異聞帯がロスリックだった件   作:理力99奔流スナイパー

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その場に居るキャラ多いと一部が空気になりやすいよね


悪魔殺し

 ◎

 

 

「 オフェリア 」

 

 __俺は、絶望していたのだ。

 

 __運命への叛逆を試みておきながら。

 

 __炎として、終末装置としての役割をも果たせず。

 

 __剪定を待つ世界で燻り続けるこの俺に。

 

 __あの女は、そんな俺を、見つけた、のだ。

 

 __“見つけてくれた”。

 

 __例え、偶然であろうと。

 

 __例え、滅びの炎と恐怖されようとも。

 

 __それは俺にとっては、誕生・発生して以来初めての。

 

 __運命という定めにない、意外性。

 

 __驚き、だった。

 

 __哀れな女。愚かな女。

 

 __オフェリア・ファムルソローネ。

 

 __明日なき俺に、未知なるもの、驚きを教えた女。

 

 __俺を見つけた女。燻る炎に言葉を掛けた、ただひとり。

 

 __嗚呼(ああ)

 

 __俺は、おまえに何をしてやれるだろう。

 

 __炎でしかない俺は、破壊でしかない俺は。

 

 __おまえに。何を。

 

 __おまえに、何を、返してやれるのだろう。

 

 それは終末の巨人が胸の内に秘めた想い。誰からも知られることなく、今正に消えてなくなろうとしている心の内。

 

 原初なる巨人(ユミル)が残した怒りであり、単なる終末装置でしかなかった彼が一人の少女の出会いによって得たその感情の正体に彼自身すらも気付かずに彼という存在は終わりを告げ、すべてが消え去る__。

 

『__終わらせぬ、終わらせてなるものか』

 

 そのはずだった。けれど、その記憶を垣間見た魂喰らいの男は否と叫ぶ。

 

 世界とは悲劇であり、これもまたその膨大な物語の一つに過ぎない。だからこそ、男はその有り様を何よりも嫌悪する。

 

『__()()()()()()()、か。ああ、貴公は俺だ。どうしようもなく俺そのものだ。星を灼こうとした者よ、出会い方が違えば貴公はきっと、我が同志に成り得ただろう』

 

 男は、どこまでも肯定する。いつものように、それこそが正しいと言わんばかりに。

 

 その想いを、その行いを、その在り方を。何故なら男にとってそれは何よりも耀かしく、得難いものなのだから。

 

 人はこれを、羨望と呼ぶのだろう。

 

『__然れど、貴公は俺ではない。貴公は俺のような奴とは違い、既に得ている。破壊よりもずっと大切なモノを……ただ、それに気が付かず、それでも貴公は己を変えることが出来た。貴公のやろうとした破壊は、終焉は、他ならぬ彼女の為だったのだから……』

 

 俺が得られぬすべてを持つ貴様だけは。

 

 かの巨人は男に対して憎悪と嫉妬を向けながらそう叫んだ。だが、実際には逆だったのだ。

 

 怒りしか知らぬはずの、憎しみしか知らぬはずの破壊の化身は、彼が終ぞ得ることの出来なかったモノをたった一人の少女の僅かな語らいで手に入れた。

 

 たったそれだけのキッカケで__。

 

 何と、羨ましいことか。

 

 何と、愚かしいことか。

 

 __何と、美しいことか。

 

 共感し、同情し、そして否定する。決して同じなどではない。同じにしてはいけない。あまりにも違い過ぎる。

 

 それは侮辱になる。彼はエルデン・ヴィンハイムのような何よりも愚かで醜く、()()()()()()()とは決して違うのだ。

 

『__だから今度こそ、彼女を守れ』

 

 そして、消えてゆく炎を、男は深淵の底から掬い上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「__遂に、スルトが斃れたか」

 

 この北欧を蹂躙した巨人王が完全に消滅したのを確かに感じ取り、スカサハ=スカディが歓喜に震える。

 

 滅びを生き延び、すぐに先がないと、発展しないと判断され、剪定された北欧。

 

 ずっと彼女の力の大半はスルトの炎熱を抑えるために費やされていた。故に、彼女は僅か一万の人類しか維持出来ず、老人になるまで生かすことすら出来なかった。

 

 けれど、漸く、漸くだ。

 

 希望が見えた。可能性が、生まれのだ。

 

 スルト亡き今ならば、女神の力を存分に使えば、もしかすると、もしかするかもしれない。

 

 この大地を再生させることが出来るかもしれない、民を増やすことも寿命まで生かすことも出来るかもしれない、この北欧異聞帯に、希望の光を照らすことが出来るかもしれないのだ。

 

 それは北欧の母として、異聞帯の女王として、当然の思いであり、止まることなど出来やしない。

 

「………………」

 

「……エルデン、さん?」

 

 一方、エルデン・ヴィンハイムは茫然とした表情で、そこに佇んでいた。

 

 そんな彼の様子に気付き、マシュが不審に思うもしばらくして我に返ったようにこちらを向く。

 

「……さて、狩人が来る前にさっさと退散したいところだが、そうも行かないようだな」

 

 一同が身構える。共通の敵だったスルトは死んだ。ならばクリプターである彼と戦神の力はカルデアへ向くのが道理。

 

 しかし、エルデンからは敵意は感じられない。

 

「……オフェリアさんを、どうするつもりですか?」

 

「ん? とりあえず俺の担当する異聞帯へ連れていく。本人が要望するならヴォーダイムの所に保護させるつもりだが……」

 

「キリシュタリアさんの所、ですか?」

 

「……ああ。彼女も想い人の傍に居た方が良いだろう」

 

「……え?」

 

 エルデンが衝撃的な発言をする。マシュは一瞬呆気に取られたような表情を浮かべ、首を傾げる。

 

「想い人……えっと、オフェリアさんが、キリシュタリアさんを、ですか?」

 

「? そうだが……そうか、貴公はまだ知らないのだな。ここだけの話だが、どうやらオフェリアの奴、生き返ってからヴォーダイムの奴に好意を抱いているようなのだ」

 

「はぁ……本当ですか?」

 

「信じられんのも無理はない。俺も酷く驚いたが、よくよく考えればヴォーダイム程の男なら惚れるのも納得だ。ほら、キリシュタリア様、とか呼んでいただろう?」

 

「えっ あ、はい、そうですが……」

 

「好意を抱いているのは明らか。だというのは本人は何故か頑なに否定するのが非常に面白くてな、からかい甲斐がある」

 

 やたらと楽しげに語るエルデン。しかし、その内容にマシュは困惑するばかりだ。

 

「あ、えっと……その、多分オフェリアさんが好きなのは……その……」

 

「ん? どうした、貴公」

 

 何やら誤解している様子。というか、未だに彼女の気持ちに気が付いてなかったのかと驚く。

 

 あの頃のマシュから見てもオフェリアはエルデンに対してあからさまに恋愛感情を抱いており、それなりのアプローチをしていたはずだ。

 

 確かにキリシュタリアへの呼び方などは以前と違ったが、それは尊敬に近いものである。誤解を解くべきだとは思うが、本人が寝ている間に暴露してしまって良いのかとマシュは悩む。

 

「えっと、なんかマシュが困ってるけどどういうこと?」

 

 急に恋愛話が始まり、立香が首を傾げる。

 

『……ふむ、オフェリア・ファムルソローネがキリシュタリア・ヴォーダイムに抱いている感情は恐らく敬愛の類いだろう。それにミス・キリエライトが気付いており、そしてあの反応から察するに、恐らくオフェリア・ファムルソローネが本当に好意を抱いているのは彼、という訳か? ダ・ヴィンチ』

 

『正しくその通りさ。エルデンとオフェリアは時計塔に居た頃からの付き合いらしくてね……私も陰ながら応援してたんだけどまさか進展するどころかこうも盛大に勘違いされちゃってるとは』

 

「あー、鈍感系って奴なの? あいつ」

 

 ホームズとダ・ヴィンチの話を聞いて納得する立香。昔読んだことあるライトノベルによくある設定だが、まさか実際に目にしたのは恐らく初めてだ。

 

 しかし、意外な事実である。まさかあのオフェリアがエルデンに恋愛感情を抱いていたとは。見るからに真逆のタイプだったし悲しいが、ナポレオンの恋路はどう足掻いても茨の道だった訳だ。

 

「__見事だ。諸君」

 

 その時、パチパチと拍手が鳴り響く。

 

 一同が視線を向けると少し離れた場所にある高台に、甲冑を纏った騎士が立っていた。

 

「………………!」

 

 オフェリアのセイバー。巨人王を体内に封じ込め、そして解き放った騎士。ブリュンヒルデの宝具を受け、その身を切り裂かれたはずだが、今の彼は五体満足であり、全くの無傷だった。

 

「存外やるようだ。よもや大した犠牲も無く、氷炎の巨人に勝利してしまうとは。星を終わらせると豪語していたのだから、この異聞帯くらいは灰と化すと思っていたのだが、些か拍子抜けだ」

 

 抑揚が全く無い、無機質な声で称賛する騎士。その雰囲気は以前に戦った時は全く違い、感情というものがあまりにも希薄だった。

 

 そして、それが本来の姿なのだろう。

 

「大した犠牲も無く……?」

 

 対する立香はその発言の一部に顔をしかめる。犠牲__それはナポレオンのことを指すのだろう。自らの全てを引き換えにオフェリアを助け、スルトの足止めをした彼の犠牲を、大したことないと彼は言ってのけたのだ。

 

 実際サーヴァント一騎の犠牲だけで破壊神に等しき巨人王を倒せたというのは限りなく幸運だ。しかし、立香という少女はそれで切り捨てられるような人間ではなかったし、そう言ってのける者に怒りを抱かないような人間でもない。

 

「……やあ、初めまして。デーモンスレイヤー」

 

 そんな彼女を他所にエルデンはその西洋甲冑(フリューデッドアーマー)を見上げながら静かにその名を告げる。

 

「デーモン、スレイヤー……?」

 

「……ほう。俺が何者であるかを知るか」

 

 直訳すれば悪魔殺し。異名ともいえるその呼び名にカルデアは眉をひそめ、騎士は僅かに驚きを見せた。

 

 __デーモンを殺す者。男はそれ以上でもそれ以下でもなく、世界を彷徨う魂喰らいである。

 

「ああ。この目で見るまでは半信半疑だった。貴公が北欧で、それもオフェリアが召喚するなど思いもしなかった」

 

『__エルデン・ヴィンハイム。あの騎士の真名を知っているのかね? ということはもしや彼は“火の時代”の英霊か?』

 

 カルデアがいくら考えても辿り着けなかった騎士の正体を、エルデンは知っている。それも一目見ただけで分かってしまう程に……ならばヴィンハイムと関わりの深い“火の時代”やそれに連なる古い英霊ではないかとホームズは推理する。

 

「……いや、違う」

 

『では、どこの英霊なのかね?』

 

「……貴公。“火の時代”よりも前に文明があると言えば、信じるか?」

 

『何? ……それは“灰の時代”のことか?』

 

「否、それよりも遥か昔だ。岩の古竜が誕生する前、世界が霧に覆われる前、そこには失われた人類史が存在していた」

 

『………………!』

 

 エルデンの語る衝撃的な事実にホームズだけでなく、ダ・ヴィンチやゴルドルフも目を見開く。

 

 神代よりも古く、神代にとっての神代と称され、存在すらも疑われている“火の時代”よりも更に古い文明が存在するなど聞いたこともない。

 

「その時代において彼は救世の英雄であり、また世界を終わらせた最強の悪魔(デーモン)でもある」

 

「……随分と詳しいな、貴公」

 

 騎士__デーモンスレイヤーは僅かに首を傾げる。目の前の男は、現代を生きる人間にしては、あまりにも知り過ぎていた。

 

「エルデン__だったか。他所の異聞帯から神霊まで引き連れてわざわざ出向いてくるとは。あの小娘、つくづく男運が無い奴だと思っていたが、男を見る目だけはあったようだ」

 

「小娘__オフェリアのことか?」

 

「ああそう、オフェリア、そんな名だった。戯れに召喚に介入し、騎士を演じてみたが、なかなかに楽しめた」

 

 戯れ。デーモンスレイヤーが何気無しに放ったその言葉でエルデンは理解する。やはり縁による召喚ではなく、“侵入”に近い形で異聞帯へ入り込み、偶然オフェリアが召喚しようとしていたサーヴァントの肉体を奪い去った、ということなのだろう。

 

 つまりソウル体__今の彼を殺しても、真の意味で殺すことは出来ない。

 

「戯れ……? まさか、それだけの為に、オフェリアさんを呪い、スルトを解き放ったのですか?」

 

「……ん? ああ、そうだが。盾の小娘」

 

 顔をしかめながらマシュの問いかけにあっけらかんと答えるデーモンスレイヤー。

 

「そんな……!」

 

「何を怒る? 貴公とアレは敵同士だろうに……」

 

「なっ__」

 

「よくよく考えればカルデアとやらは可笑しな行動が目立つ。どうせ跡形も無く消し去るというのに、何故この地の民と関わり、あまつさえ救おうとする?」

 

「ッ………………!」

 

「全く以て無駄としか言い様がない。我がマスターだった女もそうだ、貴公を殺すなと言い、くだらぬことで思い悩んでいた。実に生温く、馴れ合いが過ぎる。本当にこの世界を破壊する気があるのか?」

 

「それ、は__」

 

 悪魔は不思議そうに語る。そこに嘲りも悪辣さはなく、ただ純粋な疑問を述べているようであった。

 

 マシュは口をつぐむ。彼女に怒りを抱かせるには充分な台詞だったが、同時にぐうの音も出ない正論でもあった。

 

 自分たちは、この異聞帯を滅ぼす側なのだ。

 

「キリエライト__奴の言葉に大した意味は無い」

 

 そう言ったのはエルデンだった。

 

「エルデンさん……?」

 

「……奴は言ってしまえば、愉快犯だ。もはや人間性など磨り切れ、その行動原理は如何にすれば面白くなるか……ただそれだけだ。覚えておくといい、世の中には手段の為ならば目的すら選ばないどうしようもない連中が居るということを」

 

「っ……ですが、私たちは確かに__」

 

「……少なくとも俺は貴公らの行動は間違っていないと思っている」

 

「えっ?」

 

 発せられた意外な言葉に、マシュがきょとんとする。気が付けばこちらを見据えるエルデンの瞳はあの頃のような、優しげなものであった。

 

「__滅ぼすからこそ、理解すべきだ」

 

「理解、ですか?」

 

「ああ。世界を、歴史を、自然を、文明を、生命を……己が未来の為に初めから“無かったことにする”そのすべてを、背負うべき罪と責任を、決して忘却の彼方に追いやってはいけない。でなければ貴公らは単なる破壊者でしかなくなってしまう」

 

「______」

 

 それは思わぬ激励であり、警告でもあった。マシュだけでなく、傍らに立つ立香も通信機越しに居るカルデアの面々も皆聞き入っていてしまう。

 

「__けれど、貴公らは知ろうとした。自らが滅ぼす世界を、そこで生きる者たちを。それがどんなに辛いことか思い知ったというのに、目を背けず、逃げ出さず、また立ち止まることもしなかった。それはとても困難なことであり、とてもとても素晴らしいことだ」

 

 純粋な肯定の言葉が立香の胸に響く。まるで呪いのようであり、彼女たちの逃げ道を潰し、重荷を背負わせる。

 

 元より自分たちの浅はかさが招いた結果。現地の住民と深く関わらなければきっと、このような辛さや後悔が無くなるという訳ではないが、それでも多少は和らぐのだろう。

 

「__カルデアよ。我らが敵よ。未来を奪われた貴公らには、異聞帯を滅ぼす権利がある。だからこそ、その気持ちを、その誇りを決して忘れないでほしい」

 

 しかし、その選択はもう出来ない。それではエルデンの言う単なる破壊者でしかなくなってしまう。

 

 逃げては駄目なのだ。目を背けては駄目なのだ。エルデンの言葉を聞いて、それに共感してしまった今はもう__。

 

「……話は済んだか? なら、さっさと始めよう」

 

 黙って会話を聞いていたデーモンスレイヤーが退屈そうに問い、そして背筋が凍り付く殺気を放つ。

 

 一同が身構え、戦闘態勢を取る。

 

「__殺す!」

 

「…………ッ!? ブリュンヒルデさんっ!?」

 

 真っ先に飛び出したのは狂える戦乙女__ブリュンヒルデだった。

 

 デーモンスレイヤーの姿を再び視認した時から溢れ出す殺意を隠せておらず、それでも我慢していたがあちらが殺気を放ったことで堪忍袋の緒が切れる。

 

 愛する男の肉体を奪い、使い潰した存在を前に怒り狂うのは当然であり、誰よりも冷静さを失った状態で宝具を発動。巨大化した長槍を突き出す。

 

「シグルドの仇__!!」

 

「……やれやれ。殺したのは、貴公だろう」

 

 その巨刃は先の戦いのようにデーモンスレイヤーの肉体を切り裂かんと迫り__。

 

 カァァァァン!! 

 

「__なっ」

 

 何が起きたのか理解出来ず、思わず呆然としてしまう。復讐の一撃はあっさりと、左手の盾によって弾かれるようにして受け流(パリィ)された。

 

 そして、硬直し、無防備となった胴体へ右手に握られた魔剣が吸い込まれるように突き刺さる__。

 

「ガハッ__!?」

 

 ブリュンヒルデが吐血する。魔剣は彼女の霊核を的確に貫いており、その“致命の一撃”で粉々に砕く。

 

「ッ……シグ、ルド……」

 

 悲痛な表情を浮かべ、そのままブリュンヒルデは光の粒子となって消滅する。

 

 そして、散っていくはずの光の粒子は、その魂は、座に還ることなくデーモンスレイヤーの方へと向かい、彼の肉体へ吸収されていく。

 

「ブリュンヒルデ、さん? そ、そんな……」

 

 あまりにも唐突な死に立香もマシュも理解が追い付かず、半神とも言うべき戦乙女が瞬殺されたという事実に驚愕する。

 

 てっきり彼があれだけの力を有していたのは、内にスルトを封じ込め、その力を行使していたからだと思われていた。

 

 しかし、実際に計測してみればその魔力量は以前の数値を遥かに上回っている。つまり驚くべきことにむしろスルトを封じ込めていたせいで彼の力は抑えられており、弱体化していたのだ。

 

「__“北のレガリア”か」

 

 対するエルデンは特に動じた様子もなく、彼の手に持つ魔剣の銘を呼んだ。

 

「……つくづく驚かされる。よもや、こいつの名までも知っているとは」

 

 北__それが指す今はもう名すら失われた国の古い王の証(レガリア)。その由来は多く語られないが、古い獣と共に、悪意により世界に残されたという。

 

 既に失われており、デーモンスレイヤーの持つそれは起源を同一とする二対の魔剣と老王の魂を掛け合わせることによって再現されたもの。

 

 何故そんな代物の銘をエルデンが知っているのか__。

 

「俄然興味が湧いた。貴公の身に宿す暗きソウル……是非とも喰らってみたい」

 

「……奇遇だな」

 

 デーモンスレイヤーが魔剣を構える。その視線の先にあるのはエルデンとその後ろで無言で佇む無名の王。それからオフェリアを抱えている聖剣もまた警戒すべき相手だ。

 

 多勢に無勢。けれど、それもまた一興だろうと生に執着の無いデーモンスレイヤーは兜の内側で笑みを浮かべる。

 

「__俺も貴公を殺したいと思っていた」

 

 だからこそ、注意が散漫してした。気が付いた時には魔剣を持つ右腕が宙を舞い、そして凍てつく刃が彼の首を狙う。

 

「____ッ!?」

 

 目を見開きながらも寸前で回避する。眼中に無かったカルデアの英霊か__否、そんな有象無象では最強のデーモンの隙を突けるはずはない。

 

 飛び退くように距離を取り、刺客の姿を視認する。

 

「__ほう。避けますか」

 

 それはフードを被った修道女。両手に大鎌を持ち、片方の刃は冷たい魔力で構成されていた。

 

 彼女はデーモンスレイヤーの首を刈り取れなかったことに眉をひそめ、しかし計画通りだと薄く笑う。

 

「…………!」

 

 軽く鎌を振るうだけで、冷気が襲う。それはスルトの炎熱で雪溶けた大地を再び凍り付かせ、デーモンスレイヤーの肉体までも凍らさんと迫る。

 

 まだ地面に着地していないデーモンスレイヤーにこれを回避することは不可能であり、それを見越して修道女も両手の鎌を構え、瞬間移動が如き目にも止まらぬ速さで駆ける。

 

「____」

 

 __神の怒り。

 

 すかさずデーモンスレイヤーは盾から獣の触媒(タリスマン)へと持ち替え、奇跡を行使する。彼を中心に発生した強い力場を爆発させ、それによる衝撃波で冷気を、修道女を、周囲にあるすべてを吹き飛ばす。

 

「ッ__今です。アーチャー」

 

 しかし、それは悪手だった。

 

 強靭無き修道女は地面に叩き付けられながらも、この時を待っていたとばかりに合図を出す。

 

「__承知」

 

「むっ!?」

 

 雷鳴が轟く。

 

 神の怒りを使用したことにより、一時的に硬直したデーモンスレイヤーの背後にいつの間にか回り込んでいた大弓を背負った上裸の男が跳躍し、その手に持つ雷を纏わせた黒き刀で彼を斬り付けた。

 

「ガッ……!?」

 

 __打雷__

 

 天から降り注ぎし雷を一身に受けたデーモンスレイヤーは当然ビリビリと感電してしまう。

 

「なんの、これしき……!」

 

 しかし、この隙にタコ殴りに遭うのは確実。痺れる身体に鞭を打ち、無理矢理全身から魔力(ソウル)を放出させ、ジェット噴射の如くその場から離れようとする。

 

 __が、それは突然の落雷によって阻まれた。

 

「ヌゥ__!?」

 

 先の雷を遥かに上回る電流と電圧。竜殺しの概念を纏うそれを受けたデーモンスレイヤーは今度こそ身動き一つ取れなくなってしまう。視線を向ければ無名の王がこちらを見据えながら剣槍を天へ掲げており、指示を出したであろうエルデンはくつくつと笑っていた。

 

「__殺れ。弦一郎」

 

 そして、本命の一撃が来る。

 

 弦一郎と呼ばれた先程雷をぶつけた男は完全に動きを止めたデーモンスレイヤーへと駆け出し、今度は“黒炎”が如き禍々しい瘴気を纏うその妖刀でデーモンスレイヤーの心臓を刺し貫く。

 

 その瞬間。虚脱感が襲い、寒気が走り、全身が冷え切る。それが自身のような存在にとって猛毒となる代物であり、その正体はデーモンスレイヤーには容易に理解出来た。

 

 ああ__不死殺しの武器かと。

 

 

 

 

 

 

__IMMORTALITY SEVERED__




最強のデーモンさん一人をぶっ殺す為に無名修道女孫引き連れてくるエルデンくん。プレイヤー側からしたらふざけんな案件。


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