「よう、行人、昨日は悪かったな」
俺が自席につくと同時にやってきた逸太が開口一番に謝ってきたせいで、出鼻は見事にくじかれた。
「…………」
「どうした、そんな顔の右半分で勝ち誇って、もう半分で怒り狂って?」
この複雑な感情が顔に表れてしまったようだ。無理もないだろう、だってだって、
「……貴様が去った後にだな、」
「ああ、まぁ会えてよかったろ?」
A-RISEの握手会抽選券の
「ふはん、なんか二人きりで写真撮ってしまったわ」
鼻息でロウソクを吹き消す勢いで厳然たる事実を口にした。
その前後は色々と忘れたいことのオンパレードだったが、撮ったという事実は変わらない。そして、それは羨ましいといえば羨ましい経験だろう。たぶん。
さぁジェラシーに狂うがいいと内心俺がほくそ笑んでいると、
「おーマジか、おめでとー」
目が点だった。
「……えぇ……〜」
予想だにしなかった淡白すぎる反応に俺は気弱な声を漏らしてしまう。
薄すぎるだろ、もっとぬおおおおお!! って叫びながら教室中をのたうち回れよ。芸人としての自覚がなさすぎる。そういう不真面目な人あたし嫌いなんだけど。
「それより昨日俺はあの後、
差し出されたスマホの画面に映る黒髪ロングの女子高生はワイシャツ越しに窺える――
「ボン・キュッ・ボン」
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
誘えよ、誘えよバカ!! 俺も拝みたかったこの子のダンス!!
わざわざジェスチャーでダイナマイトバディを表現する逸太の前で俺は転げ回っていた。
「いやぁ良かったぞウンウン眼福だった。暴れ回ってた、色々と」
おのれ、こんなかわいい子もスクールアイドルか。悔しいが三者三振させられたぐらい、どストライクなタイプだ。同じ学校だったら結婚を前提に清く正しくプラトニックな交際を申し込んでいたよ。何故男子校なのここは。何故右を見たら野球部の坊主頭が、左を見たらサッカー部の毛深い足ばっかりが目に入るの。
いや待て待て、というかなんでだ、なんでこいつはそんな幸せ一杯パイを堪能できて、俺は関西弁の女に絡まれて、A-RISEに目を付けられてんだ。世の中不公平だ。
もうやだ、行人、猫になりたい。通りを歩くだけでかわいい女の子にちやほやされたい。
心の中で慟哭する俺に、不意に忘れていた疑問が浮上してくる。
「……あ、なぁ逸太」
「ん? どうした」
「
ほう、と逸太は愉快げに、
「西日本の方じゃA-RISEより人気あるって言われてる、今のとこGステのスコアランキング2位の超がつく有名スクールアイドルグループだ」
学校は、大阪
現センターの名前は3年生の
ちなみに人数は4人グループなと逸太は付け加える。じゃあ、その内の1人があの
というか、そうすると気になることがある。穂乃果達にも関係する問題だが、よそのスクールアイドルのグループ人数ってどんな感じなんだろうか。
「まぁ、グループによってまちまちだな。ソロでやってる娘もいれば、俺の知ってる限り……22人が最大だったかな」
「22!? うっわ」
随分と多いな。そんなにいても許されるのか。他の一般的な運動部や文化部とさほど変わらない人数だぞ。俺の当然の疑問にも、逸太は、
「ぶっちゃけて言えば人数はいくらいても構わない。極端な話、生徒全員数百人でスクールアイドルグループと名乗ることもできる」
私たち! 煩悩ガールズ
ステージ上を所狭しと埋め尽くす100人の女子高生たちが脳裏に浮かび上がる。どんだけ大きな会場毎回用意すればいいんだ。踊るのすら無理ゲーである。
「重要なのは学校がそれを認めるかどうかと、ファンがつくか、だ」
仮にもスクール、アイドル、だからなと逸太は付け加える。やはり、音ノ木坂では穂乃果たちの言の通り最低5人集めねばならないということだ。
そしてそれは、実が伴っていなくてもいい。期せず逸太よりもたらされた情報は有用だった。
「……逸太」
「ん?」
「サンキュ」
一応礼は述べておく。が、
「……男のデレはキモいな」
全力で弾き返された。
くっそ、人がちゃんと礼儀正しくしてやればこれだ。ばーか、ばーか、絶交だからなゼッコー、はいもう今から口聞かないー。
「おっとすまん、つい心の声が」
謝ってないだろそれ、もしかしておちょくってんのかこやつは。
後で逸太の下駄箱に牛乳拭いた雑巾をぶち込んでおく私刑執行を心に決め、俺は腹を括った。
財布を取り出し、中に入れっぱなしだったカードを抜くと、蛍光灯にかざす。
「なんだ、それ?」
その逸太に問いかけ対する答えは、良くも悪くも
「……ジョーカー」
ぼそりとこぼしながら、俺はそこに記載されたメールアドレスをスマホに打ち込んでいく。
はたして虎穴に飛び込む羽目になるのか、あるいは飛んで火に入ってしまうのか。
……生憎と、いい予感は全くしなかった。
#25 “トラノアナ”
返信のメールの文面はこうだった。
『ご連絡ありがとうございます。お待ちしてました。早速なんですけど、本日の放課後って、あいてますか?』
あいてますと返すと、彼女はお話したいことがいくつかあるのでうちの学校まで来てもらえないかと送ってきた。呼び寄せるような真似をして申し訳ありませんと付け加えながら。
こうしたちょっとした気遣いを感じさせる辺り、この手の応対は手慣れているのだろうか。そんなことを考えつつやりとりしていると、
――いつの間にやら放課後にUTX学園にお邪魔することになっていた。不思議っ!!
ちゃんと部外者の訪問に関して、学校側には話を通しておくらしいので、前回の音ノ木坂の時みたいなことにはならない。と信じたい。ダメなら問答無用で、俺お家帰る。
重い足取りのまま、UTX学園の校舎を見上げる。これだけ駅に近いと便利だな、やっぱ。立地に関しては長ーい階段を上った先の、高台に位置する音ノ木坂と比べるまでもない。まぁ比べてどうすんのとも思うが。
さて、それは置いておくとして……周囲を見回す。
や、だって、ここ人通り多過ぎるんだもんよ。知り合いに見られる可能性はかなり高い。見られたら最後、やだなにあの人、女子校に入ってったんだけど。はい、一巻の終わりでジエンド確定でーす、お疲れでしたー。
故に、万に一つも目撃されることは許されない。
全身に意識を張り巡らせ、俺はとにかく見知った顔が辺りにいないかを確かめる。「おーい」右を見る、よし、「おーいってば」左、よし。背後も、いない。うし、いざ鎌倉――、
ぐいとネクタイを引っ張られると、目の前に顔があった。
「無視はちょっとひどいなぁ、行人くん」
口をへの字にする綺羅ツバサ、のだ。だが、一瞬でそれは笑みへと変わり、
「や、また会ったね」
「……これは、夢ディスカ?」
思わず白目を剥きかけた俺に、
「あらら~? それは夢でも私に会えて嬉しいってことかな~?」
「早く醒めてくれ、起きろ、起きろ俺」
頬をつねり、セルフビンタを始める。おっかしぃな、超痛い。
「うんうん、大丈夫だよ。そんなことしなくて安心しなよ、ここは現実、夢の終点だからね」
「俺は聞いていない、俺は聞いていないぞぉそんなこと-、はぁー起きろ、ほらほら朝ですよー俺、なんかチュンチュン鳴いてるのが聞こえませんかー」
なんかトサカが見える、いかんこれ以上はこっちも進んではいけない気がする。詰みました。ありません。
「いやぁ、やっぱ面白いなぁ行人くんは、たまたま下を見てたら見つけたから、迎えに来て正解だった、っとと……」
俺の手を掴むと、綺羅さんは走り出す。
現実から逃避し考えることをやめた俺は、抵抗することもなく、UTX学園の中へと引きずり込まれた。もうどうにでもなーれ♪
何やらハイテクなゲートを横に立っていた警備員のおっさんにヒラヒラと手を振るだけで、綺羅さんと余計なオプションである俺は素通り出来てしまった。行人知ってる、これ顔パスってやつ。
エントランスホールまで抜けると俺の手を離し、彼女は腰に手を当て胸を張る。
「ごめんごめん、ヘタに騒がれちゃうと、また
あえて気づかぬふりをしていたが、たしかにあのわずかな間でも通行人から注目を集め始めていた。視線が集まっていたのは当然、あのA-RISEの綺羅ツバサな訳で、俺はギリその視界から外れてる。といいなと思いました。
「……怒られたくないなら、ああいう真似はしないでくれないすかね」
「それはできないね」
一言で断じて、
「――面白くないから、それじゃあ」
もの凄くいい顔でそう言い切った。
思わず、こめかみを押さえる。ダメだこりゃ。俺の苦手な、……天敵といってもいいが、自分の絶対的な価値観に基づいた行動を貫くタイプだ。そこに他者に対する配慮などは存在しない。普通はすることを、このタイプをしようとすらしない。もっとも大概はそんなタイプは敬遠されるのだが、稀にその人物が持つ人徳、愛嬌、カリスマ、才能、で有無を言わさず他人を従わせてしまう、そんな人間もいる。
目の前にいる少女もその類に違いはなく、
そう、それはまるで、あいつやあの人みたいだった。
「にーやにや」
言葉通りに顔をにやつかせる……もういいや敬称をつける気が失せた、綺羅は、
「今、私以外の別の誰かのこと考えたでしょ?」
おい、さとり妖怪かこいつは。
そんな勘の鋭さ見せなくていいっての。ますますあの人みたいだわ。なんつったかな、上手いこと言った人もいるもんで、一文字で鬼、二文字で悪魔……まぁいいや、やめとこう。決して怖じ気づいた訳じゃない、そう、綺羅がじーっとこっちを見てくるもんだから、そうなんです。
意識を綺羅に向けた途端、待ってましたと言わんばかりに、
「ようこそ――我が、UTX学園へ」
彼女は両手を広げた。
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「え、えと、すごいことに……なっちゃいましたね」
絵里と別れた後、花陽と真姫はしばしA-RISEのライブの告知ポスターの前で立ち尽くした後、誰から言い出すこともなく、二人は帰路についた。
「……そうね」
互いの家がどこにあるのかは当然知らない。今のところ進行方向は一緒らしいが、どこで別れるのかも、またわからない。
帰り道を誰かと一緒にたどるのは、いつぶりだろうか。実際には、そう時間は経っていないというのにそんなことを考えてしまうというのは、知らずに相当堪えていたのかもしれないと真姫はどこか他人事のように自分を分析する。
「アナタは…………やるんでしょ?」
その口ぶりはまるで、
「えと、西木野さんは……?」
自分はやらないとでも言うかのようで。
花陽は動揺しながら聞き返す。ポスターの時の反応を見る限り、真姫もてっきりやるとばかり思っていた。
中学生以下限定ライブとわざわざ記載されている通り、あのライブは参加に条件がある。つまり早い話が、高校生は残念ながらお断りということだ。例外として、保護者の随伴は一人認められているようだが、そもそも付き添わせて欲しいと頼める年下の知り合いがいない。
だが、別れ際の生徒会長の申し出を思い出す。ライブにお客として参加することはできなくても、スタッフとしてなら少なくともA-RISEに会えるかもしれない。
下心と言ってしまえば聞こえが悪いが、わざわざ自分の学校にA-RISEが来てくれるというまたとない機会だ。指をくわえて眺めていられるほど、花陽もファンをやめていない。
――そして、それは、西木野さんだって一緒じゃないのかな。
「…………私は――」
口にしかけた言葉は、十字路が目の前に現れたことで遮られる。
真姫はそっと唇を閉じて、目でここからはどうするのと問いかけてくる。花陽の家は左だ。が、真姫の身体は心なしか右へと向けられている。
別れ時、なのかもしれなかった。
たぶん、ここでじゃあまた明日と互いに言葉を交わせば、ここで話は終わる。もうこの話題を持ち出すことはないだろう。
…………それでいいのか。
手を振って別れたら、真姫とせっかく結べた縁がほどけてしまうような気がした。せっかく、スクールアイドルについて語り合えそうな、同好の友達になれそうなのに。
今まで、スクールアイドルが『普通に』好きな子にはたくさん出会ってきた。『普通に』好きなら、今度近所でサイン会をやるから、一緒に、行こうよ。小さい頃、勇気を出して誘ったことも何度もある。
でも、
答えは、いつも「いや、好きは好きだけど、そこまではちょっと……」だった。
どうして断られるのか。それがわかったのは何度も繰り返してからだ。
わかってしまえば、簡単で、
結局、勘違いしていたのだ。
その子たちの「普通に好き」は花陽の「普通に好き」と食い違っていた。それだけ。
同じ、好き、なんだからきっと自分が誘われて嬉しいことをすればきっと相手も喜んでくれる。
そう単純ならば、この世界は優しさだけで出来ていたのだろう。
しかし、生憎と世界の構成成分は純粋ではなく、やがて花陽も、自分の好きが他の子たちで言う「大、大、大好き」に当たることを理解した。みんながみんな自分と同じくらい好きなわけじゃない。
わかってしまったから、もう無知ではいられなくなった。花陽はアイドルというものが大大大好きであるということをあまり他人には教えなくなった。押しつけが迷惑になってしまうのなら、最初から隔たりを作っておけばいいのだ。
親友である凛は、誘えばもちろん付き合ってくれる。
でもそうじゃなくて、もしも誘わなくても行く気満々な友達がいてくれたらとも、思ってしまうのだ。
そんな時、出会ったのが西木野真姫だった。
自分と同じくらいアイドルが好きかもしれない人。自主的に握手会に駆けつけて、至近距離で見るアイドルとの触れ合いに歓喜の声を上げる人。
ずっと夢見ていた友達になれるかもしれない人。
今日、クラスの戸川さんと西木野さんが険悪なムードになっていた。どういった経緯でそうなったのかはわからないけど、なけなしの勇気を振り絞って、本当は足が震えるくらい恐かったけど、おこがましいかもしれないけど、少しは力になれるよう、がんばった。
「――……あ、あのっ」
その時の勇気よ、もう一度と思っても、やっぱり声が震えてしまう。
「よければ、よければっ、です、だけど……わ、私、もう少し西木野さんと、お話し、したいです、な……」
緊張して、なんだか、敬語でいけばいいのか普通に喋ればいいのかがこんがらがってしまった。恥ずかしくて、顔に血が上ってくるのを感じる。
ぽかんと口を開けた真姫は予想していなかった花陽の誘いにうろたえる。この反応はどうなんだろう、自分からアクションをしかけたことなんて、数えるぐらいしか覚えがない。上手くいってるのか、そうでないのか、わからなかった。
「えあ、その…………」
しかし気づけば、真姫の顔も次第に赤くなっていき、目をきょろきょろさせ、顔をぶんぶんあっちこっち振り回した挙げ句、とうとう
「……な、なら、う、家に来ない?」
今度は、ぽかんと仕返したのは花陽の方で、やがて、安心したように、微笑みが花開く。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「で、まぁ……俺は来たわけですけども、何をすれば」
「うっちあわせ! うっちあわせ! うっちあわせー」
そんなまっくのうち! まっくのうち! みたいに言うな。デンプシーの動きしたくなっちゃうだろ。
「すみません……うちの綺羅が……いつもの調子で」
隣に座っている千歳さんが頭を下げる。いや別に、あなたが謝る必要はまったくないんじゃないですかね。と思ったのだが、某幼なじみHKが突っ走ったら俺が謝っていたことがよぎり、デンプシーなんかどうでもいい、シンパシーを感じた。
なんだろう、俺、千歳さんと凄く仲良くなれる気がするよ。
綺羅に引っ張られるまま、俺はUTX学園内を連れ回された。今回は一応、正式にお呼ばれしたわけだから、胸を張って闊歩したい所だが、如何せん年頃の女子達の可憐な視線にいざ晒されてみると恥ずかしくなっちゃった。キャ、行人ってば純情ー!
それにしても案内長くないすか? 校内ツアーみたいになってるんだけど、学食のおすすめメニュー言われても食う機会ないだろうし、隠れた昼寝スポットとか教えられてもどうしろって感じなんですが。
と内心首を傾げていた時、般若が現れた。
『ツ・バ・サ。こ・こ・で、何をしてるの?』
ちなみに俺の耳ではサウンドエフェクトがかかって、
『ヅ・バ・ザ。ヴォマエヲゴロズ』みたいに聞こえた。
その後、千歳さんは俺に見事なアイアンクローを披露してからにっこり笑うと、何事もなかったかのように『失礼しました♪ こちらです♪』と校舎上層部の教室というよりかはミーティングルームといった装いの部屋に案内してくれた。え? アイアンクローを食らった人は? ガシッ! バタッ! 綺羅は死んだ。アライズ(笑)
かくして、最初の構図に至る。
現在は、この部屋に俺、綺羅、千歳さんの三人で円卓を囲んでいる。目の前には紙コップではなく、ちゃんとした、しかも高そうな陶器の立派なティーカップが置かれ、茶褐色の液体が注がれていた。それを一口すすり、
「あの、そういや、A-RISEの他のお二人は?」
「あんじゅはお家の仕事だけど、英玲奈は今日も怪しいクスリを調ご――~~~~!!」
「諸、事情で、この場にはいないんです」
思い切り、綺羅の口元を鷲掴みにしながら千歳さんが答える。え、その掴んでる子アイドルですよね。しかも超有名な。
「い、いはいよ……文ぽぉん」
両頬を押さえながら、綺羅が抗議しているが、完全に無視する千歳さんパないっす。
「はぁ、というか行人くん二人に会いたいの? あんじゅは無理かもだけど、英玲奈なら呼べばたぶん来るよ?」
「ちょっと、ツバサ」
「いいじゃんいいじゃん。英玲奈は浮き世離れしてるけど常識人ってのが面白いトコなんだからー」
よくわからんが、でもまぁ人数が少ない方が気が楽なのは確かだ。それぞれに事情があるならわざわざ呼んでもらうわけにもいくまい。
「いや、大丈夫っす」
明らかに助かったという表情で千歳さんは、
「ありがとうございます。それで今日なんですけど、以前少しだけお話ししたA-RISEの新曲のPVの出演の件をお話ししたくて、ご足労願いました」
まぁ、当然そうなるか。そもそもそこがないと、彼女らとの関係が繋がらなかったわけだし。
「えー、その出演の具体的な内容としては、あー通行人Aとかですかね?」
いわゆるモブならば、出来なくもないと思う。深く考えずに、道を歩いたりすればいいんだろ? よし、俺の存在感の薄さ、見せてやるよ。
「あー、えっと、それがなんですが」
語尾を濁す千歳さんは、ちらと綺羅を横目で窺う。それに気づいた綺羅は任せてと言わんばかりに大きく頷くと、
「うん、私の相手役だね」
「…………は?」
そんな俺の声に、虎の穴の主は面白そうに――笑う。
【あとがき】
お待たせしますた。笑うという行為は本来攻撃的なものであり――みたいな対照的なお話です。
え、嘘、気づけば、な、夏が終わる……終わってしまう……
_(:3」∠)_