ロムに憑依しちゃった話。(仮)   作:ほのりん

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まっしろしろすけ。

 昔は真っ白だった。雪が降れば足跡が消えていたから、その翌朝は子供達が外に出て、楽しそうに遊んでいたのをまだ覚えてる。一人一人の顔は忘れてしまったけれど。私は城の最上階で見てることしかしなかったし。

 ただ子供達が笑顔だった。そのことは強く覚えてる。大人達が守ってくれたから。彼らが怖がらないよう、悲しみも憎しみも殺意も、負の感情を子供達の前では出さないよう、彼らがほんの一秒でも長く笑顔でいられるよう、配慮してくれたから。

 私達は生まれた場所も時間も違う他人だったけど、僅かにしか生き残っていない同族同士だったから。同じ種族なら家族だって意識が強かったから。

 私は、家族のその優しさが好きだったから。だから……

 

 奪われたときは、本気で滅ぼそうって、思えたんだ。

 

 

 

「──ロムちゃん、だいじょーぶ……?」

「っ……どうしたの、ラムちゃん……?」

「だって、怖い顔してたから……」

 

 壁に手を付き考え事をしていた私の表情をラムちゃんが横から覗き込んできて、掛けてきた声でようやく自分が思考に浸りすぎていたことに気付く。

 そのラムちゃんの表情は心配そうで、それでいて少しの怯えも混ざったもので、その表情を和らげるためにまず自分の表情筋を和らげて、安心させるための笑みを浮かべた。

 

「……だいじょうぶ。このお城に入る方法、考えてただけだよ」

「それならいいけど……」

 

 私の誤魔化しに納得しにくそうな反応のラムちゃんだけど、私が自分に嘘を吐くわけないって信じてるから。無理に納得して、ラムちゃんはラムちゃんでまたお城の周りを探索し始めた。

 

「……アンタ、本当に大丈夫?」

 

 ラムちゃんが私から少し離れたところで、こちらは100%心配のみの表情でユニが話しかけてきた。こちらは小声での声掛けだったけれど。

 

「だいじょうぶ。考えてただけだよ」

「いや、そうじゃなくて……」

 

 質問の箇所はそこではなかったようで、少し言いにくそうにした後、ラムちゃんは声が届かない位置にいると確認してから「……頭。痛かったんでしょ?」とさらに声を小さくして。

 それでようやく質問の意図がわかって、簡素に大丈夫だと答えれば、こちらも引っかかることがあるのかイマイチ納得してなさそうな返事をしていた。

 にしてもまさか、ユニがそんな配慮するなんて……って、さすがに彼女を見くびりすぎか。

 

「……ありがとう、ユニちゃん」

「……別に。お礼を言われるほどのことでもないわよ」

 

 心配と配慮してくれた礼を言うと、彼女にしては珍しく照れていない、けれど素直にも受け取らない反応をした。探索へ戻るとき、私の耳がばっちりと「声かけるだけしかできないんだから」って落ち込んだ声を拾って、そこからは無力感を感じ取れたから、本当に彼女は優しい。

 

 さて。まあ、大丈夫とは答えたけど、痛みがなくなったとは答えてないんだよね。

 それでも過去を想起するくらいには余裕ができた……というより、慣れてきた。痛みに体を慣れさせるのは、昔はよくやってきた手法だったし。

 にしたってせっかくならと良い思い出を思い返そうとしたのに、結局恨み辛みに繋がるの、なんとかできないものかな。また気分悪くなっちゃった。

 なんて、自分の思考回路に文句を言ってから、改めて見る。

 

 ──昔は真っ白だった雪原。今では暗い朱色に染まったこの光景は、血の湖に浮かぶお城のようで。

 その血を流したのは誰なのか。それを考えるととてつもなく苛立って、感情が表面に出てしまいそうだから、一旦意識から外した。

 

「みんな~! あっちに入れそうな場所見つけたよ~!」

 

 気持ちを落ち着けたタイミングで、空を飛んで探索していたネプギアが飛んでくる。話を聞けば、城の正面とは真裏にある部屋の、二階の窓が割れてて、そこからなら入れるんだって。

 その話を聞いた私達は、そこから入ろうって判断して、ネプギアの先導で裏手に回った。

 ……ここで他の最寄り窓なり壁なりを破壊して入ろうとしないのは、彼女達が良い子ちゃんだからか。こちらとしても目の前で傷つけられるのは良い気分にはならなかったから、それはよかった。

 

 

 

 ネプギアが私達一人一人を抱えて割れた窓から中へ入れば、そこは縦に長い、円柱の部屋。上階まで吹き抜けで作られているそこの二階に私達は出た。

 そして近くの階段で一階へ降りる。他の場所へ向かうのにも、降りなきゃいけなかったから。

 

「なんか……すごいわね……」

「うん……」

 

 思わず、といったように呟くユニの言葉に頷くネプギア。そしてラムちゃんも含めて、三人の視線は上へ、そして下へ。ぐるりと一周を見渡した。

 そこはお城の壁と同じく真っ白な石材が床一面に敷き詰められ、その上にはボロボロの赤い絨毯が敷かれ、壁一面にはびっしりと、上から下まで隙間なく本棚が埋め込まれている部屋だった。

 もっとも石材が真っ白でもその上から液体が赤く染めているし、真っ赤な絨毯は元々そんな色じゃない。本棚に至っては収納しているものは何一つない。傷だらけのボロボロだった。燃えカスになっていないだけマシかもしれない。

 そんな二重の意味ですごいと言わせる部屋をさっさと出る。本が一冊も残っていない以上、ここに用はないから。

 

 

 

 部屋を出て長い廊下をなんの配慮もなく歩く。昔は廊下のあちこちにトラップ魔法陣を仕掛けていたけど、今は全部壊されているようだから三人を気遣わなくていいのは楽。

 

「ロムちゃんは前にもここまで来たの?」

 

 ふと後ろを歩いていたラムちゃんがそう質問してくる。どうしてそう思ったのか訊けば、私の歩き方が慣れているようだったからって。迷いがないとか、そういう感じの。

 まあ慣れていると言えば慣れている。まだ記憶も残っているし、目を瞑っていても、とは言わないけど、自分の家だってくらいには慣れているから、そう感じてもおかしくはない。

 だからって素直に「ここは私の家だったから」なんて言えるわけもなく、適当に頷いて誤魔化したけど。

 ……そういえばいつの間にかラムちゃんと普通に会話してる。なんだかんだあって、ケンカしてたのすっかり忘れてた。まあ子供同士の喧嘩なんてそんなもんだよね。

 

 

 

 瓦礫の散らばる長い廊下。その次は手すりが所々壊れた長い螺旋階段。実は侵入したところから一番遠いという、ひたすら歩いて着いたのは、お城の最上階にある、他よりは大きい程度の部屋。出入口の扉は乱暴に開けられたのか壊れて取れかけているその部屋のなかは、奥の方に変わった椅子がポツンと残されているだけの部屋だった。

 他は何もない。これまで見てきた瓦礫も、血痕も、扉以外の壊れた箇所も。

 椅子は背もたれが大きく広く、そして控えめに宝石が埋め込まれて少しだけキラキラしている、まるで玉座みたいなもの。

 白と青の壁と床、そして同色の玉座。それだけがこの部屋を構成していた。

 

「ロム、ここが目的の部屋?」

「うん。多分ここで合ってる」

「でも玉座以外何もないように見えるけど……」

「何言ってるのよネプギア。こーゆーところは玉座の下に隠し部屋があるものなの! この前遊んだゲームでやってたわ!」

 

 そういうものなのかな、と困ったように笑うネプギアの横で、ラムちゃんの言葉に惜しいと思う。確かにこういうとき玉座に何か仕掛けられているのが定石なのだけど、残念ながら玉座の下ではないから。

 そう思いながら、「見てなさいよ!」と張り切って玉座へ向かうラムちゃんの後に続いて全員が部屋に入り、玉座へと近づいて──

 

『──ヴォウッ!!』

 

 “それ”が起こったのは、ラムちゃんが玉座へと触れた瞬間。

 私達は全員、玉座から弾き飛ばされた。

 否、吹き飛ばされた、が正しいか。

 だってそれを起こしたのは、さっきまで何もいなかった玉座の後ろに佇む真っ白なフェンリルの、質量を伴った咆哮だったから。

 

「ッ……みんな、無事!?」

「っぅ……ええ、こっちはね。ロム、ラム、アンタたちは?」

「もぉ~、なんなのよ~……!」

「わたしもラムちゃんも、へいき」

 

 吹き飛ばされて寝っ転がった状態から、お互いに安否確認を取りながら立ち上がり、武器を取り、そして敵を見る。

 突然どこから現れたのかもわからないモンスター。青い瞳と真っ白で美しい毛並みを持つフェンリル種。ルウィーにはそこそこ生息しているアイスフェンリルに似た見た目をしているけど、明らかに大きい見た目と威圧感がそんな雑魚じゃないと語っていた。

 

 そのフェンリルの青い瞳は、真っ直ぐにラムちゃんへ向けられている。唸り声と明らかな敵意と共に。

 そしてその巨体が横へ揺れた。そう認識した次の瞬間、私の手はラムちゃんを横へと突き飛ばしていた。直感が思考よりも先に体を動かしたから。

 その直感は当たって、すぐ後、フェンリルは足音ひとつさせないまま私の体へと追突し、突き飛ばした。

 そのあとは運が悪いのか、狙っていたのか。開きっぱなしのドアの向こう、螺旋階段の壁まで体は飛んで、背中と頭を打った。そのまま体は階段の真ん中、最下層まで続く穴へと落ちていって。

 その間に私の意識は真っ黒に。あっさりと戦闘不能になっちゃったってね。

 

 

 


 ──真っ白で小さな犬を拾った。

 雪に紛れてすぐには見つけられなかったけど、悲しい声がここだよって教えてくれた。

 どうやら群れからはぐれたらしい。ひとりぼっちで、助けてって誰かを呼ぶその姿に同情して、共感したから、私は拾った。

 まだすごく幼いのか、警戒は一切していなくて、すぐに私に懐いた。与えた餌も、何の疑いもなく食べる。毒が入ってても知らないよって言っても、言葉は通じないからこっちをちらりと見るだけで、何事もなく食べていた。

 

「この子に名は付けたのですか?」

 

 側近にそう訊かれたとき、私はその場で考えて名付けた。真っ白な見た目と、風のような速さを持つこの子にぴったりの名前を授けた。

 それからしっかり躾もした。餌は許可を出してから、おやつは必ず座って食べること、本を傷つけるのは絶対にダメ、味方を本気で噛んではいけない、他にもいろいろと。

 賢い子だから、全部すぐに覚えた。時々守れないときもあったけど、許せる範囲内。

 そんなこの子が唯一絶対に守った命令。

 私が何度も教えて、覚えさせた大事な命令。それは──

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