしていた。てっきり彼はマーリンが自身が命じたカドックの救出という任務を放棄し、何らかの目的でロードランへ行く為に北の不死院へ向かったのだと。

 

しかし、違った。彼女はしっかりとカドックを救出し、どこかへ連れ去ったのだ。

 

「ぐ、構わないよ、私が死ねば君は困るようだしねっ……! どっちみちカドックの居場所は分からなくなる……!」

 

「……成程。生きてはいるのだな」

 

乱雑に投げ捨てるエルデン。喉を解放されたマーリンは必死で呼吸し、肺へ酸素を取り込む。

 

「ハァ……ハァ……何だよ、一度見殺しにしたくせに、随分と彼らを大事にするじゃあないか? 今更になって仲間面かい? とんだろくでなしだね」

 

「……そう言われてしまえば、ぐうの音も出ない」

 

エルデンの表情が僅かに歪む。

 

「く、くく、ははっ……そんな顔も出来るんだ。だけど彼らは、君のような人間には君には勿体無いよ。エルデン・リング」

 

それを見てマーリンはしてやったりといった様子で愉悦の笑みを浮かべる。本気で憤慨している彼を目の当たりにして非常に気分が良かった。

 

「どうしても知りたいというなら、令呪でも使用するんだね……どっちみち、もう手遅れだと思うけど」

 

「……ああ。そうさせてもらおう」

 

するとエルデンは裾をめくり上げ、その左腕に幾画も刻まれた令呪を彼女へ翳す。

 

「令呪を以て命じる。プロトマーリンよ、黄衣の狂気を、一切の抵抗をせず、あるがままに受け入れろ」

 

「__なっ!?」

 

目を見開くマーリン。令呪が輝くと共に彼女は頭を押さえ、もがき苦しみ始めた。

 

「っ……そう、きたかっ……!」

 

精神が汚染されていくのを実感し、マーリンは顔を歪める。エルデンは、彼女が最も嫌がる罰を与えた。

 

完全に支配しようと侵蝕する黄衣。今まで必死に抵抗していたその狂気が、無防備となった彼女へ襲い掛かる。

 

「以前から思っていたが、随分と恐れ、拒む。狂気に染まるというのも、存外悪くないかもしれんぞ?」

 

「__ふざ、けるな……! 私は私、だっ……! これ以上、訳の分からないモノに塗り潰されてたまるかっ……!」

 

「怖いか? 安心したまえ。貴公ならば翁のように完全に乗っ取られることなく順応出来るだろう。まあ、多少は性格が変わるかもしれんが……」

 

自分が自分ではなくなっていく恐怖。それをマーリンは現在進行形で味わっていた。

 

エルデンはそれを興味深そうに笑みを浮かべ、見下ろす。彼にとって彼女のような存在がこのように怯える様は非常に新鮮だったからだ。

 

「……フォーリナー」

 

「__何かね、同盟者」

 

笑みを消して呼べば檻を被った男、悪夢のフォーリナーが何もない空間から出現する。

 

「カドック・ゼムルプスの捜索及び保護のため何人か人員を寄越してほしい」

 

「おやおや……我らを人探しに使うつもりかね? 確かに我らは君の軍門に下ったが、服従したつもりはないよ」

 

「それ相応の報酬は払う。捜索範囲はカドックが居る可能性のある場所全て。隠匿出来るのならばある程度は好きにやっていい」

 

「……ほう」

 

不服げな顔をするフォーリナーだったが、エルデンがそう言った瞬間、目を輝かせる。

 

それはつまりカドックの捜索の為ならば他の異聞帯へと赴くことを許可する、ということを意味していた。

 

「アッハッハッハ! 他ならぬ君からの依頼だ! 全身全霊で引き受けようじゃあないか! ヤハグルの狩人や人攫いを総動員させよう!」

 

一転して口角を吊り上げ、フォーリナーは快諾した。何とも現金な奴である。

 

けれど、仕方のないことだ。単純な好奇心もそうだが、このロスリックでは普通の人間はまず居ない。故に、儀式の素材となる生贄の収集が出来る大義名分が手に入るのは何よりも喜ばしいことだった。

 

「ああ。頼んだ。聖歌隊にも伝えといてくれ」

 

「良いとも! きっと彼らも快く引き受けてくれるだろう!」

 

憐れなる落とし子(アメンドーズ)を介し、この惑星のあらゆる場所を行き来することが可能なフォーリナー達。カドックが他の異聞帯に居る場合はすぐに見つかることだろう。

 

けれど、このロスリックのどこかに居るのならば話は別だ。何せあまりにも広大で時空が歪んでいる。何百年、何千年もの時差がそこら辺で起きている。

 

そこに百年前には居ても今はもう居ないかもしれない。故に、一人の人間を捜索するのはエルデンの持ち得る戦力を総動員させても困難であり、しかもカドックの捜索に人員を集中させる余裕は無かった。

 

故に、もしロスリックのどこかに放逐されているのであれば生存は絶望的だろうと内心エルデンは諦めていた。

 

「但し、北欧異聞帯と中華異聞帯には手を出すな」

 

釘を刺すように、エルデンが言う。

 

「彼処の者たちは、我らが同志に成り得る存在だ。あまり縄張りを荒らすべきではない……少なくとも今のところは、な」

 

「ふむ、他の異聞帯は同志に成り得ないと?」

 

「ああ。ブリテンの方はまだ可能性があるが、他は限りなく低いだろう。特にヴォーダイムが管理する大西洋異聞帯とは近いうちに敵対する」

 

実のところエルデンは異聞帯の実情をあまりよくは知らない。分かるのは汎人類史と大きな乖離があるということだけ。

 

あのイヴァン雷帝が象の魔獣だとか聞いた時は耳を疑ったものだ。聞くに、北欧はラグナロクで神代が滅びず、中華は不老不死となった始皇帝が統治しているらしい。

 

インドはインド神話というだけで脅威なのは間違いなく、大西洋にはギリシャの神々が。ブリテンと南米は聞く限り最大のイレギュラーと言えよう。

 

けれど、エルデンはその詳細を知らない。故に、彼が思考し、考察する材料は各クリプターの人格のみ。その観点から見れば人を嫌うヒナコと混沌を好むベリルはエルデンの計画に賛同する可能性が非常に高い。

 

十中八九キリシュタリア側に付くであろうオフェリアも含めているのは、未だに彼女に友情を感じているからだろうか。彼はその友情を一度は踏みにじったというのに……。

 

ペペロンチーノは警戒に値するが、最大の脅威はやはりキリシュタリアとデイビットだろう。彼らはレフ・ライノールの爆弾にみすみす殺されたのが嘘のような実力者だ。それが単独ならばともかく異聞帯という戦力を保有している。

 

けれど、それでもこのロスリック異聞帯が敗北するとは到底思えないが__。

 

「それに北欧にはセイバーを派遣させている。貴公らと鉢合わせすれば面倒なことになる」

 

「ああ、彼か……実に嘆かわしい。獣を狩り、上位者を狩り、あれだけの祝福を受けながら何故我らの夢を理解出来ないのか……」

 

憂うように、フォーリナーは言う。

 

「あれはそういうものだ。悪夢に囚われ、獣に落ちぶれ、しかし導きは失わず、彼の側にあった。貴公のように言ってしまえば、夢の中でも狩人、ということだ」

 

「…………? どういうことかね?」

 

「……ああ、そうか。いや、何でもない」

 

悪夢のフォーリナーも、女医のアルターエゴも、エルデンの知る本来の物語から外れた存在。異聞のサーヴァントとは、そういったものだったということを再認識する。

 

「それではカドックの捜索、頼んだぞ? くれぐれも妙なことはしないように……特に女医には念を押してくれ。流石に友人が“星界からの使者”になってしまうのは……その、困る」

 

青い茸頭の宇宙人となったカドックを想像し、怪訝な表情を浮かべながらエルデンは言う。

 

「アッハッハッ 了解した。早速呼び掛けようとも」

 

愉しそうに笑いながらフォーリナーは虚空へと消える。

 

「……さて、と」

 

それを見届けるとエルデンは未だに呻き声をあげて苦しむマーリンを放置し、広場の中心にある“篝火”へと向かう。

 

「我ら人間性を捧げ、絶望を焚べ、それでも足りない。悪夢は巡り、怨嗟は積り続ける……」

 

世界とは悲劇なのか。この人類史は正しく悲劇の積み重ねによって築かれた、負の遺産だ。

 

欺瞞にすがった者が居た。腐りゆくことを望んだ者が居た。故郷を救えなかった者が居た。愛を知らず愛を失った者が居た。友の為に家族を裏切った者が居た。人に感情移入することが出来ない者が居た。狂い、寄る辺を求める者が居た。

 

__何もないということを知った者が居た。

 

「__今こそ、死に祈りを」

 

答えを得た者は、篝火へ触れる。




カドック捜索をミコ……悪夢のフォーリナーに任せるとか正気の沙汰じゃねぇって書いてて思った。
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