ロムに憑依しちゃった話。(仮)   作:ほのりん

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彼女が目覚めたばかりの話。
うまれた。


 ──薄暗くて空気がどんよりして、そこにいるだけで気分が落ち込みそうな場所。

 私とあの子はそこで戦っていた。

 お互いの武器を、視線を、何度も何度も交えてぶつけて。

 身体中に傷を負って、血を流して、どこかの骨が折れようが砕けようがお構いなしで。

 ただお互いに自分の目的を果たすために戦っていた。

 武器も身体もボロボロになって。それでも止まらず、ぶつけ合う。

 殺し、殺されるために。

 永遠にも感じる時のなか、永遠になってほしい時のなか。

 それでもやっぱり、何事にも終わりはあるもので。

 お互いボロボロで、傷だらけで、立っているのもやっとで。

 そんな状況で、倒れたのは私で。

 あの子は私に武器を向けて、殺そうとする。

 敗者の私は、それを甘んじて受け入れようとする。

 あの子の武器が私を貫こうとして、寸前で止まって、あの子は泣き崩れた。

 私はあの子の涙を拭こうにも身体が動かなくて、ただただあの子の口から紡がれる思いを聴いて、自分の甘さに嫌気がさして。

 そして──視界が真っ赤に染まった。

 

 

 

 それが、私が最後に覚えている記憶。

 今の私が覚えている、前の私の最後。

 これから始まるのは、“前”を知る、“今”の私の物語。

 つまらない話かもしれないけど、お付き合いいただけると嬉しい、です。

 

 

 

 

 


 今私の目の前にいるのは誰か。隣にいるのは誰か。

 初めて見る顔だ。だけど、私は彼女達を知っている。

 

 目の前の人は姉。隣にいるのは双子の妹。

 ()()()は、ルウィーの女神候補生、ホワイトシスター、またはロム。

 

 ……違う。私は……

 ……あれ? どうして? 私の名前は……

 だめ、思い出せない。それ以外のことなら、少しは覚えているのに。

 

 頭をひねっても、私の名前はノイズがかかったように思い出せない。

 確かなのは、今の私は『ロム』という名前の持ち主だということだけ。

 でもそれは無理矢理頭に刻まれたような情報。私が元々持っていた情報じゃない。

 

 私はどうしてここにいるの? 

 

 その疑問をどう考えても、答えなんて見つからない。

 ただ目の前で広げられる会話から情報を拾うだけ。

 拾った情報を整理すると、どうやら私と双子の妹はシェアが増幅した影響で生まれた女神候補生。つい数分前に生まれたばかりの赤ん坊同然と言われたときは、赤ん坊と一緒にするな、と言いたくなった。

 それから姉の名前は『ブラン』。双子の妹の名前は『ラム』。人間の名前は『ミナ』。

 これから私はこの三人と接しながら日々を過ごすことがわかった。

 が、それがわかったところで何故私が此処にいるのかわからない。いや、『ロム』が此処で生まれたから、といえば此処にいるのも当たり前だが。

 しかし私には記憶がある。名前は思い出せないが、確かに私は私として生きた記憶があるのだ。断じて生まれたばかりの存在ではない。

 

 じゃあどういうことか。

 それは私達が姉と人間に連れられて、これから私達が住む家である『教会』を見ていてわかった。

 正確には、私達が生まれた部屋を出てすぐの、廊下の窓に映る私の姿を見てわかった。

 姉や妹と同じ茶髪。まだ10にも満たない年齢に見える小柄な身体。

 私の記憶にある“私”の姿には程遠いその姿は、私が別人になったとわからせるのに十分だった。

 

 

 

 妹──ラムちゃんと一緒に、お姉ちゃんとミナちゃんに教会を案内されて、少しだけ言葉を交わして、その日は終わった。

 突然生まれたから当然だと思うけど、まだ部屋は用意できてないとのことで、お姉ちゃんの寝室のベッドに三人並んで寝た。お姉ちゃんを真ん中に、小の字で。

 いやそこ、身長差があんまりなくて小の字に見えないとか言わない。私も思うけど。

 

 次の日は街の案内。どこにどういうものがあって、あそこにはああいうのがあるというもの。

 ラムちゃんは色んなものに興味津々であっちこっち行っちゃって、ミナちゃんが追いかけてつかまえて、ってことが何度も起きた。

 私は私で驚いていた。いや、これは教会の案内の時からだったんだけどね。

 何に驚いたかって、科学と技術の違いに驚いた。

 道には均等に距離を空けて立っている先が曲がった鉄の棒。何かと訊けば街灯という電気で道を照らす物。ガラスのショーケースの向こうには鉄の枠に透明な板が貼ってあって、中に人がいる物は何かといえば、テレビという。公園で今の私と同じくらいの子どもが持っている物は? と訊けばゲーム機だそうだ。

 他にもいっぱい。電光掲示板、自動車、信号、家電、ゲームソフト、ゲームセンター、スマートフォン、パソコン。どれも初めて見る技術で作られたものだ。

 ラムちゃんがあっちこっち行って、ミナちゃんが苦労してる傍で、私はお姉ちゃんに夢中になって聞いてた。あれはなんだ。これはなんだ、と。

 お姉ちゃんは戸惑いながらもちゃんと教えてくれた。その時の私はお姉ちゃんが戸惑う理由がわからなかったけど、後でわかった。どうやら私はお姉ちゃんが生まれた時やラムちゃんより、現代の科学技術について無知のようだった。

 そんなこと言ったって、私は本当にこれらの知識が無いのだから仕方ないだろう。むしろ生まれたばかりのラムちゃんが知ってるのが驚きだ。多分生まれる時にその辺りの情報を得たんだろう。少しばかりずるいと思うが、それ以上に私は他のことを知っているはず。そう思ったら少しだけ優越感が芽生えた。

 

 この日もお姉ちゃんの部屋かと思えば、すでに用意はできてあったようで、私とラムちゃんは私達の自室となる部屋に通された。ラムちゃんは純粋に嬉しがっていたけど、私は一人でいられる時間が少ないのだと知ってがっかりした。

 そんな心の内を見せればラムちゃんは凄く悲しむことを私はわかっているから見せないけど。

 

 

 

 それから何日間か、色んなことが起きた。

 教会という場所は、女神や女神候補生にとっては住む場所だけど、教会職員という職業に就いた人間にとっては職場である。

 ということで教会で働く人間達に挨拶しにいった。教祖であったミナちゃんの指示でこの日は休日になっていた職員も含めて全員出勤したと知ったときは「鬼畜か!?」って思ったけど、実はそうでもなく。「できる限り出勤してね」と通達したら全員来てしまったというだけのことらしい。

 人が大勢いる中、前に立って挨拶するのは緊張する……かと普通の人は思うだろうが、残念ながら私は人の前に立つのは平気だった。ラムちゃんも持ち前の明るさを発揮していたから、平気なのだろう。

 

 別の日では、これから二人は定期的にお勉強をしましょう、とのことでミナちゃんが先生となって私とラムちゃんに色々教えてくれることになった。一般的な学業で習うことやルウィーのこと。私達女神や候補生に関することとか。

 この日はゲイムギョウ界や女神について教えてもらったが、ここでも驚くことが沢山あった。

 今のゲイムギョウ界には主な国が4つもあること。大陸の形状の変化。ゲームの形。女神の数。

 最近私達と同じように女神候補生が二人生まれたので、今は合計8人の女神と候補生がいるんだそう。

 ただその辺りも含めて私の記憶と全然違うので、さすがにここで私は、私の記憶にある時代と今の時代は違うんじゃないかと思い始めた。

 

 また別の日は、お姉ちゃんの仕事を観察しよう、とのことでお姉ちゃんの邪魔にならない範囲でお姉ちゃんの仕事ぶりを見ていた。とても真剣に仕事をするお姉ちゃんは、さすが一国の女神だね、と思った。

 

 

 

 そんな数日間を過ごしながら、私は今の私に集められる情報をできる限り集めた。

 新しい情報が入るたび、夜に寝るふりをしながら持っていた知識や記憶とどう違うか確認していた。

 シェアという存在は知っている。人間が女神に向ける信仰心のことだ。女神は人間が楽しく幸せに暮らせるように、国をよりよく発展させることで多くの人間から信仰してもらう。人間は特定の女神を信仰するかわりに、女神の加護がある安全な国の中で過ごす。

 この辺りは私の記憶やその常識と同じ。

 この世界はゲイムギョウ界と呼ばれている。私の記憶の世界もそう呼ばれていたから、同じ世界だ。

 技術が記憶の時代と比べて明らかに発展していたから、きっと私の記憶の時代より遥かに先の時代なのだろう。私の頃は電気は魔法属性のひとつでしかなく、生活に必要なエネルギーとして人間の手で生み出されるなんてありえなかった。

 ゲームも、私の頃は紙や木で作った、いわゆるボードゲームぐらいだ。時々鉄の駒で作られたゲームも出たけど、どれもこれも高いものだ。そういうゲームはお金持ちが買っていた。優しいところならお金を払って貸してもらうことができたと聞く。だから基本、多人数で遊べるものが好ましかった。

 しかし今は電気で動く機械で遊ぶそうだ。実際私もラムちゃんとお揃いのゲーム機とゲームソフトを買ってもらったが、紙や木のゲームと全然違う。カラフルで綺麗で動いて、ボタンをポチポチ押すと、その操作に合わせて画面が動く。

 しかもこれは誰かと協力したり、戦ったりできるが、基本一人でするものだという。一人でできるゲームというのが、私には物珍しく思えた。

 

 他にも知っていること、知らないこと。私の記憶の知識と全然違うこと。別人の身体。

 そういうのも合わせて、今の状況を推測した結果、私が辿り着いたのは、

 

 私が転生したか、この身体に憑依してしまったか。

 

 という考えだった。

 

 そう考えたら色々納得がいく。転生なら、輪廻転生の考えが正しくて、生まれ変わったのだと。記憶──前世の私を覚えているのは何故かわからないけど。

 憑依なら、何かしらの出来事で体と魂が分離して、魂だけが取り残されて、そこに丁度いい身体があったから移ったのだろう。それだとこの身体の元の主、本当の『ロム』に悪いことをしてしまった。もし彼女が表面に出てこないだけで今のこの身体にいるならば、即刻返したい。やり方がわからないのでまずは教えて欲しいけど。

 

 しかしそう考えたところで私は、更なる問題に直面した。

 それは、私がいつ死んだか、だ。

 記憶はある。この身体で初めて目が覚めた時は記憶の順番が混乱していたが、今ははっきりしている。幼少期のでき事も、旅をしていた記憶も。

 覚えていないのは、誰もが思い出せないようなこと。一週間前のあの日、家で何か食べたけど何食べた? ってぐらい。

 けどさすがに死ぬ直前ぐらいは覚えててもおかしくない。

 記憶をたどって、何度も思い出そうとしても、最後に覚えているのは視界が真っ赤に染まったことぐらい。肝心の死んだ場面が思い出せない。

 というか、私はそれで死んだんじゃないだろうか。ならば、あの子に殺されたんだ。

 そう思う、いや、思いたいのに、違うと確信している。私は残念ながら、あの子に殺されなかったのだと。

 

 じゃあ誰に殺された? そもそも殺された? どうやって死んだんだ? 

 

 結局わからないけど、とりあえず今のこの身体で私が生きているのは確かだから、今のこの時代で大人しく、女神候補生として生きることにしよう。

 ということで、ひとまずおやすみなさい。




彼女の意識は目覚める。ただ漠然と生に縋りながら。
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