異聞帯がロスリックだった件   作:理力99奔流スナイパー

19 / 36
狩人の~殺意が~高過ぎる~よ~


カルデアと氷雪の女王

 ◎

 

 

 スカンジナビア半島オスロ・フィヨルド北部。

 

 汎人類史においてはオスロと呼ばれた場所に聳え立つ、この北欧で唯一の城に、カルデア一行はやって来た。

 

「綺麗__」

 

 外観こそ以前のナポレオンたちの襲撃で破壊されてしまっていたが、内部は修復を終えているようでその幻想的な空間にマシュが思わず呟く。

 

「い、いえ。城内、ホールらしき広い空間に出ました」

 

「……ふむ、この寒さといい、カインハーストを思い出すな。女王が居るのも同じだ」

 

「へぇ……その女王様は美人なのかい? 狩人の旦那」

 

「顔を隠していたから分からんが、多くの男を誑かしていたらしいし、顔は美しいのではないか? 飾っていた自画像らしき絵画もまあ、美しかった」

 

「おお! そいつは会ってみたいな! 自画像ってのはあまり信用ならないが。大抵が脚色されまくっている。俺みたいにな」

 

「今は三角に潰されてピンク色の肉塊になってるが、それでも構わないか?」

 

「さんかく? にくかい? ……っておい、何だ、死んでるのか」

 

「いや、生きてるぞ」

 

「……はい?」

 

 ここの女王も同じようにしてやるか、と物騒なことを口走るフォーリナー。それに軽口を叩くのは汎人類史側として召喚された大砲を担いだ英霊、ナポレオンである。

 

 彼らは異聞帯の王である女神と接触する為に、この城へと地下通路を使って侵入した。

 

「周辺の魔力反応は……これは!」

 

「どうしたの? マシュ」

 

「周囲一帯に強い魔力反応があります! これはまるで、城そのものが魔力を発しているような……」

 

「__で、あろうな」

 

 冷たい声が、空間に響き渡る。

 

「!!」

 

「是なる氷雪の城は我が魔力を以て編み上げたものであり、言わば、私の(はら)の中におまえたちは立っているのだ」

 

「__貴様が、そうか」

 

 ギョロリ、とフォーリナーの血走った目玉が動き、その姿を見据える。それまで隠していた、刃よりも研ぎ澄まされた殺意の暴風雨を浴びながら、尚も女王は涼しい顔でそこに佇んできた。

 

「如何にも。おぞましき外なる邪神よ、私こそがこの北欧の母である」

 

「__ならば死ね」

 

 パァン、と乾いた音が響く。射出された水銀弾は、真っ直ぐ女王の脳天へと向かい、しかし届くことはなかった。

 

「……些か殺意が高過ぎないか? 無粋だぞ」

 

「はは。先手必勝か! やっぱり頭のネジ外れてるなアンタ! しかし、そちらもお早いお出ましだな! やることなすこといちいち芝居がかった女王様だぜ!」

 

 立香たちもその存在に気付き、視線を向けと、そこに立っていたのは、見覚えのある姿だった。

 

 短い杖を持ち、薄紫のドレスを纏った、影の国の女王と瓜二つの容姿をした女性。心なしか彼女よりも肌のハリが良く、若く見える。

 

「神とは__久遠である。絶対である。古来、ヒトはあらゆるものに神を見出だしたが……我が世界、我が北欧異聞帯においては唯一のものである」

 

「……神?」

 

「そう。森羅万象こそ神であるのならば、私がそうだ。高次の力こそ神であるのならば、私がそうだ」

 

 その声は、同じように見えて、どこか慈しみのようなものさえ感じられて別人のように聴こえた。

 

「汎人類史にあっては神は消え失せ、神霊と成り果てて、おそよヒトはその姿を見ることがないと聞く。斯様な世界で生きて行くのはどうにも苦しかろう? 崇めるものを心の内に抱き、偶像なぞを用いなければならぬとは」

 

「……あ?」

 

「落ち着け。とりあえず最後まで言わせてやりな」

 

 すぐにでもノコギリ鉈を振るいたくてたまらないといった様子のフォーリナーをナポレオンが竦める。

 

 宛ら猛獣を宥めているかのような光景。本来ならばマスターがやるべき行為だが、肝心の立香は視線の先に居る女王の姿に目を見開いており、それどころではない様子だった。

 

 当然だろう。その姿は、彼女の師匠とも言うべき存在のものなのだから__。

 

「……だが、此処には私が居る。頭を垂れて跪くことを許すぞ、ヒトの子ら。スカサハ=スカディが、おまえたちを愛してやろう」

 

「本当に……スカサハ__」

 

「はい……本当に、スカサハさんそっくり__」

 

 マシュもまた驚く。名を聞いた時から察してはいたが、実際に第五特異点から共に闘ってきた存在と瓜二つの人物と対峙した衝撃は凄まじかった。

 

 対する女王__スカディは次の瞬間。その穏やかな表情を一変させ、底冷えする殺気を放つ。

 

「__但し、そこの邪神は例外だがな」

 

「「「____!?」」」

 

 この反応に立香たちだけでなく、ナポレオンも驚き、顔を強張らせる。

 

 唯一フォーリナーだけが、笑う。

 

「おまえは、駄目だ。シャドウ・ボーダーなる鉄の塊の中で召喚された時からずっと視ていたぞ。この星ならざるものよ、ヒトの皮を被ろうとも私の目は誤魔化せぬ」

 

「ふん……先程から聞いていれば戯れ言をペラペラと。穢らわしい上位者擬きめ。今ここで、殺してやる」

 

「そうか。奇遇だな」

 

 片や__終末を乗り越え、三千年もの間、世界を運営し、維持してきた北欧の母なる女神。

 

 片や__悪夢を駆け抜け、新たな幼年期を迎え、地上に蔓延る上位者を狩り尽くした月の狩人。

 

 その殺意と殺意のぶつかり合いはそれだけで空間を揺らし、立香たちは息を呑む。もしも彼女らがこれまで幾度もの修羅場を乗り越えていなければ呼吸すら危うかっただろう。

 

 正に一触即発。誰もその間に割り込めず、身構える。

 

「神として私は二つのものを贈るのみ。即ち__殺そうか、愛そうか。そして、おまえは殺すと決めた」

 

「生憎と俺はとっくの昔に決めている。……マスター、少しばかり本気を出させてもらうぞ」

 

「えっ?」

 

 すると次の瞬間。フォーリナーの姿が消える。

 

「____!」

 

 それとほぼ同時にスカディの眼前に分厚い氷の壁が出現した。何事かと一同が視線を送るとそこには青白い雷光を纏ったノコギリ鉈を振り下ろすも壁に阻まれたフォーリナーが居た。

 

「__存外、速い。単純な高速移動ではないな? 空間を跳躍したのか。恐ろしいな」

 

「チィッ____」

 

 即座に後退し、今度は背後へ回り込むフォーリナー。しかし、既にそこにスカディの姿は無かった。

 

 どこに__。という疑問は抱いた同時に解決する。女王の領域であるこの場においてすぐ隣のサーヴァントの魔力反応すら感知することは至難の業であるが、啓蒙高きフォーリナーには何ら支障は無く、直ぐ様その位置を察知し、頭上を向く。

 

「__神にひれ伏すがいい」

 

 鋭利に尖った巨大な氷塊。それが無数に形成され、豪雨のように降り注ぐ。

 

「狩人さん__!?」

 

 マシュが叫ぶ。たった一発でも膨大な魔力が感じられる大魔術。如何にフォーリナーといえど、ただでは済まないだろう。そもそも立香が確認したステータス上は耐久自体はDランクとかなり低かった。掠めるだけでも致命傷は避けられないはずだ。

 

 けれど、それは命中すれば、という話。フォーリナーは最小限の動きで氷の流星群を避けていく。

 

「ほう……避け切るか」

 

「__死ね」

 

 床に突き刺さった氷塊を踏み台にフォーリナーは高く跳躍し、スカディへと迫る。

 

 するとスカディの目の前に先程と同じように氷の盾が瞬時に形成される。恐るべき反応速度__どうやら外敵からの攻撃に反応し、自動的に防御しているようだ。

 

 しかし、狩人は止まらない。防がれるのであれば__その盾ごと粉砕するのみ。

 

「____ッ!?」

 

 氷が、爆ぜる。

 

 フォーリナーが持つのはノコギリ鉈ではなく、裏側に引き金の付いた巨大な金槌。炎を纏うそれは、原初のルーンで作り出した堅牢な氷を容易く溶かし、砕かれた破片が熱気と共にスカディを襲う。

 

「熱っ……何だ、それは」

 

 堪らず後退するスカディ。寸前で回避したためダメージ自体は軽度の火傷で済んだが、彼女はその奇怪な得物に瞠目する。

 

 __爆発金槌。

 

 古い狩人の用いた仕掛け武器。工房の異端“火薬庫”の手になるもの。

 

 小炉付きの巨大な金槌であり、撃鉄を起こした後の一撃は火を巻き、着弾時に激しい爆発を起こす。

 

 獣を叩き潰し、焼き尽くす。その端的な攻撃性は、獣を憎む狩人たちに好まれたという。

 

「チッ__届かなかったか」

 

 一方、フォーリナーは氷こそ砕いたものの獲物を仕留め損ねたことに激しく舌打ちし、自らの肩に叩き付けるように金槌の引き金を押す。

 

 ガキィン! という甲高い音と共に金槌は着火し、熱を帯びる。

 

「ああ、恐ろしいな。斯様な器でありながら、ここまでの力を持つとは。やはりワルキューレたちを差し向けなくて良かった。あれらでは簡単に殺されてしまうだろう」

 

「面倒な氷だな……トゥメルの秘術でも学んでおけば良かったか」

 

 本体ならいざ知らず、サーヴァントの身である今の己にとっては想像以上に強敵であるとフォーリナーは判断する。

 

(__面妖な。神霊でもない、紛れも無き本物……わざわざ英霊の殻を被っているのもそうだが、何故このような存在が成り立っている? 今の状態でこれ程の力を有するならば、“中身”が這い出たらどうなることやら__)

 

 一方、スカディにとってもフォーリナーの強さは予想を上回るものであり、内心冷や汗を掻く。

 

 そもそも神霊と英霊ではそれだけで圧倒的な格差が存在する。しかもスカディは現代まで生きた、生身の神。その権能を行使すれば立香もマシュもナポレオンも指一本動かせない脱け殻のような状態にして無力化させることも可能なのだ。

 

 止めて、凍らせ、滅ぼす。一度殺すと決めたのならばすぐに殺すのが彼女の信条。しかし、どういう訳か目の前の存在にはそれが通用せず、より強力な術式を編もうとするには空間を跳ね回るフォーリナーの攻撃速度はあまりにも速過ぎる。

 

 スカディが得意とし、使い慣れた雪や氷のルーンでなければ攻撃も防御も間に合わないだろう。

 

「マシュ! ナポレオン! 狩人の援護を!」

 

 あまりにも速く、激しい攻防に魅入ってしまう立香だったが、ハッと我に返り、そう指示を出す。

 

「はい……!」

 

「おうよ!」

 

 それを受け、マシュとナポレオンはフォーリナーの元へ行こうとするが__。

 

「__スルーズ。捕らえよ」

 

「__は。命令の入力を確認しました」

 

 光と共に降臨した金髪の戦乙女が行く手を阻む。

 

「…………!」

 

「おっと、原型の姉妹(オリジナル)のお出ましか! ワルキューレ・スルーズ! 大神オーディンの娘、神代から生きる半神! この前は世話になったな!」

 

「ナポレオンさんの言う通り今までの量産個体とは比べ物にならない気迫です……!」

 

「では、殺害せずに無力化を試みます。白鳥礼装起動後、光槍の戦闘機能解放を開始します__神の僕の力を知るがいい、汎人類史」

 

 戦乙女・統率個体が一騎__スルーズは槍を構え、またマシュたちもそれを迎え撃たんとする。

 

 それを横目で一瞥したフォーリナー。援護は期待出来ないことを知るも差して気にしていない様子であり、再び金槌を構えて駆け出す。

 

「シィィ____!!」

 

「ッ__まるで獣だな」

 

 それに対し、スカディは床を足で小突いた。それだけで鋭利な氷が波のように発生し、フォーリナーを呑み込まんとするが、横へ薙ぎ払らわれた火を噴く金槌はそれらを打ち砕く。

 

 フォーリナーの歩みは止まらず、眼前にまで迫るとその頭を叩き潰そうと金槌を振り下ろす。

 

「しかし、まだ氷の獣の方が可愛げがある」

 

「____ッ!!」

 

 __が、それよりも先に氷の刃がフォーリナーの胸部を貫いた。スカディの杖を起点に出現したものである。

 

「油断したな、邪神。これで終いに__」

 

「__否、まだ終われぬ」

 

「ッ!? な、に__!?」

 

 金槌が、着火する。

 

 未だに闘志絶えず血走った瞳でこちらを睨むフォーリナーに驚愕するスカディ。心臓を貫かれ、そこから瞬時に肉体を凍結していっているはず。にも関わらずフォーリナーの身体機能に影響は無く、彼は獰猛な笑みを浮かべる。

 

「しまっ__」

 

「__今度こそ、死ね」

 

 力を溜め、熱された金槌が振り下ろされる。この距離では防御は間に合わず、例え間に合っても打ち砕かれ、その余波だけでも致命傷は避けられない。

 

 スカディは死を覚悟した__。

 

「__女王陛下!」

 

 しかし、それは横から振るわれたナニカによってフォーリナーが吹っ飛ばされたことにより、回避される。

 

「かはっ__!?」

 

 宙を舞い、壁に叩き付けられるフォーリナー。視線を向ければ、そこには恐ろしく巨大な粗鉄の鎚を持つ騎士が立っていた。

 

「クク__酷い有り様だな、雪の女神」

 

「……騎士か。すまぬ、助かった」

 

 騎士の登場にスカディは素直に感謝する。一方、立香とマシュはスルーズと戦闘中にも関わらず彼へと視線を送ってしまう。

 

 再び相対する覚悟はあったが、よりにもよって最悪なタイミングでそれは現れた。

 

「この熱い寒気は……!」

 

「……カルデアのヒト共か。存外早く来たな、それに随分と強力な助っ人を連れて来たじゃあないか」

 

「何の用です? 得体の知れぬ騎士。命令遂行の邪魔をしようというのですか?」

 

「クク。相変わらず冷たいなぁ……貴公らの大切な女王様を助けてやったというのに」

 

「ッ…………」

 

 愉しそうに笑う騎士。対してスルーズは無表情ながら不機嫌そうな雰囲気を漂わせる。

 

「どうするオフェリア? 殺すなら殺すが」

 

「……黙ってなさい、セイバー」

 

 そして、その主である彼女も当然この場に現れる。右目を眼帯で覆った女性__見覚えのあるその姿を視認した瞬間、マシュが目を見開き、動きを止めた。

 

「オフェリア、さん___」

 

「……女王、スルーズを下がらせていただけますか。私は彼女と幾つか言葉を交わしたい」

 

 オフェリアもまたマシュを見て一瞬頬を緩めるも直ぐ様キリッとした表情でスカディに彼女との会話を請う。

 

「許す。……と、言いたいところだが、まずはあの邪神めを殺してからだ」

 

「…………!」

 

 しかし、スカディのその言葉を聞くと目を見開き、先程吹っ飛ばしたフォーリナーへと視線を向ける。てっきりあの不意を突いた一撃で息の根を止めたとばかり思っていたが、フラフラと立ち上がる血塗れのソレを目撃して驚愕した。

 

「狩人さん……!」

 

「なっ……有り得ない、まだ生きてるなんて……!?」

 

 フォーリナーは懐中から一本の輸血液を取り出し、自らの太股へ乱暴に突き刺す。

 

 すると不思議なことが起きる。先程まで夥しい血を流していた胸の大穴は一瞬にして塞がり、騎士の大鎚によって砕かれた骨も瞬く間に修復された。

 

「セイバー!」

 

「無論、全力で殴ったぞ? 単純に相手が思ってたよりしぶとかっただけだ。いやはやブラムドの一撃を受けて耐えるとは、恐ろしいな」

 

 あれだけの傷を負いながらたった一本の輸血液を注入するだけで無傷の状態にまで回復したフォーリナーに、オフェリアと騎士だけでなく、立香たちも驚きを隠せない。

 

「………………」

 

 一方、フォーリナーは茫然と立ち尽くしていた。その目は大きく開き、騎士の姿を捉えている。先程まで戦っていたスカディはもはや眼中に無い様子だ。

 

「ん? 何か様子が変だ」

 

 どうしたのだろうか。騎士は首を傾げた。

 

「__獣だ」

 

 ただぽつりと、フォーリナーは呟く。

 

 そして、その表情を憤怒に染まったものへと豹変させ、床を蹴って跳躍する。

 

「◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️____!!」

 

「おおっ__」 

 

 狂戦士が如き雄叫びをあげ、金槌を叩き付ける。騎士がこれを寸前でバックステップすることでこれを避ければ金槌は床に触れると同時に大爆発を引き起こす。

 

「ッ__随分と面妖な武器を使う」

 

「逃がすか__!」

 

 爆炎の中からチリリリと金属と金属が噛み合い、火花が飛び散らせながら高速で回転するナニカが飛び出す。

 

 それは巨大な円盤状の刃が無数に重なった“回転ノコギリ”であり、フォーリナーはそれを軽々と振り上げ、対象をズタズタにする為に押し当てんとする。

 

「おっと__」

 

 高速回転する鋸刃。安易に盾受けすればスタミナをごっそり持ってかれてしまうと判断し、騎士はローリングすることでこれを回避し、距離を取ろうとするもフォーリナーは逃がすまいとそれを追う。

 

 空間を跳躍する古い狩人の加速の業。対する騎士はジェット噴射が如き魔力(ソウル)の放出で対応しているが、純粋な速度ではフォーリナーの方が上手に見えた。

 

「__速いな」

 

 ヒュン、と刃が頬を掠める。

 

 いつの間にか再び武器を持ち替えたようだ。その手に握られるのは先程までの重厚な武器とは打って変わり、軽く振りの速い長柄の曲刀__共通するのは獣に対する殺意のみ。

 

「ソウルの業ではないな? しかし、全く無関係とは言い難い……ああ、実に興味深いぞ、貴公」

 

「__黙れ。獣が、喋るな」

 

 ガシャン! と刃が折り畳まれ、内側に隠された刃が露になる。リーチこそ短くなったが、振りはより速くなり、その恐ろしく速い踏み込みで一瞬にして騎士の眼前まで詰め寄った。

 

「!!」

 

 咄嗟に左手の暗銀の盾でガードしようとする騎士。しかし、それよりも速くフォーリナーは懐へ回り込んで刃を振り上げた。

 

「ぐっ……痛いな、血が出たじゃあないか」

 

 一筋の傷と共に血が噴水のように噴き出す。しかし、騎士は気にも留めていない様子で笑い、すかさず連撃を繰り出そうとするフォーリナーへ大鎚を振り下ろす。

 

 当然フォーリナーはそれを回避して再び斬り掛かるが、騎士は大鎚から一瞬にして持ち替えた大剣でそれを受け止めた。

 

「あの剣は……!」

 

 自分との戦闘の際に使用していた魔剣。あの時よりも遥かに禍々しい魔力を発するそれにマシュは顔を強張らせる。

 

 先程のフォーリナーとの目で追えぬ別次元の攻防で深く理解した。あの時、察してはいたが騎士は微塵も実力を出していなかったことを。

 

「セイバー!」

 

 一方、オフェリアは何やら焦った様子で叫ぶ。騎士が出血したのを見た瞬間。まるで彼が倒されるのを恐れるかのように。

 

 そして、彼女は眼帯を外し、赤い右目を露にする。

 

「__事象・照準固定(シュフェンアウフ)私は、それが輝くさまを(lch will es niemals glǎnze)__!?」

 

 セイバーを援護する為にフォーリナーに対して自身の魔眼を使用するが、それは途中で中断された。

 

「……え?」

 

 サーヴァントすら射抜く宝石級の魔眼。しかし、それが捉えたのはまるでフォーリナーを遮るかのように漂い、蠢く“触手のようなナニカ”だった。

 

 おぞましい程の寒気。オフェリアは思わず目を逸らす。理解不能な光景を目の当たりにし、戸惑いを隠せなかった。

 

「__貴様。視たな?」

 

 そして、フォーリナーが気付く。傲慢にも己の可能性を視ようとするだけでなく、干渉しようとした愚か者が居ることに。

 

 彼は先程まで騎士に対して行っていた追撃をピタリと止め、オフェリアへと走り出す。

 

「む、オフェリア……!」

 

「狩人さん! 待ってください!」

 

「おい! そいつは俺の__」

 

 騎士、マシュ、ナポレオンがそれを制止しようとするが、間に合わない。

 

 フォーリナーはただ一歩踏み込むだけで離れていたオフェリアの眼前まで迫る。

 

「あっ……」

 

 オフェリアが反応出来た時には既に、フォーリナーの曲刀が振り下ろされていた。

 

 __鮮血が、飛び散る。




ナポレオン「求婚できてないんやが」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。