ロムに憑依しちゃった話。(仮)   作:ほのりん

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まっかいろ。

 ──結界。

 それは魔力から、神力(シェアエネルギー)から、はたまた妖力から生み出される、術式の一つ。

 その用途は様々で、単純な防御としての盾や外から姿を隠したり、影響を受けないようにするフィルター。果ては電撃や炎を内側に閉じ込め、効率的に敵を滅ぼす籠の役割を持つものまで、本当にいろいろと。

 

 そして姿を偽り、変化を拒む。

 そんな結界の存在を、私は知っていた。

 

 

 

 

 


 あの場所へ近づくごとに警鐘が早くなっていくのを感じながら、彼に背負われた状態で運ばれる。

 頭痛に表情は歪み、額に脂汗を浮かべる。心臓はバクバクとやけにうるさく感じる。それでも私達の行く先を、目を凝らすように、睨むように見つめ続ける私を、私達のペースに合わせて隣を歩くユニが時折心配そうに見ていた。

 優しいと思う。例え私が友達じゃなかったとしても。赤の他人だったとしても、彼女は……彼女達は、私を心配して、気を使ってくれるだろうから。

 そんな心優しい彼女達だからこそ、見せたくなかった。

 

 優しくなかった世界の、その一端を。

 

 

 

 薄暗い森の中、まっすぐに向けていた視界に、薄っすらと二つの人の影が映る。よく見なくてもそれはラムちゃんとネプギア以外いなくて、ユニは二人が無事だったことに安堵の息を吐こうとして……何かがおかしいことに気付いたのか、疑問の声を漏らす。

 目の前の光景を見て立ち尽くすネプギアと、何かに驚き尻餅をついたままのラムちゃん。

 その二人の姿を見て、間に合わなかったのだと。やはり、あのときのまま残っていたのだと。思い出したことが確信へと至り、彼の背から降りて、ラムちゃんへと駆け足で近付く。

 

「……ラムちゃん、だいじょうぶ?」

「っ……!? ろ、ロムちゃん……っ!」

 

 そばまで行って声をかける。それでようやくラムちゃんはこちらに気付いて、しがみつくように抱き着く。私へ向けたその目は恐怖で潤んでいて、誰がどう見ても大丈夫なわけがなかった。それは隣のネプギアも同じで、泣きそうにこそなっていないものの、ショックを受けていることに違いはなかった。

 

「ちょっと二人とも、何をそんなに……って……なによ、これ……」

 

 私のすぐ後に二人へ近づいたユニも、目の前の光景に気付いて言葉を失う。けどすぐに「いや、まさか……違う、わよ……ね……?」と言葉を紡いだ。それは目の前に広がるソレが、自分が想像してしまっているものではないと、そう希望に縋りつきたいような声であった。

 けど現実は非情で、それはユニが想像しているもので間違いない。ユニだけではなく、ラムちゃんも、ネプギアも……この場の全員が想像している通りのものだ。

 

「……血、か」

「……うん」

 

 最後に来た彼の冷静な声に、頷く。

 薄暗い森の中。それでも見える、地面の色。

 私達が立つ場所から先に広がる、赤黒く染められた色。

 元々そういう地面の色……なわけがない。それがわかるように、木々や木の葉も同じ色の液体を被ったように変色している。地面も、全てが染まっているわけではなく、所々元々の土の色や雪の色が残っていた。もっとも、奥へと進むごとに染まっている割合が大きくなるだろうと、私は思い出したわけだけど。

 

「……ロムちゃんは、知ってたの……?」

「……うん。だから、見せたくなかった」

「……なんで……?」

 

 その頭をそっと撫でながら、少しは落ち着いたラムちゃんの問いに頷く。そして次の問いに少し考えてから、今更な口調で答える。

 

「……昔ね、あのお城の近くで、みんながケンカしちゃったの。今もずっと、その痕が残ってる。きっといつまでも残ってる。ラムちゃんたちは優しいから、絶対お胸が痛くなると思って、見せたくなかったの」

 

 喧嘩、なんて生易しいものじゃない。現代じゃ考えられないことが原因の、戦争の痕跡。

 けど皆に言うなら……特にラムちゃんへ言うなら、この言葉選びのほうが良いと思った。そのまま直接言えば、もっと酷い方へ、想像が働いていたかもしれないから。

 

「……だから、この先はもっとヒドいよ。それでも、行く?」

 

 撫でていた手を離し、ラムちゃんから一歩離れて、問う。今ならまだ、引き返せる。

 これ以上悲惨な跡を見ずに済む。心を痛めなくて済む。

 

 黒い感情が、生まれなくて済む。

 

「……いく」

「……どうして?」

「ロムちゃんは行くんでしょ? なら、わたしも行く。そんなところに、ロムちゃんをひとりで行かせたくないもん」

「……そっか」

 

 初めて見た。ラムちゃんの、覚悟の目。

 今までそういう場面になったことないから、っていうのもあるけど、初めてその目を見ちゃったから。

 そこに何も感じなかったら、そんな理由なら行かせない、なんて言ってたと思う。

 でも少しだけ、ほんのわずかでもラムちゃんの優しさと、奥に秘めた心の強さを感じたら、自分でも驚くくらいあっさりと根負けした。

 

「……ふたりは?」

「……行くよ。私だって、二人だけでそんな場所へ行かせたくないから」

「そうね。それに、ここで逃げたら女神候補生としても失格じゃない」

「……そっか」

 

 同じ返答にはなったけど、納得はした。その目に映る恐怖は拭えていないけど、ラムちゃんじゃないなら、そんな理由でもいいから。

 

「……もう、大丈夫か?」

「……うん。どんな理由があろうと、ここからは自分の足で歩かなきゃいけないから」

「そうか……なら」

 

 そっと隣に立つ彼へ、しっかりと頷くと、彼はラムちゃん達へと向き合い、言う。

 

「申し訳ありませんが、私はここで辞退させていただきます」

「えぇ~。ここはフツー、いっしょに行く場面じゃない?」

「私は皆様と比べれば非戦闘員も同然。仮にこの先で戦いになった場合、私は足手纏いにしかなりませんから」

 

 ラムちゃんの不満に、はっきりと理由を告げて断る彼。確かにもしここで自分も、なんて言われたら、私が雪に埋めてでも置いていっただろう。そのあたりをちゃんと考慮できるからこそ、今も彼を私のそばに置いているわけだが。

 そして彼の理由に納得こそすれ、反対するような馬鹿はこの場にはおらず、ネプギアとユニも申し訳なさそうに頷いていた。皆、彼の実力自体は前の合宿での鍛錬で見ていたから。

 普通の人間の域を出ないなら、私達に付いていけるわけがない。

 

「そういうわけですから……皆様、お気をつけて」

「……うん。行ってくる」

 

 そう言って、私達は真っ白な雪から、赤い雪へと足を踏み出した。

 

 

 

 一歩一歩、今の私が、歩いていく。

 真っ白な雪なんて見えなくなって、抉られて剥き出しの土もそのまま、足跡も増えてきた。

 木にも痕が残ってて、刀傷も、鈍器がぶつかった痕もある。中には焦げたものや、小さな穴を空けたものも。

 これが長い間放置されていた、なんて信じられないほど、あの頃のまま、時間から置き去りにされたように残る道を、歩いていく。

 

 そうして開けた、森の向こう。遠くからも見えた真っ白なお城は、最後に見た光景のまま残っていて、周りの赤は、まるで小さな湖のように見える。

 誰かの息を呑む音が聞こえて、衝撃的な光景に固まる中、私は懐かしむように目を細めて、小さく、

 

「……ただいま」

 

 微笑んだ。




みんな、いいヒト。
みんな、やさしいヒト。
みんな、すきだった。

でもみんな、いなくなった。
わたしをおいて、いなくなった。

人に、うばわれた。
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