異聞帯がロスリックだった件 作:理力99奔流スナイパー
ロシア→イヴァン雷帝が象ってマジ? 異聞帯ぶっ飛んでんな
北欧→スカサハじゃん。え? ケルトなの? スルト・フェンリルとか小学生が考えた名前みてーだな。
中国→始皇帝すげぇ。え? 項羽もロボット? しかもケンタウロス型? え、ぐっちゃんってそういうのが好みなの? かなり変た__ちょ、ごめんごめん。
インド→詳細知らないけどインド神話ってだけでヤバそう。何回か滅んでそう。
大西洋→ギリシャ神話ね……え? 機神? またロボットなの?
ブリテンと南米は後々。
◎
「__オフェリア。貴公は何に怯えている?」
唐突に、何の脈絡も無しにそう問い掛けた彼に対し、私は一体どんな顔をしていただろう。
きっと、酷く間抜けな顔をしていたに違いない。決して弱さは見せまいと気丈に振る舞い、偽りの仮面を付けてひた隠しにしていたつもりだったのに、とっくに見破られていたのだから__。
そう、彼は気付いてくれていたのだ。
嬉しかった。彼に胸の内をすべて吐き出してしまいたかった。けど出来なかった。
怖かったのだ、彼が失望してしまうのではないかと、私を見離してしまうのではないかと、この関係が崩れてしまうのではないかと。
私は、どこまでも愚かで弱かった。
「__いや、忘れてくれ」
そんな私の恐怖すらも見透かし、彼は後悔した様子で言った。失言であったと、愚行であったと勘違いして。
違う、違うの。
ああ、貴方は本当に、優しい人。あんなにも冷たい眼をしていながら、こんな私の為に思い悩み、私に手を差し伸べてくれた。それはずっと私が待ち望んでいたことのはずなのに__。
「……これ以上、余計な詮索はしない。けれど、もし貴公が本当にどうしようもなくなってしまった時、俺で良いのであればどうか、どうか頼ってほしい」
待っていたはずだ。来るはずがないと思いながらも、“日曜日の呪い”から救ってくれる誰かを__自分から手を伸ばそうとしないくせに、図々しいまでに幻想を抱いていた。
なのに、いざ王子様が現れた時、その手を取れなかった。恐怖で動けず、私を理解してくれようとしてくれた優しい人の心を傷付けてしまった。
ああ、本当に馬鹿で惨めな女、オフェリア・ファムルソローネ、
「__胸を張れ、オフェリア。オマエは、ただ、あるがままで美しい」
次があったら、ずっとそう思っていた。有り得ないことなのに、そんな幻想を抱き続けた。何て都合の良い女なのだろうと私はただひたすらに自らを嫌悪した。
けれど、違った。
そんな私に、そのままでいいと言ってくれた人が居た。気付かせてくれた人が居た。だからこそ、呪いから解き放たれ、漸く私は前に進めた。
「__よくぞ、ここまで頑張ってくれた」
そして、あの人は、彼は、また来てくれた。
ああ、エルデン、エルデン・ヴィンハイム、優しく、愛しい人__私を照らしてくれる、暗い暗い、耀き__。
「へぇ__そんなことがあったんだ」
だんだんと意識が冴え、それとは逆に視界が朧気になる。その間際に人影が私を覗き込むように現れた。
「あんな奴のどこに惚れる要素があったんだと心底不思議に思っていたけれど……成程ね。意外だよ、ああいうまともな面もあったんだね」
それは百合のような白い髪をした少女__だと思う。ぼやけた視界でもはっきりと認識出来る美貌を持ち、古びた黄色の布をローブのように身に纏った彼女はこちらを見据えながら薄い笑みを貼り付けていた。
貴女は__誰?
「おっと、素敵な夢にお邪魔してごめんよ、お嬢さん。通りすがりの黄衣の魔女だ、覚えておきたまえ……何てね」
私の問いに、そう言って悪戯っぽく笑って見せる黄衣の女性。その表情はどこか無機質で作り物のように見えた。
まるで心が壊れているように__。
「さて、そろそろ退散しないとね。ルドウイークの奴にも感付かれそうだし……じゃあね、オフェリア・ファムルソローネ」
そう言って彼女は微睡みの霧の中へと消えていく。待ってと私が呼び止めるよりも先に、視界が暗転し__。
「……ここは?」
次に視界に広がったのは、見知らぬ天井。それと程無くして肉体を襲う疲労感と僅かに残る眠気が自分が寝起きであり、先程の追憶が夢であることを証明していた。
ゆっくりと身体を起こし、辺りを見回す。古い石造りの空間。そこで私はその景観には不釣り合いな華やかなベッドの上で羽毛布団を被せられ、寝かされていた。
何故こんな場所に? 私は確か……北欧で、スルトを止める為に自らの魔眼を犠牲にしようとして……すると巨大な竜と神霊が現れてスルトを圧倒して……それから__。
「………………!」
__そう、彼が、エルデンが、居た。
その時の彼の姿を思い出し、顔が熱くなる。
思わず惚れ直してしまうような、あまりにも夢のような展開。私が作り出した都合の良い幻覚だった方が信憑性があり、故に果たしてあれは現実だったのだろうかと疑ってしまう。
いくら彼でも私なんかの為に、自ら異聞帯へ乗り込んでくるなんてことが……。
「……とりあえず動きましょうか」
ここで寝ていても仕方がない。スルトは倒せたのか、北欧異聞帯がどうなったのか、マシュやカルデアたちは無事なのか、幾つもの疑問が脳内で渦巻くが、一先ず置いといてこの見知らぬ建物の中を散策することにした。
どうやら私の居た空間はごく一部に過ぎなかったらしく、かなり広い。天井を見上げれば所々崩れており、その隙間から空が見えているのだが……。
「日蝕……?」
皆既日蝕、だろうか。太陽が月と重なって起きる現象だが、どうも雰囲気が違う。まるで黒く染まった太陽の表面が燃えているように見えた。
それは炎の
「……なっ」
階段を上っていくと大広間へ出た。
私は目を見開く。円状の広場の中央には螺旋状の剣が刺さった“篝火”があり、それを囲むように五つの大きな玉座が存在していた。
「何なの、この場所は……」
「__“火継ぎの祭祀場”、さ」
圧巻の光景に私が疑問を口にすると思わぬ所なら返答が来る。振り向けばすぐ近くの階段に誰かが座り込んでいた。
その存在に気が付かなかった私はビクリと身体を震わせ、情けない小さな悲鳴をあげてしまう。それが酷く滑稽だったのかそこに居た男は面白そうに笑った。
「フッフッフ……こりゃ驚いた。正真正銘、ただの人間がこの地に訪れるなんてな……」
頭部まで覆った
「あ、貴方は……?」
「俺か? 俺はな……フン、フフッ 何物にもなれず、死にきることすら出来なかった半端者だ……」
そう言って男は自嘲気味に笑い、死んだ魚のように濁った眼でまるで値踏みするかのように私へ視線を送る。
不思議と、それが気持ち悪いとは思わなかった。
「ああ、成程……そういうことか……お前、あのイカれ野郎が言っていた女か……よりにもよって、こんなカビた棺桶みてぇな場所に……本当に気の毒なことだ」
「あいつ……? あの、この場所は一体……」
「言ったろう? “火継ぎの祭祀場”だ。このロスリックにおいて古い火継ぎを再現する為に造られた場所らしい。……尤も、今やその使命は失われ、廃墟に等しいがな」
「火継ぎ……? それにロスリックって、もしかしてここはロスリック異聞帯なのですかっ!?」
「異聞帯……ってのは知らねぇが、ロスリックなのは正解だ」
男が語った衝撃的な事実に私は驚きを隠せない。自分は今、アフリカ大陸に存在するロスリック異聞帯……つまりエルデンが担当する異聞帯に居るというのだ。
それはつまり、あの時に見た彼の声と姿は決して幻ではなかったということを意味していた。
「____!」
無上の歓喜に震えているのが自分でも分かる。彼が助けてくれたことには変わりない。クリプターは基本的に互いに不可侵。それを破ったことは本来咎めなければならないことだが、私はサーヴァントを派遣するだけでなく、彼自ら私を助ける為に駆け付けてきてくれたことを喜ばずにはいられなかった。
「__エルデン」
「あん?」
「エルデン・ヴィンハイムという方を、知っていますか?」
「……あいつか。ああ、知っているとも。というか、今ここを管理しているのはあいつだからな……」
「………………!」
やっぱり、彼が助けてくれたんだ。
会いたい。今の私なら、日曜日の呪いから解き放たれた私ならきっとこの想いを伝えられるはず__。
「じゃあ、彼は、彼は今ここに居るのですか?」
「いや、生憎と今は不在している。あいつ曰く仕事、だそうだ……今頃あの薪の王たちに媚でも売ってるんじゃあないか? フッフッフッ」
ッ……そうだった。彼もクリプターとして多忙の身だ。空想樹の育成は勿論のこと異聞帯を管理する者としての役目が幾つもある。
不真面目な彼がきちんと仕事をしているというのは意外であったが、元よりこのロスリック異聞帯は複数の王たちが君臨しているという例外中の例外。ゆっくりしていられるはずがないのだ。
異聞帯を失った私と違い__。
「………………」
「……まあ、そうがっかりすんな。待ってればそのうち帰ってくるだろう」
あからさまに落ち込んでいたのだろう。男が励ますようにそう言った。
……そうね。気長に待つことにしましょうか。その、心の準備とかあるし。
「フフッ……ゆっくりしておくといい。一応、ここは安全地帯だからな……迂闊に喧嘩を売らなければ少なくとも死ぬことはねぇはずだ」
「そうですか……ところで貴方の名前は何ですか?」
「あん?」
まだ男の名前を訊いていなかったことを思い出し、私は尋ねた。少なくとも敵ではないようだし、しばらく滞在するにあたって知っておくべきだろう。
すると男は一瞬怪訝な表情を浮かべ、そして予想外のことを告げる。
「……さあな、忘れた。自分がどこの誰だったかすら覚えちゃあいないさ」
「え?」
何てことのないことのようにそう言い放つ男に、私は思わず呆気に取られてしまう。
「わ、忘れた? 名前を、ですか?」
「ああ。……そもそも、この世界じゃあもう自分の名前なんか覚えてる奴の方が珍しい……何もかも忘れちまうのさ。不死人とは、そういうものだろう?」
__不死人。
これまた常識を語るように、男はその単語を口にする。
そう、この“火の時代”は魂の物質化__即ち、第三魔法が一つの技術体系として確立され、それが各地で普及され、文化にすらなっているという魔術師からしてみれば信じられない時代。
故に、その存在は魔術師の中でも懐疑的なものであり、ケルトやギリシャといった他の神話体系との類似点もあって実在が疑われており、私自身エルデンから聞いても半信半疑だった。
しかし、このロスリック異聞帯が存在しているという事実を目の当たりにすれば紛れも無き真実であると言わざるを得ない。
そして、かの時代の叙事詩に記された英雄譚の殆どには、“不死人”と呼ばれる者が存在していた。幾度殺そうと生き返る不滅の存在……けれど、致命的な欠点が存在し、それが死ぬ度に記憶を消耗し、やがて人間性を失うと魂を貪る獣、“亡者”と成り果てるのだという。
つまり__この男も不死人であり、そして幾度も死んだのか長い時を生きたのかは知らないが、自分の名前すらも忘れる程に記憶を磨り減らしたということなのだろう。
「普通の不死なら、そのまま亡者になっちまうんだが、俺たちのような“火の無い灰”は生者にも亡者にもなれない半端で死に損ないの残りカス共……だから、ただ忘れるしかないんだ、その末路は……フフッ どうなるんだろうな」
火の無い灰__それは叙事詩ダークソウル三部にて語られる王狩りの英雄の呼び名だった。
以前、エルデンがこの異聞帯を説明した際にもその名が出てきたのを思い出す。実際のところ火の無い灰とは、薪の王を玉座に戻すという使命の為に目覚めさせられた、一度は道半ばで朽ちた不死たちの総称であり、死んでも亡者化しない性質を持つのだという。
歴代の薪の王たちを殺し、玉座に戻す使命を成し遂げたのはその中の一人であり、多くは火を継いだ英雄たちに敵わず、心折れたらしい。
恐らくこの男も、そんな心折れた灰の一人なのだ。
「そんな……」
「だがまあ……自分が“脱走者”であることは、何となく、本当に何となくだが、覚えている……俺を呼ぶなら、そう呼んでくれ……フッ、フフッ 笑えるよな? 使命からも逃げ出した臆病者には、相応しい呼び名だとは思わないか?」
「………………」
本当に笑い話のつもりなのだろう。疲れきった笑みを浮かべながらありありと語る男に、私は何も言えなくなる。
……これが、ロスリック異聞帯の実態。酷い有り様なのは知っていたけれどまさかここまでだったなんて。彼のような者が他にもまだ多く居るのだろうか。
「__ほう。珍しい来客だな」
その時、背後から声を掛けられる。
気配は無く、しかし耳元で確かに囁かれたくぐもった声に私は飛び退くように振り返った。
「____ッ!?」
「貴公__生者だな? それも“呪い”も刻まれていない……正真正銘ただの人間のようだ」
銀の鉄仮面で顔を隠した男。そんな得体の知れぬ人物がすぐ後ろまで接近していたにも関わらず気が付かなかったという事実に私は戦慄する。
「あ、えっ、えっと……貴方は__」
「クックックッ……その眼、それは普通でないな? 本来ならば、ただの人間などに微塵の興味も無いが……」
戸惑いを隠せない私のことなんて気にも留めずに鉄仮面の男は一人で独り言のように喋り続ける。
その言葉で私は漸く普段着けている眼帯が無くて右目の魔眼が露出していることに気付いた。スルトの戦いの時に外して今までそのままだったのだろう。
「どれ__もっと、よく見せてみろ」
そして、そのまま私の右目へ手を翳し__。
「__動くな、舌狩り」
次の瞬間、彼の首元に刃が迫ったことでその手は止まる。
驚いて視線を送れば先程まで私の後ろでしゃがみ込んでいたはずの男が鉄仮面の男のすぐ隣に立っており、手に握った大剣を向けていた。
「……何のつもりかね? 貴公」
「それはこっちの台詞だ。そいつはヴィンハイムのエルデン……あのイカれ野郎の連れだ、手を出すんじゃあねぇ」
「ほう……エルデン殿の。なに、別に取って食うつもりはなかったよ」
「信じられるかよ、殺人鬼が……とっとと定位置の玉座に戻って一生突っ立ってろ。抵抗するってんならその首、斬り落としてやる」
「おお怖い怖い……ふん。貴公こそ脱走者を名乗るのならば朽ちるまでそこで座っていれば良いものを……まあいい。俺は無駄な争いは好まんからな。クックックッ」
そう言って鉄仮面の男は立ち去る。
な、何だったの……?
「……危なかったな、あいつは“ロザリアの指”の一人だ」
「ロザリアの、指……?」
「深みの聖堂の暗室に幽閉されている生まれ変わりの母に仕え、闇霊として他世界へ侵入し、その世界の主を殺して刈り取った舌を捧げる血に飢えた人殺し集団だ」
深みの聖堂? 生まれ変わりの母? 闇霊? 他世界へ侵入? 舌を捧げる?
知らない固有名詞や物騒な言葉の羅列に私は困惑する。しかし、あの鉄仮面の男がとんでもなく恐ろしい人物だということはよく分かった。
「人殺し、集団……」
「ああ、そうさ。ったく……お元気なことだ、もはや由来も知れぬあの爛れたナニカに仕え、侵入と殺戮を繰り返してやがる。生まれ変わりの力、ってのはそうも上等なもんかね? そんなもの、所詮は偽物だろうに」
忌々しげに語る男。その言葉は真実なのだろう。あの鉄仮面の男はきっと、ベリルなんて目じゃない程に殺してる……何となく雰囲気でそう察していたのに、私の右目へ手を伸ばす彼を前に全く動けなかった。
彼が守ってくれなければきっと__。
「……さっき言ったことを訂正する。どうやらお前は一部の連中にとっては興味深い存在らしい。その眼のせいか? 魔眼だろ、それ。それもなかなか上等な代物だ」
「え、ええ……」
「今後も向こうから話し掛けてくることがあるかもしれんから、危ない奴らを教えといてやるよ……異形の兜を被った呻きの騎士、カッコつけた嘴みてぇな仮面着けた黒いドレスの亡者女、頭に檻を被った変態野郎、女医を名乗る白い服のクソアマ、あとハゲ……それから少しでもやべー雰囲気を感じた連中には近付くな……もし身の危険を感じたらエルデンの客、とでも言っておけば何とかなる……多分な」
成程……なんか被り物をしてる人が多いような気がする。
「……はい。分かりました。その、ありがとうございます……色々と」
「……ふん。別に、礼を言われるようなことはしてない……お前に何かあれば、イカれ__ヴィンハイムのエルデンの機嫌を損ねるかもしれんからな……」
そう言って男はそっぽを向く。意外と、いやかなり親切な人なのだろうか? ……エルデンとも知り合いみたいだし、少なくとも悪い人ではないはずだ。
またあの仮面の男が来るかもしれないし……あまり不用意に動かず、彼の近くに居た方が良いだろう。
……エルデン。貴方の帰りを、待っているわ。
◎
__大書庫。
ロスリック城内に存在する魔術師の叡智が集約した場所。かつて、裏切りの白竜が爵位と共に与えられたそこにある本の殆どは呪われており、蝋を被った賢者たちが今も叡智を求めて徘徊している。
「__聖王よ、只今馳せ参じました」
その最奥。常に白い天使の羽が舞い落ちる大広間に、エルデン・ヴィンハイムは居た。
深々と頭を下げ、跪くその先には、一人の少年が鎮座し、彼を見下ろしていた。
「面を上げよ、深淵の末裔。形式ばかりの挨拶など、もはや無意味だ」
「……左様で」
血色の悪い白い肌で病人のように痩せ細った身体を、ボロボロの祈祷のローブで身を包んだ少年。フードから覗かせる頭髪は色素が抜けたように白く染まっており、絵画のように整った中性的な顔立ちで正に美少年といった貌だった。
その容姿と同様にまだ幼さの残る声。しかし、その口振りは対照的に年季のある老人のようであり、威厳すら感じる。
__“王子ロスリック”。
血統の末、ロスリックの聖王。王家のおぞましい血の営みの果てに産まれた萎びた赤子。薪となるべくして産まれ、しかし火継ぎを拒絶し、火が陰る要因となった元凶とも言うべき存在。
火の無い灰によって殺され、無理矢理玉座へ焚べられたはずの彼は、歴代の王として今一度甦り、そしてこのロスリック異聞帯の王が一角に君臨した。
「しかしながら貴殿はこの国の王子であり、実質的な統治者でもあります。私は名目上は同盟者でありまするが実際には臣下のような立場に過ぎません。礼儀を欠するなどとても出来は__」
「__いい加減、その口調を止めろ。貴公が斯様な喋り方をするのは酷く薄気味悪く寒気が走る。そこに敬意が無ければ尚更だ」
「……ふむ、随分と酷い言われ様だな」
ゆっくりと、エルデンは立ち上がる。
無機質で無表情。その暗い瞳は確かに聖王へと視線を向け、しかし遥か虚空を見据えているようだった。
「けれど、貴公……多少の礼儀は弁えろと、貴公の部下に念を押されている。この前も俺の物言いが気に食わなかったらしくあの三人組に殺されかけた」
「……ふん。今更私のことなど気にすることはあるまいに。物好きな者共だ」
エルデンの言葉を受け、聖王の顔が僅かに歪む。玉座を拒み、書庫の奥へと引き籠った王子……しかし、そんな彼にも忠誠を誓い、付き従う者たちが確かに居た。
それが例え単なる同情であろうと、生まれながらに生贄として扱われた彼にとっては、かけ替えの無いものであり、そしてもはや必要の無いものだった。
「だが、ここは外部から完全に隔離されている。誰にも視られることも聴かれることもない。そもそも貴公は不死なのだから、別に殺されても平気だろうに」
「……人間性は有限だ。それに何よりも痛い」
通常、不死が死ねばその肉体は亡者化してしまう。生者になるには人間性というものを使用しなければならない。また予め犠牲の指輪や命の加護を嵌めておけばこれらを回避することは出来る。
だが、それでも死に続ければやがて理性を失い、完全な亡者へと成り果てる。第三魔法に等しくありながら不完全なるそれは致命的な欠陥であり、何よりも回避すべき事態であったが、エルデンにとっては別段然したる問題ではなかった。
彼は知っているからだ。人とは意志の生き物。例え姿は亡者になろうと、人間性をすべて失おうと、心折れぬ意志があれば、何度でも戦えるということを。
「第一に、このロスリックの支配権は貴公に譲渡したはずだ。貴公が私へあの“聖杯”とやらを献上したその時から……言ったであろう、私はこの国の王になるつもりなど、微塵も無い」
「………………」
「もう、何もかもうんざりだ。王だの薪だの……何もかもがどうでもいい……私はただ、ここに居るだけだ、ここで兄上と、ゲルトルードと、ずっと__」
「ならばこそ、貴公らは戦い続ける宿命だ。向かい来る者総てを討ち滅ぼし、この世界を繋ぐ空想の大樹を守り続けなければならない」
「__ああ、分かっているとも。それが私たち二人に課せられた新たな呪いだというのなら」
ぶわり、と炎が舞う。
肌が焼けそうなくらいの熱気と聖王のそれを上回る威圧感が空間を押し潰さんとする。
まだ姿を見せぬ兄王の闘気……然れどエルデンは涼しい表情を浮かべ、ただ佇み、聖王の虚ろな、しかし覚悟に満ちた瞳と視線を交わす。
「もはやロスリックは、異聞の集う地。ならば我らは流れ着く総てを征するとしよう。かつてそうしたように__」
「……ああ、その意気だとも」
同時に、轟音が響く。
それはロスリック城外__まだ高壁にすら行き着いていない吹き溜まりでの戦い。片や飛竜と共に、片や地竜を駈り、騎士たちは衝突し、刃を交える。
掲げられた御旗は、互いに一対の向かい合う竜紋。片方はロスリックのものであり、もう片方は遥か昔に滅んだはずの古い王国のものだった。
そこは遥か北の地、貴壁の先。
古い、古い、火継ぎの国。かつて、幾度も興り、栄え、そして滅んだ国々の一つ。
今や失われ、名残ばかりが各地に散らばるその国の名を、古を知る者たちはこう呼んだ。
__ドラングレイグ、と。
オフェリア「ところで食事はどうすればいいのですか?」
脱走者「えっ」
オフェリア「えっ」
脱走者「……そこ婆さんから苔とか買えるけど。ソウル持ってるか?」
オフェリア(……そういえば食糧で困ってたわね。エルデン)