異聞帯がロスリックだった件 作:理力99奔流スナイパー
◎
__中国異聞帯・咸陽。
高いビルなど一つもなく、広大な原野ばかりがある世界で唯一、空に浮かび、見上げる程に巨大な要塞が如き異形の建造物を持つ都。
『__ふむ、其方が芥の言っていた同盟者か』
そこに、芥ヒナコは居た。その冷めた目が見つめる先には神輿があるが、その中は無人。故に、天上の人たる天子__“始皇帝”の声は空間に響き渡るように聴こえる。
「……ああ。ヴィンハイムのエルデンだ。以後よろしく頼む、秦の始皇帝よ」
そして、その傍らには同じクリプター、エルデン・ヴィンハイムが立っていた。
彼は自らの名と素性を名乗り、誰も居ない神興へと貴人の一礼をする。
『エルデン……確か欧州の
「竜の学院とも呼ばれる、英国の魔術師の一族だ。汎人類史においては少なくとも西暦以前から存在しているはずだが、そちらでは違うようだな……」
『ほう……“竜”の学院とな? それはまた、大層な呼び名だ。ということは其方もかなりの腕前の魔術師という訳か』
「……そうなるな。神代の魔術師と比べられると些か困るが、それなりに腕に覚えはあるつもりだ」
淡々と、エルデンは自身の素性について興味津々な始皇帝の問い掛けに答える。
いつもと変わらぬ調子。この異聞帯において“哪吒太子”の残骸を発見したことで太乙真人のロストテクノロジーを知り、これを解析することで肉体を機械化する技術を獲得。真人への羽化登仙ではなく霊珠子技術による肉体のサイバネ化で不老不死を達成したIFの始皇帝は、同じ不死だという点で言えばエルデンと同類であり、故に僅かな親近感を覚えていた。
__尤も、実のところ機械化による不死というのは彼とは全く違う部類。遥か未来における“財団”や“主任”の方が類似している。
「……お前はここでも相変わらずね。もう少し畏まったらどう? あちらの付き人、怖い顔で睨んできているわよ?」
「ん? ……ああ。本当だな」
ヒナコの視線は神輿の傍に立つ、中国服を着て丸いサングラスを掛けた老人へと向けられる。ここでエルデンは漸く先程から向けられる静かな殺意に気付く。
しかし、それに動じた様子は無く、毛程にも気に留めていないその態度に老人の眉間の皺が更に濃くなる。
『こら、衛士長。芥を怖がらせるでない』
「御意。どうも最近、老眼が来たようでつい眉間に力が入ってしまうのです」
『言い訳しない。ともかく衛士長はエルデンと芥を睨むの禁止だぞ』
「御意に」
気の抜けるような主従のやり取りにヒナコは溜め息を吐く。始皇帝は時折フランクな軽い口調で話し掛けてくることがあり、形式上は敬っている彼女は調子を狂わせられることが多々あった。
衛士長が好ましく思わぬのは当然のこと。彼らにとって神にも等しき天上人たる始皇帝を相手に、どこの馬の骨かも知れぬ異邦人の青年が畏れ多くも対等に接してくるのだ。むしろ睨まれるだけで済むのならばどれほど良いだろうか。
「……さて、そろそろ本題に入ろうか」
然りとて、エルデンにはどうでもいいことだ。
『うむ。確か
「ああ。どこぞの女狐が逃げ込んできたせいでな……貴公には然るべき対処をしてもらいたい」
コヤンスカヤが藤丸立香暗殺に失敗した挙げ句、血塗れになって来訪した際、ヒナコは思わず噴き出してその有り様を嘲笑したが、あろうことか彼女がこの中華由来の毒を使用し、更には“月の狩人”に追跡されてしまったことで後々カルデアが侵入して来ることが確定的になったことを理解して激昂した。
そこからの行動は速かった。手始めに目の前のコヤンスカヤを半殺しにしてボロ雑巾にして心を落ち着かせ、エルデンを呼び寄せてこうして始皇帝に引き合わせたのだ。
来るべき時に備えて__。
『ふむ……朕としては其方たちやタユンスカポンと同じ来訪者である
「……些か楽観的が過ぎるぞ。もはや貴公の力は絶対的ではないと思え。さもないと貴公も死に、折角苦労して築き上げた泰平の世が、消えて無くなるぞ?」
場が、静まり返る。消極的な反応を見せる始皇帝に対してエルデンは首を横に振り、呆れの含んだ声で言い放つ。
その不敬に過ぎる物言いに衛士長が動こうとしたのを声で制しながら、しかし怪訝そうに始皇帝は問いかける。
『不老不死を得て世界を統一してから幾星霜。肉体を捨て、鉄の聖躯を得て、
「__然り。その可能性は大いにある」
はっきりと、エルデンは断言する。
「そもカルデアはその“外宇宙”由来の存在を味方につけている。先刻あの女狐を追ってきた狩人が、そうだ」
『__ほう? あの全身黒ずくめが、か? 確かに人とも神とも言えぬ異様で気味の悪い気配をしていたが、成程……アレが、外星人……もっと蛸みたいなのを想像していたのだがな。見た目は人と変わらぬではないか』
「……今はただ器に籠っているだけに過ぎない。人の形をしているが、あくまでガワだけだ。本来の姿は貴公が想像するようなものに近く、そして理解を超越しているだろう」
驚きながらも始皇帝は納得する。空間と空間を飛び越え、単独顕現で転移したコヤンスカヤをこの中華まで追って現れた存在。北欧の女神が邪神と称したように、始皇帝もまたあの狩人が異様なナニカであることを察してはいた。
よもやそれが自らが想定する仮想敵だとは。鋸という原始的な武器を使っているのは意外だったが、しかしその殺意に溢れた戦いぶりは確かに恐ろしく感じた。
『して、アレはどこへ? その口振りから察するに仕留めた訳ではあるまい。今のところ朕に居場所は掴めぬが……』
「恐らく“狩人の夢”……奴が支配するこことは異なる次元に潜んで補給と準備をしているのだろう。無論そこへ侵入する方法はあるにはあるが、わざわざ奴の領域へ足を踏み入れるのは自殺行為に等しい」
コヤンスカヤが逃げ込んできて一時間も経たぬ内に月の狩人は彼女の目の前に出現したが、話を聞いて予めそれを察知していたエルデンは即座に対処にあたった。
彼が引き連れてきたランサーとアーチャー。加えてヒナコと彼女のサーヴァントと共闘し、これを撃退した。
恐ろしい月の上位者といえど、今は英霊の皮を被った狩人。狩りに飢え、血に酔った優れた狩人ではあるが、元より数の暴力には弱く、何よりも初見の戦いだった。仕留めることは出来なかったが、中身が出てこなかったことを考えればその方が良かったのかもしれない。
狩人は夢へ逃げた。しかし、あの場所に時間の概念があるのかも怪しいが故に、いつ戻ってくるかは不明。きっと彼は輸血液を補充し、武器を手入れし、次こそは敵を鏖殺せんと備えているはずだ。
そして、恐ろしいのはそれを何度も行えるということ。動きを覚えられ、対策され、先を読まれ、やがては通じた策も通じぬようになってしまう。
『……芥よ、かの者の言うことは誠か?』
「__ええ。私もまたその可能性を見た。何よりもカルデアは既に二つの異聞帯を滅ぼしている」
『ふむ……そうさな。これは確かに脅威と言えよう。というかかなりヤバイな。ならば備えておいて損は無い、か』
先程から黙っていたヒナコに今一度確認を取り、始皇帝は己の認識を改める。世迷い言だと笑っていたが、どうやら話は自らが思うよりもずっと、規模が大きい話らしい。
『衛士長よ。気が変わった。急ぎ驪山に向かい冬眠英雄を数名再生せよ。また後に備え更に百名程度の再生準備を行え』
「百名もの再生準備を……陛下は此度の件が
『否、エルデンの言が真実であるならそれ以上の脅威であろう。誰を起こすかは衛士長に一任するが、間違っても桃園ブラザーズなんかは起こすなよ? 勢い余って国盗りでも始めかねん。絶対に起こすなよ? 振りではないぞ?』
「御意に」
話の初めとは違い、カルデアを脅威と認めた対応を見せる始皇帝にヒナコは僅かに驚きの表情を見せる。それを見て始皇帝は楽しそうに笑う。
『其方の言葉を朕は受け取った。一度、決めれば国家総動員が朕の国の強みである。無論、其方たちの力も借りることになるが、否はあるまいな』
「……ああ。懸命な判断だ。元より我らも“私兵”を貸し与えるつもりだった」
パチン、とエルデンが指を鳴らす。
すると彼の周囲の空間が歪み、黒い影が多数、霧のように出現する。
「………………!?」
『__ほう。
襤褸布を頭に被り、異形の鎧と髑髏の仮面を着けた幽鬼の如き剣士たち。気配も無く、一瞬で転移してきたそれらに衛士長が目を見開き、始皇帝は興味深げな反応を示す。
「
(闇の亡霊……これが兵隊、ね。名の通り霊体みたいだけれど、あんなものまで保有しているなんて)
悪い冗談だとヒナコは笑う。とてもじゃないが、それは単なる兵隊として扱えるような戦力ではなかった。それこそ彼女が長い時の中で出会ったどの怪異よりもおぞましい気配を纏う。
最古の赤い瞳の侵入者。世界と世界を渡り歩き、その闇撫での腕で獲物の魂ないし生命力を吸い、奪い取る彼らは不死であるヒナコにとっても天敵に等しく、見ているだけで寒気がした。
同時に、確信する。これだけの戦力があればカルデアを潰し、月の狩人をも排除出来ると内心ほくそ笑んだ。
(私と項羽様の世界は誰にも壊させやしない……必ずやカルデアとそのマスターを滅ぼし尽くしてやるわ)
しかし、彼女は失念していた。
ロシアを単独で滅ぼした仮面の剣士のように。北欧で巨人王すら取り込んでいた悪魔殺しのように。
いつ、どこにおいても
ほら、今もまたどこかで__。
◎
「__あら、あら、あらあら?」
チャプチャプと水が滴る湿った世界。血のような紅い瞳を大きく見開かせながら、彼女は笑う。
「例の月の香りの主がこっちに来たかと思ったら貴方まで来ちゃうなんてね、エルデン……」
愛しい人の気配に身体を震わせ、やはりこの異聞帯へ遊びに来て良かったと歓喜する。
若く健康な人間。冷凍保存された英雄。吸血種にして星の精霊。加えて、人類悪の獣と自らの“同類”まで現れた。どれもこれも上等で良質な“患者”に成り得る逸材ばかりだ。
ああ、何と素晴らしきことかな。もはやこの人智統合真国は、中国異聞帯は彼女の楽しい実験場と化していた。王たる始皇帝はこの事実に未だに気が付くどころか彼女の存在すら認識していない。
「ウフフ……となると、まずは__」
女医のアルターエゴ、◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️は妖艶な笑みを浮かべて次なる展開を模索する。
治療と称し、患者と称し、血の医療の果ての、おぞましい施術を繰り返す。いつものように、あの夜のように、女医も少女も老人も娼婦も聖女も獣すらも。
何かを犠牲にする際、誰もがそれ相応の理由が持つものだ。
彼女の場合はきっと__。
◎
始皇帝に敵の危険性を正しく認知させることに成功したヒナコは王宮を歩いていた。
足取りは軽い。顔には出さないが気分もいい。それ程に先程の始皇帝とのやり取りはヒナコにとって有益なものだった。
紀元前より君臨し続けるこの異聞帯の王は言うまでもなく理想の王であったが、ヒナコからすれば甘い部分もあった。言ってしまえば、始皇帝は人が良いのだ。
あの王は異世界からの渡航者であるヒナコを難なく受け入れたように、敵であると知らせていたカルデアも受け入れていた可能性があった。
少なくとも問答無用で排除する前に話くらいは聞くのが有益だと判断するとヒナコは思っていた。だが、コヤンスカヤを追ってきた月の狩人が暴れたのとエルデンの歯に衣着せぬ物言いが功を奏した。
無論、始皇帝とてエルデンの言葉だけを以て真実を決めつけはしないだろう。だが、敵の言葉より味方の言葉に耳を傾ける人物であったことが、今は喜ばしい。
「……えらく上機嫌だな、ヒナコ」
「ええ。感謝するわエルデン。まさか始皇帝をあそこまでその気にさせるとは思ってなかったわよ」
そんな彼女の後ろを歩きながらエルデンは笑い、しかし疑問を持つ。
「けれど、良いのか? カルデアが脅威であることを告げれば貴公の夫が再び戦場へ……」
__項羽。
始皇帝の最高傑作の絡繰にして国家最高の武人。カルデアを脅威と判断し、排除することになれば現在ヒナコの下に居る彼が呼び戻され、駆り出されるのは自明の理であった。
ヒナコ__虞美人が望んだのは項羽と共に始皇帝の治める国の片隅で最後の時まで生きること。言ってしまえばクリプターでありながら、彼女にとっては異聞帯も“異星の神”もどうでもいい。目の前にさえ現れなければ、カルデアのことも眼中に無かったのだ。
そんな思いを理解するからこそエルデンは問い掛けた。項羽を戦場に駆り立てるような情報を伝えても良かったのかと。
「ふん……今更何を言うかと思えば。そうも言ってられない状況なくらい私でも分かるわ。だってあまりにも脅威的に過ぎるでしょ? 奴ら」
それに対して虞美人は苛立ちを隠そうともせずに言う。彼女の言う脅威とは正確にはカルデアのことではない。北欧にも現れたという“ミラのルカティエル”を名乗る仮面の剣士のことだ。
カドックが担当していたロシア異聞帯は奴が出現してから考えられない速度で滅んだ。その一部始終はラスプーチンの手により映像として記録されていて、彼女は他のクリプターたちと共にロシアの終焉を目にし、大きな衝撃を受けた。
神の如き獣と成り果てたイヴァン雷帝。それを古き“巨人殺し”の不死は、ほぼ単独で相手取り、果てに見事討ち倒してみせた。
ただの剣の一振りはその巨体に致命的な傷を負わせ、膨大な魔力の奔流は鋼鉄よりも硬い皮膚を抉り取り、かの獣王を大地へと這いつくばらせる。生物として最高峰の生命力を誇る化け物は半日にも渡る死闘の末に遂に力尽き、彼はその骸からまるで戦利品とばかりに異形のソウルを奪い取った。
次元が違う。あの有り様を見て虞美人は恐怖した。世界のマナを喰らう神霊に等しき存在が。神が己を真似て人を作ったとするなら正しく“真人”であると言える始祖の吸血鬼が、だ。
アレは人間の限界……否、極限を越えた存在。そこへ行き着くまでに一体どれ程の命を殺し、魂を喰らってきたのだろうか。
加えて、“月の狩人”。
北欧にてカルデアが召喚した領域外の生命。外宇宙から来たりし神々を狩り尽くし、自らも同等の存在へと至った人外。その詳細を知るエルデンの語った内容はヒナコに彼をあの仮面の剣士と同格かそれ以上の脅威だと認識させるには充分に過ぎた。
「あんな化け物共を相手に出し惜しみなんて悠長な真似が出来る訳がないでしょう。それにお前の言う“赤い熾天使”や“悪魔殺し”がやって来る可能性だってある。なら、次はこう考えるわ。この異聞帯もすぐに消滅するかもしれない。天に頂く帝は落とされ、私は項羽様と離れ離れになるとね……だから、非常に不本意だけど、これは致し方ないことよ」
言葉に反して虞美人の顔は険しい。彼女としては自分の判断でありながらやはり項羽に戦わせるのは非常に不服なのだろう。
「……ふむ、妥当な判断だ。先輩」
「だから先輩と呼ぶな。……まあいいわ。ところで奴らの動向はどうなっているの?」
「ああ。もうじきやって来るさ。つい先程シャドウ・ボーダーを観測した。“彷徨海”を離脱し、狩人の残した痕跡を辿ってこの中華へ真っ直ぐ向かって来ているようだ」
「そう……ああ、本当に忌々しいわね、あの女狐。散々舐め腐った挙げ句、人間風情の暗殺すらしくじるなんて……思い出すだけで腸が煮えくり返る」
瞬間、放出される膨大な憤怒と憎悪。ドス黒い殺意を沸々と発しながら思い浮かべるのは昔馴染みである愛玩の獣が舌を出し、平謝りする姿。
このような事態になったのは、奴が自らの得意とする仙術由来の毒を用いた挙げ句に暗殺に失敗したせいだ。即ち、すべての元凶。更に元を辿れば彼女へ暗殺の依頼を出したベリルが悪いことになる。
つまり人間、人間、また人間だ。
いつも、どこでも、我々の安寧を壊すのは、あの忌々しき猿共ということなのか。
__いや、最初のカルデア襲撃の時点で藤丸立香を仕留めなかったのはコヤンスカヤだった。つまるところ全部あの女が悪い。
故に__。
「おや? 芥ちゃん、ご機嫌よ__ごふっ!?」
悪びれもせずに声をかけてきた元凶の腹に拳をめり込ませたのは、仕方の無いことであった。
「ちょ……!? いきなり重めのボディーブローかましてくるとか酷過ぎません……!?」
「黙れ。よくもまあ私の前に顔を出せたわね。今度は本気で殺してやろうかしら」
悶絶しながら踞るコヤンスカヤ。ロシアや北欧では厚着をしていた彼女だが、今回は中国だからか露出の激しいチャイナ服を着用している。
「うわぁ……殺意全快ですねぇ……わりとガチで反省していますんでそろそろ許してくれません? まさかここまで追ってくるハングリー精神旺盛な方だとも私の単独顕現に追い付くようなことが出来ちゃうような方だとも思わなかったのですよ。トホホ……まあ、じきにカルデアがやって来ることは予測済みでしたけど☆」
「__ぶっ殺す」
「えぇ……些か短気過ぎませんか?」
真紅の魔力を纏う一振りの剣を取り出し、コヤンスカヤを切り捨てんとする虞美人。それを間に入って制したのは意外にもエルデンだった。
「……落ち着きたまえ。今はこいつと争っている場合ではなかろうに」
「何お前……こいつの肩を持つの? こんな奴、生かしておく価値なんてないでしょう。これ以上馬鹿なことをやらかす前に殺しておくべきよ」
ギロリ、と虞美人が睨む。対してエルデンの表情は変わらない。
「殺す前に逃げられるのが落ちだぞ? 雲隠れされて好き勝手やられる方が面倒だ」
「ッ……お前も協力してくれれば問題無いでしょう。私とお前ならこいつが逃げる前に殺すなんて赤子の手を捻るよりも容易だ。だからさっさと協力しなさい。お前にとっては有象無象に過ぎないのだとしても、私にとっては踏み潰したくてたまらない目障りな害虫なのよ」
「……然りとて、ここで我らが無意味な損失を出す必要は無い。苛立つのは充分に分かるが」
剣の切っ先が、エルデンへと向く。暫し二人は視線を交わし続け、やがて根負けにしたのか虞美人が溜め息を吐いた。
「__止めましょう、不毛よ」
実のところエルデンは本気で止めようとはしていなかった。ここでコヤンスカヤが死のうと逃げようと、彼としては心底どうでもいい話であるからだ。虞美人もそれを察しており、だからこそ冷静さを取り戻した。
彼女が剣を下ろすと、コヤンスカヤは大仰なリアクションをしながらホッと胸を撫で下ろす。
「いやー! 怖かった! もう芥ちゃんったら少しは落ち着いたかと思っていましたのにまだバリバリ現役じゃないですか! あ、庇ってくれてありがとうございますエルデンさん。今度また商談することがあればサービスしちゃうぞ☆」
「……貴公。自殺願望を持つのならば、次は止めぬぞ?」
「はーい☆ どうやら歓迎されてないみたいなので今回はご退散しまーす☆」
そう言ってコヤンスカヤは消えた。最後までふざけた態度を取っていた彼女に虞美人は舌打ちする。悪辣な彼女のことだ、また性懲りにもなく顔を出してくるだろう。
とっとと用件を終え、この異聞帯から立ち去れば良いものを……一体どういうつもりなのだろうか理解に苦しむ。
「どいつもこいつも……私の邪魔ばかり。いっそのこと項羽様以外のすべてを滅ぼし尽くしてしまいましょうか」
「それは困るな……俺はまだ滅びる訳には行かぬ」
「冗談よ。私もそこまで自暴自棄にはなってないし、第一お前が滅びるなんてそれこそ有り得ない。というか、案外それも良いとか思っちゃってるでしょ? 破滅主義者」
「……そうさな。俺が往き、行き着いた結末がそうなのであるのならば、それもまた面白い」
「そう、狂人ね」
「今更だな、貴公」
二人は笑い合う。
人外と人外。不死と不死。
それは同類なようで同類ではなく、似ているようで似ていない。否、何もかもが違う。
彼らもまた、そのことを理解している。
片や愛に生き、片や愛を知らぬ者。互いの目的が為に彼らは手を取り合い、共に闘い、そして己が望むべき結末を目指して突き進んで往く。
破滅へと__。
狩人様スタンバイ、女医も暗躍、カルデアも来る、これに更に+αされる予定……。
うーん……もう詰んでね? チャイナ