異聞帯がロスリックだった件 作:理力99奔流スナイパー
スタミナモリモリ緑花草のサラダ
暁闇草のお浸し粘液ソース掛け
米はないよ、苔玉の盛り付け丼
間接キス?青ざめた二枚舌のステーキ
エルデン「……いただきます」
◎
__北の不死院。
呪いを受け、“闇の刻印”をその身に宿した不死人は、死に続ければやがて理性と記憶を失い、魂を貪る亡者と成り果てる。
故に、不死は迫害の対象となり、幽閉された。亡者となっても周囲に被害を及ぼさぬようずっと閉じ込め続ける為に……。
「くそっ……何なんだ、ここは」
そこをカドックは進んでいた。
あれからどうにか痛みは治まり、以前よりも軽くなった身体で黄衣の魔術師の言葉に従い、大扉にある広場とやらを目指していた。
「出会うのは亡者ばかり……まともな人間は居ないのか?」
まるでゾンビ映画だ。本能のままに徘徊する亡者たち。その痩せこけ、木乃伊のように干からびた姿とは裏腹に常人離れした運動能力としぶとさであり、動きこそ単調ではあるが、容易に倒せる相手ではなく、苦戦した。複数相手ならば尚更である。
しかも彼らは腐っても不死であり、倒しても一定時間が経てば何事も無かったかのように生き返り、活動を再開してしまう。故に、長居は出来ず、後戻りも出来ない。
「……ここか?」
辿り着いたのは外。先程までずっと薄暗い通路だったためその明るさに目を細める。しかし、日光は無くは灰のような曇り空だった。
「あった、扉だ。やっぱりここか」
そして、見つけた。見上げる程に巨大な扉を。しかも既に誰かが通ったのか開けっ放しだ。
「マーリン曰く、この先にロードランへの道があるらしいが……」
警戒心を露にしながらカドックは扉を通る。その先はまた広場であり、更に奧には同じような大扉があった。先程のとは違い、閉ざされて鍵も掛かっているようだったが……。
「ん? あれの方か__」
ゆっくりと大扉へ近付く。亡者が居ないかと周囲を警戒していたが、それは軽率な行動だった。
何故ならば彼は、上に注意を向けなかったのだから。
ドスンッ!!
「___!?」
眼前に、空から何かが降り立つ。地響きが起こり、土煙が舞う。
カドックは目を見開く。
「なっ……!?」
それは巨大な棍棒を持った怪物だった。
爬虫類染みた醜悪な姿形。そのブクブクと太った身体には小さ過ぎる異形の羽を持ち、刺々しい尖角の生えたその顔面はまるで悪魔のようである。
ロシアに居た魔獣とは格が違う、神代の化け物であるとカドックは直感し、身構える。
「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️__!!」
怪物は咆哮する。その叫びはまるでこの世に生まれ落ちたことに対する嘆きであり、全てを憎悪するかのようであった。
否、実際その通りだ。魔女が作り出した混沌から生じた彼らはこの世のありとあらゆるものを呪い、そして滅びる憐れなる生き物だった。
__生まれるべきではなかったのだ。
◎
__北欧を訪れて早々、カルデアは敗北を喫した。
シャドウ・ボーダーを持ち上げて放り投げた正体不明の騎士。ただの牽制程度でマシュとホームズを圧倒し、更には彼女の盾すら破壊した。更には生命線であるペーパームーンも盗んでいき、故に彼らは窮地に立たされていた。
「ダヴィンチちゃん。マシュの盾はどう?」
「酷い状態だ。損傷自体は修復出来ない程ではないが、それなりの時間を有するだろう。まったく……あの騎士にしてやられたね」
不安そうな立香の問いにダヴィンチは神妙な面持ちをしながら言う。
「ゲーティアの宝具にすら耐えた堅牢堅固な盾をこうも破壊するとは……あの騎士の持つ槍はそういう類いの宝具か、或いは彼自身のスキルか……どちらにせよ、誰にも予見出来なかった」
「君にも彼の真名は分からないのかい?」
「ああ。そもそもの話、情報が足りなさ過ぎる。北欧において魔剣の保有者として考えられるのは、かの竜殺しの大英雄シグルドだが、あまりにも特徴とかけ離れている。それに加えてあの槍だ、あれも魔槍の類いだとは思われるが、武器ないし装具を破壊する特性を持つ魔槍など少なくとも私が保有する北欧に関する知識には存在しない」
「じゃあ、北欧の英霊じゃないってこと?」
「そうなる。まだ確証はないが……かといって他の神話や伝承を見てもあの騎士のような人物は見当が付かない。唯一推察できたクラスも槍を使ってくれたお蔭で振り出しに戻った」
あのホームズが全く解らない。解き明かす者代表とも云われる彼のような事態に一同は驚きを見せる。
「しかし、ほぼ見逃されたようなものじゃないか。その気になれば奴は簡単に俺たちを皆殺しにできた。あいつ、まるで眼中に無いって感じだったぜ?」
操縦手のムニエルが言う。そう、あの騎士は一度はマシュの盾を破壊した後、トドメを刺そうとしたにも関わらず突如として戦闘を中断し、ペーパームーン強奪へと向かった。
見逃された、それが最も適切な表現だろう。
「はい……あの騎士のサーヴァント、何かを思い出したように攻撃の手を止めました」
「ふむ、もしやマスターから“殺すな”とでも命令されていたのかもしれない」
「くそっ……どうするのかね。マシュ君は盾を失い、ホームズ君は右腕を失った……挙げ句に、ペーパームーンまで盗られてしまった。こんなので異聞帯攻略とかどう考えても無理だろう」
「全く以てその通りです。正しく状況は最悪。それにエルデン・ヴィンハイムのようにボーダー内に容易に忍び込む方法を他のクリプターが持ってないとも限らない。それ以前に彼が我々を撲滅する為に再び来られたら今度こそ終わりでしょう」
「……エルデンさん」
ホームズがその名を出すとマシュの表情が暗くなる。未だに彼女は彼が最初から自分たちを裏切っていたという事実を引き摺っていた。
「マシュ……」
「エルデン、か……俺も信じられないぜ。何だかんだあいつは良い奴かと思ってたんだが」
彼の衝撃的な話を聞いたスタッフたちは皆非常に驚いたが、ああやっぱりかと思った者が大半である。彼が人理修復に消極的であり、批判的な発言をしていたのは誰もが知っていたからだ。しかし、Aチームに配属されて数日後にはその言動もなりを潜め、何人かのスタッフは彼と打ち解けていた。
ムニエルもその一人だ。彼とはアニメやゲームの話で何度か盛り上がった。だからこそ、レフ・ライノールに荷担していたというのは信じ難く、信じたくない事実だった。
「私も信じられないよ。前の私からも一定の信頼を得ていたみたいだからね。けどもし本当にそうだとしたら納得が行く。彼は初対面でレオナルド・ダ・ヴィンチと名乗っても驚いた様子が全く無かった。思い返してみれば、初めから知っていたんだろう。今の私の姿にはきちんと驚いていたしね」
「成程……彼は私が居ることにも多少驚いていたように見えていた。本当に今回の人理漂白という異変に関しては知らず、彼にとっても想定外だったのだろう」
「しかし、そもそも彼奴はどうやって人理焼却を予見した? ヴィンハイムの狂人共は未来視までも保有しているのかね?」
「……分かりません。残念ながら彼自身が何らかの細工をしているようでどうにも彼の思惑について考察しようとするとフィルターを掛けられたかのように思考が鈍ってしまいます」
謎は深まるばかり。エルデン・ヴィンハイムは一体、何をしようとしているのだろうか。ホームズでさえ解らないのだ、立香たちには全く以て見当が付かない。
けれど、彼は人理がどうなろうと意に介せず、カルデアを敵と断言したのだ。きっとろくでもないことだろう。少なくとも立香はそう思っていた。
「それに彼が私の攻撃を避ける時に使った魔術……いや、魔術のような何かは、時間そのものを遅延しているように見えました」
「ほ、本当かねっ!? つつ、つまりあれか? 時間操作ということかねっ!?」
ゴルドルフが驚愕する。時間を操作する、あくまで遅延であるが、それでも魔法の域に近い業だ。それを詠唱もせずに実行したというのは有り得ぬ話だった。
「ええ。少なくとも重力操作の類いではありませんでした。かつてカルデアに居たアサシン・エミヤと原理こそ類似してますが、その技術は魔術とはあまりに掛け離れています。……そういえば鈴のような物体を触媒としていたが、エルデン・ヴィンハイムは以前からあのようなものを? ダ・ヴィンチ」
「ん? ああ、あれか……うん。彼は“聖鈴”って呼んでいた。戦闘シミュレーションの時は杖と使い分けていたよ」
「ふむ……ヴィンハイム特有の魔術か? しかし、あれは私の知る魔術とはだいぶ掛け離れていた」
「そりゃそうさ。ヴィンハイムの扱う
「
「しかし、どういう魔術なのだ? 生憎と竜の学院については噂でしか聞いたことがなくてね……魂を魔力に変換する時点で、とんでもない魔術なのだということは分かるが……」
「ああ。とんでもないさ。魔術自体は青白い魔力の塊を射出するという単純な行程だが、その威力は正しく宝具級であり、一撃でサーヴァントの霊核を粉々に砕く程だ。破壊力に関して言えば魔術師の中で彼の右に出る者は居ないだろう。それに加えて燃費も良い。彼自身は回数制限があるとか言っていたけど、一時間ずっと使用し続けてもまだ魔力量に余裕があるように見えたよ」
「なっ、宝具級だと……? そ、そんなものポンポン撃てるようなものなのかね?」
「普通ならば不可能な話だ。けどそれを可能とするのがヴィンハイムの魔術な訳。言ってしまえばあれは現存する神代の魔術……いや、それよりも遥か古代の超抜級の神秘なのさ。そして、それを使いこなす彼は例え対魔力スキルを持つ高位のサーヴァントとだって渡り合える。前の私はそう評価していたよ」
「ば、馬鹿な……勝てるのかね? そんな規格外の魔術を扱う者に?」
「……さあ、どうだろう? けどやりようはいくらでもあるはずさ」
煮え切らない返事をするダヴィンチ。いくら神代の魔術を扱おうと、エルデンはサーヴァントではなく、ただ一人の生身の人間だ。ならばそこを突けばいい。
そうなのだが、彼女は知っている。否、正確には以前の彼女の記憶から把握していた。エルデンがまだ己の実力を隠していることを。
「まあ、エルデン・ヴィンハイムに関しては追々対策するとしよう。今はこの状況をどう打破するかを考えなくちゃ」
「……ああ。その通りだ。一刻も早く我々はミズ・キリエライトが失った分の戦力を確保しなければならない。つまりは、英霊召喚だ」
「ううむ……ただでさえ少ない電力を召喚テストに使いたくはないが、やむを得んか」
「ええ。本来ならば現地調達、と行きたいところですが武器を失ったミズ・キリエライトとミズ・藤丸だけで外に出るのは危険過ぎる」
ホームズの提案にゴルドルフは乗り気ではないようだ。マシュの盾が破壊されなければ、この後現地の調査を行い、世界の断末魔によって召喚された汎人類史側のサーヴァントといった者たちを味方に付け、ペーパームーンの奪還、そして空想樹の切除へ動くはずだった。
しかし、現状のままそれを行うのはあまりにも危険が伴う。今のマシュではこの異聞帯に蔓延る巨人種が群れで来た時点で終わりだ。
故に、霊基グラフを用いて英霊召喚を行い、戦力を補うのが最善策だろう。
「さて、そういう方針で良いかな? ミズ・藤丸」
「……うん。分かった」
立香も頷く。ロシアでのアヴィケブロンのように他のサーヴァントが居てくれるのは非常に心強い。
「では、早速召喚に取り掛か__!?」
__その必要は、無い。
無機質な声と主に、突如としてボーダー内が光に包まれる。
◎
__殺し損ねた。
虚空から降りし
迂闊、実に迂闊だった。どうやら久々の狩りで、少し腕が鈍っているらしい。事前に聖杯で鍛え直しておくべきだった。
まあいい。あの
その時が、貴様の命日だ。くだらぬ生き物よ。
私は寛大だ。慈悲深く倫理的である。
だからこそ、この
だが、貴様はそれを無碍にした。
許さぬ。決して許しはしない。貴様は我々の領域に踏み込むだけに飽き足りず、あろうことか
度し難い、実に度し難い。
アメンボのように、蜘蛛のように、星の娘のように、乳母のように、青ざめた月のように、
殺す、殺して、殺して、殺し尽くす。
__今度こそ、徹底的に。
まずは奴を誘き寄せる為に、奴の蒔いた種子を、あの大樹を切り落とすとしよう。あれが形成する異界にもまたナメクジ共の同類が居る。ならば、殺そう。一匹足りとも逃すものか。
◼️◼️◼️ヘ干渉。知識を抽出__英霊の座、サーヴァント、カルデア、藤丸立香……ほう。あの焼却を阻止した者たちか、此度も生き残り、足掻いている訳か。
__素敵だ。やはり人間は素晴らしい。
けれど、存外追い込まれているようだな。丁度仮初の肉体を欲していたところだ。今回は手を貸してやろう。
霊基を生成、エーテルの確保、座への登録、クラスはアーチャーとバーサーカーと……ふむ、サーヴァントとやらは全盛期の状態で喚ばれるのが常、ならばこれでいいか。
魔力の補充、霊脈の代用を確保、召喚儀式の簡略化、カルデアのマスターへの接続、オールクリア……さて、行くか。
「……
__さあ、久方ぶりの狩りだ。
◎
ロスリック異聞帯のどこか。他の土地と比べて近代的な、夜ばかりが続く魔都があった。
__古都ヤーナム。
かつて、そう呼ばれていたその町は得体の知れぬ者たちの遊び場。狩りに疲れ、血を拒み、夢からの解放を願った愚か者がすべてを忘れ、逃げ出したことによって誕生してしまった、剪定された未来。そこでは今も尚、紅い月の夜が続き、悪夢に囚われていた。
「__あら?」
一人の女医が居た。
市街の診療所にて、拘束具を着けられ、手術台の上に乗せられた男を解体していた彼女は不思議そうに天井を見上げる。
「この香り……無貌、ではないわね? アレの眷属__にしては香りが強過ぎる。むしろ本人よりも強力だわ……ウフフッ 一体何者なのかしら?」
仄かな月の香り__。
女医の瞳に映るのは天井ではなく、このヤーナム、そしてロスリックを覆う嵐の壁の向こう側。紅い月に潜む魔物よりも強い香りを放つ、未知の存在に対して興味深そうに笑う。
その間、男は意識あるまま解体される激痛に悲鳴をあげ、じたばたともがいていた。
この町にまともな人間などおらず、その殆どが発狂するか獣と成り果てている。
ならば、この男は?
「~~~! ~~~~!」
「……煩いわね。少し黙ってなさい」
その呻き声が気に障ったのか女医は顔をしかめ、男の腹部に太い注射器を突き刺した。中にはどろりと濁った赤黒い液体が入っている。
「………………っ!?」
「ああ、ごめんなさい。新鮮な患者を診るのは久しぶりだったからつい……大丈夫、急に他の世界に連れて来られて怖いのでしょうけど、私の治験を受ければきっと救われるわ」
そう、彼は他の異聞帯から連れ去られた者たちの一人であり、彼女の“患者”である。
優しげな声で女医はそう囁くが、男は知っている。既に自分と同じように捕らえた人間が何人も彼女の“治験”を受け、物言わぬ亡骸となるか、人ならざる存在となっていることを。
「にしても彼も人が悪い……他の異聞帯を含めて人探し、なんて私たち“医療教会”に頼んだからにはどうなるか分かっているくせに……」
脳裏に思い浮かべるのは同盟を結んだ
『__貴公。赤子を産んだだけで満足なのか? 貴公という人間はその程度の器ではあるまいに』
あの日、あの夜、この場所で、夢見心地な私に彼が言い放った言葉を思い出し、ビクリと身体を震わせる。
そうだ。彼は、新しい道を示してくれた。赤子を抱くという悲願よりもずっと有意義なものを与えてくれた。
「ああ。エルデン・ヴィンハイム……私を見つけ、私を知り、私を救った愛しき
そう夢想しながら呟く彼女の表情はまるで恋する乙女のようであり、しかし確かに狂気に染まっていた。
「メンシス学派の連中はともかく、私は貴方を裏切ったりはしないわ。カドック……だったかしら? 絶対に貴方の大切な友人を見つけ出してあげる」
だから、と女医は切り開いた男の頭蓋へ手を突っ込み、その脳髄を引き抜く。すると男は悲鳴をあげる隙もなくピクピクと痙攣した後、死んだ。
「少しだけ約束を破っても、構わないでしょう?」
そう言って女医は世界を跨ぐ。
彼女が行こうと思った場所は二つ。月の香りの漂う北欧、そして興味深い
さて、彼女が向かったのはそのどちらだろうか?
__どちらにせよ、波乱が巻き起こる。
とりあえずやべーやつをどんどん出しちゃうせいで北欧が地獄に……だが、私は謝らない。
型月における魔法の定義って時間の加速とか遅延はまだ魔術の範疇で巻き戻しとか停止が魔法の領域ってことなのかな? よく分からんぞよ。科学で再現できないのが魔法らしいけど。