異聞帯がロスリックだった件 作:理力99奔流スナイパー
何だこれは……たまげたなぁ。いや、ほんとびっくり。こんな作品を評価してくださってありがとナス!
では、投下。あ、青タイツ兄貴好きな人には先に謝っておきます。申し訳ありません。
◎
おはよう47。
食べ物無くて困ってたんだけど駄目元でクリプターの皆に頼んだら何とかなったぜ☆の巻。これでババアから草買い占めなくてももう大丈夫!
いやまあ不死人だから平気なんだけどやっぱり美味い飯は食べたいなーって。というか食の楽しみくらいなきゃやってられないよこのロストベルト。マ○クくらいは漂白しなくても良かったんじゃない? オカマと眼帯ちゃんに感謝感激!
けれど、けれどね! ぐびちゃんが冷たい! ごめんてサプライズのつもりだったんよ!
けどまさか爆死するとは。真祖みたいな存在爆殺できる節穴くんの爆弾凄くない? 凄くない?
第一部で登場しなかったのはてっきり冷凍保存されちゃってるからかなーって思ってた。ほんとごめん。騙して悪いがこれも仕事なんでな(豹変)。
まあそれはそれとしてカルデアの連中がロシアに来るらしい。カドック大丈夫かなー? あいつ見るからに死にそうな見た目してるんだよな。一番手だし……うん死にそう。
さてさて、いつ来るかなカルデアは。ボス配置したいけどどこから来るか分からないかなぁ……うーん。そうだ、侵入ルートを細工すればいいんだ。できるか知らんけど。
じゃあ、早速取り掛かるとしよう! 今日も一日がんばるぞい!
__とあるクリプターの手記より。
◎
絵画で生まれ育った彼にとってその冷たい地は、捨てるべき故郷であった。
まだ何も、失ってさえいなかったのだ
「へぇ……こいつは驚いた」
冷たい谷のイルシール。
かつて、古い月の貴族の街と呼ばれていた幻の都。けれど、今やそこに過去の栄光は見る影も無く、雪と灰に埋もれ、狂った法王の配下たちと見えざる奴隷ばかりが蔓延る死した土地と成り果てていた。
その市街で最も大きな建物である聖堂の中に彼は立っている。
3mを優に越える巨躯。枝分かれした白木のような金の王冠。木の枝が張り付いたような白い仮面。派手な装飾が施されたローブ。
右手にはメラメラと燃える炎を纏った特大剣、左手には暗月を思わせる薄い紫色に発光する魔力を纏った大剣が握られている。
__“法王サリヴァーン”。
遥か昔、素性の知れぬ異邦の魔術師だったにも関わらずその力を以て旧王家を追放し、このイルシールの法王にまで上り詰めた男だ。
「あんたが、“薪の王”って奴か?」
「………………」
それと対峙するのは、真紅の魔槍を携えた青い槍兵。彼は獰猛な笑みを浮かべ、サリヴァーンを見据える。
彼は抑止力によって召喚された英霊たちの中の一人であり、戦いを求めてこのイルシールへ足を踏み入れた。……いや、街中に召喚されたと言った方が正しい。
イルシール全域を覆う結界は未だに機能し続けており、通過証である人形を持たぬ者は例えサーヴァントであろうと通れないのだから。
「外の騎士共もなかなかの腕前だったが……成る程。流石はあいつらの親玉ってことはある。あんたは連中と違って正気を失っていないみたいだが、何か言ったらどうだ?」
「………………」
槍兵が問うも、サリヴァーンは答えない。その代わりにゆらりと足を前へ踏み出す。
そして、次の瞬間には槍兵の目と鼻の先まで接近していた。
「___!?」
轟!! と空気を切る音と共に燃え盛る特大剣が振るわれる。咄嗟に槍兵は柄でそれを受け止め__そのまま思い切り吹っ飛ばされた。
「ぐっ!? ……ちぃ……!」
壁へ叩き付けられそうになるも、寸前でどうにか体勢を立て直し、床へ着地する。
何という膂力。その体格を込みしても槍兵の予想を遥かに上回る怪力だった。
「やるじゃねえか……相手にとって不足無しだ……!」
「………………」
直ぐ様サリヴァーンは追撃を行う。先程と同じように一瞬で距離を詰め、二振りの大剣を振り翳す。
対する槍兵は今度は受け止めるのではなく、槍の尖端で受け流すようにその連続で繰り出される熾烈な攻撃を受け流していく。
「オラァ!」
「…………!」
飛び散る火花。硬質な物体同士がぶつかり合う轟音。突風の如き余波。両者一歩も引かず斬り結ぶ。
(ちっ……なかなか踏み込めねぇ。攻撃自体は体格のせいもあって大振りだが、とにかく一撃一撃が速く、重い。こりゃ少しまずいかもな……)
内心冷や汗をかく槍兵。実のところ互角の戦闘を繰り広げているかに見えてかなり劣勢だった。
隙を見て反撃しようにもそうすればその猛攻に対応し切れなくなり、しかも右手の特大剣を振るう度に拡散する炎によって少しだが火傷を負ってしまっている。
このまま斬り合っていれば敗北は必至だろう。
「なら__!」
故に、ここからは捨て身の覚悟で向かう。
一撃を弾くと槍兵は床を陥没させる程の勢いで蹴り、サリヴァーンの懐へと飛び込んだ。
「っ__貰った!」
「………………!」
そして、そのがら空きとなった下腹部を紅槍が貫く。
「っ………… …………!」
「うおっ!?」
傷口から血が噴き出す。だが、サリヴァーンはまるで痛みなど感じていないとばかりに特大剣を振り下ろす。槍兵は飛び退くようにこれを回避し、一気に距離を取った。
「危ねっ……だが、一撃入れてやったぜ」
にやり、と槍兵は笑う。手応えはあった。出血もしている。堪えた様子は無いが、流石に全く効いていないということはないだろう。
しかし、無傷とは行かなかった。大剣が右肩を掠り、ポタポタと血が滴り落ちている。
サリヴァーンは呻き声一つあげず、槍兵を見据える。表情は仮面で隠されているが、心なしか睨んでいるように見えた。
「………………」
「相変わらずのだんまり、か。あんた、もしかして喋れないとかそういうのか? 人間じゃねぇみたいだし巨人……いや、どちらかと言えば魔獣の類いか?」
「……貴様らは」
「あん?」
人語を発することができないと予想を立てた矢先にサリヴァーンがぽつりと何か言葉を漏らすが、聞き取れず槍兵は耳を傾ける。
「__貴様らは、忌々しい」
ただ一言、そう呟く。
そして、次の瞬間。サリヴァーンを中心に黒い衝撃波が発生する。突然のことに怯んだ槍兵は一瞬だけ目を閉じ、次に開くとその顔を驚愕に染める。
「っ……何だ、そりゃ……!?」
それは異様としか形容することができない。背中から生えるのは一対の漆黒の翼。しかし、その風貌は鴉などの鳥類のそれではなく、まるで無数に枝分かれした樹木のようであった。
驚く槍兵に構わず、サリヴァーンが動き出す。先程の比ではない速度で。
「なっ……!?」
「醜い、愚かしい、死ね、すぐに死ね、即座に死ね、神の血を引く者よ、私の視界から、この世界から消え失せろ、一片も残らず」
吐き捨てられる憎悪の言葉。それらと共により熾烈な猛攻が槍兵を襲う。
(やばい……さっきとはパワーもスピードも段違いだ……! まだ本気じゃなかったのかよ……!)
思わず槍兵は悪態をつく。どうにか避け、受け流そうとしているが、とてもじゃないが捌き切れず、掠り傷を幾つも負う。火傷と合わさり、激痛が襲っていた。
普通に斬り合っていれば敵う相手ではない。槍兵はそう理解し、切り札を切る。
「ここで使う! 宝具!」
サリヴァーンから後退するように距離を離し、構える。その破滅の槍が紅く輝いた。
「…………させるか!」
あれはまずい。
あれは死ぬ。
あれをくらっては駄目だ。
あれを使わせたら駄目だ。
本能がそう警鐘し、サリヴァーンは槍兵を仕留めようと駆け出す。
「間に合え!
__みいつけた。
「「!?」」
その瞬間、空間が凍り付いた。
目を見開き、槍兵は宝具の発動を止め、サリヴァーンもまた足を止める。
「何だ……?」
「……まさか、“エルドリッチ”?」
きょろきょろと辺りを見回す槍兵。先程から悪寒が止まらない。
困惑、動揺、恐怖。何故かは分からぬが、身体が震える。否、己に流れる太陽神の血が、まるで天敵と遭遇したかのように震え上がっていた。
ナニカが来る__身体の全細胞がそう訴え、叫ぶ。
「■■■■■■■■■■__!!」
そして、それは現れた。槍兵の足元から、這い出るように。
「なっ!?」
それは槍兵が飛び退こうとする前に彼の足を掴み、無造作に床へと叩き付けた。床は陥没し、槍兵の身体が埋まる。
「がっ……何だ、こいつ……!?」
そこに居たのは、人骨と腐肉が混ざり合った巨大なドロドロとした塊。見るのも憚られる醜悪な異形の化け物__それこそが、先程から感じる恐怖の根源だった。
しかし、槍兵は恐怖に呑まれそうになるのを何とか振り払い、足を掴むそれを離させる為に槍を突き刺す。
だが、彼は勘違いしている。足は掴まれたのではない。噛み付かれたのだ。
「ぐあっ!?」
鋭い痛み。もはや生物の形をしていない液状のそれは全身が獲物を喰らい尽くす
そして、獲物は槍兵。足の骨が粉々に砕かれ、肉がゆっくりと消化されていくのを感じ、苦渋の表情を浮かべる。
「……ああ、そういうことか。こいつの神性の匂いに誘われてしまったのか」
その光景を見たサリヴァーンは暫し思考し、ある結論に達して納得する。
「どうやら貴様は、かなり高位の神の血を持つようだ。エルドリッチの奴がわざわざ出向く程とは」
「なに、を……!」
先程とは打って変わり、饒舌に喋るサリヴァーン。槍兵が睨み付けるのを気にも留めず、くつくつと笑う。
「__エルドリッチ。あまり勝手に動かないでもらいたい……と言いたいところだが、今回ばかりは私も危なかった。助かったよ、感謝する」
「■■■……■■■■■■■■■■■……■■■■■■■、■■■■■■■……」
「おお怖い怖い。我々は仲間だろう? 長い間、こうして仲良くやってきたんだ。もはや運命共同体という奴ではないか」
「■■……■■■■■……」
「ククク……冷たいなぁ、貴公は」
エルドリッチと呼ばれた異形は唸り声かも分からぬものを発するのみであるが、どうやらサリヴァーンには通じているようでさも普通かのように会話する。
周りから見れば異常な光景だった。
「くっ……!」
怯える神の血とは裏腹に槍兵の闘志は尽きておらず、もがくも肉塊は喰らい付いて離さない。
「っ……くそが……!」
「ん? ほお……」
ならばと槍で自身の足を切断することで拘束から脱出し、片足にも関わらず数mもの高さまで跳躍した。手に握られる槍は先程のように紅く輝いている。
一矢報いるとでも言うのか。宝具を発動するつもりのようだ。
「
「__存外、素早かった」
「ル__がはっ!?」
しかし、いつの間にか背後に移動していたサリヴァーンの大剣に心臓を貫かれる。
「だが、足を失えば……止まって見える」
「ぐぅ……テ、メェ……!」
吐血する槍兵。しかし、例え心臓を潰されたとしても宝具を発動するだけの戦闘続行能力が彼にはあった。故に、全身に力を込め、そのまま動こうとするが__その前に大剣に纏う魔力が爆ぜた。
「ごがぁっ!?」
体内で起こる小爆発。内臓まで弾け飛び、今度こそ動けなくなり、ピクピクと痙攣する。
「ククク……捕らえた餌は逃がさぬよう気を付けたまえ」
そして、サリヴァーンは大剣を軽く振るい、槍兵をエルドリッチの方へと投げ捨てた。
もはや抵抗も出来ぬ槍兵は地に落ち、その腐肉へと呑み込まれていく。ゆっくりと、バキバキと骨を砕く音と共に……。
「■■……■■■■……■■■……■■■……■■■……■■■……■■■……■■■……■■■……!」
「__よく噛んで食いたまえよ」
暫く咀嚼音が響き渡り、最後に呑み込む音と共にエルドリッチは床へ沈むように消える。
再び空間が静寂に包まれる中、サリヴァーンは二つの大剣と異形の翼をしまい、一息吐く。
「さて、と__来たか、クリプターとやら」
そして、後ろを振り向く。そこにはコートを纏った魔術師、エルデン・ヴィンハイムが立っていた。
「ご機嫌よう、法王猊下。何やら取り込み中のようだが、お邪魔だったかな?」
「いや、丁度終わったところだ。今日も侵入者を排除し、神の血を引く者だったから、彼の供物にした」
つまらなそうにサリヴァーンは言う。見え隠れするその黒ずんだ異形の素肌とは裏腹にその様子は理性的に見えた。
既に擬態は不要。故に、彼はその干からびた亡者よりもおぞましい姿を隠そうともしない。ただ仮面だけを除いて。
「ほう……流石だな、貴公。あのクランの猛犬を返り討ちにするとは」
「ん? 何だ、あれの真名を知っているのかね?」
「ああ。クー・フーリン。ケルト神話の大英雄だ。その宝具はゲイ・ボルクという魔槍で相手の心臓に必ず命中する呪いが施されているらしい。つまりは必殺の宝具という訳だ。因果の逆転によるものらしく、防御は不可能……一部例外は存在するが」
「……ふむ、成る程。やはりあれをくらえば死んでいたか」
「その通りだ。貴公は確かに強いが、不死ではない。故に、ああいう初見殺しは大敵だ。以後対策方法は考えておくといい」
サリヴァーンは神でも人でもなく、故に不死でもない。それはこの世界では、この時代では非常に珍しい存在だ。
「これはこれは。ご意見どうも……次からはもっと速く、もっと強く殴るとしよう」
「おお、素晴らしい脳筋思考だ。貴公、本当に魔術師か?」
「こちらの台詞だ。貴様にだけは言われたくない」
軽口を叩き合う二人。自身の二倍以上もある大男から見下ろされているというのに、エルデンは臆する様子も無く笑う。
「……で、用件は何だ?」
近くの長椅子に座るエルデンに、サリヴァーンが問う。今日彼が来るという予定は聞いていない。アポ無しということはそれなりに急な用件のはずだ。
「__ああ。以前に言っていたカルデアという組織が遂に動き出した」
エルデンは淡々とした口調で告げる。
「ほう……確か汎人類史とやらの連中だったか? 自身の世界を取り戻す為に、このロスリック含めて八つの世界を滅ぼすことが目的だという」
聞くに汎人類史という“本来の世界”は火の時代がとっくの昔に終わり、人の時代が築かれているらしい。
それがエルドリッチが待ち望んでいる“深海の時代”かは分からぬが、サリヴァーンにとって実に興味深い。今はもう滅びているのが残念でならなかった。
「そうだ。彼らは他の世界と戦い、勝ち続けるだろう。いずれここにもやって来る」
「で、私にどうしろと?」
「それなりの準備をしておいてほしい。貴公のステージはだいぶ先になる予定だが、早いに越したことはない」
「ほう……全身全霊で叩きのめせ、ということか? 随分と買っているようだな、そのカルデアとやらを」
「ああ。彼らは不死ですらない、ちっぽけな人間の集まり……しかし、だからこそ、侮っては駄目だ。憐れんでは駄目だ。そうやって魔神共は敗北した」
「どうだか。心折れるかもしれないぞ? これまでこの地を訪れた多くの“灰”たちのように」
「ならばそこまでの存在だったというだけに過ぎない。俺たちの大勝利で万々歳だ」
「ククク……相変わらず貴様は解せん男だ」
サリヴァーンは思い返す。このエルデンという男が初めて接触してきた時のことを。
彼はあまりにも知り過ぎていた。サリヴァーンの知ることも知らぬことも不気味なくらいに。直属の部下にすら秘密にしている自身の過去を言い当てられた時は思わず切り捨てようとした程だ。
そして、彼の計画を知った時は正気を疑った。否、実際に彼はどうしようもなく狂っていた。はっきり言って理解し難い存在だ。それでもこうして同盟関係にあるのは単に利害が一致していたに過ぎない。
故に、サリヴァーンは笑い、嗤う。ただ終わりを待つだけの時間。けれど、それは存外、面白くなりそうだと。
「__あら、随分と楽しそうね」
その時だった。
何かが現れる。最初からこの場に居たかのように、二人のすぐ目の前に。
「____!」
ほぼ条件反射の如くエルデンはそちらへ視線を向け、六つの“追う者たち”を展開する。サリヴァーンもまた二振りの大剣を手に取っていた。
「……何だ、貴公らか」
そして、相手を理解し、エルデンは顔をしかめた。
「そう殺気立たないでよ。貴方と違って私は不死身じゃないのだから心臓に悪いわ」
「嫌ならば玄関から入ってこい」
「ウフフッ……だそうよ? 檻頭さん」
「アッハッハッハッ 歩くのが面倒だから転送が良いと言ったのは君だろう? 女医」
現れたのは二つの影。一つは縦長の檻のような奇怪な被り物を被り、黒の学生が着るようなローブを身に纏った男。もう一つは二本のマフラーが特徴的な白い服に身を纏い、艶のある茶髪を一本に束ねた女だった。
一見すると共通点の無い両者。しかし、二人ともぎらつき、狂気に満ちた眼をしていた。
__“悪夢のフォーリナー”。
__“女医のアルターエゴ”。
それが彼らの呼び名だ。尤も、エルデンは既に真名を把握しているが……。
「……こやつらは何者だ?」
「先日、こちらへ接触してきたサーヴァントだ」
サリヴァーンが警戒心を露にする。本能的に目の前の男女の危険性を感じ取ったのだろう。
「これはこれは。お初にお目にかかる、法王。私のことはそう、悪夢のフォーリナーとでも呼んでくれ。そっちの彼女はアルターエゴだ」
「へぇ……神でも人でもなく、かといって獣でもない……興味深いわ。ねぇ、貴方。是非とも私の治験を受けてみないかしら?」
「……得体の知れぬ者共だな。特に男の方は妙なものと混ざり合っている。女の方も中身はもはや人ではなかろう」
「その通り。流石だ、貴公……あれらはもはや真っ当な英霊でもサーヴァントでもない」
まさか彼らが召喚されるとは。古都“ヤーナム”が流れ着くまでは夢にも思っていなかった。お蔭でもしやここは異聞帯じゃなくて特異点なのかもしれないとエルデンは常々疑っている。
宛ら亜種特異点フロム・ソフトウェア、といったところか。いずれ、エレギリア大陸、ボーレタリア王国、葦名までもが流れ着くかもしれない。いや、もう既にどこかに存在する可能性もある。
展開させていた“追う者たち”を消滅させ、エルデンは彼らに問いかける。
「__で、わざわざ出向いてきたということは、例の話が纏まったのか?」
するとフォーリナーとアルターエゴはその口角を吊り上げ、三日月のような笑みで言い放つ。
「その通りだとも。我ら“メンシス学派”はクリプター、エルデン・ヴィンハイムの軍門に下ろう。すべては、我らが夢を叶えんが為に」
「同じく“聖歌隊”も貴方の側に付くわ。他の皆を説得するの大変だったんだから、きちんと協力してちょうだいね?」
__ああ。素晴らしい。
エルデンは満面の笑みを浮かべ、椅子から立ち上がって彼らへ近付く。
「改めて歓迎しよう。__ようこそ、ロスリックへ」
◎
ロシア異聞帯。
そこはマイナス百度前後の永久凍土、従来の動物は死滅し、あらゆる生命が凍え死ぬ地獄。
「す、すげぇ……あれだけの
「あ、あんた一体何者なんだ……っ!?」
そんなどこか。“ヤガ”と呼ばれる、人と魔獣を合成させることで生まれた種族が驚愕していた。
理由は視線の先にある。純白の雪原に広がる血溜まり。二十を越える黒い兵士の屍の山の中心に何者かが一人、立っていた。
典礼用の帽子に、薄く笑う翁の仮面。
ベストと腰の青いローブが特徴的な騎士の旅装。
右手には刀身に文字が彫り込まれている大剣、左手には金色の円盾。
「__ミラのルカティエルです」
その人物は男の声で、しかし女性の名を告げた。