ロムに憑依しちゃった話。(仮)   作:ほのりん

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あこがれ。

 マントと帽子のセットを購入して帰宅してすぐ、私は夕食の準備をしていた彼に裁縫道具を借りて早速作業をしていた。

 布を切り、切断面が解れないよう縫い、最後を留める。言葉では簡単で、ある程度裁縫技術があればできること。不器用な人にはできないみたいだけど、私にはできた。というか身に付けた。前の私のときに、旅をするのに必要な技術だと思ったから。

 今の私は針すら持ったことなかったけど、頭で覚えていれば何とでもなった。

 というわけで、

 

「どう? 誰かわかる?」

「それは今すぐ答えなきゃならねえのか?」

「いや、今は料理に専念しててもいいけど」

「なら後だ。ほれ、どうせいるんなら少しは手伝え」

「……ハイ」

 

 ジュウジュウ音を立てているフライパンを持つ彼にそう言われてしまった。……まあ私も早く食べたいけど……

 

「今日はなに?」

「豚肉生姜焼き」

「へぇ」

 

 美味しいよね。生姜焼き。ご飯が進む。

 

 言葉少なく、彼にどこに何があるのか聞きながら机へ並べていく。机といっても彼の自室にある折り畳みの机だけど。小さい。まあ机があるだけマシということで。

 そうしてできた夕食は、ポテトサラダと豚肉の生姜焼き。あと白米。今日は4合炊いたんだって。二人でそんなにいるのかなって思っても、どうせ私はどれだけでも食べれちゃうもんね。

「いただきます」と両手を合わせ食材に感謝し、頂く。……うん。

 

「今日も美味しい」

「……そうか」

 

 決してプロってわけじゃない。絶対ミナちゃんより劣ってる。

 けど不味いわけじゃない。普通に美味しい。食べれなくはない、じゃなくて美味しい。それだけでも私にとっては価値がある。ずっと雇い続けているのもこれが理由だしね。

 本人曰く、実家で叩き込まれたらしい。教会に就職して、一人暮らしになると決まったときからすぐ母親に叩き込まれた。自炊できるように、と。息子のことが大事のようだ。就職記念に家庭用サイズの炊飯器(当時は最新型)を贈るほどに。

 人間は嫌いだが、そういった話は嫌いじゃない。家族の愛情。私達姉妹の間にもある感情だから。

 ちなみに彼は今までその炊飯器が不満だったそうだ。正確にはそのサイズに。最大6合まで炊けるサイズ。家庭で使うには普通だが、一人暮らし用としては大きすぎる、と。当時も一人暮らし用のサイズの炊飯器なんていくらでもあっただろうに、と。

 けど今日から少しの間は感謝している、と準備している間に言っていた。……私が食べるからだって。「お前さんはたくさん食うからな。何度も炊く必要がないのがありがたいよな」って。彼の中の私は大食いになっているようだ。……まあ否定はしない。魔力を多く消費した日はたくさん食べようとしていたし、修行中も多く作ってもらっていた。傍から見れば大食い女子だ。自覚はしている。……が、だからってそう言われると不思議とムカつくのはなんでだろうな……? 

 

「あ……いや、その……わ、悪かったって。お前さん、そんなに気にしないと思ったからよ……」

「別に。気にしてない」

「じゃあ睨むなよ……」

 

 おや、つい。

 

「……で、お前さんはさっき着てたやつ、あれなんだ? 魔法使いのコスプレか?」

 

 そう言いながら彼が見ているのは、私が先ほどまで着ていたマントと帽子。今は外してハンガーにかけている。

 私はそれに目を向けずに「衣装の目的としてはそう。けど私の目的としては違う」と答えた。そして次の疑問がわかっていたから先に答えた。

 

「あれは私の身を隠すためのもの。あれらを身に着けていれば、周りは私をわたしだとわからなくなるんじゃないかって思って買ってきた」

「ふぅん……まあそれは後で俺が見てどうだか確認してやるが……お前さん、その金はどこから出た?」

「出たって……クエストの報酬。小さいの三つしか受けられなかったけど、その報酬で出したよ。セール品だったからギリギリ買えた」

「ギリギリ、ね……」

 

 ん? なんでそんな溜息吐くの? 

 え? なんで財布を取り出したの? 

 あれ、なんだかご機嫌斜めだね。そんなに顔に出るなんて珍しい。

 

「あのな、お前さんよ。お前さんに朝貰った最後の金、もう無いんだわ」

「うん。だと思ってる」

「ああ。この夕食分と、明日の朝食分で終わった。つまりお前さんの所持金はそのギリギリの残り分しかないだわ」

「そうだろうね」

「……お前さん、無駄金使ってる暇あるのか?」

「無駄って、失礼な。ちゃんと考えて使ったよ」

「あの悪趣味な色の悪趣味なコスチュームがか?」

「悪趣味じゃないよ!」

 

 悪趣味じゃない。断じて悪趣味じゃない。

 だってあの色は前の私が着ていたローブと同じ色だよ。私のセンスが良いとは思わないけど、決して悪趣味ではない! ……はず。

 

「いやだってよ。ふつー黒か白か茶色か灰色だろ。なんでねずみ色に青色足したみたいな色のを選んだ。いくらセール品だからってもっと色を選んでも良かったんじゃないか?」

「……いいでしょ、別に。どの色を選んだって」

「そりゃお前さんの自由だからいいんだが……」

 

 知りたい。そう顔に出ている。それがただの興味だということも、気付いていた。

 まあ彼には食事の面や今回の寝床の件で世話になっているし、これからも世話になる。なら言ってもいいか。どうせ、あなたもなんとなく理解できることだろうし。

 

「……憧れだよ」

「……憧れ? あの色が?」

「……色が、ってわけじゃない。ただね、この色は。汚れた青色は、私が今憧れ、目標としているヒトが着ていた色だから。だから、この色にした。それだけだよ」

「憧れの人の、か。それならまあ分からなくもないが」

 

 「だがお前が憧れるって、どんなやつだ? ホワイトハート様……なわけないよな。こんな色はないし……」と一人ブツブツと考えている彼を横目に、食事を続ける。

 そう、憧れ。この色を着ていた、前の私への憧れ。

 この魂が覚えている、前の私の強さ。そこに近付くことができれば。なれれば。そうしたらきっと、もう二度と、大切な何かを奪われることも、壊されることもないはずだ。

 前の私の強さ……

 

 ゲイムギョウ界最強と同等の強さを手に入れれば、きっと。

 

 

 

 結局お米は全て食べきりました。炊きたては美味しいね。

 そして片付けも終わり、後は風呂に入り身を綺麗にし、歯を磨いて布団を被るだけ。寝るまでは後それだけだけど、でもその前にひとつ、自分だけではわからない問題を解決しないとね。

 

「で、判断するために再びお前さんはそれを着たわけだが……」

「うん。どう? 誰だかわかる?」

「……いやわからんな。声を聞けばその背丈で分かっちまうだろうが……遠目からならただの不審者だな。安心しろ」

「いやそれ安心できないと思う」

 

 正体を隠す、という意味では安心できるだろうけど、不審者って。……まあ正体を不明にさせるんだから、その印象は避けて通れないのかな。この衣装を使うのなら。

 

「だが逆に言えば近くで見れば分からなくもない。その髪、背丈、声。それだけの要素でもお前さんを知ってるやつで気付く奴は出てくるだろうな」

「……別に魔法で全部変えて全くの別人になることも可能ではあるけど……」

 

 私が得意なのは戦い向きの魔法。そういったお遊び要素の魔法は苦手ではないが、得意でもない。得意じゃなければ、魔力消費も得意なものより多い。つまりあまり使いたくない手だということだ。

 

「……全くの別人になれる、変身魔法か。ははっ……」

「どうしたの」

「いや、なんでもない……」

 

 そう言う彼の目はどこか遠くを見ていた。

 ……知ってるよ、私。彼がこういう目をするときって、大体私が何か彼の常識において常識の範囲外のことを言ったときかやったときだって。さすがに二か月近くも一緒にいればわかるよ。

 でもそっか。やっぱり変身魔法って現代の魔法学においても高度な技術を用いる魔法なんだ。そこは昔と変わらないな。

 

「……髪色だけでも変えればいいかな」

 

 魔法を発動し、髪色を茶色から鼠色に変える。これだけでも結構な変化だと思うけど……

 

「……ああ。それだけ色が違うと余計お前さんが女神候補生のロムだって分かりづらくなったな。てかもう髪色が違えばその帽子を被ってなくても別人だって言い張れるんじゃないか?」

「そうかな。でも念のためにね」

 

 体の一か所の変化は魔力消費が低い。消費量と自然回復量とを比べたら回復量が僅かに上回る程度には。なら髪、声、背丈。そのうち見た目に変化があるのは髪と背丈で、容易なのは髪色。延ばすとラムちゃんと間違われるが、色ならば私ともラムちゃんとも違う色にできる。そして背丈にしなかったのは、単純に衣服のサイズが違うとそのサイズの服を買わないといけなくなり、お金の消費に繋がるから。それに背丈を変えてしまえば戦闘スタイルにも変化を求められてしまう。もし戦闘中は背丈を戻すとしても、そうなると着替える必要が出てくる。

 ならやっぱり一番簡単でわかりにくくさせる変化といえば、髪色かな、と。

 

「しっかしなんだって急に自分の正体を隠したがるんだ? 女神候補生だって周りが知ったままじゃ不都合なことでもあったか?」

 

 それは色々があるが、まとめるならこうか。

 

「私の行動が全て、ルウィーの女神候補生の行動として認識されてしまうから」

 

 私が高危険度のモンスターを討伐したら。私が街で困っている人を放っていたら。

 その行動は全てルウィーの女神候補生の行動として認識される。女神候補生としては異常な強さ、女神としてあるまじき行動を、人間共が知る。女神候補生が持っている、やっていると。

 そう考えていくと、私ができる行動というのは限られてくる。

 私はあくまで女神候補生としての範疇を超えない強さだと思われていないといけない。誰だって力ある者に魅入られる。だからこそ女神というのは強いのだし。その女神よりも強くなってしまえば、もしかしたら人間共は愚かにもお姉ちゃんよりも私を女神として求めてしまうかもしれない。そうなるとお姉ちゃんは女神の座を私に譲ることになってしまうかもしれない。

 ……正直それは嫌。人間共を導く? そんなの私じゃなくたっていい。むしろ私に任せてみろ。この国の人口があっという間に少なくなるぞ。

 それに今はまだお姉ちゃんが女神でいてほしい。ラムちゃんがちゃんと強くなるまで。お姉ちゃんが自分の意思で引退するまでは、ずっと。

 そして逆に女神あるまじき行動をしているのが知られたら。それはルウィーの女神候補生のロム、というよりルウィーの女神全体への疑惑となる。今女神の印象を下げる言動や行動は絶対避けたい。たった一つの失敗が大きな損失となり、さらには敵に力を与えてしまうことになるからだ。

 

「だから姿を隠したい、か。なんかお前さんといると女神様って立場が実は面倒なものばかりだって見えてくるな」

「けどその分女神としての立場に恩恵もある。国民の税金とか、女神の権限とか。……まあそれらもちょっと自分勝手に使うだけで非難されるんだけど」

「やっぱり面倒じゃねえか。ったく、女神様はいてくれるとありがたいが、女神様か女神様みたいな立場に自分がなると考えるのはホントに嫌だな」

「……幻滅した?」

「いや、むしろそんな面倒な立場でありながらも変わらず俺達を導いてくれる女神様に対して、俺達人間ももっと力になってやらなきゃなって思えてくるな。なんか教祖様が頑張る気持ちがわかった気がするぞ」

「そ。でも」

 

 たったそれだけでミナちゃんをわかった気になるのは大間違いだよ。

 

 睨みを効かせて言ったその言葉は、本心から出たものだった。

 同じ女神を慕う者として、ミナちゃんのことは知ってるからさ。

 残念ながらその程度じゃミナちゃんがお姉ちゃんに仕える理由の1割だって理解できていないんだよ。

 そのことを理解していないその発言は、私の前じゃ愚かな発言だということ。これから理解できるといいね。

 

「……お前さん、やっぱ女神っぽくないわ」

「だろうね」

 

 そのくらい理解できてるよ。

 

 

 

 一度変化した空気を元に戻そうと、彼は電子ケトルに水を汲みお湯を沸かし、ティーバッグでお茶を淹れた。あ、砂糖ある? スプーン二杯。

 「甘いの好きだよな」って言葉には「見た目に合ってるでしょ」って答える。甘いの好きなのは前と変わらない。

 マントと帽子は再びハンガーにかけ、議題は次の話、ギルドのクエストについて。

 彼にクエストランクと受注者のランクのことを聞いてみれば知っていたので、その説明は要らず。

 というわけでさっさと本題ね。

 

「私……ロムが受注できるクエストランクは最低のE。けどその程度だといくら数をこなしてもお小遣い程度のお金しか集まらない。こっちの体力よりもクエストの数の方が先に尽きる。ランクを上げれば多少改善するけど、今のラムちゃん達の実力から考えるとDまで、つまり一つ上までが自然。それ以上は少し強さに違和感を感じられるかもしれない」

「女神候補生様の成長度がどれくらいかは分からんが、一年間鍛錬した結果だと言えばCランクのクエストを達成しても自然に見えるだろうな」

「けど別人であれば、どれだけ高ランククエストを達成しても違和感がない。だって人間共にはその人物の前提となる強さや背景がわからないから」

「女神候補生様の強さが今どのくらいか、分かってるやつは分かってるからな。教祖様達は特に」

「そう。それらがわからなければいくら力を発揮しても女神に繋がらない。それは女神側のシェアが増えないというデメリットでもあるけど、同時に減らないというメリットでもある」

「それが今はメリットの方がデカいのか」

「そういうこと。だから別人のふりでクエストを受注したいんだけど……それって可能?」

 

 そういうことは私よりも彼の方が知っている。それは私がまだこの世界の法を知らない、というのもあるけど、彼の方が職務的には知ってることが多いからだ。

 

「可能……かといえば可能だな。身分を偽りクエストを受ける方法はないこともない。だが……」

 

 そこから彼が言った言葉をまとめるとこうだ。

 まず別人用の身分証明書を作らなければならない。ギルドでクエストを受けるには冒険者として登録しなければならないから。なお女神は不要。

 別人用の身分証。つまり偽造身分証を作るには、まあ法を犯すことになる。さっそく女神としてあるまじき行為だな。絶対私だってバレちゃダメだな。

 仮に作れたとして、年齢をどうするか。私の見た目では幼い子どもにしか見られない。年齢を偽ると疑われる確率が上がる。ならばなるべく年齢は見た目に寄せた方がいい。

 となると子どもがクエストを受けることになるが、なんと残念。子どもはクエストを受けられない。年齢制限がかかっているからだ。

 が、そこは何とかできる法律が存在する。偽造身分証に私を孤児として登録する。すると孤児への支援目的として作られた法を使い、下限年齢を下げることができる。要は自分の飯は自分で稼げ、取ってこいという法律らしい。それで教会から孤児院への支援金の増やさずに済む、という話の結果、可決された割と新しい法律らしい。

 が、その法律を使い冒険者として登録するには、実力を示さなければならない。

 なんと監督の居る場でスライヌ3匹の討伐クエストを達成すること。それが冒険者として登録し、クエストを受けられるようになる条件なのだと。

 

 だからまあつまり……

 

「偽造身分証さえ作れば後は簡単って話?」

「そういうこと。で、その偽造も俺なら簡単だ」

「……何。そういう筋ものとお友達なの?」

「誰がヤーさんと友達だ。そんな知り合いいねえよ。そうじゃなくてな、俺の職務を乱用すりゃいいって話だ」

「あなたの職務って……諜報だっけ?」

「そう。つまるところ他国へのスパイだ。スパイには当然、自分の身分を偽らなきゃならない時があるだろ?」

「つまり……」

「俺がちょいとお前さんの偽造身分証を作ればいい、って話だ」

 

 その口ぶりは軽く、本当に作ろうと思えば作れてしまうのだろう。使用用途さえ仕事に必要と判断されれば、何の罰もなく作れる職務だから。

 だがそれはつまり。

 

「偽造がバレればあなたも処罰の対象になるってことだけど」

 

 私も女神候補生とはいえ法を犯した犯罪者となる。そうなると当然実行犯として、職務乱用の罪に問われるのは彼だ。女神候補生という立場がある私よりも確実に彼のほうが辛い罰を与えられると思うが……

 

「なんだ? 俺を心配してくれるのか?」

「……まさか。優秀な駒が無くなるのは惜しいと思ってるだけだよ」

「そうか。……なあ、お前さん。こんな言葉を知ってるか?」

 

 バレなきゃ犯罪じゃないんだぜ? 

 

 それは教会職員としてあるまじき言葉であり行動であり、だがこの場においては意味を成す言葉でもあった。

 それに彼は言った。「俺は駒だ。犬だ。なら使え。お前さんは人間が嫌いだろ? 俺は人間だ。なら心配なんてせず、使える、やれると判断したなら使えばいい。お前さんが心配するのは、失敗したら俺がどうなるかじゃない。お前さん自身の心配をしてればいいんだ。それがお前さんと俺の雇用関係だろ?」と。

 そうだ。その通りだ。何を人間風情がそんなことを今更ほざいてる。

 貴様は駒だ。人間だ。所詮私の糧となるしか価値のない動物だ。

 そんなやつを心配だと? ハッ、馬鹿馬鹿しい。するわけないだろ、人間なんぞに。

 それにな、その言葉は違うぞ。

 

「──やれるかじゃない。やれ。成功は当然だ。失敗なんぞ論外だ。貴様はできると言ったのだ。ならば成功以外に選択肢などないだろう?」

「……ああ、当然。成功は前提条件だ」

 

 私がこういう考えだと彼は知っている。受け止めている。その上で私の傍にいる。

 そこらの教会職員と違う、私と彼の関係。

 それはどこか、お姉ちゃんとミナちゃんの関係に似ている気がしてしまった。

 ……そろそろ彼を一個人として見てやってもいいのかもしれない。

 或いはもう既にそうみていたのかもしれないな。




彼女は『人間』が嫌い。彼らの持つ醜さを十分に知っているから。
だが中には個体として見ている人間もいる。今の彼女にとって彼は二人目である。
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