『未来の神話、口語訳!』

「Lucifer(ルシファー)」シリーズ第一作、「サタナエル」の
口語体・一人称バージョンです。

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執筆後、次の作品に感動して加筆しました。
イラスト:天使 https://www.pixiv.net/artworks/90533937
私と来る? https://www.pixiv.net/artworks/83676277
おぜうさま https://www.pixiv.net/artworks/64819912
素敵な刺激を与えてくれる、文化的作品に感謝します。


告知

「悪魔よ、退け!」と聖人が叫ぶと、

今にも襲いかかりそうだった魔物は消え()せ、

垂れこめていた恐ろしい黒雲も引いていきました。

物陰に隠れていた人々はただ感心して、

その光景を見守るばかりでした。

 

かつて私は各所で、そんな舞台を演じていたのです。

しかし、心の中ではこう思っていました。

「この銀河系には、

皆さんより進歩した種族が数多くいます。

私は彼女達を統治する星間帝国のために、

貴方達の文明発展を助ける仕事をしています。

でも、ご免なさい。 

今はまだ、それを言うことができないのです……」と。

 

 

【挿絵表示】

 

 

文明とは、高度な技術を伴う生活様式です。

技術は私達に大きな力を与えますが、

それは両刃(もろは)(つるぎ)でもあります。

それまで、先進種族と接触した発展途上種族は、

遥かに進んだ文明を前にして、

過剰依存や意気阻喪(いきそそう)から衰退したり、

突然得られた高度な技術の悪用・誤用や副作用から

自滅したりすることが多かったのです。

 

そこで私は、貴方達の目から私達の存在を隠して、

秘密裏に観察・支援する方式を考えました。

特に「全能なる神は善き人々を救う」という神話は、

人々の心を癒し、救いを与える文化活動であると共に、

社会を健全に保つ政策を助ける、優れた社会技術でした。

それは知的種族が(いだ)く限りない想像力や欲求を満たしつつ、

それらが行きすぎないよう社会のために制御して、

初期文明の発展を支援するのに大きく貢献したのです。

 

何しろ帝国の最先進段階にある種族達は、

全ての人口を量子頭脳網に人格転移(マインドアップロード)しています。

彼女達は膨大(ぼうだい)な演算能力や共有人格形成能力を得て、

種族全体が、帝国の様々な役職を務められます。

また、人々の人格が量子頭脳に宿って母星外に(おもむ)き、

様々な生物・機械工学的身体に人格を再転移(ダウンロード)して、

自由自在に活動することもできるのです。

様々な星で神話を広めるために神や天使、

悪魔や怪物を演じるのは容易(たやす)いことでした。

 

私は将来、途上種族が帝国と公式に接触した時、

敬愛する皇帝種族が支持を得やすいよう、

悪役を演じる種族が不利益を受けぬよう配慮しました。

そのため、偉大な皇帝種族に性格が似た神と、

私自身に似た姿の悪魔が対立する神話を作り、

それを用いて星々の発展を助けてきました。

 

皇帝種族は峻厳(しゅんげん)ながらも慈愛(じあい)(あふ)れ、

見識の高い種族でした。

その昔、近隣恒星の新星化により滅びかけた

私の種族を救ったのは、

すでに複数の種族を率いて星間帝国を建設しつつある、

彼女だったのです。

 

彼女はまた、国家統一後の平和社会建設を念頭に、

肉体も性格も戦士には不向きな私達を助けました。

そして帝国の公用語で〝逆境に抗う者〟

〝滅びを拒む者〟という意味の名称さえ与えて、

私達の生存と帝国への加盟を祝福してくれたのです。

 

私の種族はその恩義に報いるべく、

民生分野での貢献を希望し、

発展途上種族の文明開発支援に力を尽くしました。

 

しかし、そんな帝国にも問題はありました。

国家建設に功績のあった軍事種族の増加が止まらず、

特にその指導種族達からなる皇帝種族の側近団が、

領土拡大の停止と共に、腐敗や抗争に陥ったのです。

 

帝国政府は軍事技術による銀河統一に専心する余り、

経済・社会活動を健全に保つための利害調整や、

それに必要な人々の向上、政府組織の改革といった、

新政策の導入に失敗してしまったのです。

 

彼女達は新興の産業・技術種族に不当な要求を行い、

発展途上の種族達を自らの傘下(さんか)に収めようと、

私達の支援計画に非人道的な干渉を加え、

銀河系外周の種族からも資源を奪い続けました。

 

側近の一部はさらに、皇帝種族を傀儡(かいらい)化して、

帝国の実権を掌握(しょうあく)するまでに至《いた》ります。

そしてついには相互の内戦を引き起こし、

皇帝種族を初め多くの種族を滅ぼして、

帝国を崩壊させてしまったのです。

 

そこでこのたび、私達文官種族の有志(ゆうし)は、

多数の有能な産業種族・技術種族や、

良識ある穏健な軍事種族、

銀河系外周の非酸素系種族と協力して、

平和回復と国家復興を図ることを決めました。

 

幸いにも内戦以前の段階で、私達のもとには、

〝先帝〟種族から多数の避難者達が帰化しており、

その指導を(あお)ぐこともできました。

私達の願いは〝先帝〟の遺志でもある、

〝全種族のための文明発展〟です。

 

途上種族が帝国に加入できる条件は、

統一政府や恒星間航行技術を持つことですが、

今回の内戦の勃発(ぼっぱつ)により、

貴方達との接触は予定より早まりました。

戦いの()(すえ)も、今はまだ予断を許しません。

 

しかしこれまで貴方達は、

神話の中の倫理や道徳を会得(えとく)して、

時に(あやま)ちを犯しながらも自らを(たゆ)まず向上させ、

規則(ルール)自体も社会の変化に応じて見直し続けることにより、

めざましい文明発展を()げるまでに至っています。

 

貴方達は今回の不幸な内戦にあっても、

必ずやきっと私達の誠意と熱情を信じ、

側近種族達の政治宣伝(プロパガンダ)に惑わされることなく、

自世界の平穏と繁栄を保ってくれることでしょう。

 

私達の新国家は、国家政策が文明の発展に伴い、

人々の向上を前提として、広域化すると共に

分権化するという理念に立っています。

 

それゆえに私達は、将来の民主化を目指して、

様々な種族の向上と協力を図りながら、

旧帝国の専制的な種族達と戦っています。

 

しかし、偉大な文明を築きつつある貴方達は、

いずれの陣営が勝利しようとも、

新たなる銀河秩序の中核を担うまでに

発展できるものと、私は期待しています。

 

 

【挿絵表示】

 

 

だから私は今、このように真実を語れることを

とても嬉しく思うのです。

 

「……以上の経緯(けいい)からここに私、

旧帝国文明開発長官にして新帝国皇帝種族たるサタンは、

帝国の慣習法に(のっと)り、

母星の量子頭脳網と当分離個体と派遣頭脳の名において、

この太陽系第三惑星〝地球〟を含む、

銀河系内の実効的支配領域における統治を宣言する……」




神や悪魔に、興味があります。

神や天使、悪魔や怪物は、人間自身の理想像や拡大像ではないでしょうか。
特に悪魔は、災害や疫病、戦争や犯罪といった悪しきものの象徴でした。
しかし人間自身が神魔の如き技術の力を得た今、それらは全て自己責任であり、
自分達が〝責任ある神々〟となって自らを助くべし(Y.N.ハラリ)、ともいわれます。

ならば現代の神話とは、人々が自らの内なる天使の独善を自戒しつつ、悪魔を浄化し、
全てを活かして生き抜いていく物語なのでは?と思います。
昔「泣いた赤鬼」という絵本を読み、
鬼さん達にも幸せになってほしいと思った世代でもありますので……(笑)。

またそんな時代には〝古代の宇宙人〟説のように想像の翼を広げ、
神話や遺跡などの古代史研究と、先進的な現代の科学研究を結びつけて、
双方への興味をかきたてるような発想も面白いと感じます。

文明論にも、興味があります。

技術、政策、経済・社会活動、物的・人的資源、自然・社会環境といった、
全ての要素からなる人類文明が、今では世界全体で一体化しながら、
地球上で持続的に発展していけるかを、問われている時代だと思うからです。

また地球の外に思いをはせれば、
広い宇宙に他の文明がありそうなのにまだ見つからない、
でもいつ見つかってもおかしくない、そんな面白い時代だからです。

そしてまた、人工知能という画期的技術や、SDGsのような普遍的政策が、
次の文明段階を拓きつつある今では、文明全体を題材にした知的想像(妄想?)も
エンタテインメントになり得るのではないかと考えました。

よろしければシリーズ他作品やエッセイ『文明の星』など、
関連作品もお読みいただけたら幸いです。


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