異聞帯がロスリックだった件   作:理力99奔流スナイパー

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現時点で判明しているエルデンくんの鯖

セイバー:聖剣のルドウイーク

ランサー:修道女(い、一応まだ名前出てないから……)

アーチャー:弦ちゃん

ライダー:無名の王

アサシン:???

キャスター:黄衣の翁inプロトマーリン

バーサーカー:???

???:◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️


エルデンと現代の戦乙女

 ◎

 

 

「……ここが、“ロードラン”?」

 

 そこは古い王たちの地。

 

 扉の先で待ち構えていた大鴉によって運ばれたカドックが最初に見たのは樹木と瓦礫が融合した巨大な遺跡だった。

 

 __火継ぎの祭祀場

 

 知り得るはずもない地名が、脳裏に過る。

 

(祭祀場だと……? どう見ても廃墟にしか見えないが)

 

 人の気配は感じない。しかし、油断はせず警戒心を抱きながら慎重に先へ進んでみれば拓けた広場があり、その中央にはあの“篝火”があった。

 

 これにカドックが手を翳せば北の不死院の時のようにボッと篝火が灯される。

 

BONFIRE LIT

 

(これで死んでも問題無い……って何を考えてるんだ僕は。普通は死んだらおしまいなんだぞ……!)

 

 自然と抱いてしまった感情を振り払う。不死院のデーモン戦は仕方無かったが、カドックとしては例え復活するとしてもこれ以上死ぬことは避けたかった。

 

 況してや死に慣れるなど__。

 

(“篝火”を起点に何度も甦るなんて……まるで本当に、ダークソウルの不死人じゃないか。マーリンの奴が融合させた魂の影響か? それとも僕が呪いに__)

 

 不死とは、呪いである。記述が少なく、しかし現存する数少ない火の時代に関する情報源であるダークソウルにおいて不死という存在は幾度も登場していた。

 

 それこそが不死人。はじまりの火が消えかけた際に人類の中から出現する、呪われた者たち。そして、その末路こそが北の不死院を徘徊していた亡者共である。

 

 理性を失い、ただソウルを貪り喰う獣。もしもカドックが呪われ、不死人となっており、そして死に続ければ……。

 

(ふざけるな……僕は絶対にああならないぞ……! こんなところで終わってたまるか……!)

 

 一瞬ばかり過った恐怖に怯えず、拳を握り締めて決意するカドックのその反骨心は流石と言えよう。

 

「__よう、あんた、よく来たな」

 

 しかし、その時は、あまりにも早く、そして呆気無く訪れる。

 

 突然背後から声を掛けられ、誰も居ないと思っていたカドックは目を見開いて後ろを振り返り__。

 

「えっ__がはっ!?」

 

 背中に激痛が走る。驚愕しながら自身の胸へと視線を送ってみれば胸から北の不死院で拾った直剣(ロングソード)と全く同じ物が、生えていた。

 

 それ即ち、背後致命(バックスタブ)

 

「新しい奴は、久しぶりだ」

 

「ぐ……あ……」

 

 直剣を引き抜かれ、蹴り飛ばされる。

 

 吐血し、無様に地べたに転がったカドックは困惑しながらも自身がもうすぐに生き絶えることを確信し、せめて下手人の姿をだけでも見ようと顔を向ける。

 

 するとそこには、貧相な鎖帷子(チェインメイル)を纏い、頭部だけを露出させた壮年の男が立っていた。

 

「先輩として挨拶しておこうか? __ようこそ、ロードランへ」

 

 両手を広げなから浮かべる、その悪辣な笑みを最後にカドックの意識は暗転する。

 

YOU DIED

 

 __何から何までが、シナリオ通りとは限らない。彼の歩む道はきっと、より過酷なものとなるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エルデン・ヴィンハイムは上機嫌だった。

 

「ダクソ~♪ ダクソ~♪ フロムは元気~♪」

 

 胸を踊らせ、奇妙な唄を口ずさみながら祭祀場を歩くその姿は彼を知る者が見れば度肝を抜き、思わず二度見してしまうであろう光景だろう。

 

 理由は一つ。日頃頭を悩ませていたロスリックの食糧問題に解決の兆しが現れたからだ。

 

 エルデンは不死であるが故に、生命活動の為に飲食を必要とせず、また飢えることも無い。只人にとって食糧難は死活問題であるが、彼にとって食事とは生きる為でなく、その味を楽しむ娯楽であった。

 

 実は意外と美食家(グルメ)なのである。世界各地を旅していた時はそこの名物や郷土料理を食べ歩いたし、カルデアの食堂は全メニュー網羅した程だ。

 

 そんな彼からすれば、まともな食べ物が苔と草しかないロスリックは地獄に等しく、初めこそ珍味だと楽しんでいたが、あまりにも味にバリエーションが少な過ぎて一週間もすれば飽きてしまう。

 

 他の異聞帯はどこも手一杯であり、また汎人類史と比べても多様とは言えず、何よりも味を重視するエルデンとしては決して満足出来るものではなく、しかし援助を受ける側としては選り好み出来るような立場ではない。

 

 故に、エルデンはまあ別に良いだろうと半ば諦めていたのだが、オフェリアを北欧から連れて来たことによってそうも言ってられなくなった。

 

 一時の滞在であるとはいえ大切な友人である彼女に、あんなゲテモノだらけのベジタリアンな食生活をさせる訳にはいかない。というか栄養が足りずに死ぬ。そもそも“火の時代”のゲテモノを普通の人間が食べて平気なのか。

 

 こうしてロスリックの食糧問題は何よりも優先して解決すべき案件となり、エルデンは頭を悩ませた。ヒナコに相談すれば彼女の異聞帯から汎人類史のものよりもずっと栄養価の高い特殊な麦を提供すると言われたが、結局のところ麦も草だ。今のエルデンは植物類に対して異様なまでの拒絶反応を持っていた。

 

 いっそのことキリシュタリアに頼もうかと思っていたその矢先に現れたのが九尾の分身、タマモヴィッチ・コヤンスカヤ。何かを企み、こちらへ接触してきた彼女にエルデンは商談を持ち掛けた。

 

 内容は至極単純。このロスリック異聞帯に存在する幻想種を対価に、大量の食糧を提供してもらうというもの。

 

 まるでパン一つを金塊で買うような明らかに対価が釣り合わない取引であったが為にコヤンスカヤは困惑するもメリットしか存在しないこの商談を断る理由も無く、無事に成立。早速とばかりにロスリック城周辺から数匹の飛竜が消えた代わりに山のような食糧の積み荷が送られてきた。

 

 その大半が携行食(レーション)であったが、中でも高級品であるそれらは実際に調理したものと殆ど差異は無く、保存が利くのだから文句を言うはずもなかった。エルデンは腐ったものを食べても最悪自殺してリセット出来るが、オフェリアはそうも行かないのだから。

 

 そして、久方ぶりの肉類を食した(舌とか耳とかはカウントしないものとする。してはならない)今__このような異様なテンションになっているのである。

 

「__随分と上機嫌だな、人間」

 

「殺すの~大好き~♪ ……ん?」

 

 底冷えするような声で呼び止められ、ぴたりと唄うのを止めるエルデン。その首筋には、刃が突き付けられていた。

 

「……久しいな、アサシン」

 

「ご機嫌よう、忌々しき我が主。そう隙を晒してくれるな、思わずその素っ首をはねたくなってしまうではないか」

 

 僅かに微動させれば薄皮に届く程の距離。完全に生殺与奪の権を握られているにも関わらずエルデンは涼しい顔で明らかに敵対的であるその者へ話し掛ける。

 

「生憎と殺意には疎くてな……貴公程の暗殺者であれば尚更だ。一応この祭祀場一帯には探知式の結界を張り巡らせてはいたのだが……」

 

「あの子供騙しか? 舐められたものだ、あんなものに引っ掛かるほど落ちぶれてはいない」

 

「……ふむ、力作だったのだがな。それで、何の用だ? のんびりと会話する猶予を与えているということは、俺を殺しに来た訳ではなかろう」

 

 暗殺者(アサシン)__そう呼ばれた何らかの魔術かスキルで隠蔽しているのか姿形が朧気なその人物はエルデンが召喚した八騎のサーヴァントの内の一騎である。

 

 しかし、彼或いは彼女はキャスターである黄色い魔女と同様にエルデンの計画には賛同しておらず、令呪の縛りによって一応は従えているものの反抗的であるが為に放置され、現在は実質的に離反してしまっている状態だ。

 

 そんなアサシンが急に自身の前に姿を見せたことはエルデンにとって意外なことであり、そして疑問であった。仮に暗殺目的だったとしても、エルデンは不死。況してやすぐそこに篝火のある祭祀場でなど、全く以て無意味な行為であることは理解しているはず。

 

 ならば何故? 残念ながらエルデンに心当たりは無い。

 

「別に。貴様に用など無い。ただ警戒心も無く隙を晒していた愚か者が目に入ったから、殺してやろうかと思っただけだ」

 

「……酷いな、貴公」

 

 怪訝そうに、しかしエルデンは笑う。どうやら答える気は、無さそうだ。

 

 エルデンへの用件ではないのだとしたらこの祭祀場に滞在する者ということになるが、ここにはアサシンが嫌悪する頭の可笑しい爺婆と陰気な落伍者ばかりしか居ない。

 

 況してや使命を棄て、自らの名すらも忘れて永遠に惰眠を貪る“灰”共など__。

 

「まあ、今回ばかりは見逃してやろう。貴様が残した僅かな未練の一欠片に免じて、な……」

 

「何……?」

 

 どういう意味かと、エルデンが首が切れることも厭わず振り返らんとするが、既にアサシンの姿は影も形も消えていた。

 

「……解せんな。一体何を企てているのやら」

 

 あれだけ意気揚々としていたエルデンだったが、アサシンの残した疑問によってその熱は冷め、ただ首を傾げる。

 

 アサシンのことは自身の計画の障害には成り得ず、放逐しても構わない……かつて、そう判断したエルデン。果たしてそれは正しかったのだろうか。

 

 まあ__彼としては、どちらでも良かった。

 

「__エルデン?」

 

 そして、聞き覚えるのあるその声で、漸く彼はアサシンの言っていた“未練”とやらの意味を理解する。

 

「……目覚めていたか、オフェリア」

 

 視線を送ればオフェリア・ファムルソローネが居てこちらへ駆け寄ってくる。あの特徴的な眼帯はしていないが、その右目には確かに宝石の魔眼が耀いていた。

 

 そういえば北欧で彼女が外した眼帯を回収していなかった。予備は持っているのだろうか。

 

「えっと、その__」

 

「貴公……具合は、どうだ? 見れる範囲で怪我の有無は確認したが、容態に変化があれば教えてくれ」

 

「え? え、ええ。全然大丈夫よ」

 

「そうか……良かった。無事で何よりだ」

 

 純粋に安堵する。命に別状が無いのは知っていたが、自らの魔眼を犠牲にしようとしたのだ。脳や視力に後遺症が残っても可笑しくない。

 

 そのため本人に異常の有無を確認するまでエルデンは気が気じゃなかった。

 

「その……ありがとう。助けてくれて」

 

「なに、友として、同盟者として、当然のことをしたまでだ。むしろ謝罪しなければならない」

 

「え?」

 

「今回の件……俺の見通しが甘かったばかりに、貴公を危険に晒すばかりか大切な“眼”を犠牲にしかけるまで追い詰めてしまった。__すまない」

 

 深々と頭を下げるエルデン。まさかオフェリアがあのボーレタリアの“デーモンを殺す者”を召喚してしまうなど誰にも予想出来ぬ事態であったが、それを言い訳には出来ない。

 

 派遣したセイバー__ルドウイークに調べさせればすぐに分かったことだ。自分にはそれだけの知識と記憶があったのだということは他ならぬエルデン自身が理解している。

 

「なっ……頭を上げて! そんな、貴方が謝ることなんて何もないじゃない!」

 

 思わぬ行動にオフェリアは戸惑いを隠せず、慌てて止めさせる。

 

「すべては私の油断と実力不足が招いた結果よ。スルトの呪詛に蝕まれたのも、魔眼を犠牲にしようとしたのも全部私のせい……私が、悪いの」

 

 声は、震えていた。

 

「……オフェリア」

 

「そんな顔しないで。……あの後、北欧異聞帯はどうなったの? 女王陛下は、スカサハ=スカディはちゃんとカルデアと戦った?」

 

「……ああ。氷雪の女王は自らの世界の命運を賭けた死闘の果てに、敗れた。そして、北欧は__」

 

「__消滅したのでしょう?」

 

 言葉を静かに遮るオフェリア。気丈に振る舞ってはいるが、悲痛な思いなのは明白であった。

 

「キリシュタリア様の為にすべてを尽くす……そう誓っておきながら、この体たらく。我ながら本当に、情けないわね」

 

「……そう卑屈になるなよ、貴公」

 

 俯きがちな彼女の肩を、エルデンは優しく叩く。

 

「貴公は確かに敗れ、異聞帯を失い、クリプターの使命を全うすることは出来ぬかもしれぬ。けれど、何よりも貴公はこうして無事に生きている……生きているのだ。ならば出来ることなど他に幾らでもあるはずだ」

 

「……エルデン」

 

 思い浮かんだ励ましの言葉を、慎重に投げ掛ける。相手がカドックならば、充分にやったと、まだ気楽に言葉を掛けられたのだが、オフェリアに対する下手な慰めはより彼女の心を抉ることとなるだろう。

 

 故に、エルデンの脳裏に不安が過るが、そんな思考は彼女が浮かべた笑顔によって霧散する。

 

「そうね……ありがとう。もう大丈夫よ__」

 

 気のせいだろうか? 理由は分からぬが、以前の彼女よりもずっと強く見えた。それこそいつも恐れ、思い悩んでいた何かを克服したかのように__。

 

 エルデンは察する。否、きっとそうに違いないと。

 

 人とは成長する生き物だ、あの異聞での日々の中でオフェリアは強くなれたのだ。自らを犠牲にスルトを止めようとすることが出来たのは、つまりそういうことなのだろう。

 

「そういえば……キリシュタリア様は、他のクリプターたちは私がここに居るということを知っているの?」

 

「……いや、貴公は生死不明扱いになっている。知っているのは女狐とヒナコだけだ」

 

「……ふうん。ヒナコは知っているのね」

 

「? どうした、貴公……?」

 

 含みのある言い方に、エルデンは首を傾げる。それは毎度の事ながらヒナコを特別扱いしている節のある彼に対する不満であったが、当然気付くはずもない。

 

「いえ、何でもないわ。けれどどうして私の生存を皆に教えなかったの?」

 

「……俺としては別段伏せるつもりはなかった。あの女狐が俺へ恩を売ろうと余計な真似をしたまでのこと」

 

「成程……コヤンスカヤが……」

 

「貴公が良ければすぐにでもヴォーダイムに事情を話し、彼の異聞帯で保護させてもらうつもりだ」

 

「え?」

 

「その方が都合が良かろう? こんなカビ臭い場所に長居させる訳にもいかんしな」

 

 エルデンが提案する。元より彼はキリシュタリアに北欧での一件を打ち明け、オフェリアを保護させる予定だった。ロスリックに連れて来たのは、あくまで一時の滞在に過ぎない。

 

 身の安全を考慮すれば当然の話である。キリシュタリアとはいずれ敵対することが既に決まっているが、オフェリアの様子を見ていればどちらの側につくのかは明白だろう。

 

「それにヴォーダイムという男は、皆が言うほど完璧な存在ではないと俺は思っている。故に、弱みを見せることの出来ぬ今の彼の傍に立ち、支えてやってほしい。他ならぬ貴公に__」

 

「!!」

 

 異聞帯を失ったとしても、キリシュタリアに尽くすことは出来る、そう言わんとしていることを理解し、オフェリアは改めて彼の優しさに胸が震えた。

 

「__いいえ。その必要は無いわ」

 

 しかし、オフェリアから出たのは否定の言葉。思わぬ返事にエルデンは耳を疑い、目を見開く。

 

「……どういうことだ?」

 

「エルデン……貴方さえ良ければ、その……ここに、ロスリック異聞帯に滞在したいの」

 

 常に無表情の彼がここまで表情を崩すことは非常に稀だが、それだけ彼にとってその発言は衝撃的なものであり、戸惑いを隠せないのだ。

 

「……………………」

 

「……エルデン?」

 

「ふむ……ふむ、顔を合わせづらいという訳だな、貴公。気持ちは分かるが、心配は無用だ。ヴォーダイムならばきっと貴公のことを__」

 

「……ううん。違うの、そうじゃないのよ」

 

 驚きのあまり固まってしまっていたが、やがて我に返って説得するも頑なに首を横に振るオフェリアに対し、エルデンは怪訝そうな顔をするばかりだ。

 

「いつも言っているでしょう? 確かにキリシュタリア様のことも敬愛しているし、崇拝に近い念も抱いている。けれど、それは決して恋愛感情の類いではないわ」

 

「……違うのだ、貴公。ただ貴公がその未知の感情に気付いていないだけでそれはきっと__」

 

「いいえ、違わないわ。何故なら私はとっくの昔に“恋”を知っているのだから」

 

「……えっ?」

 

 はっきりと断言するオフェリア。これにエルデンは呆気に取られ、ただただ困惑するしかなかった。

 

 恋を知っているだと? とっくの昔に? あのオフェリアが__? 

 

「エルデン__私は貴方の居るこの異聞帯に、居たい」

 

 そこには確かに決意と覚悟があった。

 

 目を細め、歯噛みする。その耀く瞳でこちらを見据えながらそう告げる彼女の想いを、理解することの出来ぬ己が酷く愚かしく思えた。

 

 ああ__本当に、度し難い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 __言えた、言ってしまった、言っちゃった。

 

 “私は貴方の居るこの異聞帯に、居たい”

 

 やっと会えた嬉しさもあって勢い余って言ったけどこれって実質告白じゃない! ああもう私ったら! 思い出すだけで恥ずかしさで顔が熱くなる! 

 

 ……まあ、エルデンのあの様子だと気付いてないみたいだけれど。私がここに残るって言うとは全く思っていなかったみたいでとても驚いていた。あの顔をベリルが見たらきっと大笑いするでしょうね。

 

 結論から言えば、私のロスリック滞在は許可された。エルデンは最後まで思い悩んでいたが、私の決意が固いことを知ると、渋々といった表情をしながらも首を縦に振った。

 

 これに私は酷く安堵した。食糧問題があるため最悪断られるのも覚悟していたからだ。訊いてみると、どうやらそれについてはコヤンスカヤから食糧を提供されたことで既に解決したらしい。

 

 それ最初からやれば良かったんじゃ? と思ったけれどエルデンとヒナコは彼女のことを女狐だなんて呼んで毛嫌いしているため極力彼女に貸しを作ることは避けたかったのだろう。

 

 にしても量が異常だった。二年分くらいはあるんじゃないかしら? コヤンスカヤにしては随分と気前がいい。一体何を対価にしたのやら……。

 

「おい……あまり勝手に彷徨くな__って、戻ってたんだな、あんた……」

 

 そんなことを考えていると脱走者さんが現れる。私を探しに来てくれたみたいだけれど、その視線はエルデンへと移り、彼もまた顔を向けた。

 

「ほう……珍しいな、貴公があの場所から離れているとは」

 

「生憎と今はどこかの誰かさんが連れてきた客人のおもりをしてやっていてな……」

 

「……どうやら友人が世話になったようだな」

 

「ふん……友人、か。そんなに大事なお客さんなら、こんなところに不用心に放り出しておくんじゃねぇよ……あの指狩りが手を出そうとしてやがったぞ?」

 

「む、レオナールが? ……それは少しばかり予想外だった。後で言っておこう、感謝する」

 

「ちっ……」

 

 そうやって会話する二人。あからさまに不機嫌になって小さく舌打ちする脱走者さんの様子を見るに、あまり仲は良くないみたいだ。

 

「けれど、貴公が護衛についてくれるなら実に心強い。純粋な実力で言えば、この祭祀場に貴公の右に出る者は居ないのだからな」

 

「あん? 知ったことかよ。何で俺がそんな面倒事を押し付けられなきゃならねぇんだ……あんたとこのサーヴァントとやらを使えば良いだろうが……」

 

「そうしたいのは山々なんだが、残念ながら皆出払っていてな……それに貴公がそうやって見捨てられぬ人間なのは理解している」

 

「はっ あんたに俺の何が分かる?」

 

「何もかもだ……例え貴公自身が忘れていようと、貴公が歩んだ道のりとその過去は決して消えぬものだ。__◼️◼️◼️の脱走者よ」

 

「ッ……ああそうかい……イカれ野郎が……」

 

 最後に悪態をついて脱走者さんは踵を返す。あんな言い方だけど彼が私のことを心配して怒っているのは充分に理解出来たためエルデンと不仲なのはどうも複雑な気分だった。

 

 エルデンもあんな飾ったような物言いしなければ良いのに。だから誤解されちゃうのよ。

 

「……また何かあれば彼を頼るといい。強さもそうだが、祭祀場の面子の中ではアンドレイや火防女に次いで善良と言えよう」

 

 そんな彼の態度を差して気にする様子も無く、エルデンは私にそう言う。

 

 あんどれい……? ひもりめ……? 知らない名前が出てきたわ。あの広場には脱走者さんとあの鉄仮面の男以外は見当たらなかったけれど……。

 

「……そうだ、オフェリア」

 

「? 何かしら?」

 

 するとエルデンは何かを思い付いた様子で私の名を呼ぶ。

 

「ここへ残るということは、我らロスリックと同盟を結ぶということになるな?」

 

「え? ええ。そうね……急にどうしたの? 改まって……」

 

 元々私はエルデンと同盟を結ぶつもりだった。女王陛下、スカサハ=スカディは“火の時代”への警戒心からあまり乗り気ではなかったが、どうにか説得して了承させていた。

 

 順当に行けば北欧の護りはより強固なものとなったに違いなく、きっとスルトが目覚めても対処出来ていただろう。もはや机上の空論だが……。

 

「……いや、少しばかり貴公に頼みたいことがあってな。無論強制するつもりはない」

 

「別に構わないわ。私に出来ることなら……」

 

 な、何だろう……? 

 

 エルデンが私に頼みたいことがある。初めて会った際に魔術の指導を乞われた時のことを思い出し、私は少しワクワクした気分で次の言葉を待つ。

 

 そして、その頼み事は私が予想だにしないものだった。

 

「__もう一度、異聞帯を管理してみる気はないか?」




謎のアサシン……一体何者なんだ……?

ということでオフェリアはロスリックに残ることになりましたと……(死亡フラグ)
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