ロムに憑依しちゃった話。(仮)   作:ほのりん

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じょうほうもとむ。

 仕事で自分が雇用主となり人を雇うとき、どの場合においても必要なものというのが存在する。

 残念ながら前の私は雇用主などなった経験は一度もなく、逆に雇われとして人間にこき使われていた時期があった。……屈辱だったかと言われれば、奴らを全て殺せたらよかったのにと思う程度にはある。もっともまともな職ではなかったし、そのストレスと感情をぶつけられる仕事でもあったからその程度なのだ。

 で、今の私はというと、なんと驚き雇用主側となっていたのだ。……女神候補生だからね。誰かに雇われることの方が珍しい立場だから、当然といえば当然。

 

 それはともかく、今の私に必要なものというのはずばり、情報だ。

 

 

 

 あの場で彼に出会った次の日。候補としては優良な人間の情報を手に入れる為、まず私が最初に行動したのは女神の仕事部屋へ潜入することだった。

 とはいっても私はお姉ちゃんの妹だ。妹が仕事部屋とはいえ姉の部屋に入ることに何の違和感もない。いずれその跡を継ぐということになっているのだから余計に。だから部屋に入るまでに気を付けたのはミナちゃんに見つからないようにすることだけ。ラムちゃんは見つかっても付いて来ても、その内容が理解できないだろうからどっちでもよかった。口止めさえしていればいいのだから。

 

 久しぶりに盗聴魔法を発動させ、チャンネルを部屋の中に合わせ、中に誰もいないことを確認してから中に堂々と入った。ここでこそこそしてしまえば、それを目撃した人間に怪しまれてしまうかもしれないから。堂々としていれば、人間は勝手にこちらの都合のいいように捉えるだろう。

 お姉ちゃんの部屋の中は確認した通り、誰もいない。だが埃が積もっている様子もないから、私達の部屋の掃除を担っているミナちゃんが変わらず毎日掃除しているのだろう。いつこの部屋の主が帰って来てもいいようにと。

 

 だからなんの心配もなく、私はお姉ちゃんの仕事用のPCの前に座り、起動させる。パスワードを求められたけど、以前お姉ちゃんが入力したときのキーを打つ順番は覚えているから、その記憶通りにキーを叩けば呆気なく開いた。……ねえ、文字列では覚えてなかったけどさ、こうやって入力してみるとMashiro Yukinomiya1215って……誰? 前にラムちゃんと一緒に本にイタズラ書きしたときに見た名前と読み方は同じだけど……

 ともかくホーム画面が映されて、そこから教会職員の個人情報が載っているページへアクセスする。それもパスを求められたけど、これは上層部に共有されているパスだった。以前偉そうな人間ので見たパスコードを入れればすぐに開いた。……ねえ、私自身が特殊だとは思うけどさ、ちょっと警戒心なさすぎじゃない? セキュリティそれで大丈夫? 

 

 まあそんなの知ったことじゃないので気にせず、ページに表示された名前から彼の名前を探そうとして……そこで気付いた。そういえば私、彼の名前聞いてない、と。

 諜報部員というのは聞いている。それで数多くいる人間の中から僅か十人ほどの人間に絞り込み、そこからさらに名前が男性っぽいを絞り込めば残りは六人。

 この六人のうちどれかが彼の情報だが、どれが彼なのだろう。片っ端から開いてみるか? 

 試しにファイルを一つ開けば、そこには顔写真付きの雇用書があった。一目で彼ではないと判断できる。

 これなら残り五つのファイルを開けば、どれが彼のかわかる。

 ポインターを動かし、クリックし、次から次へと開けば、五つ目で彼の雇用書が出てきた。

 

 家族構成は……両親だけ。現在一人暮らし。年齢は……まあまあか。……へぇ、先祖代々教会に務めてきたんだ。あ、志望動機は国が好きだから……って昔から変わらないんだ。資格は……おお結構多い。有能なんだ。戦闘に関しても高評価。まあプラネテューヌのあの諜報部員も戦える人間だし、諜報部員っていうのは戦闘もできなきゃ入れないんだろうな。あ、評価内容も書いてある……個人の能力は高いが集団活動能力は著しく低く、団体での行動や連携作戦に向いていない。つまりソロプレイ専門ってことか。まあ昨日もサボったりしてたし、ぼっちだったんだろうなぁ……どこかの女神と同じで。……あれ、誰か今「誰がぼっちよ!」って言った? って部屋には誰もいないのに聞こえるわけないかー。

 

 さて、書面でわかる情報は掴めたし、次は現場かな。

 

 

 

 お姉ちゃんの部屋を後にした私は、昨日同様に様々な部署の集まる区間へ赴き、数ある扉のひとつに向かい、その扉を軽く四回叩いた。

 すぐに返事が聞こえ、扉が開かれる。開いた人間は、昨日もこの部屋にいた人間だった。

 

「あら、まあまあっ! ロム様、また来てくださったの? もしかして諜報活動にご興味が?」

「……えっと、ききたいことがあって……」

「訊きたいこと? まあまあなにかしら。他国の情報? それとも犯罪組織について? はたまた他国へのスパイの仕方かしら~?」

「おいおい。前の二つはともかく、最後のはロム様が知りたがるわけないだろ。てかそこで話してないで中に入れて差し上げろ」

「はーい。どうぞ、ロム様。あっ、ジュースはりんごでいいかしら?」

「……うん。おじゃま、します」

 

 お喋りな人間(女)を止めたのは、この部の長で、名前は確か……興味なかったから忘れたんだった。昨日も会った。

 昨日と同様に足を踏み入れた諜報部の部室は、昨日とほぼ同じ。この人間二人と、あと二人の男女のみ。その二人が別の人間に入れ替わってはいて、物の位置が一部動いていることぐらいしか違いはない。

 どうやら彼はいないらしい。

 だから昨日と同じように部屋に通された私は、そこにあった椅子に適当に腰かければ、部長もその近くに座り、すぐそばの机の上にお喋りな人間(女)が中身の入ったコップを置いた。

 その中身に毒が混ざっていないか、こっそり魔法で確認し、何の異常もなかったのがわかってからその中身に口をつけた。……まあ女神はある程度の毒は効果がないらしいからそこまで怪しむ必要もないとは思うが。

 

「それでロム様。我々に訊きたいこととは何でしょう」

「えっと、あのね……」

 

 いつも通りの口調で彼の名前を出し、どういう人物なのか聞きたいと言うと、部長は何故か「あぁ……彼のこと、ですか」と悩まし気に言った。

 何故自身の部下のことを聞きたがっていると言っただけでそんな顔をされるのかわからないが、目の前の男にとっては嬉々として話せるような人物ではないのだろう。お喋りな人間(女)の動きも固まり、こちらにぎこちない笑みを向けていた。ずっとこちらの一挙一動を興味あり気に見ていた人間二人も、ぎょっとしていた。

 そこまで彼の印象は悪いのか。まあこの人間達がどう言おうと、私は私の直感と判断を信じるだけだ。必要な情報のみをこの会話から引き出せばいい。

 部長は十数秒悩み、重たそうにその口を開き、話した。が、大体は書面に書かれていた情報通りで、変化はない。

 だがそれを話している間、部長は時々彼を悪く言うような言葉になっていて、それに気づいたときはすぐに別の言葉に言い直していたが……それはつまり、部長にとって彼の印象はとても悪いものなのだろう。能力はいいから自分の下に置いてはいるが、なるべく仕事以外で関わりたくないと。どの人間社会にもいるタイプだったのだろう。与えた仕事はきちんとすると言っていたし。……逆を言えば与えた仕事以外はしない、ということでもあるから、能力が高いのか低いのか……

 あとサボってるのはばっちりバレてるようだ。それについても部長は頭を抱えていると言いそうになって、相手が私であることを思い出して誤魔化していたけど。

 そうそう、部長以外の部員の印象も同じようだ。いや、同僚である分、部長よりも酷いように見える。だって私が退出するとき、まるで私のことを思って言っているような言葉で、彼に関わらない方が良い、とわざわざご忠告したのだから。

 まあ嫉妬の色がばっちり見えたから、表面だけのお礼を言って終わったけど。

 

 さて、これで書面では見えない情報もわかったけど……

 嫌われてるのか。なら……

 

 

 消えてしまっても、問題ない。

 

 

 

 しばらくして、私は昨日と同じ時間にあの場所へ行った。どうせ教会の中を探し回っても無駄な気がしたから。

 だから昨日と同じ椅子に彼が座って煙を吐いているのを見たとき、自分の予想が当たっていたと少しばかり嬉しくなった。

 けれど彼に挨拶した時、彼の言葉で自分の予想が少し間違っていたのだとわかった。彼が言うには、私が諜報部に訪れた後、彼もまた諜報部に顔を出していたそうだ。そのときに同僚から妬み言葉を言われ、私が訪れたと知り、昨日と同じ時間にいれば私が来るのではないかと予想したのだと。予想が当たっていたのは彼の方だったのだ。

 彼の思い通りに動いていたことにムカついたけど、そもそもこの場に訪れた目的を言う方が先だと考え、伝え、その言葉を聞いた彼の言葉は。

 

「それって楽しいのか?」

 

 その一言だった。

 ……いや、うん。

 

「聞いて一言目がそれなの?」

「だって重要だろ? モチベーションを保つには」

 

 ……まあわからなくもない。確かに楽しいと思える仕事をやりたいし、そういう仕事があれば率先してやるだろうし。

 

「だけど判断基準がそれでいいの?」

 

 楽しいからといって楽とは限らない。楽しそうだからと受ければ後で痛い目を見るのは彼の方だ。そのときに泣き言なんて言われればうるさいし、苛立った衝動で手を出しかねない。……その結果彼が仕事できなくなるのは、この国にとっては少し痛いだろうし。

 だが彼の返答はもっともであった。

 

「あのな、俺は昨日お前さんのことを「上司とは思えない~」とは言ったけどよ、それでもお前さんが俺に仕事を任せるってことは、それは上司から任された仕事になるわけ。部下が上司からの仕事を簡単に断れるわけないだろ?」

「一応ミナちゃんはあなたの意思を尊重させてって言ってるけど」

「それでも上司から直接言われれば、それは命令と変わらねぇよ。しかも意思を尊重してくれるのは教祖様であってお前じゃないし」

「うん。私はあなたがどう言おうが無理矢理連れていけるのなら、他の選択肢を探す手間を惜しむよ」

「じゃあやっぱ命令じゃねぇか。俺に断るって選択肢がないなら受けるしかない。だったらせめて楽しいかどうかぐらいは知りたいじゃねえか」

「ふぅん。……楽しいかどうかで言えば、楽しいかもよ。非日常的で」

「へぇ、正確にはどういうところが非日常的なんだ?」

「雪山でモンスター達と戯れたり、洞窟で焚火を眺めたり、リアルダンジョン攻略したり」

「あ~、うん。確かにそういうことするなら教祖様も心配で護衛の一人くらい付けたくなるわなぁ……」

 

 どこか遠い目をする彼に、ああそういえば彼には「修行に行きたいけど条件に護衛一人付けないとダメになったから」としか言ってなかったな、と振り返る。

 けど彼は今回の仕事、受けてくれるようだし、気にすることはないか。

 これで条件は全て満たした。用意ができ次第明日にでも出発できる。

 そう思っていれば、彼は「だが本当にいいのか?」と訊いてきた。どういう意味か訊き返せば、「だってお前さん、諜報部で話を聞いたんだろ? ならあいつらの俺への態度くらいわかったんじゃないか?」と言った。

 そうだな、私でなくともはっきりわかってしまうほどだったが……

 

「あなたが嫌われてることと、私があなたに仕事を依頼すること。何か問題があるか? ないだろう? むしろ好都合だ。なんの問題もなく有能な人材(あなた)を引き抜けるのだから」

 

 仲間から抜けてしまっても問題ない。元から仲間として認識されていないのだから。

 どこかへ消えてしまっても問題ない。たとえそれがこの世だとしても、彼は好かれてなどいないのだから。悲しむ(面倒な)人間など、私の周りにはいない。

 なら躊躇いも遠慮も必要ない。むしろあの人間達は笑顔でくれそうだ。もう苛立つ存在などいないのだから。

 

 そう言えば、彼はぽかんと、間抜けな顔を曝した後、大笑いした。お腹を抱え、机を叩き、はては「お腹いてぇ」と言い出す。

 だが笑いが治まり、伏した顔をこちらに見せた時、憑き物が落ちたような、すっきりした顔になっていて、そこで気付いた。そういえば先ほどからずっと、彼の纏う空気は昨日より暗かったと。

 僅かな差であったし、私が気にすることでもないと無意識に処理していたのだろう。今こうして差を見せられたから、そういえば、と気づいたのだ。

 なるほど、彼にとってあの人間達の態度は少しばかり心にきていたのか。てっきり我関せずを貫いているのかと思っていたが。……これは少しばかりミナちゃんに進言しないと、後でお姉ちゃんとラムちゃんの精神に影響してしまうかもしれない。ふたりは身近な人間に影響されやすいし……

 まあそれは今日の夜にでも遠回しに伝えておこうかな。どうせ早ければ明日から私と彼はしばらくいなくなるのだから。後の対応も対処もミナちゃんに押し付ければいいのだし。

 

 結局昨日同様の時間に私と彼は別れた。彼に「明日には出発したいから、明日朝7時にエントランスに来て。次の日に一度帰るから荷物は一日分でよし」と伝えれば「おいおい明日って、忙しいじゃねえかよ。……ったく」と文句は言っていたけどあの口ぶりなら時間通りに必要な荷物を整えて来るだろう。仕事は有能だと書いてあったし、かつては警備兵だったとも書いてあった。警備兵はサバイバルのようなこともすると聞いてるし、彼にもその経験があれば最低限の荷物くらいは揃えてくるだろう。そこは期待してもいいかもしれない。まあ持ってこなくても連れてくけど。

 

 時間も時間だったからそのままダイニングルームに直行すると、既にミナちゃんお手製料理が完成していて、お箸やコップ、取り皿を机の上に並べる作業をお手伝いして、ラムちゃんを呼んできて、一緒に食事した。今日の料理はラムちゃんが好きなハンバーグ。私もハンバーグは好きな料理のひとつではあるが……どちらかといえば食べ応えのあるステーキの方が好きだな。ハンバーグは柔らかいし。

 まあ文句なんてありもせず、あったとしても言わず、例えこの体になってから食べることを躊躇ってしまう食材があったとしても無理矢理腹におさめ、良い子は貫く。

 ……ごめん、むり。お水おかわりください。

 となりつつも、その食事の間に二人に彼が護衛を引き受けたことと、明日にでも出発することを話した。

 ミナちゃんは「明日、ですか? それは少し急ぎ過ぎでは……」と言われたけど、もう用意はできているし、一日でも早くお姉ちゃんを助けたいと話せば渋々頷き、彼の手続きはしてくれると言う。

 ラムちゃんはすっごく寂しがったけど、それでも『約束』があるから平気って言ってくれた。やっぱり心配になったから、せめて少しでも和らげるように、寝る時はいつも通り隣で、いつも以上にぎゅってして、ラムちゃんの寝顔を見て、覚悟を決めた。

 

 この際手段は問わない。どれだけ傷を負おうが、どれだけ負荷がかかろうが、一日でも早く求める強さを身に付けて、ラムちゃんのもとへ帰る。そしてお姉ちゃんを絶対に助け出す。絶対にまた三人で、あの幸せな毎日を取り戻すんだ、と。




彼女は求める。かつての彼女が求めてやまなかったものを。
一度知ってしまったからこそ、失しても再び求めるのだ。
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