異聞帯がロスリックだった件 作:理力99奔流スナイパー
更新停まってる間にエルデン・リング発売日決定したり二部六章出たり色々あったなぁ……。
◎
「……は?」
気が付けば、篝火の前に立っていたカドックは呆然としていた。
死んだ。見事なまでの不意打ち。
それつまり、復活場所が更新されたということ__。
「__ッ!!」
ぞわり、と身の毛がよだつ。
状況を理解したカドックの行動は速かった。即座に
「へっ 流石に二度目が通じる程ひよっこでもねぇか……」
剣を空振らせ、しかし薄ら笑いを浮かべる男。その疲れ切ったような声とは裏腹に瞳にはドス黒い殺意が宿っていた。
(何だ? 何なんだ、こいつは?)
カドックは冷や汗を掻く。サーヴァントではなく、生身。一見すると軽薄そうで覇気が無く、風貌からしてもとても強そうには見えないが__。
「あん? 何だ、亡者化してねぇな。指輪でもしてたか? 贅沢なこった」
圧倒的な格上。カドックは本能的に悟った。相手は生身の人間にも関わらずあの不死院のデーモンと相対した時のような……とまでは言わないが、覇気の無さとは裏腹に異様な圧を感じる。
しかし、だからといってみすみす殺されるつもりはない。
「何で僕を殺した?」
「刺しやすそうな背中があったからな。次来た奴はぶっ殺すって決めてたんだ」
訝しげにこちらを見る男にそう問えば、何てことのないようにそんな言葉が返ってくる。
ヘラヘラと笑いながら、しかし一切の感情が抜け落ちた死人のような顔で。
__イカれている。そうとしかカドックには思えなかった。
「まあ、とりあえず__」
「!」
「人間性、置いてけや」
そして、男は再びカドックへと斬り掛かった。
不死と不死の殺し合い。かの古き時代においては腐るほど行われたその闘い、果たしては勝つのは誰か。そんなものは分かり切っていた。
__心折れぬ者が、勝つのだ。
◎
中国異聞帯。
そこはロシアや北欧のような過酷な環境ではなく、長閑で平穏な世界だった。
今までの異聞帯とは違う。私、藤丸立香はそれを肌で感じながら気を引き締める。
「ああ、やはりお出ましか。クリプター……」
「あれは芥ヒナコだね。成程、中国は彼女の領域だったか」
そんな中、あの空に浮かぶ巨大な建築物から何かが射出され、この農村へ飛来していることを知らされ、外へと出てみればロケットのような部品が落下しており、そこから二つの人影が現れる。
片方は眼鏡を掛けた茶髪のツインテール。その少女に私は見覚えがあり、ダヴィンチちゃんの言葉でクリプターの一人であることを思い出す。
__芥ヒナコ。
クリプターが一人。確か
その隣に立つ顔半分を仮面で隠した男の人が彼女のサーヴァントであることは明白。希望していたクラスはライダーと記憶していたが、刀剣を持つその風貌はどちらかといえば
「芥さん……」
「ふん、真顔か。マシュ・キリエライト。下卑た笑いでも浮かべていると思ったが」
これまでのようにやはり何か思うところかあるのか彼女の名を呼ぶマシュ。それに対し芥ヒナコは冷たい眼で言い放つ。
物静かな印象を受けたにも関わらず吐き捨てられた言葉は異様に辛辣なものであり、私は非常に驚いた。
「……笑いません。私たちは皆さんと対立することを楽しんでいる訳ではありません」
「ならば一層に度し難い。己の行いを恥じる思慮すら持たぬ獣ども」
マシュが動揺しているのが目に見えて分かる。カドックやオフェリアと違い、こうも明確に拒絶され、敵意を露にされたのは初めてだった。
「私は貴様らを憎むまい。蔑むまい。そのおぞましさ、心を動かすに値せぬ。ただの害虫として駆除するのみだ」
「そんな……」
「キミ……本当にあの芥ヒナコか? カルデアに居た頃の記録とは別人じゃないか」
ダヴィンチちゃんもまた驚きを見せる。確かに口調も態度もAチームの紹介で前のダヴィンチちゃんが語っていた人物像とは乖離している。
本性を隠していたのか、それともクリプターになってから豹変したのか……どちらにせよ、戦いは避けられないようだ。
「……ダ・ヴィンチ。殺された、というのは本当だったのね。その体、信じられないけど完璧よ。知性体が求めた本当の意味での嬰児。エルデンの奴もさぞや驚いたことでしょう」
それに__。と彼女は私の方を向く。
えっ、な、何……?
冷ややかな、値踏みするような視線に思わず身構えてしまう。
「見るからに能天気そうな奴ね。こんな間抜け面のどこが良いのだか」
「なっ!?」
なんか唐突に侮辱された。流石の私もこれにはイラッときた。顔をしかめ、間抜けとは何だと彼女を睨み付けた。
すると次の瞬間。凍てついた殺気が返ってくる。
「愚かしい。貴様のような凡愚にあいつが何を期待しているのかは知らないが、何であれ我が敵。今ここで、鏖殺する」
びくり、と身体が震える。彼女の放つ殺気は、今まで敵対してきたサーヴァントに向けられたものかのように強烈でとてもじゃないが、普通の人間が出すものとは思えなかった。
それにこれはどちらかと言うと……。
「おい女。さっきから黙って聞いていりゃ俺のマスターに随分と舐めたこと言ってくれるじゃねぇか」
その時、叛逆の騎士モードレッドが怒りを露にしながらそう言って芥ヒナコへ剣先を向ける。
久しぶりに見るその後ろ姿は非常に頼もしかった。
「……成程。彷徨海で新たなサーヴァントを召喚出来るくらいの設備は整えたという訳か。面倒な」
そう、モードレッドはカルデアの霊基グラフからこの地に“王”として君臨している可能性が高い始皇帝に対抗すべく召喚したサーヴァントたちの一騎だ。
他には哪吒、スパルタクス、荊軻。前の人理修復の旅でも行動を共にしたことがある面子だった。
「セイバー、我が僕よ。あれらを疾く消し去れ。これ以上、私の目を汚すでない」
「御心のままに__」
芥ヒナコが冷たく言い放つと、仮面の剣士が前へと出る。これに私たちも戦闘体勢に入り、身構えた。
「は。そいつだけでやんのか?」
モードレッドが問う。向こうはサーヴァント一騎とマスター一人なのにこちらはマシュを含めて五騎。私は戦力外としてダヴィンチちゃんやまだ傷が癒えていないけどホームズが居るのだ。あと所長も。
数だけ見れば圧倒的にこちらが有利。しかし、油断してはいけない。当然この異聞帯の勢力は居るはずだし、何よりも相手は未知数なのだから……。
「まさか。流石にそこまで甘くは見ていない。__それから、貴様たちは既に詰んでいる」
「何?」
これに芥ヒナコが嘲りの笑みを浮かべる。
既に詰んでいる? それは一体どういう__。
「____!!! マスター、離れろッ!」
え? うわっ!?
次の瞬間。私はモードレッドに突き飛ばされ、遅れて金属と金属がぶつかり合う音が響く。
何が起きたのか理解が追い付かない私を見据えながら、いつからそこに居たか分からないフードを被った死神が微笑む。
「あら、気付かれてしまいましたか。随分と勘の良い走狗が居るようですね」
「っ! マスター!」
即座にマシュが盾を構え、私の前へと出る。
相手の攻撃はまだ終わっていなかった。辺りの大地が空間ごと凍り付き、一気に弾けた。
「くっ__」
「……ふむ、冷気すらも防ぎますか。堅牢な盾ですね」
防御に成功するも僅かに後退する。マシュ以外の皆は既に凍結範囲から離脱していた。
因みに私は荊軻に抱き抱えられている。もしも助けられなかったら何が起きたか気が付くこともなく終わっていたことだろう。
「チッ! 新手かっ!」
「貴方は……!」
「エルデンのランサー……!?」
私は眼を見開く。大鎌を振るう襲撃者の正体は、北欧であのエルデン・ヴィンハイムが従えていたランサーのサーヴァントと思われる女性だった。
何でこんな所に? まさかあいつもここに……!?
「ご機嫌よう、カルデアの皆様」
エルデンのランサーは先の襲撃が嘘のように平坦な声で挨拶しながら底冷えするような殺気を放つ。
フードを深く被っており、明確な表情は伺えないが、その口角は吊り上がっていた。
「っ……! マシュとモードレッドは応戦を! 哪吒とスパルタクスはあっちの仮面サーヴァントの方! 荊軻はそのまま私の護衛お願い!」
状況を理解した私が即座にサーヴァントたちへ指示を送れば、彼らは瞬時に判断して動き出す。
相手が相当なレベルの英霊であることは分かっているため本当なら総出で掛かりたいけれど、芥ヒナコらを無視することは到底出来なかった。
「ほう。良い判断ですが__」
マシュとモードレッドの二人掛かりの攻撃を軽々といなしながら感心した様子でそう言い、大鎌を持ってない方の腕を振り上げた。
その行為にどういった意図があるのか疑問を抱くよりも早く、荊軻が私の前に立つ。
「ぐっ……!!」
「荊軻!?」
何かが私に向かって飛んでくる。荊軻はそれをヒ首という短刀で弾き飛ばすが、続いて飛来した二発目を肩に受けてしまう。
私が駆け寄って見てみれば、それは長く太い大矢だった。
「狙撃です、マスター! お下がりを……!」
「っ……マシュ!」
「はい! 今向かいます!」
狙撃への対処は荊軻だけでは難しいと判断した私はすぐにマシュへ呼び掛け、こちらへ向かわせる。
当然エルデンのランサーは行く手を阻もうとしたが、魔力放出を使ったモードレッドの妨害により何とか成功した。
長距離からの狙撃。それも矢ってことはもしかして__。
「仕留め損なったか……」
それから更なる狙撃は無く、代わりに現れたのは私の予想通り上裸の武士……エルデンのアーチャーだった。
「おい。何故出てきた、
「初撃を防がれ、あの盾兵の守護もある以上、追撃は無意味かと」
「ふん……不甲斐無いぞ。何をしている? 巴ならば今ので仕留めていたぞ。確実にな」
「……面目ありません」
狙撃に失敗したことを芥ヒナコが冷たい眼差しで咎める。
というか今、ゲンイチロウって呼んだ? それがエルデンのアーチャーの真名? それにどうも以前から知り合いのような会話だけど一体どういうこと……?
「まあいい。幸い一騎は手負いにした。今ここでカルデアを皆殺しにするぞ」
「おや。随分と容赦ありませんね」
「黙りなさい。貴女も真面目に戦いなさいよ、修道女」
改めて私たちへ殺意を向けてくる芥ヒナコ。するとモードレッドと切り結んでいるにも関わらずエルデンのランサーが肩を竦めながらそう言って笑う。
そんな態度に芥ヒナコは忌々しげに顔をしかめ、彼女を睨む。どうやらランサーの方とはあまり仲が良くないみたいだ。
「オラァ!」
するとモードレッドが怒りの形相を浮かべ、斬り掛かる。戦闘中に急に余所見して会話を始めたのだ。当然の反応だろう。
しかし、その一撃はあっさりと避けられてしまう。
「おっと__」
「随分と余裕そうじゃねぇかコラ!」
「ええ。実際余裕ですから」
「ッ……んだとテメェ……!」
驚きを隠せない。あのモードレッドを相手に完全に遊んでいる。北欧では二刀流だった大鎌を一本しか使っていない時点でそれは伺えていたが、まさかここまで実力差があるなんて。
私はチラリと仮面のセイバーの方を見る。あっちは哪吒とスパルタクスに任せていたが、相手は二人の攻撃を身軽な動きで避けながらも若干押されていた。
あのセイバーはそこまで強くない? いや、エルデンのサーヴァントたちのせいで感覚が麻痺しているだけか。だけどこれなら一対一でも渡り合えそうだった。
「哪吒! モードレッドの手助けをお願い!」
「了解。直ちに向かう」
「ッ! 行かせるとでも__」
「後は頼んだ
「フハハハハハ! 圧制者よ、死ぬがいい!」
指示を送れば哪吒は即座に動く。スパルタクスと動きの素早いあの仮面のセイバーは相性悪いかもしれないが、今は足止めだけしてくれればいい。
真っ先に排除すべきは、あの二騎だ。
「二対一とは無粋だな。人ならざる英霊よ」
「なっ……」
しかし、エルデンのランサーへ攻撃を仕掛けた哪吒の一撃は彼女の間に割り込むように現れた影によって防がれてしまう。
それは刀身に穴が幾つも空いた歪な大剣を持った、漆黒の騎士だった。
また新手のサーヴァント!? 霊体化して隠れていた? けどそれならマシュたちが気が付かないはずは……いや、現にエルデンのランサーの存在に気が付けなかったんだ、気配を隠す手段を持っていてもおかしくはない。
「不可解。どこに隠れていた?」
「フッ 別に隠れてなどいない。ただ傍に居ただけだ。我が主をお守りする為に」
僅かに退いた哪吒の問いに漆黒の騎士はそう言い、大剣を無造作に振るう。
するとその刀身が燃え上がる。その炎は墨のように黒く、禍々しい。
「……私は別に二人相手でも構いませんけど。これでは物足りませんし」
「あ゛ぁ゛ッ!?」
「あら、申し訳ありません。ご淑女」
「ぶっ殺す!」
何故かあの騎士を見て露骨に顔をしかめるエルデンのランサー。しかし、私はそんなことに構っている余裕は無かった。
__ヤバい。
戦況は最悪。一気に形勢が逆転してしまった。
圧倒的な力を誇るエルデンのランサーは勿論のこと北欧での戦いからあのアーチャーの体幹を崩すような剣技は防御主体のマシュでは不利。例え荊軻との共闘でも勝てるか怪しい。
加えて、あの実力が未知数な漆黒の騎士。痩せた体つきからは考えられない膂力で大剣を軽々と振るい、哪吒と打ち合っている。
このままではじり貧。それどころかエルデンのランサーが本気を出してしまえばあっという間に終わる。
一体どうすれば__。
【
その時、脳内に声が響く。
それはまるで耳が、脳が、魂が拒むかのようにノイズが走っており、聴くだけで頭痛が止まらない。しかし、聴き取れないにも関わらず何故かその意味を理解出来てしまう。
上を見ろ? 上に何が……。
「……え?」
言葉に従い、空を見上げた私は唖然とする。
そんな様子を訝んだマシュたちや芥ヒナコらも同じように見上げ、そして絶句する。
何だ、これは。
馬鹿な。先程まで何の変哲の無い青空が広がっていたはずだ。何故こんなことになっているというのに声に導かれるまで気が付かなかったのだ。
__そこには、“宇宙”が広がっていた。
◎
__中国異聞帯 某所にて。
「うーむ。少しばかり過剰戦力過ぎたか?」
エルデン・ヴィンハイムは、自身のサーヴァントの視界越しからカルデアとの戦闘を見物しながらそう呟く。
ランサーとアーチャー、そして何故かついて来た騎士ヴィルヘルム。加えて、
月の狩人が居るのだからこれくらいで釣り合うと思っていたが、逆に居なければその天秤は一気に崩れる。何せランサーは火の時代においても指折りの強者であり、アーチャーもまたそれに引けを取らぬ英霊なのだから。
カルデアが召喚したサーヴァントたちが決して凡百の英霊という訳ではない。特に叛逆の騎士モードレッドは一線級の英霊であるし、始皇帝への対策と考えれば彼らは妥当な面子と言えよう。
「汎人類史の英霊が助っ人に来ればまた変わってくるだろうが……よもや英霊が召喚される土台すら出来ていないとは」
そういうパターンもあるのかと、エルデンは驚いた。ロスリックでは毎日のように汎人類史の英霊たちが抑止力によって送り込まれ、“薪の王”を打倒せんと戦っている。
故に、それが当たり前だと思っていた。しかし、この中国では民は生きるうえで苦しみが一切存在しないため、何かを祈る必要が無い。祈るまでもなく満ち足りているからだ。
それがどんな影響をもたらすかというと、サーヴァントの召喚がある種の祈りによって行われる以上、祈る概念自体ないこのエリアでは、霊脈に霊基グラフが反応しない。そもそもの話、本物の英雄が冷凍保存されて全員生きているため英霊などという概念すら存在しないのだ。
「……ふむ。つくづく良い異聞帯だ。どこまでも人という生き物を貶めてくれる」
エルデンは笑う。実のところ彼はこの中国異聞帯を気に入っていた。戦という概念すら忘れ去られた永遠の平和と安寧が約束された世界。平定され過ぎたが故に、何の波風も立たず、歴史の行き止まりと判断された剪定事象。
何ともまあ、くだらない。
「けれど、これではつまらん。物見遊山気分のフリーデはともかく、弦一郎の奴めは本気のようだ。これで虞美人が本性を見せれば何もかもが終わってしまうではないか」
まるで遊戯に興じる子供のような弁。無論、周辺の音は消しているので始皇帝には聴かれていない。今戦っている同盟相手が聞けばブチギレそうな発言をしながらどうしたものかとエルデンは思考する。
結局のところ彼は協力者であるとはいえ、どこまでも部外者。カルデアVS中国異聞帯という演目の観客に過ぎず、その目的もこの異聞帯の存続ではない。
この場において、彼の目的はただ一つ。
「……ん?」
ふと、空を見上げた。
何の意味の無い行為。たまたま起きた事象により、彼は異変に気付いた。
「__何だと?」
静かに瞠目する。
今の今まで全く気が付かなかった。辺りはこんなにも薄暗くなっているにも関わらず。
そこには、神秘の宇宙があった。
空を引き裂くように、侵食するかのように、浮かぶように、黒い深淵に塵芥がキラキラと輝く広大な星空が存在していた。
狩人の仕業か? 否、彼らでは頭上に開いた小さな宇宙から星の小爆発を呼び掛けるのが限界なはずだ。これはもはや狩人が許される秘儀の範疇を越えている。
確かに月の狩人は上位者へと至ったが、彼は“月”の上位者の後継であるため完全に畑違いであるし、これだけの業を有するのならばとうに披露しているはずだ。
「……まさか」
エルデンは察する。これだけの規模の神秘__しかし、確かに見覚えがあったが故に。
それは悪夢の中の実験棟。その奥にある“星輪樹の庭”にて時計塔へ続く扉を守護する、失敗作たち。
彼らが見せた祈り。空に宇宙を、星界を浮かべるという奇跡にも等しい神秘の業。それと酷似しており、ならば次に何が起きるのかは明白であった。
「まったく……これだからヤーナムの気狂い共は……!」
自分のことを棚に上げながら、エルデンは杖と聖鈴を取り出し、詠唱を開始する。
同時に、青白く燃える流星群が降り注ぐ。