ロムに憑依しちゃった話。(仮)   作:ほのりん

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かわらぬもの。

 準備は既に完了していた。

 とはいっても必要なものを片っ端から異空間に放り込み、必要ならば獲りに行き、必要最低限以上を目安に揃えていただけ。

 けどこれで飢えることはない。凍えることもない。いざとなれば魔力でどうとでもなる。

 けどそれは私だけの場合で、追加の一人分……それも人間用の準備は怠っていた。

 いやまさか一人だけと思っていたのが二人になるなんて思いもしなかったし。

 けど彼はサバイバルの経験がある……と思う。元警備隊所属であるならばその仕事を全うするための知識や経験くらいはあるだろう。彼らは日夜街の中で、街の外で、常に治安維持に努めているのだから。

 だからまあ、もし彼の方に何か足りないものがあれば、私のを貸してやればいい。……タダはヤダから、それ相応の対価を求めるとしよう。

 

 そんなわけで私の装備品といえば、昔買ってもらったラムちゃんとお揃いのリュックサックに、一泊分と予備の着替えとミナちゃんから持たされたお弁当が入っていて、首にはこれまた持たされた水筒が。服装は防寒用のジャケットとズボン、それからハイキングシューズ。

 その他は全部異空間に放り込んだから、見た目はこれだけ。ちょっとした登山に行くって言われたら納得されそうな服装だよね。

 あ、服と靴を用意したのはミナちゃんね。……うん、この程度の服しか用意してくれなかったってことはそんなに過酷なことはしないと思ってるんだろうね。

 まあこれ以上用意されても動きづらいだけだから好都合だけど。

 さて、ミナちゃんはこの装備で良しと言っていたけど、それはミナちゃんが想像する私の修行がその程度だと思っているからであって、もしこの姿の私を彼が見たらどう思うのか。

 サバイバル経験のない人が見ればこれでもいいと思うんだけど、彼は当然経験があるわけで。

 

「……おい、本当に修行に行くんだよな? ちょっと一泊の遠足に行くだけじゃねえよな?」

「……遠足だったらラムちゃんも連れていくよ」

「じゃあなんだその装備。雪山なめとんのか」

「それはミナちゃんに言ってよ」

 

 時間通りに現れた彼が挨拶もなしに最初に口にしたのは、私も想像できていた文句。

 エントランスには誰もいない。職員の出勤には早いし、夜勤の人は既に帰り支度を始める時間だから。

 おかげで素で彼の言葉に返せるし、彼も素で話せる。

 

「外に出る前にどっかアウトドアショップでも寄るか? といってもまだ開店には早いしな……」

「いいよ、このままで。私にはこれで十分なの」

「ほぅ……そういやお前さん女神だしな」

「そういうこと。じゃ、行くよ」

 

 返事は求めてない。行くことは既に決まってるんだから。

 

「おいおい、俺まだ行き先とか聞いてないんだが」

「じゃあ道中で」

「……あいよ。ったく、こりゃ先が思いやられるな」

 

 後ろで彼が何か言ったけどそれに反応する気はない。

 こっちだってミナちゃん以外の人間を連れて歩くなんて思いもしなかったんだから。扱いなんてその程度でいいと思うし。

 

 

 

 ──ヒラヤマ山。それが今回の修行場所。

 北の国ルウィーの更に北部にあるその山は、(前の私が旅をし始めた頃よりも)ずっと昔からそこにあり、その名で呼ばれていた。名前の由来とかはわからない。知る気もない。

 ただその名に相応しいように山頂はとんがっておらず、平べったいフィールドになっている。(前の私から見ても)ずっと昔の女神が吹っ飛ばしたらしいという伝承は聞いている。

 古の文献(というか前の私の記憶)によればわざわざその土地に家を建てて暮らす民族がいたが……今も生きているのかは不明だ。

 標高は数千m。詳しくは確認してないから曖昧な高さだけど、とりあえず山頂からずっと下の方に雲海が見える高さではある。

 モンスターは当然生息しており、不思議なことに麓に生息しているモンスターは比較的弱いが、頂上へ行くにつれて強くなるという性質がある。

 だからこそ修行にはもってこいの場所であり、過酷なその環境は精神を鍛えるのにも向いている。

 

「──と、以上がこれから向かう先の説明」

「……なあ、質問良いか?」

「ん」

「俺達、一泊二日で帰ってこなきゃならないんだよな?」

「ん」

「……修行する暇あるのか……?」

「ない」

「乗り物があったり……」

「ない」

「ああ、お前さんが俺を持って飛ぶんだな?」

「むり」

 

 北部も北部。最北部。行って帰って来るのに果たしてどのくらいかかるのか。

 私だけなら半日ぐらい。魔力ブースト使って、だけど。

 さて彼を連れて歩くとしたら、まず一泊で帰ってこれるか? って距離。

 

「……いやおい待て。まさか歩きか?」

「走る?」

「どっちにしろ自分の足で移動しろってことか!?」

「当然。修行だからね。まず己の力で到達できないと意味がない」

「俺への配慮は!?」

「ない」

「ちくしょう!」

 

 しょうがないじゃん。元々一人の予定だったんだから。

 

「……じゃあ、とりあえず予想してる予定時間は教えろ」

「……駄々こねないの?」

 

 人間には道中だけでも過酷だし、嫌がられると思ったんだけど。

 

「こねたってしゃーねぇだろ。俺はもう仕事を受けちまったんだから」

「ふーん」

 

 我慢強いのか。責任感が強いのか。

 

「……ミナちゃんから与えられた時間は一日。その程度であなたを連れて山に到着した上に修行できるとは思ってないよ」

「……? じゃあどうするんだよ」

「まず目標は今日中に山に着くこと。それだけでいい」

 

 山に着ければいい。まずその道中で今の自分がどれだけならできるのか確かめる。

 そして今の体を慣れさせないとね。

 

「なんだそれでいいのか……焦って損したぜ……」

「あなたが望むならもっと過酷になるよう用意するけど」

「いやいや今のでも十分だからな!? だから増やすんじゃねえ!」

「ん」

 

 自然が理不尽に負担を増やしてくるときもあるけど……まあもしものときは魔法で支えればいいのかな。人間も身体強化ぐらい使わせれば使えるだろうし。

 

 

 

「……なあ、今どのぐらいだ?」

「2割ぐらい」

 

 

「……なあそろそろ休憩しねぇか?」

「いいよ」

 

 

「なんか雲行き怪しいな」

「小雪ぐらいは降るかもね」

 

 

「おい、お天道様が真上だぞ」

「食べよっか」

 

 

「おっ、あのキノコ採取してこうぜ。今晩の夕食用によ」

「だね」

 

 

「なあ、道に迷ってないよな?」

「ん」

 

 

「何割だ?」

「8」

 

 

「言葉が少なくなってないか?」

「会話をご所望なら諦めた方が良いよ」

「ちぇっ……」

 

 

 

 大体一時間ごとに話しかけられながら、時々現れるモンスターを倒しながら進むこと数時間。特に問題もなく、さらに日が落ちきる前にヒラヤマ山の麓へ到着した。

 適当な場所にテントも張れたし、持参した木材で火を焚いて道中で獲った食材に火を通して食べれたし、星空綺麗だったし、特にモンスターの襲撃もなく寝れたし、そのまま朝を迎えられたし。

 

「平和だ」

「それでいいだろ……くあぁ……」

 

 まだ眠そうに大きな欠伸しながらもテントを片付ける彼を背に、まだ白くなり始めたばかりの空と、少しずつ姿が見えてゆく山を見上げる。

 頂上は雲に遮られて見えない。

 けれどその姿もまた、昔と変わらない。

 

「……ねえ、例え話していい?」

「んー?」

「例えばもし自分が眠っている間に世界の時間がずっとずっと進んでて、次に目覚めたときには自分の知ってる人も物も街もなかったとしてさ。そんな未来になっちゃった世界で、どれだけ時が経とうと変わらないものを見つけたら、あなたはどう思う?」

「はあ? なんだそれ」

「良いから答えてよ」

「へいへい。そーだなぁ……安心、するんじゃないか?」

「そっか」

「なんだよ、急に。それがどうかしたのか?」

「別に。ふと思っただけだよ」

 

 「ほら、さっさと帰るよ。約束の時間までそんなに余裕ないんだから」って彼を急かし、私は一人でさっさと歩きはじめる。その少し後にザクザクと雪を踏む音が聞こえる。

 

 ……そうだね。そう思うよ、私も。




彼女は例える。今という未来を。
そうしたところで今という時間は変わらないのに。
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