ロムに憑依しちゃった話。(仮)   作:ほのりん

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信仰と彼女の話。
かなりあ。


 ――24V型の小型テレビに、次々と最近の出来事が映し出されていく。

 ラステイションにある銀行が犯罪組織に襲われたとか、リーンボックスの芸能人が良くない薬に手を出していただとか、プラネテューヌでスライヌ型プリンが大人気だとか。そんな私にとってはくだらない話題が流れて……あ、ちょっとまって。今のルウィーで『YesロリータYesタッチ』法案が却下されたって話はちょっと興味ある。主にそんな法案を提出したバカがどこの誰だって興味だけど。候補生の権限でその政治家をクビにできないかな。

 こほん……。ともかく、ほとんどがくだらないと思える話題の中、そのニュースが流れたとき、少しだけ空気が変わった。

 

「っ……」

 

 ビクッと怯えるように震えた彼女。フォークを握る手は止まり、瞳は見開かれ、動揺で揺れる。

 はて何が流れたのか。横目で内容を確認した後、リモコンでテレビの電源を落とす。

 目の前にそんな調子の人間がいたら落ち着いて朝食を食べられない。せっかくちょっと豪華なホテルのモーニングを楽しんでいるのだから。そう思っての行動は、彼女にとって救いになったらしい。

 小さな声でも「あんがと……ございます……」と礼を言う彼女の言葉は、しっかりと女神イヤーに届いていた。

 だから追加で言葉をかける。

 

「気にしないほうが良いよ。あれは私のせいであって、あなたのせいじゃないんだから」

「……はい」

 

 あなたのせいじゃない、と軽く言われてもそう割り切れないのが普通。だから未だ俯き気味だったとしても、食事が再開されただけ上々だと判断する。

 

 くすんだ緑色の髪。気味の悪い肌色。痩せこけた身体。どんよりとした雨雲より暗い目。

 おおよそ健康的とはいえない目の前の少女の名は、『リンダ』。

 少し前に出会い、そして炎上した村から攫ってきた人間であった。

 

 

 


 始まりは確か好奇心からだったはず。

 毎週のように修行へ行っては帰っての毎日。着実に頂上へと近付いていくも、段々と飽きてきた日々。

 なにか刺激を取り入れたい。そんな渇望から思い至ったのが、『どこかにまだいるかもわからない集団を探す』という目標。

 先日持ち帰った手記に書かれていたのだ。私達の悲願を成し遂げるための布石として、まず私達の力の源である感情を蓄えるために人間を集め、自分達にとって都合の良い存在を神聖化し崇め奉らせる集団を結成した、と。

 結果は残念ながら一歩及ばず、先にその生涯に終わりを告げられたらしい。正確にはその気配を感じ取ったから、この手記を保管書庫へ移動させる、というところまでしか書かれていない。本当の終わりはどこで迎えたのか、それを記したものは少なくともここにはないからわからないけど。

 でもその、謂わば宗教集団が解散したとは書かれていない。手記を読む限り、そう簡単に解散するような脆い組織ではないらしい。ただ拠点があっただけの村の住民を全て信者にしたことで宗教村を作り上げ、外で信者になった者を移住させたり。信者同士を結婚させ、生まれた子供を信者に、大人になったその子が子供を産み信者に、と村の中でサイクルを作り上げていたみたいだし。

 サイクルが今も機能していれば。あるいは別の形で保たれていれば。

 宗教村は今もなお、このゲイムギョウ界のどこかにあるかもしれない。

 私が把握していない、家族が残した遺産があるかもしれない。

 その可能性が好奇心をくすぐらないわけがなかった。

 

 村の情報が張っていた情報網に引っかかったのは、探し始めてすぐのことだった。

 PC大陸にあるらしい。女神信仰を国別にするならば、継続しているものの中では最古と呼ばれる宗教であり、崇められているのは女神でも犯罪神でも、ましてや人間でもない。

 『魔王』。そう呼ばれる存在を彼らは信仰している。

 これらの情報を広いゲイムギョウ界で、しかもルウィーから遠く離れた地にあると見つけることができたことを、人は奇跡、あるいは偶然と呼ぶだろうけど。

 私は敢えて必然と呼ぼう。運命が私をそう導いているのだと。

 

 

 


 ルウィーから遠く離れたPC大陸。国として治められている領地はあるけれど四ヶ国と比べれば微々たるもので、そのほとんどが無法地帯。人が暮らす村がいくつかあるが、それぞれが独自の法を作り、法を犯さぬよう生きているらしい。

 そのうちの一つが探していた村であり、今いる場所であった。

 

「いやはや、とっても可愛らしいお嬢さんが来たねぇ。君が手紙を出してくれた子かな?」

「はい、そうです。その様子だとお手紙は無事に届いていたようで、安心しました」

 

 村で一番大きなお家で、教祖と呼ばれる老人の男と、互いに笑顔を浮かべて話す。が、私はもちろんのこと、相手もまた本当の笑みなど浮かべていない。それでもまだ想定よりも警戒心が弱いのは、事前に『入信希望』と送った手紙の効果か。どこの宗教もいつだって信者を募集しているらしい。

 そのまま手紙に書いた私……今回作り上げた『根無草のことり』というキャラに沿った話をする。といっても手紙には既に記したし、読んだはずだから簡潔に、ときどき聞かれたことを深堀する程度で済ませる。幼い頃に親を亡くして、遺産は借金と相殺。無一文で彷徨っていたところを冒険者に拾われた。が、その冒険者もダンジョンのモンスターに殺され、今は残った僅かなお金で定住できる場所を探している、と。

 この幼い見た目を利用したキャラ設定にしたのは、その方がここの性質的に都合がいいから。手記の持ち主……姉妹の側近の姉の方だから仮に側近(姉)と称すけど、彼女が教祖だった頃、よくそういった孤児を積極的に受け入れていたから。それがこの宗教の性質となって、今も定着していれば、私は受け入れられやすくなる。

 ちなみに孤児を受け入れる理由は慈善活動ではなく、子供から教え込むほうが洗脳……じゃなかった、教育しやすいから。

 

「なるほど、それはさぞお辛かったでしょう……。周りの大人にも頼れず、独りになってしまうなど……」

 

 話しているうちに教祖の顔は痛ましいものを見るものに。掌で目元を隠したかと思えば、それだけでは間に合わずハンカチを取り出して涙を拭う仕草。

 こちらも、今までの出来事を話しているうちに思い出したことによる悲しみの涙、そして共感してもらえた喜びの涙を浮かべる。

 

 まあ、お互いに演技(フリ)なのだが。

 

「しかしこれからの君の人生はとても素晴らしいものになるはずだ。この素晴らしい村を見つけることができただけなく、我々の仲間になれるのだから」

「えっ……! それはつまり……!」

「ああ。我々は君を仲間として受け入れよう。

 ようこそ、魔王信仰の町『カナリア』へ」

 

 そう人好きのする笑顔を貼り付けながら、手を差し出してくる。

 こちらは安心した笑みで、握手に応える。

 こうして私は家族が作り上げ、今もなお残っている村『カナリア』の信者兼住民となった。

 

 

 

 その後のことは簡単に説明。

 村の人間に自己紹介したり、教会に案内されて祈りの作法を教えられたり、住処となる孤児院へ案内されたり。

 そこまでは比較的穏やかで、大変だったのは孤児院で子供達の精神攻撃という名の質問攻めを受けたとき。今でこそこうして共同寝室のそれぞれのベッドで大人しく寝ているが、それまではかなり騒々しかった。上っ面しか設定していなかったこのキャラに対し、子供の情け容赦ない無邪気な質問は考えていない箇所にまで及び、泣きそうな演技をする羽目になった。準備もなく涙を出せるほど、私は女優ではない。が、いろいろ察した年長者が他の子供を止めたので、涙を流すまでには至らなかったのが幸いか。

 まあそんなこんなはあったが、おおよそ一日目としては順調な滑り出しだ。子供は言わずもがな、ほとんどの大人も事情を少ししか聞いていないと言うのに私を孤児であり、信者仲間であると受け入れた。私が悪意を持たず接したというのもあるが、どちらかといえば初代教祖……つまり側近(姉)が残した教義を忠実に守っているからだろう。警戒はほとんどされなかった。さすがに村人全員が、とはいかないが良い傾向だ。

 良い傾向といえば、ここはなかなか居心地が良い。村の田舎感というか、時間に急かされないのんびりとした空気は私が好むものだ。私にしては珍しく人間との接触に嫌悪感を抱かないのも影響している。こういう場は貴重だ。本当はルウィーに帰るまでの数日で信者体験を終えるつもりだったが、これはもう少しここにいてもいいかもしれない。別荘みたいな、そんな感覚で。

 

 しかし、はて? 何故同じ人間のはずなのに彼らには嫌悪感を抱かないのか。村人と街の人間を比べて、すぐに気づく。どちらも色眼鏡で見ているのだ。街の人間には『愚かな人間の子孫』、村人には『家族の教えを守る人間の子孫』、と。

 つまるところ私はどうしたって先入観と色眼鏡無しに相手を見れないのだ。街の人間がここの信者になったのなら、その人間を後者に当てはめてしまうだろう。

 ならそこはすっぱりと割り切ろう。割り切ったうえで汚れ切った色眼鏡で見てしまおう。

 どうせ愚かなのは人間だけに限らないのだから。

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