ロムに憑依しちゃった話。(仮)   作:ほのりん

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拠点と彼女の話。
わるあがき。


 合宿。そう呼ばれる戦力強化訓練は予定通り一週間で終了し、それぞれは国へと帰った。

 初回である今回だけど、無事に終えられたと思う。初日以外は基礎訓練のみで、模擬戦はやらなかったし。この合宿は連携力を高めるために行われているのにそれでいいのか、という疑問には、「ロム様とラム様の連携力が抜群なのは、何も双子だからという理由だけではありませんよ」と彼が答えていた。

 その言葉に含まれた意味を理解はしていないものの、「それって、わたしとロムちゃんがとっても仲良しだからってことよね!」と彼に仲の良さを褒められたと思ったのか、当たらずも遠からずな答えを出したラムちゃん。それを聞いて「じゃあ私達がもっと仲良くなったら、何も言わずに連携が取れるようになったりして……?」とラムちゃんの言葉を信じそうになったネプギア。「そうなれるぐらい連携が取れる様になったらいいけど……でも今はそういう意味じゃないでしょ」と目標はそれくらいと言いつつ呆れ気味のユニ。理解していたけどすっとぼけて「うんっ。そうだね、ラムちゃん」とニコニコと、微笑ましいなぁと思いながら返す私。

 ちなみに答えは「共同生活をしていく中で相手を意識し続けていると、自然と相手の呼吸がわかってくるから」、だった。

 

 さて、そんな無事に終わった合宿だけど、裏では別の案件も動いてて。

 初日の晩、「今後お前さんだけはマジで怒らせないようにするわ」と決めた彼は、「い、今のはただ隠れるだけじゃダメだったんですか……!?」と私に怯えながらも意見していた人間から手に入れた情報を、仕入れ先と仕入れ方法を伏せてミナちゃんへ報告して、ミナちゃんはこの事件に必要な部署と連携して、いろいろと計画していたらしい。

 ちなみにその人間は契約通りにこちらの質問に嘘は吐けなかったし、こちらも契約通り捕まりにくいだろう場所、つまり国外であるプラネテューヌで逃がした。多分ヘマをしなければ捕まらない。彼が言うには、あのときどさくさに紛れて逃げたとされるこの人間が国際手配されることはないだろうから、と。それでも国内限定で指名手配されているのは、こんな雑魚でも相手が悪かったから。今後ルウィーの雪を踏みしめることはできないだろう、と私の指示でその人間を車で遠くへ逃がしてきた彼が言ってた。今後会うこともないだろうから、どうでもいいのだけど。

 

 そして今日はようやくあの事件の主犯を捕まえる日になるらしい。ミナちゃんの感情や他の関わっている職員の感情がそう語っていたから、ほぼ確定。

 なお今回は彼からの情報はない。計画への参加を拒まれたらしい。教祖の意思ではない。「そんな出所不明な情報を持ってきたやつを信用できるかー!」と他の誰かが騒いだからだそう。実際は騒がず冷静に話し合いの結果そう判断されたわけだけど、どちらにしろ彼が関わっていないことに変わりはないので。でもその彼が持ってきた情報は信じるって、変なの。

 ちなみに当然だが私も参加していない。私はこの件に関してラムちゃん達の救助以外の事柄に一切関わっていない、ということになっているのだから。私はただ何も知らないふりをしていつも通りにしていればいいし、わざわざ面倒でしかないことに首を突っ込む必要もない。

 

 それに事件、風邪、合宿と二つは嫌なイベントを重ねていたけど、ようやく今日からまた始まるのだから。

 

「用意はちゃんと出来てるか? 一応言うが十分じゃダメだからな? 十二分でなきゃいざというとき困るのは俺なんだからな?」

「だいじょうぶ。ちゃんと持ったよ」

「ふむ……まあ何か忘れ物があったときはまた戻ってこればいいしな……」

 

 教会のロビーにて、彼と最後の打ち合わせ。

 持ち物の確認をしてくるけど、もし忘れたとしても(身体強化魔法を使えば)取りに戻れない距離じゃない。すごく困るほど長期的なわけでもない。そう思っているのと、自分が忘れたら困るものは自分で用意しているから、仮に忘れたら自分の責任だということで、彼は何度も聞いてこない。

 

「……ところでラム様はどうしたんだ? 見送りにくるって言ったんだよな?」

「用意するものがあるから先に待ってて、だって」

「……ほうほう」

 

 僅かに口角を上げる彼。ラムちゃんが何を用意するのか知っているのか、そのにやけ面を見ても感情からは何かを楽しみにしていることしか伝わってこない。

 聞いても無駄だろうが一応何があるのか訊いてみるか。それともどうせすぐラムちゃんと共に答えが来るのだから、それで十分か。

 ……後者でいっか。

 

 そう考えているうちに答え……もといラムちゃんがロビーに現れて、駆け足で私のもとへ。乱れた息から察するに部屋からここまで走って来たらしく、少し息を整えるとその手に持ったものを私へ差し出した。

 

「はいっ。ロムちゃんにプレゼント!」

「これ……おまもり?」

「うんっ。お姉ちゃんには効果なかったけど……でも今回は前よりもじょーずにできたから、絶対に効果あるわよね!」

 

 プレゼント、と渡されたのは水色の小さな巾着。……ではなく、御守り。確かに言う通り、前回お姉ちゃんへ作ったときよりも見た目が整ったそれをラムちゃんは自慢気に渡してきて、受け取った。そこで気付いたことが一つあったけれど、それに関して言わないのは触れてほしくないからかもしれなくて。

 やっぱり気付かれたくないのか、すぐに後ろに隠そうとしたその両手を自分の両手で包み込むように握って、ただ「ありがとう、ラムちゃん……とってもうれしい」と感情をそのまま表情に出して言えば、向こうも感情を出して「えへへ……よろこんでもらえてよかったわ!」とはにかんで。

 「絶対帰ってきてよね!」の言葉にしっかりと頷き、「ラムちゃん、いってきます」と言えば「いってらっしゃい、ロムちゃん!」と返ってきて。

 これが帰る場所があるってことなのかな、と。何度目かもわからない幸福感が心をあったかく包みながら、彼を率いて教会を出た。

 

 まあ、週末には帰るのだけど。

 

 

 

 教会を出て、しばらく歩いて、人気もなく建物で囲われて明るさもない道まで来て、ようやく彼へ問う。

 

「で、この御守りのこと、知ってたの?」

「ラム様から教えてって来たし、一緒にパソコン見ながら作ったからな」

「で、何個目かわかる?」

「さぁて。それは俺の口からも言わない方がいいだろうな」

 

 微笑ましいのだろうけど、妙にムカつくにやけ面をじとっとした目で見てから、ポケットへとしまったお守りを服の上から優しく握る。

 

 気付かないふりをしたのは、その手に残った努力の証。

 女神だから、明日には消えちゃうだろうけど。だからこそ直前まで頑張ってたんだとわかる、指に貼られた何枚かの絆創膏。

 その努力を褒めようか悩んだけれど、隠そうとしたのは触れられたくないからだと思ったから。

 だからそれに関しては言葉では触れず、隠される前に手を握ったのは、こちらもまた気付かれないようにするため。

 手の内で僅かな、けれどその傷に対して十分な効力を持つ魔法を気付かれないよう発動したことは、多分気付かれていないはず。

 努力の証を消すなんて、って誰かに非難されるだろうか。まあそんなやつは何をしてもどこかしら怪我をして絶対に痕が残る呪いにでも掛かればいいと思う。男なら勲章とか言いそうだけど、女の子の怪我は勲章でもなんでもなく、むしろ欠点となってしまうのだから。

 

「男でも嫌なやつは嫌だからな?」

「え……顔に十字の切り傷とか、男は憧れるものじゃないの?」

「どんな偏見だよ……俺はそんな傷を作るような事態にまずなりたくないね」

 

 さらっと思考を読んで来るのはいつものことだから気にせず、前に図書館で読んだ漫画の印象を伝えると、もっともな答えが返ってくる。

 確かに、そんな大怪我を負うような事態になるのはごめんだ。

 

「だが俺だけの意見だと、信憑性がないだろ? なんなら他のやつにも訊いてみるか」

「……そうだね。せっかくだから、参考までにね」

 

 歩みを止めると、後方から遅れて足音が止まる。

 足音は複数。振り返らずとも、両手では数えきれない数が揃っているのはわかる。

 よく聞き分ければ、まだ見えていないが前方からも足音。向こうもここでやるつもりらしい。

 せっかく機嫌がいいんだから、ついでに相手をしてあげよう。

 

「それで、貴様らはどう思う? 傷痕は勲章か、欠点か」

 

 そう問いかけながら振り向けば、そこにいるのは前に見たことある、同じような服を揃って着た人間共。距離は空けているものの、端から隠れるつもりはないらしい。手には各自で持ち寄ったのか、支給されたのか、まともな武器。

 

「……アレ、軍に支給されてるやつだな。俺も使ってた時期がある」

「最後の悪あがきか。狙ったのはどっちだろうね」

「どっちもだろうな。俺達二人が共に行動することなんて、教会中に知られてるだろうからよ」

「ああ、一石二鳥を狙ったのか」

 

 前方……今は後方だが、そちらからも姿が確認できたのだろう。互いに背中合わせとなった彼からの小声で伝えられた情報に、確信が強まる。大方、しくじらなければ捕まるらしいあの人間が放ったのだろう、と。

 そう話しているうちに前の集団から一人、前へと出てくる。

 手に持つのは金属の棍棒。それを持ってもおかしくないぐらいには体格のいい男は、薄ら笑いを浮かべながらある一定の距離で止まった。

 

「テメェ、確か女神候補生だったな。俺様が律義に答えてやるけどよ……(つえ)ぇ奴を負かしたときに付いたんなら、立派な勲章だ。例えばテメェみてぇなのとか、さぞかし貴重な勲章になるぜ?」

「ふぅん? 私を負かすつもりなの? その数で? その程度の実力で? じゃあ質問を変えよう。格上と戦って負けたときの傷も、勲章になるの?」

「ならねぇし、ありえねぇよ。俺様の辞書に敗北の二文字はねえからな」

 

 既に勝利を確信しているらしい。笑みが深まり、私のムカつき度も深まった。

 

「……おい、あんまり煽るなよ? 奴らから印象が漏れたらどうするつもりだ?」

「さあ? どっちにしろ、この場で全員仕留めるのは確定じゃない?」

「それもそうだけどよ……」

 

 呆れ……というより心配そうな声色の彼へ「そのときは大人しく、大人しくしなくなるだけ」と返し、杖を構える。こうしている間にも、有限な時間が過ぎていくのだから。

 もったいない。その気持ちを煽り言葉として、声を大きくして言う。

 

「さて、早めに終わらせるよ。彼奴らの時間は石ころ同然でも、私の時間は金にも等しいんだから、道草食う暇があったらやることやらなきゃいけないでしょう?」

「んだとテメェ……!」

「別の言い方にする? 無価値な貴様らに付き合うほど、私は暇じゃないの。ほら、私って仮にも女神候補生だから。これでも忙しいんだよ? ああ、それとももっとおしゃべりしたい? でも私にとって貴様らとの対話は無意味だから、時間制でお金取るよ? その手のお店の100倍の料金でどう? まあそれでもしたくないんだけど」

「おいおい……煽るなって言った矢先から……」

 

 今度は100%呆れの声色で話してはいるものの、彼は懐から自身の得物である拳銃・短剣・ナックルを一体化したアパッチ・リボルバーを取り出し、指を通してそれぞれ両手で握り締める。私もそれに続き杖を取り出し、前の人間へ向ける。

 こちらが戦闘態勢になることで、向こうもそれぞれ武器を構え……

 

「野郎ども! 女神の首を取ったやつが幹部昇進支部長就任! いい感じに仕留めるぞ!」

「「「うぉおおおぉぉおお!!」」」

「いやどこの噴進団だよ」

「しかも必ず負ける悪役……」

 

 今度は私も呆れる側になりながら、ほぼ一斉に駆け出す敵を迎え撃った。


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