ロムに憑依しちゃった話。(仮)   作:ほのりん

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時:『おひろめ。』『めがみか。』の間。


彼女と日常の話。
おつかい。


 私の表向きでの普段の生活は、一日のほとんどをラムちゃんと遊んで過ごしていると思われている。

 子どもは遊ぶのがお仕事。ほどよくお勉強やお仕事の練習のようなものをしているから、周りから何か言われることは無い。

 けど、あくまで表向きはそれだけで、実は時間を作って鍛えてたりする。

 例えば毎朝、教会職員も徹夜や夜勤の人以外起きてないような、空が白む少し前から起きて、動きやすい恰好に着替えて、外にランニングしにいく。行く先は公園の森の中で、人気(ひとけ)もない。そこが丁度、身体を動かしたり、周りへの被害が少ない魔法の練習をするのにぴったりで、私はそこで鍛錬を積んでいる。

 けれどそれはラムちゃんやお姉ちゃん達には内緒だから、ミナちゃんがいつも起こしに来る時間までには、誰にも見つからずに部屋に戻って、汗だくの身体や服を魔法で洗って乾かして、パジャマに着替えて『ついさっき起きましたよ』を演じる。周りがそれに騙されてくれるのは都合がいいけれど、ラムちゃんとお姉ちゃんには嘘を吐いているみたいで、少し気にかかる。

 そう思う時はいつも「騙してない。言ってないだけ」って心を誤魔化すんだけどね。

 

 そんな話を最初にしたけれど、今回のお話には全く関係がない。

 だって今回のお話の内容は、『おつかい』だからだ。

 

 

 

「パン粉、お肉、お野菜……ほかにも買うものたくさん」

「だいじょうぶよ! わたしとロムちゃん、ふたりで力をあわせれば、絶対らくしょーよ!」

「うん」

 

 いつも通りの街の、いつも通りの大通りで、私達は手を繋いで歩いていた。

 ラムちゃんの空いている右手には、それなりの大きさのかごの取っ手が握られていて、私の左手はメモ帳を持っていた。

 そこに書かれた食べ物を見て思わずそう呟くと、ラムちゃんは繋いだ手を上にあげ、張り切っていた。その横で私は、密かにため息を吐いた。

 私達がこうして今日、ある目的地へ向かっているのも、私がそのことでラムちゃんと正反対なテンションなのも、全部理由がある。

 実はこの『おつかい』。現在進行形でテレビカメラに写されているからだ。

 全国の誰もがその名を聞いたことがある、不定期放送の人気バラエティ番組『はじめてのおつかい』。

 小さな子供が親に頼まれて、初めておつかいする。その様子をカメラに写して放送する番組。

 勿論だが『おつかい』する本人には何も言わず、終わったらネタばらしをする。

 誰が計画したのか分からないけど、どうやら今回のターゲットは私達になったようで、いつも通りに見える大通りだけれど、密かに私達を付けている人達がいるのに気付いていた。

 

 ──え? どうして私は、その人達がTVの人だって気づいたのかって? 

 それは密かに作っていた情報網に……ではなく、たまたまお姉ちゃんとミナちゃん、それと番組Pの話を聞いちゃっただけなんだよね。

 なので番組の前提条件である『何も知らない子供がおつかいをする』がクリアできてないんだけど……

 

「? ロムちゃん、どうしたの?」

「う、ううん。なんでもない」

 

 あっ、ラムちゃんは何も知らないもんね。なら条件クリアだね。

 あとは私も何も知らないフリをしておつかいをこなせば……

 あれ? でもそれじゃ番組としてあんまり面白くない? やっぱりおいしいとこ撮りたい? 

 でもそんなの、意識してできるものかな。

 

 何かないかとあくまで自然に見えるように周りをキョロキョロ見渡して、ちょうどいいものを見つけた。

 交通量の多い道路の横断歩道。そこで信号が青になるのを待っているおばあちゃん。背中に大きな荷物を背負っている。

 そんなご都合主義みたいに起こる出来事は、子どもも老人も多く住んでいるこの国じゃ決して見ない光景ではない。

 そして、そんな光景を見た時は決まって──―

 

「あっ、ロムちゃん、あそこ!」

「……うんっ」

 

 私の次にラムちゃんが気付いて、おばあちゃんに話しかける。

 そして遠慮するおばあちゃんの荷物をラムちゃんが後ろから支え、信号が青になったら私が手を引く。

 

 二人でいる時はいつもこうだ。私が気付いて、ラムちゃんが行動する。

 ラムちゃんが先に気付くこともあるけど、私は絶対に先に行動しない。ラムちゃんが行動してから、それに付き添うだけ。

 いずれ女神になる存在としては、人が困ってるのに気付いたらさっさと助けた方がいいんだろうけど、私にはできない。

 

 だって私、人間(他人)を全く信用してないから。

 

 だから人間がいる場では絶対に警戒心を解くことはないし、困ってる人を見かけても、気付かれないうちに、気付いていない風に装ってさっさとその場からいなくなる。

 けれど今の私の行動ひとつで、私への、というよりルウィーへの信仰心が揺らぐこともあるから、気付いたことに気付かれたときには助けるしかない。そして、ラムちゃんといるときは、ラムちゃんが気付いたら絶対助けるしかない。ラムちゃんは困ってる人を絶対に放っておかないから。

 それこそ迷子の子どもがいれば、手を繋いで一緒に保護者を探すし、勝手に家から出てしまったのであれば、最寄りの交番へ行って、親が来るまで傍にいる。

 今みたいにお年寄りが困っていても、手を貸してあげる。

 風船が木の上に引っかかったのなら、木によじ登って取るし、失くしものをしていたら一緒に捜してあげる。

 困っているのが人じゃなくてもいい。猫が木に登って降りられなくなっても、助けてあげる。お腹を空かせていたら、自分の少ないお小遣いからエサを買って与える。

 本当に、私とラムちゃんとでは、人の良さに差がある。それが女神の力にいっぱい影響を与えていると、私は思う。

 

 そんなことを考えながら、信号が変わらぬうちに横断歩道を渡り終え、私はおばあちゃんの手を離す。

 これでお手伝いは終わり。そう思ったけど、ラムちゃんが「おばあちゃん、行き先はどこ? そこまでにもつを持って行ってあげる!」と元気に言った。

 それに対しおばあちゃんは「いいよいいよ。そのお気持ちだけで充分。ありがとうねぇ。ほら、今はこれしか渡せるものがないけど、どうぞ」とポケットから二つの飴玉を取り出して私達に一つずつ手渡し、もう一度お礼を言って歩いて行った。

 渡されたのは、雪の色に似た白くてまあるい飴玉。

 ラムちゃんは断られたことを気にせず「やったね! ロムちゃん!」とはしゃいで、さっそく飴玉を口に入れていた。

 私も続いて包みを開け、飴玉を口に含み舌でコロコロさせる。

 

 うん。あまい。

 

 ミルクの優しい味が口の中に広がり、甘くなる。

 ラムちゃんの顔を見れば、幸せそうな顔をしている。それを見て、私の心の中に湧いた幸福を感じた。

 

 だから、この感情はラムちゃんを見て湧いただけ。決して人間を助けて、お礼を言われたから湧いたわけじゃない。

 

 そう言い聞かせ、私はラムちゃんの手を取り「おつかい」とだけ言って手を軽く引っ張った。

 ラムちゃんは「うん! 早くおつかいおわらせないとね!」と私の手をぎゅっと握って歩みだした。

 でも──―

 

「ラムちゃん。お店、あっち」

「あ、そうだった。行こっ、ロムちゃん!」

「うん」

 

 今度はちゃんとお店のある方へ歩き出した。

 

 

 

 お店といってもスーパーや大型ショッピングセンターに行くのが今日の目的地ではない。

 今回は事前にミナちゃんから買い物をする場所を指定されている。多分こうやって国民とのコミュニケーションを多く図ることで、私達がより国民に受け入れてもらえるようにするためだろう。

 今回ミナちゃんに指定された場所はずばり──商店街だ。

 教会からほどよく近く、今回買いたいものを揃えるのに問題ない場所だ。

 おそらくミナちゃんも事前に確認しているはず。だから私達は安心してそれぞれのお店で目的の品を買えばいい。

 ミナちゃんから預かったお財布の中身と買い物リストに並ぶ食材のおおよその値段を比べて、少しだけ余るようになっているのを確認。更に入口付近で入手したパンフレットから買う物を取り扱っているお店の位置も把握。

 これで迷子になることも、お金が足りないって状況になることもないだろう。

 あとはラムちゃんが変な方へ行かなければ……

 

「あっ! ロムちゃんロムちゃん! あのお店からいいにおいがするわ!」

「えっ、ちょっ……」

 

 私の制止の声も遅く、ラムちゃんはその良い匂いのするお店──お肉屋さん──に近付き、店頭のおじさんに話しかけていた。

 

「おじさん、こんにちは!」

「おぉこれはまた小さくて可愛らしいお嬢ちゃん達じゃないか。こんにちは。おつかいかい?」

「うん! それでおじさん、このいいにおいはなに?」

「これか? この匂いはウチで作ってるメンチカツの匂いだよ。食べるか?」

 

 そう言っておじさんは紙にメンチカツを包んでラムちゃんに見せる。

 揚げたてだろうそれは、すぐに味を頭に描けるほど美味しそうな匂いを撒き散らしながらラムちゃんを誘惑する。

 ラムちゃんは思わずごくりと唾を飲み、すぐさま私の方に向いて、何かを強請る様な視線を向ける。

 分かってる。ラムちゃんはそれが商品である以上、お金を払わなければありつくことができないと。そして、私の方を向くのは、今回、私がお金の全てを託されたからにすぎない。

 そして、ミナちゃんが私に全てのお金を託した理由は簡単。ラムちゃんに渡したらこういった誘惑に負けてしまうと思ったからだろう。その辺りのラムちゃんの信頼は私と比べれば低い。

 実際、こうして誘惑に負けている。お金を渡していれば、私が止めなければ、ラムちゃんは買っていたのではないか。

 そんなビジョンが頭に浮かんで、私は少しばかり呆れつつ少し強めにラムちゃんに言った。

 

「だめ」

「そんなぁ……」

 

 ラムちゃんはがっくりと肩を下ろし、成り行きを見ていたおじさんは「そういやおつかいだって言ってたな。かわいそうだがお嬢ちゃん、また今度買って行ってな」とメンチカツを元の場所に戻した。

 それでもなお諦めたくないのか、じーっとメンチカツを見続けるラムちゃんをよそに、私はおじさんに話しかける。

 

「おじさん、ひき肉、○○○グラム、ください」

「あいよ。○○○クレジットだ」

「はい」

「まいど」

「ありがとうございます。……ラムちゃん、つぎ」

「うぅ……」

 

 商品を受け取って、リストに並んだ食品名に線を引き、ラムちゃんに声をかける。でもラムちゃんはどうしても諦めきれないのか、渋っていた。

 そんな様子を見ていたおじさんは「やれやれ」と言いたげな顔で先ほど持っていたメンチカツを手にし、ラムちゃんに差し出していた。

 

「ほれ。お嬢ちゃんの気持ちには負けたよ。これはサービスだ」

「えっ、いいの!?」

「ああ。もってけもってけ」

「わーい! ありがとう、おじさん!」

 

 喜んでラムちゃんはそれを受け取ってすぐに齧りつき、その熱さに驚きながらも、口の中に入れてはふはふしながら咀嚼して、すぐにその美味しさに顔をほころばせていた。

 まあお金を使ってないからいいか、なんて思いながら美味しそうに食べるラムちゃんを見ていると、おじさんが「ほれ、そこのお嬢ちゃんもな」ともう一つメンチカツを差し出してきた。

 これは断ったらダメなパターンかな、とお礼を言いながら受け取り、ふーっ、ふーっ、と冷ましてから口に入れ、その美味しさに感嘆する。

 

 これはまた、今度は自分のお小遣いで買いに来てもいいかな。

 

 食べ終わって、おじさんにお礼を言って、再びおつかいを再開。

 次は八百屋さんでお野菜だ。

 

「へいらっしゃい! 何をご入用で?」

「えっと、玉ねぎと、にんじんと、じゃがいもと──」

 

 笑顔と声が良いおじさんに買い物かごを渡して、リストに書かれた食材を書かれた分だけ詰めてもらう。それからお金を渡して、かごを私が受け取ろうとして、横からラムちゃんが「わたしが持つ!」とおじさんから受け取っていた。

 複数の野菜と先ほど買ったお肉の入ったそれは、決して軽くはない。私達の見た目と同じくらいの人間の子どもが持ったら、確実に重いと思うだろうそれ。

 しかし女神という種族の彼女にとっては別に重くもなんともなく、平気そうに持っていた。

 ただおじさんには私達がルウィーの女神候補生だとは知らないみたいで「大丈夫か?」と心配するが、ラムちゃんは「だいじょーぶよ!」と至って普通に、元気に返事していた。

 それでも子供の強がりでは、と心配するおじさんを安心させるために私は「半分こ。取っ手、片方ちょうだい」とラムちゃんに手を差し出す。

 ラムちゃんは「うんっ!」と元気に返事をし、私に二本の取っ手のひとつを渡し、私はそれを受け取った。

 

 二人で持てば、重そうには見えない。

 

 その様子を見ていたおじさんはうんうんとにこやかに頷くと、真っ赤に熟したリンゴをひとつかごの中に入れた。「お嬢ちゃん達の仲の良さを見せてくれたお礼だ。二人で半分こして食いな」と言って。

 私達はおじさんにお礼を言って、今度はパン屋さんへ向かい──

 

 

 

 うん。なんでこうなった。

 

 ベンチに座っていた私はそう思い、隣に座りメロンパンを頬張るラムちゃんを見て小さくため息を吐いた。

 ラムちゃんはそんな私の様子など気付かず、幸せそうな顔をして食べている。

 その隣には食材がかごに入っている。リストに書かれていたものは漏れなく買えているので、これで無事に帰ればおつかい完了(ミッションコンプリート)だ。それだけ聞くなら今の溜息は疲れによる一息だと思うだろう。

 しかしそのかごには、予定にない物まで入っていた。

 和菓子屋の大福、ケーキ屋のシュークリーム、茶屋の茶葉、駄菓子屋のお菓子の詰め合わせ、彫刻屋の木彫りのフェンリルなどなど……

 もはや持っていたかごには収まらず、新たに増えた籠屋のかごに入っている。

 先ほどまでその仲間に入っていたパンは、今はラムちゃんの手と口とお腹の中だ。

 

 全て買ったものか? 否、貰ったものだ。

 

 そう、これら全て私達が商店街を歩いていたらお店の店主たちがくれたものなのだ。もはや最初の二軒のように買い物してすらいない、ただ目の前を通り過ぎようとしただけなのに、だ。

 別にこれらを押し付けられて困っているわけではない。持って帰れる量だし、食べ物は数日に分けておやつに食べればいい。茶葉は本を読む傍らに丁度いい。お姉ちゃんにも分ければ、十分に消費できる量だ。まだ私物の少ない私達の部屋にインテリアが増えるのは歓迎するべきことでもある。何故フェンリルなのかは分からないが。

 ならば私が困っている……いや戸惑っているのは何なのかと聞かれれば、迷いなくこう答えよう。

 

 何故皆して私達を微笑ましく見ながら物をあげるのか、と。

 

 確かに私達の見た目はいいだろう。可愛らしい、守ってあげたい、そう思える幼子の姿をしていると、ラムちゃんを見ていて思うのだから、双子で容姿がほぼ一緒な私もそう見えるのだろうと自覚している。

 そんな双子の姉妹が仲良くかごの取っ手を半分こしながら歩いていたら、そりゃ可愛いし微笑ましいし見守っていたくなるだろう。

 けど、だからってそれをわざわざ物を贈ることで示さなくてもいいんじゃないか。そんなふうに私達にあげていたら、そっちは大損だろうに。

 まさか、私達が女神候補生だって知ってるわけじゃなかろうに……

 

「……はぁ……」

 

「──おい、聞いたか? 今この商店街に女神候補生様が来てるってよ」

「いやこんなとこにいるわけないだろ。何処情報だよお前」

「そりゃお前、掲示板だよ。ここに来てるってスレが」

「お前なぁ、うそはうそであると見抜ける人でないと難しいって聞いたことあるだろ?」

「いやホントだって! こんなに目撃情報もあんだぜ!?」

「ほー」

「くっそぉ……! 俺はぜってぇここで女神候補生のロムたんラムたんを見つけてやる!」

「はいはい乙乙」

 

「…………」

 

 無言で携帯端末を取り出し『女神候補生 商店街』で調べる。すると一番上にヒット。本当にスレが立てられていた。立てられた時間は一時間程前。つまり私達が買い物し始めてすぐ。1コメには「寂れた商店街でロムたんラムたん見かけたお」と書かれていて、後に続くコメントは既に100に近付いている。ずらっと並ぶコメントをさらっと見た感じ、どうやら彼らはその目撃情報を元に私達を探そうとしているらしい。一部は先ほど聞こえた会話の人のように探し始めている。それは私達に話しかけたいのか、一目見てみたいだけなのか、触れたいのか。

 まあ話しかけてくるなら許容範囲。一目見るだけなら見たらすぐ帰れ。触れたい? 触らせるわけないだろ。うちのラムちゃんを安く見るんじゃない。

 あまり自覚はないが、これでも国のナンバー2。最近生まれて、披露式典も一か月前。国民全員に知られているとはいえないけど、知名度はそこらの芸能人に比べたらよっぽどある方だと思う。

 そんな私達が歩いていれば、そりゃ人間は一目見ようと集まってくるだろう。

 しかしこのままだと少なくない数の人間がこの商店街に来て、私達はすぐ見つかって、大変面倒なことになるのでは……

 いっそ掲示板に「双子の女神候補生かと思ったら似てるだけの別人だったぞ。しかも後ろ姿が似てるだけで全く可愛くない」とでも投げれば諦めてくれるだろうか? いや、火に油を注ぐ行為かもしれない……

 

「──ムちゃん。ねえ、ロムちゃんってば!」

「っ。な、なに? ラムちゃん」

 

 考えごとに没頭しすぎて身体を揺らされるまでラムちゃんが呼んでたことにも気づかなかった。ラムちゃんが傍にいたのに……反省だ。

 しかしどうしたのだろう。私を呼んだラムちゃんは何かに気付いたみたいで、周りをキョロキョロして、私を見て、また周りを、と繰り返している。

 まさか、もう彼らに見つかったのか? 

 しかし見る限り周りに変化はない。先ほど会話していた彼らも、私達に気付かずどこかへ行ってしまった。

 ならラムちゃんは一体何に気付いたのか? 

 私はラムちゃんの言葉を待ち、その言葉を聞いて、気付いて、少し呆れた。

 

「あ、あのね。なんだかだれかに見られている気がするの」

「っ! あっ、あ~……うん。だいじょうぶ、たぶん気のせい」

 

 まさか別の存在か、とすぐに周りを見渡すが、一部を除いて私達を見ている人はいない。

 その一部も、商店街の人だったり、忘れかけてたけど『はじめてのおつかい』を撮っているスタッフさんだけ。

 そしてラムちゃんが気にしている周りの中で、特に見ている場所に丁度そのスタッフさんが潜んでいた。潜んでるって言いながら私は最初っから気付いてしまっているのだけど、大丈夫だろうか? 

 ともかくラムちゃんがその視線に気づいたことに「ようやくか……」と思いつつも、番組の人達のためにも彼らを気付かせてはいけない。私は仕方ないとしても、ラムちゃんは純粋におつかいをしてもらわなくてはならないのだから。

 

「う~ん。気のせい、かな?」

「うん。気のせい。もしくは、ラムちゃんがかわいいから、見られてるのかも」

「そうなの? ならしょーめんからどーどーと見に来たらいいのに」

「そうだね」

 

 多分帰ったらネタバラシで堂々と撮られるよ、とは答えられない。そんなこと言えば彼らの努力が、というよりお姉ちゃん達がせっかく準備したのに、それを水の泡にしてしまうから。

 だから私は彼らを気付かせないよう、ラムちゃんに「ミナちゃんが待ってるから、早く帰ろう」と言うと、ラムちゃんは「うん! 早く帰って、ちゃんとおつかいできたことほめてもらおうね!」と返事をした。

 うん。このまま帰れば、私達を探している人達に見つかることもなく、ラムちゃんに彼らを気付かせることなく終われる。

 そう思ってたのに……

 

「あっ、おいあれ見ろ! ロムちゃんラムちゃんじゃないか!?」

「んぉ? ううう、うそだろ!? まじかよ本物じゃんか!」

「モノホンの女神候補生キタ──ー!」

 

 そう騒いだのは、若い見た目の男性三人。それぞれが手に持っているのは、撮影機能付き携帯端末であったり、本格的な撮影機器であったり……

 つまるところ、カメラを持った人間だった。

 それを私達に気付くとすぐに起動させ、レンズをこちらへ向けて構え、そしてシャッター音が鳴った。

 

「…………」

 

 誰の許可もなしに勝手にその人を主体として撮る行為。それが失礼な態度であることは誰であろうと知っていることだろう。時と場合と使用用途によっては犯罪になることもある。それも友達や知り合いではなく、赤の他人ならなおさら。

 そうでなくても誰かに撮られるという行為を好かない私には、彼らの態度はとても不快なものであり、つい表情に出してしまった。

 そのことに自分で気付いた時には、隣にいたラムちゃんは怒りながら人間共へ近づいていた。

 

「ちょっと! かってにとらないで!」

「あ、いや……その……」

「そ、そのですね! ロム様とラム様がとてもお可愛らしいので、俺達もつい出来心で……」

 

 その出来心で犯罪を犯してほしくはないのだけど。

 それに……

 

「……ねえ、おにいさん。さっきの写真。許可もとってないのにネットにあげるのはやめてほしいな」

「い、いや、別に、そんな、こと……」

 

 二人を盾に、必死に携帯端末を操作していた人間に声をかけると、しどろもどろに弁明しようとする。

 けどもその態度に表情、目、全部が図星であることを、私には見てとれた。

 

「嘘はダメ」

「う、ぐ……」

 

 純粋な瞳で見つめられれば、自分の中にある罪悪感が膨らむことを、私は知っている。というかよくラムちゃんにやられてるし、二人でお姉ちゃんにやることもある。

 もっとも、今はそう見える演技だけなのだけど。

 

「ぅぅ……だ、だって……!」

「だって?」

「だって、お二人が可愛らしいんですから、しょうがないじゃないですか!」

「……は?」

 

 突然そう叫んだ男は、呆けた私を気にせずまくし立てる。

 

「お二人が披露式典で初めて俺達の前に姿を現して早一か月! その間、式典で撮影されたもの以外の写真や映像は一切なし! どれだけ漁ってもファンアートしか見つからない……! そんなのじゃ俺達は満足できないんです! だから掲示板にお二人がいるって書き込まれて、急いでここへ来たんです! そこらに転がってるものではなく、この俺の手で、俺が満足できる写真を撮ろうと! ロム様はそれをダメと仰るのですか!?」

「えぇっと……」

 

 ここで即答で「ダメ」なんて口にすれば、この人間達はともかく、他の人間達の印象が下がってしまう。しかもこれ撮影されてるから、どう編集されてどう放送されるのか。

 どっちにしたって多かれ少なかれルウィーのシェアに悪い影響を与えてしまうだろうし……

 

「どうなのですか!!」

「う、うぅ……」

 

 うぅ……どうしよう……こいつ……すごくぶっころしたい……

 

「ちょっとちょっと! ロムちゃんをいじめないで!」

「ら、ラム様! そ、そんな……俺はただ、ロム様の意見が聞きたくて……」

「む~……!」

 

 こっちに割り込んだラムちゃんは私を庇うように私と人間の間に立つと、人間を威嚇し始め、それに戸惑う人間。

 正直このままラムちゃんに任せて人間達がいなくなってくれるのに期待したいけれど……

 周りにはすでに、通りがかった人間が足を止め、見物人と化している。

 これ以上この好奇の目にさらされたくはないのだけど……

 それにこの人間達のようにネットを見てここに私達を見ようとした人が集まり出してるみたいだし……

 

 ……ん? 人が集まる? この寂れた商店街に? 

 ……ふんふん。ちょっとこっちが妥協してるみたいで嫌だけど、これならシェアも得ることができるかもしれないし……

 

「……ラムちゃん、ちょっといい?」

「え? どーしたのロムちゃん?」

「お耳かして」

「……?」

 

 一旦威嚇を止め、私の話に耳を貸すラムちゃん。そして、私の話を聞き終わる頃には「なるほど!」と言わんばかりの表情をしていた。

 けどもすぐ表情を変える。

 

「でも、ロムちゃんはいいの? とられるの、好きじゃないでしょ?」

「えっ……」

「さっきとられたとき、すごく嫌そうな顔してたもん……」

 

 そう言うラムちゃんは、私のことを本当に心配してる表情をしている。

 そこでようやく、私はなんでラムちゃんが怒ってるのかが分かった。

 ラムちゃんは別に勝手に撮られたこと自体に怒ってるんじゃない。勝手に撮られたことは嫌だったのかもしれないけど、それ以上に、私が撮られて嫌な顔をしたから、人間達を怒ったんだ。

 そして今だって私のことを思って行動してくれている。

 

「……大丈夫だよ」

 

 ラムちゃんに気をつかわせた。それにちょっと申し訳ない気持ちもあるけど、それ以上にラムちゃんが私を想って行動してくれたってことが、とっても嬉しい。

 だからこそ、これ以上ラムちゃんの負担にはなりたくないから。

 

「ロムちゃんがそう言うなら……」

 

 まだ心配そうにしているラムちゃんに「本当に大丈夫だよ」という意味を込めて微笑めば、ようやくいつもの顔に戻ったラムちゃん。

 それから私達は人間達三人にある提案をした。三人はそれに頷き、その提案に沿って、私達は動いた。

 

 

 

 そして二時間後、商店街の中央では、人だかりができていた。

 その人だかりの中心には円形状の簡易ステージが設けられ、人間達はその円に沿って並び、それぞれが自前のカメラを持ち、今か今かと待ちわびていた。

 そして、そのステージの上には……

 

「はーい! ルウィーの女神候補生のラムちゃんと!」

「ロムちゃん……です……」

「みんなー! ちゃんとお買い物してきたー?」

『はーい!!』

「ん……いいこ……」

「よしよし。ならちゃんとルールを守りながら、心ゆくまでわたしたちをさつえーしていきなさい!」

「ひとり、5枚まで……それ以上は、また買い物してきてね……」

『はーい!』

「それじゃ、スタート!」

 

 ラムちゃんの合図で、皆一斉にカメラを構え、シャッター音を響かせる。

 ときどきポーズの指定もきて、それに応えながら撮られる。

 そんな簡易ステージの人だかりの手前では長机が設置されていて、そこには商店街の人がスタッフとしてお客さんの相手をしていた。

 その横には手書きの可愛らしい文字……ラムちゃんと私の字で書かれたポスターが掲示されていた。

 

【ルウィーの女神候補生、ラムちゃんとロムちゃんの撮影会】

【○○商店街で○○○○○クレジット以上お買い上げの方のみ、一回五枚まで撮影することができます】

【さらに撮りたい方は、再び○○○○○クレジット以上お買い上げください】

【回数に制限はありません】

【レシートの合算可】

 

 一枚のポスターにそう文字が書かれていて、子供の落書き……ラムちゃんと私が書いた絵が載っていた。

 

 そう、私が提案したのは、私達を撮影するという行為を景品化してしまえばいいのでは、というものだった。

 もちろん商店街の方には許可を貰っている。というか、それなりに大事になってしまったのは、商店街の会長さんのせいである。

 私がラムちゃんに提案して、それを無断撮影した人間を巻き込んでやったことは、いくつか。

 まず一つが、この商店街で一番偉い人を探して、撮影会の許可を貰うこと。これはすんなり通った。というかこの話に商機を見た会長さんはノリノリで商店街のお店全部にこのことを伝達。大体のお店もこの話に乗り気になった。これは会長さんの人望あったからこそのこと。

 そして商店街一丸となって撮影会に向けて素早く動き回った。

 

 ちなみにポスターの紙やペンは文房具屋さんが。複製は印刷屋さんが協力してくれました。

 ポスターに書かれた条件は、会長さんが決めました。

 

 巻き込んだ人間達には、無断で撮られた写真とは別のものを撮ってもらい、それを今騒がれている掲示板を中心に、ネットのあちこちに掲載。

 それから設営に尽力してもらった。無断で撮った罰だよ。

 まあそれとはまた別に、終わったらそれぞれ一人ずつ、ポーズや小道具の指定に出来る限り答えるって褒美を与えても良いけど。これでシェアが上がったらお姉ちゃんも喜んでくれると思うから。

 

 あ、私達の荷物は会長さんのお店で保管してもらってます。冷蔵保存のものは冷蔵庫にあります。金庫に入れて保管するとか言ってたけど、そこまでしなくてもいいです。はい。

 

 そんなこんなで準備が終わって私達がステージに上がる頃には既に30人近くの人が集まってて、撮影会が始まってからもどんどん増えていく。

 5枚撮ったら去ってもらうようにしてるし、彼らもきちんとルールを守っているはずなのに、一向に数が減らないどころか増えてるのは何故? 

 まあ、『女神候補生』という肩書のせいだけどね。あと容姿。

 それにラムちゃんはすごくノリノリで彼らの要望に応えてるから、彼らも彼らでテンションが上がって、5枚撮り終わってもリピーターがどんどん増えて、新規も増えて。

 一旦ATMへおろしに行った人も少なくはなく。自分の懐の寂しさに恨み言を言う人数知れず。

 時々休憩しながらも続いた撮影会は、日が傾く頃に強制的に終わらせた。そうでもしないと彼らが駄々をこねて長引きそうだったから。

 巻き込んだ男性達は、なんと途中で帰らず最後までこのイベントの裏方として頑張ってくれていた。なので予定通り彼らの要望に一回ずつ応えながら写真を撮ってもらって、それで彼らとは別れた。

 なんでも、これでイベントの裏方が楽しいことが分かったから、次は即売会のスタッフをやってみたい。と言っていた。裏方っていうのはどこも人手不足な時が多いらしいから、その辺りにいい影響を与えれたのかな。

 商店街の皆さんはすっごく感謝していて、何度も頭を下げられた。さらにはお土産と称して色んなものが贈られた。文房具屋さんからカラフルなペンやクレヨンや画用紙が。食器屋から三つのお揃いのマグカップ。勿論一つはお姉ちゃん用にって。おもちゃ屋から複数人で遊べるテーブルゲームを。他にも色々。更には会長さんには教会まで車で送ってもらった。

 車で送られてる間、たくさん撮られて疲れたのか、ラムちゃんはすぐにこてんと寝てしまって、私の肩を枕にしていた。……正直その姿を撮影したかったです。

 

 ともかく多い荷物を会長さんに抱えてもらいながら教会(いえ)に帰った私達だったんだけど……

 

「ロム、ラム、お帰りなさい。遅かったですね?」

「ひぃっ」

「わわ、わわわ……」

 

『ご、ごめんなさい!!』

 

 入口で待ち構えていたおに……ごほん、ミナちゃんは背景にゴゴゴゴゴォって効果音が付いてるのかと思ってしまうほど怒っていて、私達は揃って謝った。

 それから荷物は職員の人に頼んで会長さんには帰ってもらって、私達はミナちゃんにたっぷり叱られました。

 何故って、まあ。

 ミナちゃん達には、何の連絡もしなかったから、ね……

 

「いいですか? 次からはきちんと連絡すること。いいですね?」

「はい……」

「ちゃんとれんらくします……」

 

 これでもまだ怒りが少ない方で、それは本当のテレビカメラ班がミナちゃんやお姉ちゃんに現状報告をしたからなのだろう。陰で彼らが撮影しながら見守っていたから、まだ心配は少ない方だったのだと思う。

 けどもしそれもなかったら、ミナちゃんとお姉ちゃんは本当に心配して、もしかしたらこっちはこっちで大事になってたかもしれない。

 そう考えたら、これはすごく反省しなきゃいけないことだって、さすがの私でも分かる。

 だから私とラムちゃんはいっぱい謝って、お姉ちゃんにも謝って、それからネタバラシのときもスタッフさんに長い時間付き合わせたことを謝った。

 最後は謝ってばかりの私達だったけど、お姉ちゃんとミナちゃんに商店街であったことをいっぱいお話して、感心されて、褒められた。それでもちゃんと行動する前にお姉ちゃんかミナちゃんに相談してくださいって言われたので、これからはそうすることにする。

 ちなみにこの日の夕食は、私達がおつかいで買ってきた材料で作った、ハンバークでした。とっても美味しかったです。

 

 それから数日後、OAの日、私達はテレビの前で『はじめてのおつかい』を見た。放送ではうまい具合に編集されていて、男性達がやってしまったことは映っていても、それを私達がなるべく彼らの要望に応えられるように行動した、と男性達をあまり下げず、私達を上げて書かれていた。

 それから密かにテレビスタッフもあのイベントに参加してたようで、その写真もテレビに映ってた。……とっても可愛いラムちゃんが写っていたので、あとで撮った本人に現像した写真を売ってもらおうかな……

 

 そうそう、商店街はあの後、お客さんが増えたみたい。たまたま私達に会うことができるかもだからって。お店の売り上げもそれぞれ上がったって喜んでた。

 その話を知ってるのは、私達があれからもときどき遊びに行ってるから。ミナちゃんやお姉ちゃんにおつかいを頼まれたり、外で遊んだついでにいくことも。おやつ代わりにまたあのメンチカツを買って食べて、皆に挨拶しながら歩いてって。

 皆私達が女神候補生だって知ってるんだけど、それでかしこまることはなくて、私達への態度はよく商店街に来る可愛い仲良し双子に対するもの。

 そんな彼らとの会話は、少しだけいいかなとは思うよ。

 ほんの少しだけ、ね。

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