ロムに憑依しちゃった話。(仮)   作:ほのりん

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ゆきやまどうくつ。

 “決められた日時までに帰れば、少しずつ期間を延ばす”。

 その約束通り、ミナちゃんから与えられた時間は一日ずつ増えていった。

 僅か一日だけ。けれどその積み重ねは大きく、教会から山への往復が10回目に到達する頃には一度に与えられる期間は一週間を超えた。

 けれど同時に、お姉ちゃん達が捕まってから約二か月が経っていた。未だにお姉ちゃん達を救出する目処は立っていない。

 だからってお姉ちゃん達の身が危ないわけではない。どうやらマジック達には何か考えがあるようで、未だにお姉ちゃん達を捕らえてる。つまり生かしていることは、シェアエネルギーの繋がりからわかっている。

 この現状がいつまで続くかはわからない。今日か明日にはこの世から消えている。その可能性だって無くはない。

 敵がどう考え、どういう目的でこの現状のままなのかはわからない以上、私達はお姉ちゃん達の無事を祈るしかない。

 

 なんて、私がただ両手を組むだけで終わると思う? 

 当然、やれることはやってるよ。

 

『……っ…………』

「……ん。今日もよし」

「どうだった?」

 

 そう訊いてきたのは私の護衛(という名のただの付き添い)の彼。

 その彼に今聞こえてきた音からの情報を伝えると「ならよしだな」と返ってきた。

 

 やれること、その一。

 あの日お姉ちゃんに渡したお守りは、今もお姉ちゃんの傍にある。

 お姉ちゃんが大切に持っていてくれたから。だからお守りは壊れず、中の魔法も壊れていない。

 壊れていないのなら当然使えるってことで。

 そのことに気付いてからは毎朝こうしてお守りに聞こえるお姉ちゃんの息の音や僅かに動く音を拾って生存を確認している。本当は姿も確認したいけど、残念ながらそこまでは想定していない。むしろ盗聴魔法が無事なおかげでこうして生死が確認できているだけ幸運だと思うしかない。

 

 けどこうして常にお姉ちゃんの無事を確認できるのって、実は結構精神に負担がくる。

 だって無事だってわかるんだよ。わかるけど……助け出せない。傍に行くことすらできない。その原因が自分の力の無さで、どうしても歯がゆくて仕方ない。誰かのせいにして気を紛らわそうとしても、結局自分に返って来る。結局はお姉ちゃんを止めなかった自分のせい。平和を言い訳に努力を怠った自分のせい。そう返って来る。

 怒りが自分の中に積もっていく。自分に向けたところで何もできない怒りで更に積もっていく。

 

 けど今はその怒りは全て敵にぶつければいい。

 物理的に、ね。

 

「グオオオオッ!」

「うるさい」

「ガッ──」

 

 握りしめた右手がその腹を捉え、打ちぬく。その一撃にモンスターは耐えられず、一瞬で電子の海へと還っていった。

 まったく……身の丈に合わない敵を襲うから……

 

「ははっ……アイスフェンリルがワンパンで……」

「なにぼーっとしてるの? 先行くよ」

「ぉおいおい待ってくれよ。俺を置いてくな。この辺りはもう俺一人じゃ危ねえんだから」

「じゃあ下で待ってればって言ってるでしょ。別にいいよ、無理に付いて来なくても」

「じゃあ言い返すが、嫌だって言ってるだろ? 俺はお前さんの護衛として付いて来てるんだ。給料を貰ってる以上、仕事はきちんとこなせないとな。……まあもう既に俺が護衛される側になってるが……」

「人間程度に護衛されるほど、私は最初から弱くないの。……まあ仕事に忠実な犬は嫌いじゃないよ」

「犬って……俺は犬扱いか……」

「犬が嫌なら狸でもいいけど」

「どっちにしたってイヌ科じゃねーか!」

 

 ……狸も可愛いうえに美味しいから良いと思うんだけどな……

 

 

 

 雪山っていうのは、通常の山よりも圧倒的に難易度が高くなり、そこで暮らすとなると更に厳しい環境である。

 まずその気温。昼も寒いが夜もずっと寒い。それだけで凍死する確率が高くなる。

 次に食料確保。植物のほとんどが育たない中、偶に食べられる植物が育っていることもあるが、そのほとんどが雪に埋もれてしまっている。それを掘り起こすのも大変だが、雪を掘ったとしてそこに植物があるかは運でしかない。蔓がある場所や木の根元ならば可能性は高いが、絶対でもない。事前に持ってきた分がなければ、私達も少しばかり危ういかもしれなかった。

 そして食料を見つけたとして、それははたしてそのまま食べれるかと問えば、違う。生のまま食べれるものもあるが、そのほとんどが火を通さなくては美味しくいただけない。が、その火を焚火で灯そうとしても、風があればすぐに消えてしまうし、雪が降れば小さな火種は消えてしまい、なかなか火が点かない。

 他にもいっぱいあるが、中でもモンスターがここには生息していることが、更に難易度を上げているように感じる。何せ睡眠中に襲ってこないとは限らないからだ。彼らは食料となるからこの山にいて欲しいが、寝ている時だけはいなくなっててほしい、なんて我儘を割とガチに思った。 

 というわけで……

 

「洞窟、作ってみた」

「いやそんな動画サイトにあげるような感覚で言うなよ……」

 

 そう彼が呆れているのは、斜面にある横穴のこと。

 ちなみに私が言った通り洞窟で、作り立てほやほや。三十分前までは何もなかったそこに、入口は人一人分の大きさで、中は二人で入っても狭くないくらいには広い洞窟……というか部屋ができていた。……なんだか某サンドボックスゲームの山を掘って作ったみたいな洞窟になった。まああの作り方を真似て削ったんだけど。

 

「でもこれなら寝てても寒くない。夜襲もそんなに心配ない」

「まあそうなんだが……」

 

 煮え切らない答えに、何をそんなに不満なのか、と思っていると彼は「……なんかもう、一々驚くのも馬鹿臭くなってきたな……」って小さく呟いた。

 ……そんなにかな。これぐらいならお姉ちゃんでもできそう。まあお姉ちゃんだとハンマーだから入口はもっと広くなっちゃいそうだけど。

 

「とにかくしばらくはここが拠点」

「はいよ」

 

 まあもし不便があれば改良したり、別の場所に作ればいいよね。

 

 

 

「ところでさ、食料が尽きそうなんだけど」

「じゃあ街で買えばいいだろ」

「そのお金も尽きそうなんだけど」

「…………」

 

 ごめん、毎日三人前くらい食べてた私が悪かったからさ。そんな無言で「おいおいマジかよ……」って目で見ないでよ。しょうがないでしょ元々お小遣いで貯めてたお金しかないんだから。

 

「なんならあなたがお金を出してくれてもいいんだけど」

「勤務中の部下の食事は経費だろ。ということで俺に支払いの義務はないな」

「……ケチ」

「しっかりしてると言ってくれ。てかお前さんが教祖様に経費として申請して貰えばいいだろ」

「……それはあんまりしたくない」

「なんでだよ」

「ミナちゃんに、私が修行を止める理由を与えたくない」

「あー……本当はお前さんがこうしているのは反対したい人だしな、教祖様。言いたくない気持ちもわかるが……」

 

 ミナちゃんだってお姉ちゃんを助けたい気持ちはあるんだけど、だからって私が傷つくのはイヤっていう過保護なとこがあるから。普段なら気にしないんだけど、今は厄介だなって思っちゃう。だからこそ条件を呑んでこの男といるし、一々帰ってる。向こうが提示した止めさせる理由を失くしてるんだから、自分から増やしたくない。

 

「……ならいっそ、ギルドでクエストを受けたらどうだ?」

「それは良いと思うけど、それだとお金が貯まるまでの間、街の中で過ごすことになる」

「それの何が悪いんだ?」

「……わざわざ外で寝るのもいいけど、どうせ街にいるなら家の中で過ごしたい。けど教会にはあんまり帰りたくない」

「なんだそれ。反抗期の不良少女かよ」

「理由は反対だけどね」

 

 反抗期の少女が帰りたくないのは、家での居心地が悪いから。いたくないと思う場所だから帰りたがらない。

 けど私の場合は逆。教会の居心地は良い。良いからこそ、ずっといたいと思ってしまうからこそ、帰りたくない。帰ってしまえば、少しの間でもそこにいてしまえば、外に出たがらなくなってしまう。ラムちゃんの傍にずっといたいと思い、そう行動してしまう。

 そうしないためにも帰りたくない。今までのミナちゃんへの帰還報告だって、なるべく早めに終わらせて、その日のうちに出てるんだから。なるべく長居しないようにしてたんだから。

 ミナちゃんに止めさせる理由を与えちゃいけないけど、同時に私に止めたい理由を与えちゃいけない。

 そう思ってるからこそ、帰りたくない。

 

 そう伝えると、彼は少しの間考え込み、一つの提案をした。

 

「……なら俺んち来るか?」

「……は?」




彼女は帰りたい。けれど帰りたくない。
その矛盾した感情と理性の間で、彼女は抗い続けている。
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