ロムに憑依しちゃった話。(仮)   作:ほのりん

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ごみそうじ。

「結構溜まってたなぁ……あとどれくらいあるんだろうね?」

 

 掃除を終えて、そう独り呟く。けれどたった今廃工場になった建物の中で嫌に響くだけ。返って来る声はなく、聞こえるのは息遣いのみ。

 大きな穴を空けた天井から月光が降り注ぎ、仄かな明かりで私達を照らしてくれる。

 おかげで明かりに困ることはなく、床に落ちている()()を掃除するのに苦労はしなかった。

 

「っ……だれ、だ……おまえ……」

 

 一つ一つ、持ち物を確認してから異空間に入れていると、ゴミの一つがカスかな声を発した。その目に映る恐怖に口が自然と弧を描き、機嫌が良くなった私はローブをふわりとたなびかせながらそこへ近づき、答えてやってから再び意識を刈り取った。

 

「氷結の魔女。そう呼ばれていた時期があったかもね?」

 

 

 

 これは別に正義のために行っているわけじゃない。結果的には正義を手助けしているのかもしれないけど、多分その正義側の人間達にも迷惑をかけているような行為だ。

 彼の家で見た漫画に描かれていた。悪人の勢力が増し、逆に個性的な能力を持つヒーロー達がどんどん引退していく中、そのヒーローが頼りないからと自ら武器を持ち、齧った程度の知識で戦う能力無き人間達。その結果、他人の居場所を、或いは自分の居場所さえ壊してしまう。挙句の果てにはその責任をヒーローが来なかったからと押し付ける。元はと言えばその人間達が責めたから多くのヒーローの心が折れていなくなったんだし、勝手に動いてはいけないと知りながら動いたのは自分だというのに。

 私の行いは、その能力無き人間と同じような行為だ。ちゃんとした知識はなく、集団の和を乱し、間違った手段で行動し、一番面倒な部分を他人に押し付ける。そして同時に自分より早く行動できない正義側の人間へ悪態を吐く。行動の責任はさすがに押し付けないけど。これに何かしらの罪が付くというのなら、それでもいい。……捕まる気はないけれど。

 仮に罪に問われないとしても、家族や友達には叱られる。何を一人で勝手に、と怒られる。と同時に皆は優しいから、何故自分を呼んでくれなかったのか、手伝わせてくれなかったのかと悲しまれる。そうなると思う。

 別に怒られたいわけでも、悲しまれたいわけでもない。

 大切なヒト達の負担を減らしたいから、と考えてはいるけど、それは建前の思考な気がする。

 本心ではどう思っているのか。その行為をした結果に何を求めているのか。

 自分でも今はまだわからないけれど、求めているものが万に一つでもいいからあったらいいな。

 

 

 


 きっかけは『教会職員、横領及び国家反逆罪で逮捕!』とか『さすがは女神候補生! 犯罪組織のアジトを突き止め、組員69名を逮捕!』とか『謎の怪異!? 不気味に笑う魔女と氷漬けの廃墟!』などなど。そんな見出しから始まる新聞やニュース、ゴシップ記事という形でルウィーや世界中に知られたあの日の襲撃が始まり。

 捕まえた人間を職員に渡す前、指示をした人間の証拠がないか持ち物を確認していたときに見つけた、この人間共がアジトにしている場所への手掛かり。

 仲間の仇だ、とか。報酬が、とか。そんな理由でまた襲撃されても面倒だし、ここらでいっそそのアジトごと潰そう。

 そんな思考で彼をその場に置き、一人でその場所へと向かった。そのときはロムの姿のまま、その場にいた全員を拘束した後ミナちゃんに連絡したから、新聞とかに私の名前が載っちゃったけど。

 で、そのアジトでの通信記録とか、書類とか。そういうのから他の場所にあるアジトの位置情報に繋がる手がかりを見つけて、思った。

 

 あれ? この程度なら私が一人で動いても大丈夫じゃね? 

 

 女神のように人間に極力怪我させず、同時に反省させるなんてことは出来ない。けれどミナちゃん達のように、悪戦苦闘することはない。

 そこまで苦労せず、けれど綺麗ではないやり方でなら、私が動いた方が雑魚は早く片付く。根本的には解決しないが、このまま放置して黒くてテカテカしてるキッチンの奴らみたいに増えられるよりはいいのでは。憂さ晴らしにもなるし。

 けどこのやり方だと自分が女神候補生であることが枷となるから、いつものように変装してやらないといけない。代わりに好印象も女神に与えられないから、単純に敵の勢力が減るだけになる。

 それでも敵の勢力を減らせば、味方の勝率が上がる。女神側が勝てば、その道中はあまりにも最悪でないなら影響はない。そもそもわたしだとバレなきゃ関係ない。

 

 そんな思考回路で決断し行動した結果、まだ数は少ないもののいくつかは潰すことができて、同時に他のアジトの場所も得られて。

 そしてこの日もまた、同じように行動したのだった。

 

 

 

 その日、私はルウィーではなく、プラネテューヌにいた。

 理由は単純。3カ月経ってようやくあの教祖が救出するための計画を立てたから、その内容を聞きに来た。これはラムちゃんも一緒。ただし彼は留守番。

 けど「説明は3日後に候補生が全員集まってから」と言われていて、まだその3日は経ってない。それなのに既にプラネテューヌにいる理由は、ルウィーにいたところで特に用事はなかったから。

 どうせ暇だから早めに行こうと提案したのは私。それをサプライズにしようと提案したのはラムちゃん。

 私達の意見はミナちゃんに通って、ネプギアには内緒で行ったら驚いた顔をして、それから友達が来てくれて嬉しいと笑顔で迎えてくれた。

 内緒で来たからユニとは示し合わせてなくて、残念ながら彼女は予定通りの日程になってしまったけど、3人でたくさん遊んだ。ネプギアとその姉の部屋でゲームをしたり、外に遊びに行ったり。

 それで夜になって、良い子はもう寝る時間ってラムちゃんと一緒に用意されたベッドで寝転がって。ラムちゃんが寝たのを確認してから、私はそっと部屋を出た。

 

 

 

『ゴミ掃除』。そう称したその行為はプラネテューヌに場所を移しただけで変わらずに行っていて、事前に仕入れていた情報から一番近い場所へ向かい……

 そして冒頭に戻る、ってね。

 

「ひー、ふー、みー……おー、結構ある。これならしばらく困らずに済むね」

 

 そう数えるのは百枚が一つにまとめられた札束。組員の財布から抜きとった……わけではなく、金庫にしまわれていたのを開けて取っただけ。おそらく組織の活動資金だと思われるそれを、罪悪感は一切なしで懐に入れる。

 私は勇者でもなければここの管理者でもないから、これはただの犯罪だけど……いや勇者でもやったら盗人だけど……まあバレなければ問われない。それにどうせここの人間共は悪いことに使うだろうから、そうするくらいなら私の食費に費やす。あとアジトに関する情報を買うための資金。情報屋の情報はタダじゃないから。

 まあこれでラムちゃんに何か良いもの買ってあげられないのが、少し残念だけど。本人もこんな金で買ってきたものなんて嫌がるだろうし。

 ……ふむ、いっそ教会に匿名寄付をして……いやでもまたあの人間みたいに横領されるのも……まあそのときはぼっこぼっこにすればいい。うん、余ったのはそうしよう。

 

 ……と、思考を膨らませていたときだった。私の音以外がなくなった空間に、新たな音が刻まれたのは。

 

 ――足音。鳴る回数と間隔、音の軽さが私に、来訪者は小柄な人間が二人分だと知らせる。その人物達が工場の様子を確認しながら、慎重に足を進めていることも。

 

 幸運にも外に出ていて私に意識を刈られずに済んだ仲間が、不運にも私がまだいる間に戻ってきたのか。はたまた教会が送り込んだ警備兵か。それとも迷い込んだ冒険者か。

 正体が誰なのか。じっと耳を澄まして探っていると、音は確実にこちらに近づいて来ていた。

 

 この場から逃げる? それとも隠れる? あるいは会ってみる? 

 

 三つの選択肢が私の中に生まれる。前者二つは会わないという選択。後者はこんなところに来る物好きに会ってみるという選択。

 姿に関しては問題ない。衣装と髪色が違えば友達(ネプギア)にも別人判定されるのだから、瞳の色と声のトーンも変えてしまえば余計にロムだとわかることはない……はず。

 だから会ってもこの光景と女神候補生を繋げられることはない。じゃあ物好きの顔を見てから帰るか。ついでにいつもやっている教会への運搬をそいつらにさせれば一つ楽ができるし。

 そう判断し、異空間から意識を失ったままの人間共を落し、足音の主達を待つ。

 

 ……そういえばこの光景を見たとき、これから来る人間達はどう反応するんだろう。

 

 ふとこれから起きる出来事を想像して、反応が楽しみだなと待つこと数分。

 慎重に、されど堂々と。月明かりに照らされたこの空間に姿を現したのは、世界レベルの美を持ちながらも自称無個性の少女と、その姉の友達の片割れの女性だった。

 その表情には警戒の色が。私の背後に落とした人間(ゴミ)を見て、敵か味方か判断しづらいようだった。

 

「……なーんだ」

 

 小さくとも幼子特有の高い音で響いたのは、落胆から出た私の声だった。

 待っている間に正体が誰かよりもどういう反応をするかに思考が重点を置いていたから、恐怖でもなければ傲慢な感情でもないその反応に、期待が外れたと思ったから。

 

 それでも状況が少しまずい方へと展開しているのは頭の片隅で理解していた。

 これなら会わずにさっさと逃げればよかった、と軽く後悔もしてる。

 

「あれ……? その声と姿、もしかして前に会った……」

「ネプギア、こいつのこと知ってるの?」

「は、はい。前にルウィーの街中でぶつかっちゃって……」

「ふーん……それがプラネテューヌに、ね。アンタ、こんなところにいるんだから、まさかただの迷子ってわけじゃないわよね?」

「ん、そりゃね。こんなところにいる幼女がただの幼女だったら、私も驚きだよ」

「幼女……? それにその格好に、この状況……」

 

 自称無個性のネプギアは、街で出会ってしまったこの格好のときの私を覚えていて、それを簡単に姉の友達の片割れであるアイエフへと説明する。

 衣装が体のほとんどを隠していたから。私が自分から幼女だと言ったことでようやくアイエフは私のことを女の子だと認識したらしく、同時に何か心当たりがあるからか頭の記憶を探り始めたようだった。

 

 まあ、相手が既に顔を見たことがあるネプギアだとしても、わざわざ顔を見せるつもりはないけど。

 

「あなたは一体誰なの? この状況は、あなたが作ったもの?」

「私が誰なのか、この状況は誰が作ったものなのか。それを心底丁寧に説明してあげても良いけど、それを訊くならまず、自分から名乗った方が良いよ?」

「あ、うん……えっと、私はネプギアっていって、プラネテューヌの女神候補生で──」

「いや律儀に自己紹介する相手じゃないから」

「えー。いーでしょ、じこしょーかいくらい。ねっぷぎっあの~(はいっ)かっわいっいしょーかい、ききたいな~(あそーれ)」

「なんでわざわざ手拍子打ちながら言ってるのよ……しかも掛け声までつけて……」

「あ、あはは……」

 

 歌うというにはほど遠い、ほぼ棒読みのまるで宴会のノリのようなリズムに乗せた発言にアイエフは呆れ顔。ネプギアは困り顔で苦笑していた。

 それでもすぐにアイエフの呆れ顔は先ほどよりも警戒の色が強く、睨むような顔へと変わり、自身の得物であるカタールをその両手に持つ。その行動にネプギアは慌てて止めようとするも、アイエフは武装を解かず、むしろネプギアにも促していた。

 

「ネプギア、アンタも構えなさい」

「で、でもアイエフさん。まだこの子がやったことだとは……」

「いいえ。確実に彼女がやったことよ。……そうでしょ? 氷結の魔女」

「へぇ……私のこと、知ってたんだ?」

 

 その名前で呼ばれ、目を細めた。

 アイエフに……プラネテューヌの諜報部に情報が入っているということは、既にルウィー教会でも私のことは知られているのだろう。ならいずれはラムちゃん達の耳にも入るかもしれない。現に今ネプギアにその名を知られたわけだし。

 

 知られた。知られていく。

 

 そのことに不思議と嬉しくなった。ワクワクした。自分でもなぜかはわからないけど、その感情が私の口角を吊り上がらせていて、二人は雰囲気でそれを感じ取ったのだろう。元から強く警戒していたアイエフは武器だけでなく体勢でも構え、私に武器を向けることに躊躇っていたネプギアもその手にビームソードを現した。

 二人が臨戦態勢となり、こちらの一挙手一投足に警戒する中、私はぴょんっと地に足を付け立ち上がり、武器を構え──

 

「残念ながら、今のところあなた達と戦う気はないからね。用は済んだし帰るよ。後片付けはよろしく」

「な、ちょっ……待ちなさい!」

「待てと言われて待つやつじゃないので。それではまたらいしゅ~」

 

 ――ずに、ハイジャンプで天井に空いた穴から外へ出た。ちゃんと別れの挨拶もしながら。

 さて、用事も済ませたし、ゴミの後処理はアイエフがするだろうし、さっさと変装解いてラムちゃんのところに帰りたいんだけど……

 

「待ってください! まだお話を聞いていません!」

「……そうもいかないよね」

 

 同じように天井から文字通り飛び出たのは、女神化したネプギア。機械羽で飛び、雪の上で立ち止まっている私の前へと素早く回り込んだ彼女は剣を持ちながらも構えず、けれどもこれ以上私を逃がす気はないようで地面から少し浮いた状態で対面。

 その目に映るのは、私が敵ではないと思いたい、そんな気持ち。その眼差しや態度にまだ敵意はなく、仮にここで私が適当に本当と嘘を交えて「女神の敵にはなりたくない。女神のためになると思ってやっていた」と言っても、信じてくれそう。さすがにそのまま見逃す、なんてことはしないだろうけど、私から理由を聞いて、その気持ちを汲んで、一緒に改善策を考えてくれそう。

 くれそうだけど……今の私はそれを望んでいない。

 敵にはなりたくない。けど、無条件で味方になれるほど、この姿の私は簡単じゃない。

 

「先ほどの質問に答えてください。あなたは一体何者で、どうしてあんなことをしたのか」

「別にいいけど……そういえば私に対する言葉遣いがさっきと違うね? どうしたの? さっきまで私みたいな子どもに対する喋り方だったのに」

「話を逸らさないでください」

「だめ? そっかー。まあさっき答えてもいいって言っちゃったもんね。いいよ、さっきネプギアがちゃんと名乗ってくれたように、私も名乗ってあげる」

 

 あまり重くならないように、軽く、それでいて上から目線の態度でそう言い、改めて帽子を取り、挨拶。

 

「これは二回目だけど、初めまして、パープルシスターことネプギア。私は魔女、人でなしだよ。これからも何らかの機会で会うかもしれないから、覚えておいてね」

「う、うん。えっと……マジョというのが、あなたの名前で……?」

「ううん、それは種族名。仮で名乗ってる名前はあっても、私に本当の名前なんてないからね。氷結の魔女っていうのも、人間共から呼ばれていたのを一部変えただけだし。いわゆる二つ名。じしょーじゃないところがかっこいーでしょー」

「そ、そうですね……?」

 

 帽子を取り、顔を見せれば、やっぱりロムちゃんと似てる……と言いたげなネプギア。けれどこれまたやっぱり別人だと判定しているようで、私の言葉に引っかかりながらも質問し、その回答にも首を傾げながら肯定した。きっと聞きなれない言葉とか想定していない理由とかにどう受け止めて、どう返せばいいのか考えているんだろう。あとかっこいいとは思ってない。

 時間に余裕があったら考える時間を与えても良いと思うけど、今はないのでさっさと次の質問にも答えてしまおう。

 

「で、私が犯罪組織の組員をふるぼっこにした理由だよね。簡単だよ、邪魔だったから」

「邪魔って……そんな理由で、人を傷つけたんですか……!?」

「そんな理由でいいんじゃない? あなた達だって邪魔だから、危害を加えてくるからモンスターを倒すんだし。私にとって人間を傷つけるのは、その程度の感覚。女神であるあなたには絶対にわからない感覚だろうけどね」

 

 プラスで言うなら絶対にわかってはいけない感覚だろうけどね。

 

「……確かに、わかりません。けど、どんな理由であれ、人を傷つけるのはいけないことです」

 

 ようやく彼女は私へ剣を向ける。その目には、間違っている私を止めようとする、女神としての正しさを貫く意思が映る。

 女神として模範的な回答。想像、予想、想定、予測。同じような言葉のどれかには当てはまる言葉の範囲内。

 頭ではそう返って来ると考えていたわけだけど、けれど実際に彼女の口から聞くと、想像以上に心が冷え切った。

 わかってはいた。わかってはいたはずなのに、改めて思ってしまった。

 

「……やっぱり“私”は、あなた達とは相容れないみたい」

 

 偽った()()()ならともかく、()じゃ無理だと諦めてしまった。

 ……まあ、わかっていたことなんだけど、ね。

 

「わかって、くれませんか……」

「うん、わかんない」

「それならいっぱいお話して、人の良いところを知ってもらって、絶対にわかってもらいます!」

「それはどうだろう。根本的に価値観が違うから、私をわからせるのはそう簡単なことじゃないよ?」

「だとしても諦めません!」

「そう……」

 

 やる気を出したネプギアに、これはどう返そうか悩み……発破をかけることにした。

 

「そういえば私って、自分より弱いやつの言うことなんて一切聞く気がないんだよね。それが私の意見と噛み合わないときなんて特に。……あとはわかるよね?」

「……はい」

「よかった、そこはわかってもらえて。そういうわけだから、仮にいっぱいお話しするとしても私を倒せてからにしてね。私も、そのときはちゃんとお話聞いて、自分の価値観を見直してあげるから」

「本当ですか……!? なら……!」

「ああ、いやいや、まって。今日はやる気ないよ。夜も遅いし、眠いし、疲れちゃった。それとも何? ネプギアは弱ってる私を倒したい?」

「そ、それは……そこは正々堂々とやらなきゃ、勝ってもちゃんとわかってもらえそうにないので、お互い万全の状態で戦いたいですが……」

「そうだよね? じゃあ、今日はこれでお開き。また次回、どこかで会えたら戦おうね。それまでは鍛錬期間ってことで」

「次回って、その間にまた同じことをするのでは……?」

「そりゃするよ? わざわざあなたが勝つまで待つ気はないもん。……でも、そうだね。それじゃああなたが来た時には私がいない、或いは行けないってことが多そうだから……」

 

 勝ち負けでやめるかどうか決めると決めたのに、そもそもその勝負すらできないんじゃ話にならない。その問題を解決するにはどうしたら、と少し考え、思いついた。

 

「なら事前にお手紙を出すのはどう? 今夜、どこどこを襲撃します、なんて。まるで怪盗の予告状みたいな」

「それだと私が事前に張りこむことができそうですけど……」

「そこはほら、工夫を凝らして場所が簡単にはわからない書き方にすればいいかなって」

 

 暗号化したり、何かしないとわからない言葉にしたり、ってね。

 

「……わかりました。それであなたを倒してわかってもらえるのなら、受けて立ちましょう」

「いや、あくまでお話を聞くだけだよ?」

 

 まあ前向きに考えようとは思うから、そう思ってくれていても構わないのだけど。

 そうだ、契約……はしなくてもいいか。口約束で。どうせ守らなきゃいけないのは私の方だし、契約魔法なんて知らないだろうから言わなきゃいいだけだし。

 

 と、話し合いにキリがついたところで、工場の方からアイエフの声とかけてくる音が。紫の女神曰く優秀な諜報部員である彼女まで私の顔を見てもロムではないと思い込むとは思えないから、顔を見られる前に帽子を被り直して……

 

「それじゃ、今度こそ行っていいよね?」

「あ、はい。いいですが……」

「じゃ、また次のときに」

 

 軽く会釈をし、彼女の横を通って街へと歩き出す。

 

「あ、あのっ!」

 

 少し歩いてから、ネプギアに声をかけられる。

 まさか、まだ何かあるのか。そう思い振り返れば、アイエフと合流した彼女はこちらを見ながら言った。

 

「さっきの話、約束ですからね!」

「……いいよ。約束はどんなものであれ、守るのが私の流儀だからね」

 

 そう言い、小指を軽く曲げた状態で立てて彼女へ向ければ、その意図を察した彼女は同じように小指を立て、私へ向ける。

 ……これもまた一つの契約の儀式。絡ませないけど、確かに結ばれた約束を新たに背負いながら、これからはちょっと楽しめそうだとその場を去った。

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