ロムに憑依しちゃった話。(仮)   作:ほのりん

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偽装と彼女の話。
べつじん。


 教会に帰りたくない。かといって街の外にテントを張って野宿するぐらいだったら街の中で温かいお布団で寝たい。そうなると宿に泊まるしかない。けどそうすると余分にお金がかかってしまう。

 じゃあどうするか。考えた結果、彼は言った。

 「俺んち来るか?」、と。

 その問いに、私は出した答えは──

 

「……おじゃまします」

「おう。ってか一人暮らしだから、いつも通りでいいぞ」

「うん」

 

 10回目の往復を終え、ミナちゃんに報告も済ませたその日、私は彼の家に訪れていた。

 彼の家は教会からは徒歩2時間ほどの距離にある普通のアパート。ボロではない。普通。家賃は街の平均位だと思うぐらい普通の1DK。一人暮らしとしては少しだけ贅沢なのかもしれない。

 玄関から入ってすぐにキッチンのある部屋で、その奥が彼の自室らしい。男の人の部屋というのをテレビでしか見たことがないけど、多分こういう部屋も男の人らしい部屋なんだと思う。私達の部屋みたいにぬいぐるみとか可愛らしいグッズがないし。逆に言えば私達の部屋は女の子の部屋っぽいレイアウトなんだと思う。部屋に特にこだわりがあるわけじゃないからそのままだけど。

 

「なあお前さん、寝る時はベッドか布団、どっち派だ?」

「教会ではベッドだけど」

「なら俺が布団で寝るわ」

 

 先に部屋に入っていた彼はそう言って押し入れから布団を一式取り出し、角にあるベッドとは反対側の壁際に布団を敷いた。

 

「……布団でもいいよ」

「いや、こういうときはレディファーストっていうだろ? あ、匂いが気になるなら消臭剤かけとくから、それでマシになると思うが……」

「そこはどうでもいいんだけど」

「そうかい」

 

 そう言いながら少しだけ散らかっていた物を片付け始める。

 まるで……

 

「同性が泊まりに来たみたいな反応だね」

「異性として意識してないって意味じゃそうだな。てかそういうお前さんも俺の性別なんて気にしてないだろ?」

「うん」

 

 まだテントに泊まっていたとき……は一人一つのテントだったけど、意識してなかったし、洞窟の中なんてそれこそ焚火をはさんで並んで寝てたけど意識しなかったし。

 今も今日から少しの間彼と同じ部屋で寝泊まりするのだと意識してみても、彼を異性として意識はしていない。

 はて、どうしてなのか。その答えは少し考えて出た。

 

「あ、これペットが部屋にいる感覚か」

「おいそれはさすがに突っ込みたいんだが」

「え、だってペットの性別が異性だったとしても、同じ部屋で寝てても、なんなら夜中に忍び込まれて朝目が覚めたら腹の上に乗ってても異性だって気にしないでしょ」

「じゃあ朝起きたら俺が隣で添い寝してても──」

「それは殴る」

「理不尽だ」

 

 

 

 今日からしばらくの間、彼の家で寝泊まりする。

 その正確な期間は決まっていて、今日から11日間。つまり11泊12日。

 そう決めたのは単に、この期間も修行期間に数えているから。

 詳しく言うなら、さっきミナちゃんに帰還報告をしたとき、いつも通り「修行行ってくる」って言って出てきたから。だから約束通り10日から11日に増えた。そして11日経ってまたミナちゃんに報告したら更に増えて12日に。街にいる間も修行期間に数えることで、お金を貯めた後にまた一日増えている、というちょっとしたズル。

 でも実際クエストで受けるのは割のいいモンスター討伐だろうから、ズルのような、ズルじゃないようなもの。

 というわけの11日間。11日もあれば1か月分の食費なんて稼げるだろうし、もし無理でも同じ手で期間を増やしつつ貯めればいいだろうし。

 というわけで……

 

「ギルド、行こう」

「もうか? 今日ぐらいは休めばいいだろ」

「少しでも長く、そして早く終わらせたいから」

「へいへい。なら準備するか」

「あなたは待っててもいいよ」

「あー……まあどうせ日帰りのクエストしか受けないだろうしな。わかった、じゃあ俺はここで待ってるな。あ、夕食はいつも通り俺が作っとくから」

「うん」

 

 いつも通り、というのは私が修行に専念している間、彼が食材の調達や調理を担っているから。……というかそれもなかったら本当に彼のやることがない。だって彼、ただの付き添いだし。

 ならせめて、と与えたのが食事担当。正確には求められたから与えた、だけど。

 

 そういうわけで残り少ないお金を本日の夕食代として渡し、僅かな量の非常食と回復薬をポーチに詰めて出かける。彼の家からでも道はわかるから、頭の中に詰め込んだ地図を思い出しながら歩いて行けば、すぐに着いた。

 すでにお昼時。だから行けるのはなるべく近場で、採取みたいな時間のかかることではなく、討伐みたいな早めに終わるクエストぐらいだろうけど。

 中に入ると偶然そこにいた受付のお姉さんに営業スマイルで「こんにちは! ようこそギルドへ!」と迎えられた。そのままお姉さんは私の姿を見てすぐに「あら、ロムちゃんだったの。今日はラムちゃんは一緒じゃないの?」と私の傍に来て屈んで訊いてきた。こうして会話をするときはなるべく同じ高さで目を合わせて話をするから、彼女のことは少しばかり好印象ではある。そういう人間はムカつかないし。

 そのお姉さんに今はラムちゃんとは別行動中であることと、クエストを受けに来たことを伝えた。

 するとお姉さんは「ちょっと待っててね」と受付カウンターに入ると、そこにあるパソコンからクエストを探し、画面にいくつか表示した。

 

「今あるクエストで、ロムちゃんが受けれそうなのはこれくらいだけど……」

 

 そう言って見せられたのは、クエストランクが全て最低のE。採取クエストか雑魚モンスター討伐しかなかった。

 

 ……うん。そういえば私、子どもだもんね。女神候補生ってアドバンテージがある分クエストを受けれるってだけだもんね。お姉さんが私が今どれだけの強さかなんてわからないもんね。そういえばラムちゃんと受けてたクエストって全部Eランクだったね。

 

「……もうすこし、つよいのがいい」

「でもロムちゃんが受けれるクエストはこれぐらいよ?」

「どういうこと……?」

 

 訊けばお姉さんは教えてくれた。ランクがただその難易度を示したものではないことを。

 クエストランクとはすなわち、そのクエストの難易度を表している。

 それと同様にクエスト受注者にもランクが振り分けられていた。

 それによって受けられるランクのクエストが制限されているのだ。

 例えばEランク冒険者はEランククエストしか受けられない。けどDランク冒険者ならDランク以下のクエスト、つまりEランクに加えDランクのクエストも受注できるようになる、ということ。自分のランク以下のクエストなら受けられるということなのだ。

 

 なら私は? と確認すれば、そこにはEの文字。つまり最低ランクだった。

 そういえばいつもクエストはミナちゃんが持ってきたものか、ギルドでラムちゃんが選んだものだけだったな、と思い出した。自分で選ぶのは初めてだ。

 彼が聞いたら意外と言われそうだけど、同時に納得されそう。だってクエストって記録に残るんだよ。残ると私がどのモンスターを倒したのか。倒せるのかがわかってしまう。そしたら私が候補生の枠を超える力を持っていることがばれてしまう。それを知っていたからクエストを受けてこなかった。

 ……そういえばそれも何とかしないといけないな。ランクが低いクエストだと報酬も少ないし、なら高いのを受ければわかってしまう。修行期間だからと少しだけ強いのじゃ意味ないし……

 

「どうする? ロムちゃん」

「えっと……じゃあこれとこれ、それとこれで」

「わかったわ。……はいこれ、クエスト受注書ね。いつも通り、報告はギルド(ウチ)か教祖様にお願いね」

「はい」

 

 適当に指差したのはそれぞれ一種類ずつ、合計三種類十五匹のモンスターを討伐する依頼。どれも街の近くに出たんだって。どれも同じダンジョンか隣のダンジョンで、これなら普通に行って帰ってきても夕食の時間まで余裕ある。……というか他のが大体似たようなものだったから、採取以外でって選んだだけだけど。

 とにかくお姉さんからクエストの詳細が書かれた紙を受け取って、ギルドを出る。

 さて、寄り道せずにさっさと行きますか。

 

 

 

 結局終わったのは僅か三時間後。しかも往復の移動時間と、ギルドへの報告も含めて。

 うん、言われちゃったよ、お姉さんに。「え、もう帰って来たの!? てっきり夜に教祖様から報告を受けると思ってたのに……」って。

 いや、だって割とすぐ見つかったし。走ったりするのも前よりも速くなったし。そのうえいつもならいる彼もいないから、自分の速度で走れたし。

 だから結局夕食まで余裕がある……どころかもはやおやつ時だよ。……そういえば最近おやつなんて食べてない。というか修行を始めたあの日からずっと休んですらいなかったっけ。報告が終わればすぐに不足している物を揃えて街を出てたし。彼もずっと付き添ってたし……少しはそれぞれの期間に間を空けたらよかったかな。……あ、でもあの人ずっと食材調達が終われば昼寝してたっけ。じゃあこれからも特に言われない限りこのままでいっか。

 にしてもこうして街をじっくり見ていくのも久しぶり。

 そうだ、どうせ夕食まで時間があるんだし、少しぶらつこうかな。もう一度クエストを受けて行くっていうほど時間があるわけじゃないし。

 

 

 

 そうしてぶらついて着いたのは、以前あった出来事がきっかけでよくラムちゃんと来るようになった商店街。ちなみにあの後も何度かおつかいを頼まれてはここに来てる。

 その商店街を歩けば以前よりも活気のある姿があちこちで見れた。あの寂れていたときが嘘のよう。

 それに最近はシャッターが降りていたところにも新しいテナントが入って、新しい店や事務所ができたから、それも商店街の活気に繋がってるんだと思う。

 ちょっと前に今ルウィーの中で一番注目されている商店街ってテレビで紹介されてたくらいだし。そのとき商店街会長さんが出て「それもこれも我らがルウィーの女神候補生、ロム様とラム様のおかげです!」って、その時の写真と一緒に話してた。もう数年前の話のなのに。懐かしい。

 

 テレビの内容を思い出しながら歩くとあちこちから「おっ、そこにいるのは我らがロムちゃん! どうだい? メンチカツ食べていかないか?」とか「おおロムちゃん! おつかいかい? サービスするからうちで野菜買って行きなよ!」とか「木彫りの新作、ネコリス。貰ってくれ」とか声をかけられる。ちなみにメンチカツと野菜はお断りして、ネコリスは貰った。素直に「お小遣いを貯めてるから」って言ったら「新作のゲームソフトでも買うのか? なら買えるよう貯めなきゃな!」って言ってくれた。目的は違うけど、それを言う必要もないから訂正はせず、まあそういうことでって別れた。……木彫りシリーズ、新作出るたびに貰うけど、もう二桁に達するんだけどな……古いのは彼にあげるか。

 あ、あと新しく出来た店でクレープ屋もあった。なんか不定期で変わったクレープを考案しては売れ行きによって定番メニュー化したりしなかったりする店。今も「新作シソクレープ! 酸味が効いてて美味しいよ! ……多分」って言ってた。多分て。前に見た時は納豆クレープだっけ。意外と美味しかったらしく定番化してた。私もラムちゃんと一緒に試食で食べさせてもらったけど……うん。納豆は嫌いじゃないんだけどね……

 今も店の前を通ったら「あっ、ロム様! よかったらまた試食いかがですかー?」って差し出してきたけど……タダだからっていらないから! もうあんな思いするの嫌だから! 

 

 そんなこんなであちこちから声をかけられては返してるけど……疲れる。まあ毎回のことな気がするし、物も貰えたりするからいいけど……今はのんびりしてたいかな。

 でも私がロム(わたし)だって皆わかってるから、むしろ声をかけない方が失礼ってなってるだろうし……

 

 そう考えながら歩いてたら、見つけた。丁度いいアイテムが。

 それはコスプレ衣装も取り扱っている衣服店。その店頭に飾られた『大特価セール!』の文字とその衣装。

 灰色に青色を混ぜたような藍鼠(あいねず)色のそれは魔法使いをモチーフにした衣装らしく、広いつばのとんがり帽子と襟が立ったマントのセットだった。

 どことなく前の私が着ていた旅のローブに似ていた。だからこそ見つけられたのかもしれない。

 すぐに店に入って店員に試着の許可を求めるとすぐに許可が下りて、衣装と一緒に奥の試着室に案内された。

 そこで被っていた水色の帽子を外し、代わりにとんがり帽子を被る。マントは前で紐で結ぶタイプだったからそのまま。

 そして姿見を見て決めた。

 

 よし、これから別人のふりをしよう、と。

 

 理由は単純。これなら誰だかわからないから。

 マントは前まですっぽり覆っていて中の服が見えないし、立った襟は耳の横ぐらいまである。さらに広いつばのおかげで顔も見えにくい。難点なのはマントの長さが私には長いってところだが、それは後で直せばいい。

 これなら顔を見られない限り別人でいける。声も魔法でなんとでも……って、魔法使えば姿も全くの別人に変えられるんだけどね。まあそれは言わないお約束ということで。

 

 水色の帽子を被り直して、マントも畳んで試着室を出る。そして店員にこれを購入すると言い、お金を渡した。

 おかげで財布の中身がまた寂しくなってしまったけど、その分良い買い物ができたってことで。

 うきうきした気持ちのまま、その後は寄り道もせずに彼の家へ戻った。まだ時間はあったけど、裁縫道具を借りて直してればあっという間に過ぎると思う。

 よし、明日は朝からギルドかな。




彼女は姿を隠す。誰もが彼女を知ってしまったから。
正体不明という不自由が自由を生み出すのだ。
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