異聞帯がロスリックだった件   作:理力99奔流スナイパー

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みんな食糧のこと心配してて草


芥ヒナコとかつてヒトと呼ばれていたモノ

 ◎

 

 

 __遠い昔、ここは美しい場所だった。

 

 空に風しかなかった頃。地に緑しかなかった頃。その記憶は今尚私の内にある。

 

 遠い昔。まだこの惑星(ほし)が誰のものでもなかった頃。まだ私が世界と分かたれて、私という容を得るより以前のこと。

 

 だが、その後の思い出は……恐怖と、怨嗟と、奇異の念より転じたおぞましい羨望ばかり。

 

 人間。人間。人間。人間……! 

 

 姿形は同じはずなのに、この世に生まれたこと自体が罪だと言わんばかりに。

 

 ああ。お前たちは何故そんなにも__。

 

 そんなにも私を憎むのか? そこまで私を厭うのか? 

 

 望んでこんな命を得た訳じゃない。私とて滅びを得たかった。愛した者と共に忘却の果てに沈みたかった。

 

 滅びぬが故に不浄だと。老いぬが故に怪異だと。

 

 すべてはお前たちが定めたことだ。そう強いられ、追いやられた。

 

 お前たち人間に__! 

 

「__人とは、そういうものだ。貴公」

 

 もう、この大地に私の居場所は無い。

 

 憩うべき閨も、属するべき朋も、目指すべき場所も在りやしない。

 

 __そう思っていた。

 

 そこに、“あいつ”が現れた。

 

「美しいものはきっと、あるのだろう。醜さだけではない、確かな耀きが、そこにあるのだろう。けれど__それだけで納得出来るものかよ」

 

 あいつは、私よりも嫌っていた。

 

 あいつは、私よりも憎んでいた。

 

 あいつは、私よりも怒っていた。

 

 人のあるがままを__。

 

「世界とは一枚の絵画だ。人類史とは即ち、人が描いた世界の縮図なのだろう。多くの犠牲があった。多くの悲劇があった。然れど、人の本質は何ら変わることなく、あるがままに進み続け、血と死で彩った結果が、この有り様だ」

 

 淡々と語るその姿は、悠久を生きる賢者のようにも、疲れ果てた老人のようにも見えた。

 

 私よりもずっと幼いはずだというのに__。

 

「それが間違いであると気付き、変わろうとした者は、変えようとした者は、今もきっと居るはずだ。けれど、その未来もまた悪意と欲望に塗れた闘争の歴史であり、世界は荒廃し、星は滅びを迎える」

 

 お前は、何を視たの? 

 

 お前は、何を知ったの? 

 

 同じだと思った。同じように永遠に縛られ、同じように滅びを得られず、同じように人を嫌い、同じように生に失望している。

 

 共感すら覚えた。なのに、何故だろう。

 

 やっと見つけた輩、やっと見つけた同志、私はお前を何よりも理解しなければならないのに、私ばかりが安らぎを得てしまってはいけないのに__。

 

 __私はお前のことが、解らない。

 

「何故だか分かるか? __簡単なことだ、人に可能性など存在しないからだ。だからこそ、腐った絵画は焼かなければならない」

 

 ああ。そういうことか。漸く、私は悟った。

 

 あいつは、彼は、その有り様を、その在り方を何よりも嫌悪し、軽蔑し、失望しながら、何よりも哀れみ、憂い、そして救わんと、変えようとしている。 

 

 理解出来なくて当たり前だ。私が共感するなど烏滸がましかったのだ。

 

 すべてを諦めてしまった私と、心折れず、為すべきことを為そうとしている彼では、あまりにも違い過ぎた。

 

「だから、◼️◼️◼️よ。俺は必ずこの世界を__」

 

 ああ。どうしようなく眩しい。

 

 その姿はまるで__。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……そう。オフェリアを助けたの」

 

 中国異聞帯。

 

 自らを機械化した“泰の始皇帝”が統治する世界。その圧倒的な科学力で他国との生存競争に打ち勝ち、地球全土を統一し、泰平の敷かれた完璧過ぎたが故に、剪定された未来。

 

 汎人類史とは違い、そこに一切の争いは存在せず、いつまでも安寧と平穏の続く完璧な世界といっても過言ではない。

 

 だからこそ、それ以上の発展も進化も衰退も無く、可能性無き世界だと判断され、未来を断絶された。

 

 そんな異聞帯を担当するクリプター、芥ヒナコは溜め息を吐く。その視線の先にはホログラムの男__エルデン・ヴィンハイムが居た。

 

「良かったじゃない。カドックの時は下手を打ったみたいだから心配していたのだけど……」

 

『……ああ。本当に、な』

 

「にしても迂闊ね。自分の飼い犬の躾くらい、ちゃんとしておきなさい。況してやあの人でなしの魔術師なら裏切りの警戒くらいしておくべきだったわ」

 

『……耳が痛い。全く以てその通りだ』

 

 無表情だが、どことなく落ち込んだ様子を見せるエルデン。それをヒナコは冷ややな眼で見つめる。

 

「というかオフェリアの件はともかくカドックの件はどうするのよ? お前のセイバー、あの神父に見られてるんでしょ?」

 

『その件に関しては問題無い。白痴の蜘蛛の秘匿が破られぬ限りは我がセイバーの姿形が一致することは無い……流石に上位者の目を誤魔化すのは難しいがな』

 

「そう……ならいいわ。お前って変な所で抜けてるから時折不安になるのよね」

 

『……そうか?』

 

「そうよ。まさか自覚が無かったの? さも博識で何もかもを知っているかのように振る舞うくせに、その実何にも考えていない……カドックの件だって、別にマーリンを連れて行く必要なんて無いし、セイバーに神父を撃退させる必要も無かったはず。要するに、お前その場のノリで決めたでしょ?」

 

『………………』

 

「無言は肯定と受け取るわ。__馬鹿なの? 遂に亡者化した?」

 

『酷くないか? 貴公』

 

 説教するような、責め立てるようなその辛辣な物言いには、怒りよりも呆れの感情があった。

 

 __“好奇と本能のままに動く獣”。それが芥ヒナコから見て抱いたエルデン・ヴィンハイムという男への印象だった。

 

 一見すると賢者のように理性的だが、その思考回路はあまりにも常人から逸脱しており、おおよそ合理的とは言えない理解し難き行動を突発的に行う。

 

 その理由は至極単純であり、彼は基本的に何が面白いか、どうすれば面白くなるかで物事を考え、あらゆるメリットもデメリットも度外視して己の感情や欲求の赴くがままに動く。

 

 かと思えば一般的な常識や道徳心もまた存在し、これを中途半端に自制してしまう。更に魔術師特有の破綻した倫理観までも持ち合わせているのだから、彼の思考や行動は矛盾で塗れている。

 

 故に、彼と関わった者の中には噂と違って意外とまともな人間だった、或いはただ浮世離れしているだけだと思ってしまう者が少なくないが、とんでもない勘違いだ。

 

 多くの者が破滅主義と称すその刹那的な在り方は、正に狂人と呼ぶ他無い。少なくともヒナコはそう認識している。

 

(まったく……あれだけのことをしておきながら、まだあいつらに思い入れがあるのね)

 

 オフェリアの生存を嬉しく思う反面、目の前の男の行動には不満が残り、複雑な心境であった。

 

 あの日、レフ・ライノールに加担したエルデンはカルデアを、Aチームを裏切った。慕ってくれていたマシュも、友人に等しかったカドックも、時計塔からの友人だったオフェリアも、何の躊躇無く、まるで取るに足らない存在かのように見捨てた。

 

 故に、今の彼の在り方は異常と言えよう。己が殺したに等しいにも関わらずカドックやオフェリアを救わんとしている。もう二度と、彼らを死なせぬと言わんばかりに……。

 

 何と彼は未だにAチームの面々に仲間意識を抱いているのだ。彼らと過ごした日々は決して偽りなどではなく、彼は本当にあの七人を大切な仲間と認識し、確かな友情を感じていた。

 

 それこそが彼の孕んでいる矛盾性。彼には彼らの死を惜しみこそすれど後悔することは全く無かったが、そうあることが出来たのは得難い仲間を見捨ててしまえるだけの相応の覚悟があったからだ。

 

 だからこそ、“異星の神”の手によって蘇生させられた彼らを目の当たりにした時、彼にとって容易く切り捨てられるような存在ではなくなってしまった。

 

(失って初めて気付く……ってことかしら? 難儀な奴ね。全く以て愚かしいことこの上ない……そうまでして為すべきことなの? お前の思い描く計画ってのは__)

 

 何ともまあ虫酸が走る話であり、嫌悪すべき対象。しかし、ヒナコが抱いた感情はそれとは真逆。むしろ嬉しく思っていた……そんなことで思い悩めるくらいには彼の感情は死んでおらず、その“人間性”は腐り果てていない。

 

 同時に疑問を抱く。こうも自らを追い詰め、精神を磨り減らしてまで、何をしようというのか。

 

(ま、今の私にはどうでもいい話ね。もしあの節穴の爆破で生き残れていたら、別にお前の道連れになってあげるのも吝かでは無かったのだけど……)

 

 芥ヒナコ__その真の名を“虞美人”という。

 

 彼女は普通の人間ではなく、星から剥がれ落ち、受肉した精霊に近しい存在。変わらぬ若さを保ち、瞬く間に傷は癒え、そして生命力を吸う吸血種。

 

 __その上位たる“真祖”。自らの肉体を破裂させることを攻撃手段に用いることが可能なまでの強力な不死性を持つその実力はエルデンが過去に戦った“六連男装”を筆頭とした死徒のどれもを遥かに凌駕した正に別格の存在だった。

 

 そんな彼女を死に至らしめる方法は限られるというか、不可能に近い。故に、レフの爆弾が彼女に致命傷を与えるなどエルデンにとっても予想外の事態であり、異星の神に蘇生させられた際に彼は彼女へ謝罪した。

 

 別段殺されたことに関しては何も思わなかったが、レフとの共謀について教えてくれなかったことには苛立ちを覚え、食事など必要無いくせに悪びれもせず食糧を要求してきた時は殺してやろうかとすら思った。

 

 今はもう怒りは冷めているとはいえ、それを知れば調子に乗るだろうから、エルデンの前では表面上はまだ根に持っているように見せていた。

 

「ハァ……項羽様の爪の垢を煎じて飲ませてやりたいわ」

 

『……そもそも爪垢なんてあるのか?』

 

「いい? お前も存じているだろうけど、項羽様はとても聡明な方よ。それでいて凛々しくて強く気高く__」

 

『長くなりそうか? 貴公の旦那への愛はもう充分に理解したから、その話は今度にしてくれ。このやり取りも恐らく十を越えているぞ』

 

「チッ……仕方無いわね」

 

 生き生きと語り出す虞美人をすかさず遮りながらエルデンはついこの前目撃した西楚の覇王__項羽の姿を思い浮かべる。

 

 半人半馬の阿修羅が如き機械生命体。それが中国異聞帯においての項羽の姿だった。汎人類史においても人間ではなく、哪吒太子の残骸から始皇帝が造り出した機械であり、始皇帝亡き後に拾われ、人として育てられたのが歴史に名を残す項羽という存在だそうだ。

 

 エルデンは呂布奉先という前例を知っていたため然程驚きはしなかったが、それでも衝撃的な事実であり、その人間離れした姿にはかなりインパクトがあった。尤も、始皇帝によって長年改造され続けた果てがあの項羽らしく、汎人類史においては幾分か人の形をしているらしいが……。

 

「しかし、あのオフェリアまでもがね……迷えば敗れる、とはよく言ったものだわ」

 

『……何?』

 

 ピクリ、とエルデンの耳が動く。

 

「オフェリアの奴、あの娘__マシュのことを随分と気に掛けていたみたいだし、彼女の性格からして躊躇無く殺すなんて出来ないはず。その甘さと迷いが、カルデアに付け入る隙を作らせてしまった……お前にとっては予想通りの結果なんでしょう? オフェリアが敗北することも、北欧が消滅することも__」

 

『………………』

 

「けれど、私に迷いなど微塵も無い。前にも言った通り、私は出来る限りここに居たい……項羽様の居る、この異聞帯に。だから、もしカルデアが中国へ足を踏み入れたのなら……必ず亡きものにしてやる」

 

 例え滅びる運命であろうとも、定められた物語だったとしても、この世界には、虞美人がかつて失くしたはずの居場所が確かに存在する。

 

 故に、彼女は今度こそ失わないように、如何なる手段を用いてでも、これを何がなんでも守らんとしていた。

 

 愛しい人が、これ以上戦うことの無い、この泰平が敷かれた、退屈で怠慢な世界を__。

 

『……ああ、そうか、その意気だとも。貴公』

 

 エルデンはただそう呟く。心にも無いことを、とは言わない。彼は心から虞美人のことを応援し、そしてカルデアが勝つこともまた信じている。本当に、どこまでも矛盾した思考回路だ。

 

 それを知った上で、虞美人は燃える(リング)が刻まれた彼の瞳を見据え、静かに告げた。

 

「だからエルデン__私と同盟を組むってんなら、しっかりと協力しなさい」

 

『……無論だ。俺は貴公を全面的に支援する。むしろ漸くその気になってくれて嬉しいよ、“先輩”?』

 

 その言葉にエルデンは薄く笑みを浮かべる。北欧へ月光のセイバーを派遣したように、以前から彼は虞美人の異聞帯への支援を提案していたのだが、毎回断られていた。

 

 異聞帯の王である“始皇帝”は自らの人類史が剪定されたという事実を信じてはいない。それは虞美人にとっては非常に幸運で望ましいことであり、もし空想樹や他の異聞帯の存在を知られてしまえば、あの好奇心と支配欲の塊である皇帝は、迷いなく異聞帯同士の生存競争へと乗り出し、熾烈な戦争が開幕するだろう。

 

 そうなれば愛しの項羽が戦場へと赴くことになってしまう。虞美人には到底我慢ならない事態であり、それ故にそのリスクが高まるエルデンからの支援は極力避けたかった。

 

 しかし、もはやそうも言っていられない。ロシアだけでなく北欧にまで出現した“絶望を焚べる者”に加え、エルデン曰く遥か未来の兵器である“赤い熾天使”たちに古い悪魔殺し(デーモンスレイヤー)……カルデアもまた“狩人”という“異星の神”と同類の化け物を召喚したという。

 

 あまりにも不穏分子が多過ぎる。異聞帯の王である“始皇帝”は嵐の壁の外からの侵入者に対して当初は興味を示し、排除を促しても消極的な反応を見せるだろう。恐らく虞美人たちが思っている以上に腰が重い。

 

 そんな状況では、いくらかの皇帝が、この中国異聞帯が強大な戦力を有していようとも__。

 

 虞美人にとってそれは苦渋の決断だった。だが、仕方のないことだろうと諦める。元よりエルデンの善意を無下にするのは気が引けたし、彼も口裏くらいは合わせてくれるだろう。

 

 故に、彼女は頷いた。

 

 ロスリック異聞帯と、中国異聞帯はクリプター間で内密に同盟を締結したのだ。

 

「その先輩っての、いい加減やめなさい……この後の定例会議でうっかり口を滑らしたらどうすんのよ」

 

『……流石に大丈夫だろう』

 

「まさか前科があることを忘れた訳ではないでしょうね? 誤魔化すの大変だったんだから、あれ」

 

『……ああ、そのようなこともあったな。懐かしい』

 

「忘れてたのね……」

 

 相手がマシュだったから良かったものを……と、虞美人はその時の光景を思い出しながら額に手をやる。

 

 二人きりの時、エルデンは時折彼女のことを“先輩”と呼んでからかうことがある。それは人生の先輩にして不老不死の先輩であるという意味合いなのだが、同時に藤丸立香を先輩と呼ぶマシュの真似事でもあった。

 

「それじゃ、お前が北欧に乗り込んだ件とそっちで匿ってるオフェリアの処遇についてヴォーダイムに上手く説明するように。私は知らないフリするから助け船とかは期待しないでよ?」

 

『……了解した。それでは、また会おう』

 

 そう言って通信が切れる。虞美人はふぅと一息吐き、傍らで立たせていた黄金の仮面を付けた麗人へと視線を向けた。

 

「そういう訳だから“蘭陵王”、暫くしたらあいつのサーヴァントが何騎かここへ来るだろう」

 

「はっ。畏まりました」

 

 __高長恭。またの名を、蘭陵王。

 

 南北朝時代、北斉に仕えた武将。その美貌と勇壮さで貌柔心壮、音容兼美、斉の軍神と讃えられ、しかし出る杭は打たれるの諺通り彼を疎んだ人間による讒言が飛び交い、その果てに主に毒薬を送られ、死することとなった悲劇の英雄。

 

 今の彼は虞美人が召喚したセイバーのサーヴァントであり、彼女とは生前からの知り合いだった。

 

「それにしても成程……あの御仁が、以前貴女が仰られていた“死なず”の人間ですか」

 

「ええ。私と同じくこの世の理から外れた存在。概念で言えば精霊よりもずっと、ずっと古い、失われた人類種……私も言い伝えのみでしか知らず、この目で見るまでは実在するとは露程も思わなかった」

 

 __“不死人”。

 

 それは虞美人からしてみれば真祖である己よりも出鱈目な存在だった。悠久の時を生きた彼女が生まれるよりも遥か昔__今の世界が成り立つ以前の古い時代に存在していたとされる、原初の火から這い出た闇を宿した真性の魂喰らい。

 

 その名が示す通り多くの者が追い求めた不老不死の体現者であり、魂は肉体に縛られず、しかし現世に留まり、影法師のように生と死を彷徨う不朽にして不滅の生命。

 

「失われた人類種……ですか? つまり、貴女とは違い、“死なず”にして人であると?」

 

「いや、確かに霊長の括りではあるのだろうが、アレが人類だと認めるには何万年、下手すれば何億年も遡らなければならん……奴は自らを古い人の末裔と称し、その起源は確かに人なのだと宣うが、私たちの知る人間の在り方からあまりにも掛け離れたあいつを人間と分類するには、無理がある」

 

「何と……それ程なのですか。しかし、何故斯様な存在が人の世に?」

 

「さあ、私が知りたいくらいだ。先祖返りや突然変異で片付けるのにはあまりに異常で説明が付かず、天文学的確率を用いても到底有り得ざる話だもの。その血はおろか魂すらも枯れ果てて別のモノへと置き換わったはずの今の人類から、ああも色濃い“不死人”が誕生するなど……」

 

 呪いならともかく、あれは生まれながらの体質。その身に宿す“暗い魂”が及ぼすもの。火の時代が終わり、闇の時代すらも終わったこの人類史において二度と、生まれるはずがないのだ。

 

 しかし、現にエルデンという存在はこの世に生まれ落ち、確かに大地に足を付け、存在している。実際に目の当たりにして尚、信じ難き事実であり、かの時代から現代まで生き延びていたと言った方がまだ信じられるくらいだ。

 

「あいつが言うには、母親たちの実験に巻き込まれて死んだ際にそれを自覚したらしいが……古きヴィンハイム共の中でも異端のイカれた連中が行った実験だ、もしかするとそれが関係しているのかもしれない。尤も、その母親はあいつが殺したらしいから真相を知る術はもう無いが……」

 

「__殺した? 自らの母親を?」

 

 何気無しに呟かれた言葉に、蘭陵王が目を見開く。親殺し……彼の生きた時代ならともかく現代においてはそう起こらぬはずの所業だった。

 

「詳しくは知らん……が、それだけの理由があったのだろう。我々が知ることではない」

 

「……左様でございますか」

 

「安心しろ、少なくとも悪人ではない。アレは確かに狂人であるが、そこらの人間よりもずっと誠実で己が悪性を何よりも嫌う」

 

「ははっ……しかし、何というか、意外でございます。貴女がこうもあの御仁を評価していらっしゃるとは。ただ人ではないから、という理由ではないように見受けられますが……」

 

「ふん……ま、色々とあったのよ」

 

 これ以上語ろうとはしない虞美人。蘭陵王としては是非ともエルデンという男との馴れ初めを聞きたかったが、本人にその意志が無いのであれば仕方が無い。

 

 そして、彼は酷く安堵した。自らが毒薬を呷り死する時、憂いたのはこれからも悠久を生きていくであろう孤高の彼女の未来__。

 

 ただ悲劇でしかない、その膨大な生において彼女はもう一度信頼足り得る存在と、確かに巡り会えたのだということを、知れたのだから……。

 

 __紅の月下美人。

 

 どうか彼女の行く先に、祝福があらんことを__。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「__やっぱり彼女、良い患者になりそうね」

 

 暗い、暗い、どこかで“女医”は笑う。




客観的に見たエルデンくん、屑過ぎる……因みに母親の性格とか見た目はカルラさんをイメージしてます。
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