ロムに憑依しちゃった話。(仮)   作:ほのりん

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ないておこって。

 お姉ちゃん達が負けて、私達が逃げ帰った次の日のプラネタワー。

 その最上階付近に存在する、特別な会議や重役が使う特別会議室。

 その一室に、私達女神候補生と四か国の教祖が一堂に会していた。

 集まった目的は単純で、女神が負けた今、自分達はどう行動するかというもの。

 具体的には犯罪神及び犯罪組織に対する対応や対策、敵の情報共有。他にもいろいろと、国営に詳しくないとわからない単語ばかりが飛び交っていた。

 

 その中で唯一私達が反応したのは、守護女神の現状。

 どうやら私が危惧していた女神の死は回避されているようで、今は弱ってはいるものの、死んではいないらしい。

 そういうのはシェアエネルギーの配分率でわかるとミナちゃんが教えてくれた。例えばルウィー全体のシェアを100とするなら、普段はお姉ちゃんが50、私達はそれぞれ25の割合で配分されているとして。もしお姉ちゃんが死んでいたら、お姉ちゃんの分の50が私達にそれぞれ割り当てられるらしい。で、現状その50はそのままお姉ちゃんに供給されてるから、死んではいないだろうということがわかるのだと。

 で、じゃあ女神は今どうしてるかというと、ギョウカイ墓場に囚われている可能性がほぼ100%だろう、と。しかも治療も何も受けていない、シェアエネルギーが届きにくい場所である。そう言うことを踏まえると、弱ったままだろうとミナちゃん達は考えてる。例え僅かなエネルギーで少しずつでも回復したとしても、あの敵……マジック・ザ・ハードや他の四天王の手で傷つけ、弱らせられる。

 きっと殺しはしない。もしそのつもりなら、今頃お姉ちゃん達はこの世にいない。

 だから女神の生死に関しては安心できるところはあるにはあるんだけど……それで本当に安心できるかといったら、安心できるかボケェ! と怒鳴られるだろう。いや、実際には誰もそんな言葉で言わないけど。

 

 そんなわけで焦らず、けれど迅速に、確実に、誰の犠牲も払わず女神を救出すること。その作戦の立案も、この会議では掲げられた。

 その作戦にはもちろん私達候補生が必要。というか、救出するのは女神の妹である私達でなくてはいけないらしい。

 理由は簡単。人間共が今後犯罪神ではなく、無信仰になることもなく、女神を信仰させるため。守護女神の失敗は、女神候補生が尻拭いしろ、と。

 それに関してはラムちゃん達は元からやる気。むしろ自分達を蚊帳の外に置こうものなら怒り出すよ。

 

 そんなわけで作戦内容も話し合うことにはなったんだけど……私達はその前に会議室から追い出された。

 いやこの言い方は悪意があるけど、実際には私達候補生はまだ未熟だから、会議に参加できない、しても意味がない。そういう事なんだと思う。

 それは否定できない。私も国営に関しては全くの無知だし、ラムちゃんも同じだと思う。ネプギアとユニもそんなに優秀じゃないと思う。作戦の内容だって、ただ聞いてるだけで提案なんてできそうにない。

 で、更に理由を考えるなら、私達……特にラムちゃんとユニの心境を考えて、会議よりも落ち着かせるための時間が必要だって考えたんだと思う。

 だって二人は今日初めて知ったのだ。

 

 守護女神(お姉ちゃん)が負けたって。

 

 

 

「なんで……どうしてなのよ……」

「ユニちゃん……」

 

 最上階のプライベートフロアに場所を移しても、ずっとこの調子で俯き続けるユニ。

 ラムちゃんもずっと私の手を離さなくて。力が込められたその手を離してしまったら、ラムちゃんは崩れちゃうんじゃないかって、そう感じてしまったら不安で仕方なくて、私もずっと、その手に力を込めていた。

 

「ユニちゃん……ユニちゃん、あのね──」

「ねぇ、ネプギア。アンタ、お姉ちゃん達と戦いに行ったのよね?」

「う、うん……そう、だけど……」

「ならどうしてアンタは帰ってこれて、お姉ちゃんは帰ってこないのよ! アンタよりお姉ちゃんの方がずっとずっと強いのに、なんでっ……!」

 

 ネプギアの言葉を遮って訊くユニの様子はどこかおかしくて。ネプギアも戸惑い気味に、そしてどこか後ろめたい気持ちがありそうな、そんな曖昧な返事をして、ユニの感情があふれ出す。

 

「それ、は……」

「お姉ちゃん言ってたわ。絶対勝って、ラステイションに平和を取り戻すって。そう言って出て行ったのに……お姉ちゃんが負けるなんて……」

「……ごめんなさい。私が未熟だったから……」

「っ、そうよ。なのにどうしてアンタが戦いに連れて行ってもらえたのよ! もしアタシが……弱いアンタよりアタシが連れて行ってもらえたら、お姉ちゃんが捕まることもなかったかもしれないのに!」

 

「ネプギアが代わりに捕まっちゃえばよかったのに!!」

 

 泣きそうになりながら叫ぶユニの、最後の一言は、ネプギアを傷つけるのに十分な威力を持っていた。

 

「っ、……ご、ごめ、ん……ごめ……なさいっ……!」

「ネプギアちゃん!!」

 

 ユニの言葉を聞いて、徐々に溜まっていった水が、ついにダムの壁を壊して流れ出して。

 ネプギアは、その場から……ユニから、逃げた。

 その悲しそうな背中がどうしても放っておけなくて、かといって今この場でユニに言いたいこともたくさんあった。

 だから私は任せた。

 

「ラムちゃん、ネプギアちゃんのこと、たのめる……?」

「ロムちゃんはどうするの?」

「わたしは、ユニちゃんとお話することがあるから」

「わたしもいる。ロムちゃんといっしょがいいの」

「ごめんね。でも、ふたりっきりでお話ししたいの」

「むぅ……わかったわ。でも早くおわらせてきてよね!」

「うん」

 

 そう言って扉の向こうへ駆け出すラムちゃんを見送ってから、私は猫を外す準備をして、改めてユニと向き合った。

 

「……ユニちゃん」

「な、なによロム。話って」

「さっきのことでね。ひとまず──」

 

 ユニの傍にいって、右手を上げて──ユニの頬を叩いた。

 

「……え」

「さっきの言葉、さすがの私も怒るよ」

 

 その言葉に怒気を含ませ、睨みつけながら感情を露わにする。

 ユニは、突然のことに動きが固まり、そして徐々に動かした左手で、叩かれた頬に触れた。

 

「なん、で……」

「なんでって、何が。私がユニちゃんの頬を叩いた理由? 私がネプギアちゃんを庇う理由? それともなんでお姉ちゃん達が選んだのがユニちゃんじゃなくて、ネプギアちゃんだったのかってこと?」

「…………ぶ……」

「なに?」

 

 小さな蚊の鳴くような声に訊き返すと、ユニは怒りを爆発させるように怒鳴った。

 

「全部よ! どうしてアンタがアタシを叩くのよ! どうしてアンタはネプギアを贔屓するのよ! なんでお姉ちゃんはネプギアを連れて行って……アタシを連れて行かなかったのよ!!」

 

 その声は悲鳴のようで──私にはただ子どもが駄々をこねているようにしか見えなかった。

 

「……わからないの? 全部?」

「わかんないわよ!」

 

 呆れた。何も考えずに即答するその姿も、自分の放った言葉の意味も、その効果もわからないと言う彼女の姿に。

 わかってる。まだ彼女は幼い。最初から少女の姿で生まれてしまったから勘違いしそうだけど、それでも彼女はまだこの世に生を受けて数年なんだ。見た目より幼いし、未熟。考えが及ばないのもわかるといえばわかる。

 むしろなぜ私は怒れるのか。きちんと理解できるのか。考えをくみ取れるのか。そっちの方が不思議だろう。

 けれどちゃんとわかってるから。わかってしまっているから。私は怒れるし、怒らないといけない。このまま放っておいたら、彼女は自分の仕出かしたことに気付けるかわからないから。

 

 ふっ、と短くため息を吐いて、なるべく言葉が辛辣にならないよう選びながら言った。

 

「……私がユニちゃんを叩いたのはね、さっきも言った通り怒ったから。ネプギアちゃんを贔屓にしてるわけじゃなくて、今のはユニちゃんが悪いと思ったからこうしてるだけ。お姉ちゃんがネプギアちゃんだけは連れて行った理由はわからないけど、ユニちゃんを置いて行った理由はわかるよ」

「なら教えて。どうしてお姉ちゃんがアタシを置いて行ったのか」

 

 少しは自分で考えなさい。なんて思いながらも、ヒントくらいは言う。

 もし、ユニが女神と共にギョウカイ墓場に行ったら。

 もし、今回同様に女神が負けたら。

 もし、ネプギアのように逃げることができず、捕まってしまったら。

 もし、国に女神が一人もいなくなれば。

 

 そこまで言ってようやくわかったらしい。自分がここに残るよう言われた理由が。

 他にも姉として妹を心配したとかもあるだろうけど、ユニには女神としての理由の方が効くと思うし、そこは姉に直接聞いてほしい。

 

 まあホントになんでネプギアを連れて行ったのかわからないけど。女神化できるから、ってだけだったらあほらしいけど。

 

 それからどうして私が怒ったのかも教えてあげた。

 いくら姉が負けたことを認めたくなくても。いくら姉に帰って来てほしかったとしても。代わりに誰かが捕まる。そんな犠牲は認めてはいけない。女神としても。友達としても。

 それに、例えネプギアの代わりにユニが行こうが、どっちも付いて行こうが、ラムちゃんも付けようが、結果は変わらない。それほどまでに戦力に差があった。

 五十歩百歩なのだ。結局。

 むしろ被害が四女神だけに留まっただけ良い方だ。これでもし女神も候補生も全員捕まるなんてことになれば、それこそ世界の終わり。

 そうならなかっただけマシなのだ。

 それに……

 

「ユニちゃんはネプギアの気持ちを考えなかったの? 目の前にお姉ちゃん達よりもずっとずっと強い敵がいて。お姉ちゃん達は呆気なく倒されて。自分は何もできなくて。……ネプギアちゃん、昨日、泣いてたんだよ」

 

 怖かった。歯がゆかった。悔しかった。悲しかった。

 そんな言葉で片付けられるほどネプギアの気持ちは単純じゃなかったはずだ。

 もしあの場にネプギアではなくユニがいても、私には同じ光景しか頭に浮かばない。

 どっちもどっちなのに、ネプギアの気持ちを無視した発言は見逃せるはずがなかった。

 むしろこれがラムちゃんに向けての言葉だったら……だめだ。拳に赤い液体が付着する未来しか見えない。

 

 うん、だからまぁ、ビンタなんて軽いよ、うん。

 

「ネプギアが……」

「……言葉は時に凶器になるんだよ」

「っ! ……ごめんなさい、アタシ……」

「謝る相手が違うよ」

「……そうね。行ってくる」

 

 そのまま駆け出したユニは扉の方に向かって、途中で足を止めて振り返った。

 

「ロム。……気付かせてくれてありがと」

「どういたしまして」

 

 ほんの少しだけ憂いの色が薄れた表情のユニを見送って、いなくなって。

 そうしてようやく訪れたたったひとりの時間に、気持ちを切り替えるように大きく深呼吸した。

 

 さて、これから何をしよう。

 女神奪還作戦。これに必要なのは当然ながら戦力。例え候補生がいようと、成功しなければ意味がない。

 じゃあ、どれほどの戦力が必要となる? 

 普通の武器じゃダメ。軍隊を総動員しようが、軍事兵器を総導入しようが、犯罪組織には……四天王には勝てない。

 

「……昔なら、もう少しマシだったのに」

 

 人間もモンスターも女神も、あの頃はもっと強かった。今のスライヌベスと昔の雑魚……今のスライヌと同じ立ち位置にいたモンスターを戦わせても、昔の方が勝ってた。それだけじゃなくて、もっと上のメタボスライヌとかフェンリル相手でも勝ったんじゃないかな。

 人間も、三人寄ればエンシェントドラゴンくらい倒せる。

 女神ひとりで今の上位危険種を倒すのなんて当たり前のことだった。

 

 ……いや、そもそもあの頃は女神はひとりしか存在してなかったのだけど。

 

「……鍛える、しかないよね」

 

 弱いなら強くなればいい。力を欲するならそのために行動すればいい。

 

 ラムちゃん達もそうだけど、私自身も強くならないといけない。

 今までの、ラムちゃんの少し上をキープするだけじゃなくて、そのずっとずっと上。お姉ちゃんも、他の女神も、一対一じゃなくて、多対一でも確実に勝てるほど強くならなくちゃいけない。

 そうしなきゃ、ラムちゃんも、お姉ちゃんも守れない。

 世界を守れないとかよりも、大切な人を守れない方が、私は嫌だ。

 

 だからこその行動……をしないといけないんだけど、とりあえずどうしたらいいんだろう……

 まずラムちゃん達と一緒は無理。皆同じように強くなりたいと考えてるだろうけど、私と皆とじゃ求める強さが違う。

 皆は今の自分より強くなりたい。新しく力が欲しい。そういう考え。

 私は今の自分より強くなりたい。けど欲するのは新しい力じゃない。昔の……あの子に匹敵するほどの力を持った存在(自分)を取り戻したい。

 求める強さの種類が違う。目指す強さが違う。成長度が違う。

 ラムちゃん達と特訓でも鍛錬でもなんでもしても、私にはレベルが低いし、逆に私に合わせたらラムちゃん達にはレベルが高すぎて付いて来れない。

 だから私はラムちゃん達とは別で鍛えたいんだけど……

 

「……そういえばあっちの方に良い具合のダンジョンがあったような……」

 

 昔の旅をしていた頃の知識を引っ張り出して、鍛錬に丁度いいダンジョンがあったことを思い出す。

 モンスターの強さは今のに合わせて下がってるだろうけど、それでも今の私には丁度いいはず。

 確か……そう、今のでいうならルウィーのあの雪山はまるまる一つがダンジョンだったはず。……今も変わらなければ、の話だけど。

 あんなところ、女神の加護は届かないからモンスターも湧き放題だろうし、加護がないってことは人が住むのに適してない。つまり人が少ない、もしくはいない。

 それならいろいろ安心できるし、鍛錬相手もたくさん。地形もなかなかハードだし、うん。いけそう。

 心配事といえば寒さだけど、私にそんなの関係なし! 魔法使いだもん。

 食料も、クエストを受けて稼げばなんとかなる。あとその辺のモンスターを狩ったりとか。

 寝床も、適当に作ればいいよね。

 

 

 

 ……うん。決めた。私、山籠もりする!




彼女は怒る。彼女の過ちを。
気持ちに人一倍敏感だからこそ、怒ったのだ。
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