ロムに憑依しちゃった話。(仮)   作:ほのりん

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くんれん。

 前の私の経験を含めるなら、対人戦は豊富。一対一だけでなく、一対多の戦闘も切り抜けてきた。どちらかといえば後者の経験が多い。もしかすると今の私が倒したモンスターの数と、前の私が倒した人間の数は同じくらいかもしれない。……いや、まだそこまでモンスターを倒してないか。

 どこかの黒髪もしくは白髪女神以上に独りが極められていた前の私の経験は、そのまま今の私の戦闘力になっていて、そこらの知性があるはずの二足歩行の肌色動物が武器を持ってきても負けない。

 ただし、ソロプレイ専門。だから今の誰かと共に敵に立ち向かうというマルチプレイは苦手。味方を邪魔せず傷つけず、敵を殺さず潰す。そのやり方を未だに手探りで模索してるくらい。

 だから今回の合宿は、今の私にとって良い経験になるかもしれないし……ならないかもしれない。そこは今後の私の動き方次第だろうか。

 

 

 


 太陽が真上から西へと傾いてきた頃、草原にて。二人の女の子が距離を空け、向かい合う。

 片や身体にぴったりフィットした白と菫色のプロセッサユニットを纏い、瞳には欠けた電源マークを宿す少女。

 片や水色のジャージに、ただでさえ短い茶髪を後ろで小さく結った、幼女。

 少女はプロセッサと同色のビームランチャーを。幼女は銀色に鈍く輝く鉄の筒を。互いに得物を構え、睨み合っていた。

 

 ……はい、幼女は自分です。ロムです。ここ数か月はよく傍らに置いている彼が用意した得物……ただの鉄パイプを、滑り止め付き手袋をして構えてます。ちなみに彼が言うには、今回の為に昨夜買いに走った、ホームセンターで購入の新品だそうです。なんなら昨夜風呂に入ったついでに丹念に洗ったそうな。おかげでピカピカ、清潔。

 ……いや、そもそも私の武器って棒じゃないから、杖だから。ラムちゃん達といるとき以外使われていない杖が、私の武器のはずだから。

 そう、ラムちゃん達がいるから心の中で突っ込みつつ、これで戦えなくもないからと受け取って使ってる。これを渡した彼にどんな意図があるかは不明だし、人間の考えに乗るのは癪に触るが、特に反対する要素もなかったから。

 ちなみに少女と称した相手はネプギア。もっというなら、女神化したパープルシスター。

 そしてこの睨み合い……というには迫力がない向かい合いは、勝負のため。

 

 訓練メニューの一つ、一対一の模擬試合。その第二戦目の火蓋が切られようとしていた。

 

 

 

 そもそもどうしてこうなったのか。簡潔に言えば、初日だから互いの実力を見るためにまず戦ってみよう、というだけの話である。実際今まで共に戦ったことも、戦い合ったこともない四人。互いの実力がどれほどのものかなんて、知らないし知る機会もなかった。

 それでは連携なんて取れないし、連携プレイが出来なきゃ今後の犯罪組織や四天王相手の戦いはキツイ……というか負ける。それだけ敵は圧倒的。だから個々の力を伸ばすのもそうだけど、仲間同士での連携力を高めることで総合戦闘力を上げよう、というのがこの合宿の目的らしい。

 ……あ、ちなみに第一戦目はユニとラムちゃんが戦って、ユニの勝利。ラムちゃんは基本私と一緒に戦ってたから、援護のない突進は簡単に避けられちゃって、逆に被弾してボロボロになってた。……これでユニが人間だったら、私は今以上にムカついてただろうね。

 

 だから今の私はちょっとイライラしてるから……怪我したらあなたの友達のせいってことで。

 

「それでは模擬試合、第二戦目! 始め!」

「いくよ、ロムちゃん! たぁぁああっ!」

 

 彼の開始の合図と共に、ネプギアは地面を蹴り急接近してくる。狙いは……下から上への振り上げ、縦一直線。

 

「くっ……ならこれ……あぐっ!?」

「すぐに追撃へ移るのは良い判断。けど遅い」

 

 真っ直ぐな攻撃は軌道を予測しやすく、くるりと回るように躱すと、ネプギアはそのまま私が躱した方へと剣を振り下ろそうとする。しかし回転と同時に遠心力で威力を増した鉄パイプがネプギアの横腹を強打した。

 ……今のでちょっとパイプが曲がった気がする。気持ち数ミリぐらいだけど。女神の防御力、鉄パイプの耐久力よりも強かった。当たり前かな……

 ……? なんでそんなハッと何かに気付いたような表情で距離を取るの? なんか私を見る目がさっきと違うような気がするのだけど……

 

「……ロム、さん……」

「……さん?」

 

 何故ネプギアが私をさん付けで……? ……あ、わかった。この目、自分より年上の、プラネの諜報員とか看護師とかに向ける目と同じだ……って、何故? 

 

「改めて、胸を借りるつもりでいきます!」

「は……へ?」

 

 気合を入れ直すようにそう言うと、本当に改めてというか、真っ直ぐに一直線に飛んで来る。

 言葉遣いも私を見る目も、年上とかに向けるものになったネプギアの真意がわからない。ならせめて感情を、と真っ直ぐな太刀筋を強化魔法をかけた鉄パイプで受け止め、間近でネプギアと見つめるも、そこにあるのは戦意と敬意。前者は模擬とはいえ戦闘だからとわかるものの、後者は何故それを私に向けるのか不明。それも最初からではなく、私が攻撃を受け止め、そして当ててからなのか。

 今の私は家族でもない相手の考えていることなんてわからなくても構わないと考えていたけど、今この場では仮でも友達のネプギアが考えていることが知りたかった。

 

 

 

「そこまで!」

 

 審判である彼の言葉で戦闘の構えを解き、一息吐く。手に持った鉄パイプはあちこち凹んだり曲がっていた形跡があったりするけど、折れてはいなかった。……曲がっていた形跡があるのは、戦闘中に曲がったのを無理やり元に戻したからなのだけどね。

 

「ロムちゃん、だいじょーぶ!? ケガしてない?」

「……だいじょーぶ、ラムちゃん。ケガも、かるいから」

 

 試合終了の合図と共に飛び出すように私のもとへ来たラムちゃんの心配を受けつつ、その場でも確認しながら答える。

 見た目こそ服があちこち焦げたり土汚れが付いていたりはするが、皮膚まで到達しているものは僅か。その僅かな怪我も浅い切り傷や軽い火傷ぐらい。自然治癒でも完治までさほど時間は掛からない。魔法でならあっという間。ほぼ無傷と言えなくもない。

 うん、服は修繕しないと。

 

「……っ、ぅ……」

「……ラムちゃん。ネプギアちゃん、目が覚めたみたい」

「え……あっ……い、いーのよ! ネプギアはしんぱいしなくてもいーの! ネプギアよりロムちゃんなんだから!」

 

 少し離れた位置にいるネプギアの呻き声に、気絶から目覚めたのだろう、とラムちゃんに言うと顔を向けたが、すぐ何かに気付き元の方向へと戻し、私の方が優先だと言う。けど顔を向けるときの表情も、身じろぎするネプギアを見たときの表情も、どちらも彼女のことを嫌っているわけではないのは確か。言葉通り、ラムちゃんの中ではダメージを受けて軽く気絶し、女神化も解けていたネプギアより、汚れてはいるものの軽傷な私の方が優先順位が高かったのか。それとも素直になれないお年頃、というやつか。ユニみたいな。

 

「……? ……?」

 

 思考に浮かんだことで存在を思い出し、いるだろう場所へと目を向けるとユニはそのままそこにいた。突っ立った状態で、顔を俯かせている。よく見れば拳が強く握られていて、何かに耐えているようでもある。真後ろには観戦席として用意された椅子が倒れていた。

 感情は……遠すぎてわからない。けど別に今はわからなくても問題はないか。

 

「ギアちゃん、だいじょうぶですっ。今お手当するですからね!」

 

 その特徴的な口調と声に、ユニから目を逸らしネプギアへと向けると、いつの間にか駆けつけていた人間がネプギアを介抱している。魔法はあまり得意ではないのか、『ヒール』で治るのは小さな軽傷のみ。それ以外の傷の手当は、建物に戻ってからと判断していた。

 炊事掃除洗濯色々、あと本職である医療担当として今回参加しているプラネテューヌの看護師、コンパ。友達の妹であるネプギアが大事だからか、ただ看護師として治療するのが好きなのか、張り切って……

 

「えっ……? ま、待ってくださいコンパさん! さすがに今の私に、その注射は必要ないと思いますが!?」

「ほぇ? そうです?」

 

 ……張り切って、空回っていた。なるほど、やる気が空回りしやすい人間か。

 どこからか巨大注射器を取り出したコンパと、それに慌てふためくネプギアのやり取りを見て、彼女の印象が更新された。

 

「ロムちゃん。ロムちゃんも、ちりょーしてもらいましょっ」

「えっ……い、いいよ、ラムちゃん。ほんとうに、だいじょうぶだから……」

 

 そう言うが話を聞いてくれず、仕方なく手を引っ張られコンパのところへ。そのまま彼女の回復魔法をかけられて、ちゃんと治ったかラムちゃんに確認されて、立ち上がれるくらいには回復したネプギアと対戦後の礼儀として挨拶を交わして。

 時間にしては僅かだが、その間誰も気にしていなかった。存在感がないわけじゃない。ただこの場にいた誰もが、彼女以外の人物へ意識を向けていただけで。

 ネプギアが「そういえば……」と切り出し、私も気になりその方向を見れば、倒れたままの椅子だけが残されていた。

 

 

 


 この日の訓練はこれで終了。そう告げたのは、探しに行くために駆け出そうとするネプギアの行動を制した彼。なんでも「ツンデレ属性を持つ者は、同時にプライドが高いことが多い」んだとか。あと「ブラックハート様の妹様ですから」とか。

 つまり何が言いたいのか、私なりに考えると……

 

「同等だと思っていたネプギアが一足先に女神化できるようになった。それは今のネプギアが今の自分よりも女神として優秀だからと考えていて、その差に劣等感を持っていた。けど心がそれを認めているわけではなかった。だというのにそんな女神化したネプギアを、自分と同じ女神化できない組で、尚且つ精神的にも自分より劣っているはずのロムが女神化もせず倒した。

 自分と同じか、劣っている。そう思っていた二人の戦いぶりを、自分との差を見せつけられ、悔しさでその場を逃げた。……という感じかな」

「悔しさだけじゃない、もっと複雑に感情が重なっていると思うが……概ねそんな感じだろうな」

 

 夜、夕食も終えた私と彼は、身を隠すように暗い林のなかで話していた。今の話題はユニがどこかへ行ってしまった理由について。といっても既に戻ってきている。彼が考えるには、少し一人の時間を与えた方が良いとのことで、だから放っておいた。そして夕食前には戻ってきて、さっき一緒に食べた。ぱっと見では取り繕われて分からないものの、しっかり観察すれば落ち込んでいるのは分かった。けど介入しない。落ち込んだ原因に私も含まれているだろうけど、だからなんだ。どうせ私が気に掛けなくても、ネプギア辺りが成功失敗問わずフォローするだろうから、わざわざ私がする必要はない。

 

「……お前さんも、一応ユニ様の友達だろうに」

「じゃあこう言い換えよう、適材適所。それだけの話だよ」

 

 ちゃっかり思考を読む彼にそう答え、この話を終える。

 そもそもこんな場所に彼を連れてきたのは、素の自分を出しながら昼間逃げ出した奴の話をするためじゃないのだから。

 

「さて、ここからの出来事は誰にも言わないこと。もし言えば……首を落とすのはあっけなく終わりそうだね」

「女神らしからぬ発言なことで」

「これからあなたが見聞きする物事自体、女神らしからぬ行動の結果だけどね」

 

 「前にあった一連の事件の関係者、一人だけ手元に残してた」と前置きをし、空中に裂け目を作る。

 異空間の口。そこから前に収納したものを落とした。

 ドサっと現れる一人の男。どことなく悪人面をした人間は最初驚いた表情のままだったが、少しして頭が動き出したのか、それとも信号がようやく体へ伝わったのか表情を歪ませる。恐怖へと。

 暗いなかでも男が恐怖しているのは雰囲気でわかったらしく、彼は目でこちらへ問う。これはなんだ、と。

 それに口で誘拐犯のリーダーだよ、と答え、今にも餓鬼のように泣きそうな人間が泣く前に話しかける。

「なんで私を怖がるの?」と。

 言葉が返ってくる。答えではないが、「ひっ……あ、あくま……!」と。

 

「……お前さん、あのときほんとに何したんだ……? 他の構成員も、一様にお前さんのことを怖がってたんだが。氷がどうこう、死神がどうこうって」

「変なことはしてないよ。ただ氷を弾に見立てて、ヘッドショットを連発しただけで」

 

 痛みなく一瞬で意識を刈り取ったんだから、むしろ感謝してほしいね。

 

「絶対それだけじゃないな……」

 

 それだけなのに。

 

「で、こいつはそれで怖がってるってことか?」

 

 何故この人間を私が匿っていたか、ということに今は触れないらしい彼は、私ではなく人間へ直接理由を訊く。恐怖の対象である私ではないからか、少しはまともな言葉が男の口から発された。

 暗闇で満たされた空間に放り出され、しかも身体を縛られている感覚はないのに指先一つ、眉一つさえ動かせず、それどころか呼吸も出来ず、心臓も鼓動せず、文字通り何もできない、けれど思考することだけは出来る状態でずっとずっと、永遠にも感じるような時間を過ごしていた、と。

 たどたどしい言葉でも人間が伝えた理由……情報に、興味惹かれた。

 「へぇ……」と言葉を漏らした私の声は、彼の耳にどう届いたのか。こちらへ振り向き、驚き、そして引き攣った笑みを浮かべる彼の目に私の表情はどう写っているのか。

 そこに興味はない。だから……

 

「……ねぇ。ちょっと体験してきてよ」

「やっぱり!? ちょっ、あっ、ぁああああぁぁぁ──!!」

 

 彼の足元に口を開き、あっという間に落とした。そして口を閉じれば辺りに響いた悲鳴が嘘のように途絶えた。

 

「……すぐに戻しちゃ、結果がわからないよね。しばらく時間を置かなきゃ」

「や……やっぱり、悪魔……いや、死神だ……!」

 

 これはグレードアップしたって考えた方が良いのかな。

 

「──っとっ! そこに誰かいるの!?」

 

 遠くから耳へ届いたのは女の子の声。続いて地面を駆ける音、草や葉がそれを擦れる音。

 音が近付いてくることからこちらへ来ているのは確かで、ここでこの人間を見られるのはまずい、と再び異空間へと落とし、何食わぬ顔でその人物と対面した。

 

「っ……ロム……」

「……ユニちゃん?」

 

 回り道は出来ない、と直線で来たのかあちこちに葉を付けて現れたユニは私の姿を見ると眉をひそめた。昼間のことをまだ引きずっているのか。けれどそれどころじゃないと思ったのか、一呼吸し気持ちを落ち着けて訊いてくる。

 

「こっちの方から悲鳴が聞こえてこなかった?」

「……? ううん、聞こえなかったよ」

 

 記憶を探るように首を傾げ、そして心当たりはないと首を振る。

 無論怪しまれないための演技。けど客観的に、今の場所と状況を踏まえて考えてみれば大して役には立たないものだったと、後で私は思った。

 

「……ホントに?」

 

 私の返答に、怪しいとじっと私の表情を見つめてくる。その視線に恥じることなく、堂々と同じことを繰り返す。「うん。わたしは、聞こえなかったよ」と。

 それでも何か怪しいと思う材料があるのか目つきは変わらない。その目を真っすぐ見返しながら思考し、話を逸らそうと判断する。

 

「ところでユニちゃんは、どうしてここに?」

「そ、それはまあ、アンタを探して……って、アンタこそ、どうしてここにいるのよ。こんな夜遅くに暗い場所。ラムが心配してるんじゃない?」

「だいじょうぶ。ラムちゃんはもう寝てるから」

 

 昼間たくさん動いたから疲れたらしい。あまりにも寝ないようなら魔法を、と構えていたのが無駄になった。

 

「アンタは寝ないの?」

「まだ眠くないから。だからおさんぽしてた」

「こんな暗いところを?」

「見えないわけじゃないから」

 

 人間の目では光源が足りず見えない夜の森でも、女神の目にはある程度影が見える。注意深く辺りを観察すれば、木の穴や木陰からこちらの様子を窺う小動物の小さな瞳を確認できる。耳を澄ませば聞こえる虫のさざめき、草木が風で擦れる音。これは昼間は他の音に紛れていたり、感じ方が変わる音。

 夜の散歩には明るい時間にする散歩とは違う魅力があるのだと、幼子の口調と言葉遣いで説明すれば、少しは私がここにいる理由に納得したらしい。視線に含まれる疑念が薄くなった。

 だから今度はこちらから。

 

「それでユニちゃん、わたしを探してたの?」

「うぐっ……流さないのね……」

 

 思考を逸らすためだし。それに私を探してたっていうのは普通に気になる。

 

「……ユニちゃん?」

「……はぁ……。わかったわよ」

 

 抵抗を諦めた、という風に溜息を吐いたユニは「アンタに聞きたいことがあって」と切り出した。

 

「ねぇロム。アンタ、実は女神化できるんじゃない?」

「……、……?」

 

 呆気に取られ、目をぱちくりと。「急に何言ってんだ?」と素で発しそうになった口を閉じて、そのまま無言で首を傾げる。

 どうしてその発想に至ったのか、疑問に思った私に、ユニはご丁寧にも説明してくれた。

 どうやら彼女の考えでは、女神化するにはまず素の強さを上げればいいらしい。そして基準をクリアすれば、自然と女神化できるようになる、と。ネプギアはそれで女神化できるようになったんだと思う、とな。

 だから当然、女神化したネプギアに勝った私も女神化できるはずだ、と。

 ……なんだろう。この脳筋みたいな発想……

 

「えっと……、わたしは女神化、できないよ……?」

「……ホントに?」

「うん」

 

 表面では戸惑いを見せ、内心呆れながらも、そこは嘘を吐く必要がないから正直に答える。疑いの言葉にも、揺らがずに。

 これは私の言葉を疑ってたというよりも、自分の考えが正しいと思っていたから出た疑念だったらしく、「そう……」とだけ言うと少しの間考え、問いかけてきた。

 

「ロム、最近女神化しようとしたことあった?」

「ううん」

「なら試そうとしてないだけで、今やってみたらできたりとか……」

「できないと思う」

「ものは試しに……」

「……ユニちゃん、できないものは、できないんだよ」

「……なによ。試してもないくせに、できないってばっかりね」

 

 試さなくてもわかるものはわかるからね。

 

「……ユニちゃんは女神化したいの?」

「……当たり前でしょ。アタシはお姉ちゃんの妹なのよ。いつまでも女神化できない女神候補生なんて、情けないじゃない。……それに、女神化できなきゃいつまで経ってもお姉ちゃんを救えない……」

「……そうだね」

 

 女神化できればお姉ちゃん達を救える、四天王を倒せるとは限らないけど。逆に女神化できなくてもお姉ちゃん達を救える、四天王を倒せるだろうけど。けどこの考えは女神化しなければならない彼女達の邪魔をするだろうから言わないけど。

 それにきっとこの考えは、今の彼女を解決へ導くものには成りえない。

 

「……ユニちゃん、超野菜人って知ってる?」

「……知ってるけど。急に何の話よ」

「うんとね、超野菜人って、野菜人が変身した姿だけど……それって、女神化に似てると思うの」

「……どこが?」

「髪色変わったりとか?」

「はぁ……?」

 

 だってネプテューヌとネプギア以外、全員元の色からかけ離れてるし……。この二人も、元の色から少し変わったくらいだし。

 まあこれは冗談で、そんな話をするために漫画のキャラを例えに出したわけじゃなくて。

 

「超野菜人ってね、強くないとなれないけど……でも強ければなれるわけじゃない。野菜人か、野菜人の血を引いてないといけないし、すごーく怒らなきゃいけない。そのどれか一つでも欠けていたらなれない。

 女神化もね、強くなければなれないだろうけど、女神じゃなかったらなれない。女神化に必要な感情や信条が欠けててもなれない。そのどちらもがあって初めてなれるものなんだと思う」

 

 話し終わって、つい素の方で話していたのに気づいたけど、ユニにそれが気にかかった様子はなく。落ち着いていて、何かを思い出すような様子で何かを考えていて、少し俯いた顔が再び私の方へ向いた時、悩みが晴れ、すっきりした表情へと変わっていた。

 

「……ありがと、ロム。アンタの話を聞いてたら、お姉ちゃんの言葉を思い出せたわ」

「ノワールさんの言葉……?」

「前にお姉ちゃんが言ってたの。アタシが女神化できないのは、自分の心にリミッターをかけてるからだって。焦って思考が偏って、それも忘れてたなんて……アタシって、ホントバカ」

「……え。だいじょうぶ? ユニちゃんがその台詞を言うと、女神化とは反対の変身をしそうでこわい」

「誰が魔女化しそうな魔法少女よ」

 

 そうジト目で突っ込むユニだけど、互いに冗談だとわかっているから、ふっ、と表情が和らいで、そして念を押すように言った。

 

「ホント、ありがと」

「……どういたしまして」

 

 暗闇でも見えた彼女の表情に、自分も釣られたのを感じた。

 

 

 

 「アタシはそろそろ戻るわね」と言い出したユニにおやすみなさいと返すと、「アンタはまだ帰らないの?」と疑問の声。

 まだあの人間から話を聞けてないし、彼をこちらへ戻さないといけないし、とまだ戻れない私は「もうちょっとおさんぽしてくる」と返す。もしかしたら付いて来てしまうかも、と思ったけど「なら先に帰ってるわね」と大人しく戻ってくれるようで安心。

 ……と思っていたら、ユニが去り際に一言。

 

「そういや、アンタは女神化したいの?」

「……ううん、したくないよ」

 

 さっきの私の質問を返すような問いかけに、“私自身”の意思を持って答える。

 予想とは違う答え、そして私の微笑みを訝し気に見つめるユニだったけど、それ以上の追及はせず、「ま、まぁ人……女神によるわよね……?」と、自分の言葉にも疑問を感じながらこの場から去っていった。

 遠くなっていく足音。確実に聞こえない距離になって、一言。

 

「だって私は、女神じゃないからね」

 

 もしいつかこの体が女神化したときが来たのなら、そのとき私はこの体から去っているのだろう。


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