ゆうかい。
冒険者カードを作るまでの一連の出来事は省略する。スムーズに……とはいかなかったものの、特に問題なく試験も達成し、きちんとギルドから
スムーズにいかなかったのはただ一つ、私の顔について。さすがに顔を隠したままで発行してもらうのは無理だった。だから仕方なしに顔を見せたからだ。
受付のお姉さんは顔見知りだからすぐに私だって気付いたけど、髪色が違うことと普段とは全然雰囲気が違うことも相まって、私の「顔が女神候補生様に似ているから、それで混乱を招きたくないのでこういう格好をしている」という説明に、別人なのだと納得した。声も変えていたから疑われることもなかった。どうやら人間共もネプギアと同じ考えを持っているようだ。
早速クエストを最大数の5件受注して、また明日ダンジョンに行くことになった。もう夜だってことと、今から行くのは周りから止められたから。それとギルドの営業時間も考えて。まあ今からだと門番辺りに止められて外に行けそうにないからそれでいいんだけど。
だから今日はもう街を出ることはなく、少し時間を潰してから近くの公共トイレで着替えて、またギルドへ向かい、昼に受けていたクエストの達成報告をして、報酬を受け取った。そのとき受付のお姉さんに「そういえばさっきロムちゃんに似た子がここに来たわよ」という会話に、素知らぬ顔で驚き興味があると答えておいた。どうやら本当にことりとロムが別人だと思い込んでいるようだ。髪色と声を変えるだけで別人であると信じるとは、人間とは案外容易く騙せるものなのだな。
本日の夕食はもやし炒めだった。カロリーが低いからあまり魔力が回復しない、と抗議すると「だったらさっさと稼げ」と返された。
くっ、懐が貧しくなるまで何の行動を起こさず、節約もしなかった私が悪かったとは思うが、だからといってその言い草はなんなのだ。そっちなんて食費を全てこっち任せにしているのに、さらに教会から給料を貰っているのだろう。しかも前にミナちゃんから聞いた話じゃ、私の護衛ってことで今までの給料よりも多く貰っているそうじゃないか。しかも諜報部って他の多くの職員が所属する下の方の役職と比べて多い方らしいじゃないか。そりゃ私の方が多く食べていたことは否定できないが、あなたの食費分だって月日を重ねれば馬鹿にできない金額だったんだが。
なあ、その辺どう思うよ、犬人間。
「他の奴は文具や書類などに使う紙。快適に仕事するための空調設備などの電気。コーヒーなんかを淹れるための水と粉末や茶葉。他にもいろいろなものを俺達職員はタダで使うことができてるように見えるが、それって目に見えないだけで経費で落ちてんだよ。その代わりと思えば、俺の食費が経費で、つまりお前さんの懐から出てくるのは当然じゃないか?」
「食堂の食事は有料だって私は知ってるけど」
「あれだって普通の食堂よりも随分と安くなってるがな」
「……むぅ」
電気代とか水道代とかの代わりが食費だって、その言い分はわからなくもないが……
「あと犬人間って呼び方はやめてくれ。せめてどっちかにしてくれ」って言ってくる彼の言葉に返事はせず、無意識に口をとんがらせる。あまり納得したくないと思う気持ちが顔に出てしまっていたから。
それを見て彼は軽く笑う。何故か優しそうな目で。
「……何を笑ってる」
「いやぁ、お前さん、時々年相応の表情するよなぁって思ってな」
「……ふん」
年相応ってなんだ。見た目これだし肉体もそれぐらいだが、中身は既にお前さんの数十倍は生きているんだが。それって私がそれよりも幼い子どものようだと言っているのと同じなのだが?
「いつっ。おい、蹴るなって。ちょっ、ガシガシ蹴るないてぇから!」
「ふん……」
机の上では変わらず食事を続けていながら、机の下では片足で彼の足を蹴りまくるという不思議な光景が生まれたのは、まあこういう姿勢での食事方法だからこそできる芸当ということで。
クエストランクが上がる条件は三つ。
一つ、相応の難易度のクエストをクリアすること。
一つ、相応の数のクエストをクリアすること。
一つ、それらを満たしたうえで受けられるクエストをクリアすること。
つまり量と質をこなせば、晴れてランクアップというわけだ。
その説明を受付のお姉さんから受けてから三日目。11回目の修行期間の5日目。
私のランクは最低のEから、中級ランクのBになっていた。
次のランクのAには明日にはなれる計算ではある。このまま順調にいけば、の話だけど。
受付のお姉さんを始めとしたギルド職員の人間共は「異例の速さだ」「もしかしたら史上最速でSランクに到達するんじゃないか」とか言ってた。でもそのランクとかって人間基準だし、私が最速到達者になるのも不思議じゃないんじゃないかな。まあ人間共は私を同じ人間だと思ってるから、当然の認識だけど。
さて今日もクエストをこなして、報酬を貰おう。食費に割ける分が増えれば、その分その日の料理のランクも上げてくれるって彼が言ってたし。今日は何件達成できるかな。
そう少しだけワクワクしながらギルドへ入って、すぐに違和感を感じた。
何に対する違和感か。考えながらギルド内を見て、いくつかの異変に気付いた。
まずギルド内の職員の数。通常よりも数が少ない。これはロムとしてここに来ていたときから見ていたから、少ないと感じるのは確かなはず。
次に職員の表情。一見笑顔で取り繕っているように見えるが、いつもより笑顔がぎこちなく、そわそわして落ち着いていない。取り繕った笑顔に隠された感情は、不安と悲しみ。
さすがに感情がわかるだけでは彼らが何に対してその感情を持っているのかわからない。けど私には関係ない話だろう。犯罪組織関連ならことりもロムも関われないし、もし私に関係のあることか、私が何とかしないといけないことだったらミナちゃんから連絡がくるはずだ。
それがないってことが、私には関係ないってことを示しているわけで。
気にせずいつもの受付のお姉さんに今日のクエストを受けに来たと言うと、すぐに受けられるクエストの一覧を見せてきた。
さて、今日は何を選ぶか……
タッチパネルの画面を操作し、クエストの詳細を見ながら選んでいると、お姉さんが何か言いたげにしていた。じれったいのでこちらからどうしたのか訊いてみると、お姉さんは私に質問してきた。
「えっとね……ことりちゃんはこの国の女神候補生様を知っているかしら……?」
「ここの国民なら知ってて当然」
「そ、そうよね。ならその……ことりちゃんは昨日か今日、ラムちゃんをどこかで見かけたりしなかった?」
ラムちゃん……?
見ていない。昨日今日どころかこの二か月ずっと。
けど何故ラムちゃんの名が? もしや何かあったのか?
お姉さんに見かけなかったことを伝え、何かあったのかと訊いてみれば「う、ううん。見かけてないならいいの。ごめんね、邪魔しちゃって」と何も答えない。
おそらく訊いても答えてくれないだろう。ラムちゃん……女神候補生に何かがあったなんて、今のこのご時世にそんな噂の一つでも立てばシェア減少に繋がりかねない。
ならばこちらはこちらの使える手で調べるのみ。
なるべく自然に見えるよう、けれど素早くクエストを選び、ギルドを出る。お姉さんから「もしラムちゃんを見かけたら教えてね」との言葉に「わかった」と簡単に返事をし、足取りはなるべく普通に歩いているように見せながら、すぐに誰もいない路地へ入り、通信機器を取り出す。電話をかける相手は、せっかくの休日のような一日を満喫すべくゲームでもしているんじゃないか。そう思いながらも、仕事をしてもらうために。
『はいはい、どちらさま?』
「私」
『お前さんの方か。んで、どうした?』
「今すぐ仕事をして」
『ほう。詳細は?』
「ラムちゃんに何かあったらしい。調べて」
『OK。お前さんは?』
「ラムちゃんが居そうな場所を当たる」
『了解』
通話を切り、すぐに着替える。といってもいつもの水色のコートと帽子を身につけ、とんがり帽子とマントをしまうだけで早変わり。あ、髪色も元に戻して。
さて、まずは商店街を当たろう。
商店街は今日も繁盛している。けど犯罪組織が活動する前よりは少なくなったらしい。それだけ人間共が犯罪組織を恐れ始めているってことなのだと前にミナちゃんは言っていたけど、今はどうでもいいので聞き込み開始。
店の人間にラムちゃんを見かけたかどうか訊く。どうせそんなすぐに「見た」なんて答え出るわけ……
「ああ見たぞ」
「……え? 見たの……?」
「ああ。昨日な」
それから肉屋のおじさんは、昨日ラムちゃんと可愛い女の子二人がこの商店街に来たことと、何かを探しているようだったと言った。
まさか一発目で目撃証言が出るとは。予想外。
しかし女の子二人とは、もしかしてネプギアとユニのことだろうか。それを確かめるために更におじさんにその二人の髪色は紫と黒じゃなかったか訊くと、また当たり。
まあラムちゃんと行動を共にする女の子といえばそれぐらいしかいないだろうけど。
何を探していたのかは、向かいの魚屋が訊かれていたとのことで話を聞くと、まさかのわたしだった。
わたし。ロムの方。けど何故ラムちゃんが私を探していたのか。
それは彼らも知らないことで、私が訊く前に逆に訊かれてしまった。どう誤魔化すべきか回答を考えていると、通信機器に着信。魚屋の店主から離れ、なるべく周りに人がいない場所で出る。
相手は彼で、どうやら彼もまた情報を入手したようだ。もはや核心とも言える情報を。
『ことり、落ち着いて聞けよ。……ラム様達が誘拐された』
「……そう」
『……え? それだけか?』
「それだけって?」
『いやよ。落ち着いて聞けって言った俺が言うのもあれだが、本当に落ち着いているな。分かってるか? ラム様だけじゃなく、ネプギア様とユニ様のお二方も誘拐されたんだぞ?』
「うん。わかってる」
『じゃあなんでそんな落ち着いてるんだ。お前さんの妹と友達だろ?』
「そうだよ。私の妹と友達」
『その割に取り乱したりしないのな……』
「ははっ。いいからさっさと続きを話せよこの駄犬」
『……OK。お前さんが相当怒ってるってことを理解したぜ』
何を当たり前のことを今理解しているんだか。
怒ってるなんて当たり前じゃん。怒ってるなんて表現が
それに今そういう感情を外に出すのはまずいんだよ。今ロムの方だから、周りいるから。ギリギリの理性でそれくらいは保ってるんだよ、わかれ。
感情を表面には出さず、走って再び路地に向かいながら、彼の手に入れた情報を聞く。
情報元は教祖であるミナちゃんから。
順番に話すなら、一昨日ネプギアとユニがルウィーに遊びに来て、泊まっていった。
その次の日である昨日、ラムちゃんはネプギアとユニと三人で街に遊びに行った。
夜になっても何の連絡もなく、取れず、帰ってこない。昨日帰るはずのネプギアとユニもそれぞれの国に帰っていない。
何かあったのかと水面下で捜索していたが見つからず。
しかしなんと今朝、犯罪組織マジェコンヌを名乗る人間から「お宅の女神候補生達は預かったぜヒャッハー!」との連絡。
身代金を要求されている←今ここ。
ちなみに本当に犯罪組織の人間はそう言ったらしい。テンション爆上がり中のようだ。
私も怒りのテンション爆上がり中だよ、同じだね。腹立たしい。
彼から「どうするか」と、次の行動の選択肢を委ねられた。
私が直接助けに行くとして。
教会に行くか、自分達だけで行動するか。
誘拐犯の居場所は不明だが、身代金の受け渡し場所と渡すときの条件から、その場所に誘拐犯とラムちゃん達がいるのではないかと憶測されている、という情報もある。その場所がどこなのかも。
自分達だけで行動するには最低限の情報は揃っている。ここで救出するために行動しても助けられる可能性はあるだろう。
だがダメだ。
そしてそれ以上の
「……教会で落ち合おう」
「……いいのか? それだとお前さんが街にいたってことが教祖様に気付かれるかもしれないだろ?」
確かにミナちゃんにバレるかもしれない。ここからなら教会まで徒歩十数分。人目を気にせず走れば三分かからず。どちらにしろ今から向かえば、街の外から教会に来たというには早すぎる到着となる。
けど、
「そんなのよりラムちゃんの方が大事」
「……そりゃそうだな」
すぐに教会前で、と通話を切り、私も教会に向かって走る。
雪で転ぶ? その前に体勢を立て直せばいい。
人とぶつかる? その前に避ければいい。
道路で車と接触? その前に飛び越えればいい。
今は一分一秒だって無駄にできない。
人質は取引材料として大切で、命を取られることは無い。
けど命は、だ。今頃ラムちゃんが
もしラムちゃんが傷一つ付けられていたら……
ああまずいな。とってもまずい。私の体全体が汚い血で汚れそうだ。
ラムちゃんに引かれてしまうから、それだけは避けたいな。
「──おっ、もう来てたか」
「おそい」
「いやお前さんが早いだけだ」
私が着いてから数分。自転車で現れた彼の肩は上下に動いていて、息も乱れていた。まあ急いだのなら良し。
「早く行くよ」
「おう」
ここ最近はあまり使ってない猫を深く被り、彼を率いて教会へ入る。そうでもしなきゃ怒りのあまり外れるどころか飛んでいきそうだから。
すぐにロビーの職員は私に気付き、不思議そうな顔をする。おそらくミナちゃんから私がしばらく帰らないことは伝えられていたのだろう。そしてラムちゃん達が誘拐されたことは下には伝えられていないはずだ。彼がミナちゃんから教えてもらえたのも、私の護衛(という名だけ)だから。
いつもなら挨拶をするが、今は非常事態。声をかけられる前に走って教会の奥へと向かう。彼も同じようについてきた。
彼曰く、どうやらミナちゃんは上層部に人間共と作戦会議中らしい。女神や上層部の人間しか使えない重要会議室にいるとか。
場所はわかってる。だからそこまで最短のルートで。
防音の為の重い扉を前に一回だけ深呼吸して落ち着かせ、彼に目で指示し開けさせる。
ノックはした。それでも返事は待たずに開けたことで、中にいた頭の固そうな上層部の一人が「なっ。おい貴様! 勝手に入るとは何事だ!」と怒鳴ってきた。それは彼に対するものであり、その人間には背が低く、更には彼の後ろにいた私は見えていないようだった。
無論これで彼が謝ることは無い。私が指示したのだから。
だから私が謝ろう。癪だが、嫌味として。
「……ごめんなさい。急いでたから」
「えっ……なっ、ロム様!?」
彼が開けてくれた扉を通り、前へ出る。すぐに後ろから扉が閉まる音が聞こえ、外の音は遮断される。
部屋の中は急に現れた私のことで騒然とし出して、けれど一人が咳払いしたことですぐに静まる。
わざわざばつが悪そうな人間の後ろを通って奥の席にいたミナちゃんの傍へ行き、ミナちゃんの何故ここに来たのかという問いに、ラムちゃん達がピンチだって聞いたから、と答えた。
あと相手をボコるため、というのは胸に秘めて。
そうしたらミナちゃんが立ち上がって勢いよく私に頭を下げ、「ごめんなさい、ロム。わたしが不甲斐ないばかりに、ラムやネプギアさん、ユニさんが攫われてしまうなんて……!」って謝ってきた。
本当だよ。それでも教祖? 国の上が何やってんの。お前ら全員クビになりたいの?
そう言いたいし、もし私が事前に商店街での目撃情報を手に入れてなかったら控え目でもそう言ってたかもしれない。
けどラムちゃん達が私を探していた。そのことを知っているし、もしかしたら今回の誘拐事件はそれと関係しているかもしれない。
そう思うと自分も同罪な気がして、ミナちゃんには怒れない。あ、お前らはとりあえず明日から来なくていいよ。……そんな権限私にはないけど。
だから、そういろいろと言ってやりたいのを我慢して、ミナちゃんに「顔上げて。だいじょうぶ、ラムちゃんも、ネプギアちゃんも、ユニちゃんも、きっとみんな無事だよ」と励ます。そうでもしないとこの人謝り続けて話が進まない気がするし。
え、なんでミナちゃんそんな目の水分が増えてるの? 私が成長したって? いやこれ前からでね、今まで見せてなかっただけで……そんなのいいからさっさと詳細聞かせなさい!
なんとかミナちゃんを再び席に座らせ、私も空いた椅子に座り、今回の事件の詳細を聞く。ちなみに彼は最初の頭の固い人間から退出を求められたけど、私が彼にも手伝ってもらうかもしれないから、と言えばそのうるさい口を閉ざした。だから彼は私の斜め後ろで話を聞いてる。
新たな情報その1、身代金の額。うん百万クレジット。一般人が用意するには多いけど、国が用意するならあんまり難しくない金額だった。なんなら今すぐ金庫から用意できるくらいには。
新たな情報その2、受け渡し場所。街からそこまで遠くない廃置場。建物の構造は既に把握済みで、見取り図を見せさせる。複雑な場所は無く、単純な構造だった。
新たな情報その3、受け渡し条件。身代金は子どもに持たせること。それと大人は半径1km圏内に入らないこと。確実に身代金を受け取り、逃げる為の条件だろう。
私達が来る前に話していたのは、救出するための作戦会議。しかし難航していた。
この数年で立ち上がった『犯罪組織対策本部』の部長と名乗る人間が主体となって作戦を立てようとしているが、どうしても一つだけどうにもならないことがあったから。
それは、身代金を持つ子どもを用意すること。
本当に金を渡せばラムちゃん達を返してくれるのなら、それはそれで癪だが金を渡せばいい。今ならまだメディアに取り上げられていないから、なかったことに出来なくはない。
けど相手は犯罪者。それで終わるとは限らない。もしかしたら人質がその子どもに変わる場合だってある。それに教会側としては当たり前だがその犯罪者を捕まえたい。
なら子どもを用意せずにその場所へ突入する、という手もあるが、本当にそこにラムちゃん達がいるとは限らないし、もし突入してすぐに犯人全員確保か、ラムちゃん達の保護ができなければ、ラムちゃん達が傷つけられてしまうかもしれない。その懸念があるのなら作戦として実行には移せない。
なら他に作戦は、と考えているときに私達が来たのだと、その人間は言った。
なるほど。つまり前者の作戦は、相手を油断させるための子どもの安全と確実にラムちゃん達を保護できればいいんだよね。なら……
「わたしが行って、助け出す」
そう名乗り出ると人間共はさきほどよりも驚きざわついた。ミナちゃんも驚き、すぐに「だ、ダメです! 危険すぎます!」と私を心配して止める。
けどね、そんな心配されなくても全く危険じゃないから。この程度の騒ぎ、犯罪組織の四天王でも出てこない限り平気だから。例え四天王が出てきても逃げるだけなら今の私でもラムちゃん達のための足止めぐらいはできるから。もちろん命だってかけないから。
だからそれらの意味を込めて、こう言った。
「だいじょうぶ。こういうときのために、いっぱい鍛えたから」
「ロム……ですが……」
それでも心配だと伝えてくる目にどう答えれば納得してもらえるか悩んでいると、後ろで待機していた彼が「すみません。発言よろしいでしょうか?」と手を上げた。それをミナちゃんが許可すると、彼は「ではお願いがあるのですが……」と前置きをして、言った。
「教祖様。ロム様を、信じていただけないでしょうか」
「……それは、どういう……」
「私はこの二か月、ロム様のご成長を間近で見てきました。以前は倒せずやむなく撤退したモンスターも、今では余裕をもって倒せます。それだけの実力を、ロム様は精一杯努力し身につけられたのです。その努力したお姿をこの目で見てきたからこそ、私は今回のこの役目、ロム様が適任であると、そう確信しております。ですので教祖様もどうか信じていただけませんか? ロム様が見事役目を果たし、ラム様方を連れ帰ると」
いつもと違う、仕事モードの彼の態度と言葉にミナちゃんは納得したように静かに「わかりました」と頷いた。
おぉ、頷いてくれたよ。なかなかやるね。
けどそんなモンスターいたっけ? あ、作り話か。
そしてミナちゃんは「今回の救出作戦にはロムを組み込むこととします」と宣言した。
今のやり取りを見ていた人間共は賛成だと頷こうとしたけど、ただ一人だけ異論を唱える人間がいた。あの頭の固い人間だ。また頭の固いことに「私は反対です。もし仮にロム様までも捕まってしまってはどうするのですか」と言っている。
いやお前彼の話聞いてた? 聞いてないからそんな発言できるんだよね。人の話も聞かないのに自分の話を聞いてもらえるなんてよう能天気なこと思えるよね。とっととその頭と耳洗ってこいよ。
そう表面下で思いながら「だいじょうぶだから、信じてほしい」と言う。けれど頭の固いことに「しかしリスクを考えるとロム様には教会で待機してもらいたく」とかうだうだ言い始める。
ああくそ、ねえ、こいついっぺん黙らせていい? あ、ダメって? というか私が考えてること察したのか。よくわかってきてるじゃないか。
というかこの人間、何故焦っている? ラムちゃん達が捕まっていることで焦ってるわけじゃないだろう。だってミナちゃんが私の提案を承認してからだ。
この人間にとって、私が参加すると何か焦るようなこと……まずいことでもあるのだろうか。攫われた女神候補生が助かるんだ。信者にとっては良い事のはずだろう。
そう思わないってことは、こいつ……
そう思考に浸っていたのを周りは困っていると勝手に勘違いしたらしい。犯罪組織対策本部の部長がミナちゃんから発言の許可を貰い、頭の固い人間に訊いた。
「お前はロム様を信頼できないってのか?」
「信頼していないのではない。だがやはりリスクを考えるとだな……」
「そう異論を唱えることこそが信頼していない証だ。我々は女神様に仕える教会職員……信者だ。お前も女神様に仕える信者だろう。なのにロム様を……女神様を信じられないというのか?」
「わ、私が女神様を信じていないなどあるわけが……!」
「ならばもう一度訊こう。お前は女神様を信頼できないのか?」
部長のその言葉に頭の固い人間はまだ納得していないといった感じだが、無理矢理言葉を吐き出すように「……わかりました。ロム様を信じましょう……」と頷いた。
納得していない、というより納得したくないって表情だな。絶対信じてない。
……いや、信じてしまっているからこそ、か。
……あとで彼の力を借りるか。
たった一人は渋々だけど、全員が賛成したことで私が身代金の取引役となった。
それさえ決まれば後は簡単で、いくつかの作戦ができた。
まず私がラムちゃん達の保護。それが出来れば魔法で弾ける火の玉を上に打ち上げ合図。周りで待機している軍隊が攻める。シンプルだけど、だからこそ臨機応変に立ち回れる策。
もしラムちゃん達がその場所にいないのであれば、犯罪者共の確保に切り替え。犯罪者共にラムちゃん達の居場所を吐かせる。そのときはいないとわかった時に弾ける火の玉を打ち上げる。
どっちも弾ける火の玉……というか花火だけど、前者は緑。後者は赤。色を変えられるから、とそれを合図にさせた。わかりやすいし。
ちなみに使わないと思うけど、失敗した場合は青。
他にも別の色でどの合図か変えるとか、無線機を渡すとか、そういう細かいことを言われたし渡されたけど、この三つ以外覚えておく必要はないと思う。
だって私の知りたいことは全て聞けたし。
一人で行動するのもいい。それはそれでラムちゃん達を救出できるだろうから。
けどそれを前提としても、同じく救出する側の動きを把握しておいた方が良いし、指示できる状態であれば非常にいい。
ラムちゃんを攫った愚か者共を確実に全部捕らえるための
彼女は信じさせる。
それが一方的なものだとは、彼以外知ることは無いだろう。