ゲームブランド「Lump of Sugar」さんの作品、『Prism Rhythm -プリズムリズム-』の二次創作小説となります。

リアと結ばれ、過ごしていく日々。
これはちょっとした、ともに働くバイト先で起きた一幕――

初出:2011年8月開催のコミケ80にて頒布、完売。
のち自サイトでの公開を経て、一部加筆・修正しての投稿となります。
(また、pixivにも本作品を投稿しています)

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エメラルド・ブルーム

 

 もともと、本を読むのが好きな人間、ということなのだろう。

 

 膨大なページを黙々と繰りつづけるのも、びっしりと敷き詰められた活字をひたすら追っていくのも。これまでに、あまり苦痛というものを感じたことがない。

 そういった時の集中力は、我ながらけっこう高い方なんじゃないかと思う。

 旺盛な向学心、などというほど上等なものではないけれど。しかし、興味のわいたテーマに対しては追求しないと気がすまない性分というのは、おそらく生来のものなのだろう。

 

 だからこそ。

 俺は今、ここにいることができるわけで。

『聖ベルティナ学院』と呼ばれる学舎に通い、その生徒をやっているのだと、あらためて思う。

 

 そして、また。

 一日じゅう、本の山に埋もれるようにして過ごす、このバイト。

 こんな性格だから、苦労らしきものを感じたことは限りなく少ない。

 

『古書アズラエル』。

 ――その名は、この店に付けられた屋号だ。

  

  

  ◇  ◇  ◇  ◇

  

  

「いや~。一騎が手伝うようになってくれて、ほんと助かるよ~」

  

 満面の笑み。

 それとともに、お褒めの言葉をいただく。

 生き生きと弾んだ口調で評価してくるのは、この店の事実上の主といってもいい、リアという少女。

 当人にとっては何気ないつもりでも、俺にとっては最高の賛辞だ。

  

「それにさ。こうやって、おなじ仕事をしてれば……いつも一緒にいられるしね♪」

  

 まるで大輪の花が、一気にほころんだように。

 くりかえし見せてくれる、輝くばかりの彼女の笑顔。

 この光景に、俺は何度……心を満たされてきたことだろう。

  

 ――俺とリアの2人が付き合うようになって、しばらく経つ。

 周りからバカップルだの何だのと冷やかされることもあるけど、つまりはそれだけ順調な関係にあるということだ。

  

 順調といえば、この店、アズラエルの経営もそれなりなのだろう。

 この店の収益状況の全容なんてとうてい関知できる立場にはないけれど、リアと俺の2人に労働の対価がちゃんと支払われていること、そしてオーナーがいっこうに姿を見せない半放置状態にあっても、潰れることなくこうして続いている……などといった事実が、何よりもの証拠だと思う。

 もちろん、俺にとっても安定している仕事場の方が望ましいのは、言うに及ばないだろう。

  

 オーナーの管理が怪しくはあってもその経営が揺らいでいないのには、当然いくつかの理由があるわけだが。

 実はその中のひとつであり、かつ強力きわまりない説得力を備えた――

 いよいよ効力を増す一方の、「店の経営が安定的な理由」の最大要因のひとつは、誰の目からも明らかすぎるほどに明白だったりするのだった。

  

  

  ◇  ◇  ◇  ◇

  

  

「さって。今日も一日、頑張りますか! ね、一騎」

  

 制服姿のまま、学院からアズラエルと向かう俺とリア。

 今日もまた舞踊の練習があったにもかかわらず、リアの足取りはその疲労を感じさせないほど揚々として、活力にあふれている。

 それはまるで、彼女自身にしかできない天性の舞踊を、今まさに俺の眼前で披露してくれているかのようで。

  

「だって、これから一騎と2人っきりになれるんだもん。気持ちが軽くならないわけがないじゃない♪」

「それは嬉しいけど……客の応対も忘れないようにな」

「分かってますって。もう、一騎ったら照れちゃって~」

  

 照れてない。

 ……けれど、行き交う人たちがすれ違いざまに見せる表情を、やはり気にしないというのは無理があった。

  

 ――ミルレイス・スノー祭。

 あの日、俺たちのわがままで銀に立場を譲ってもらったリアが舞台に立った瞬間から。彼女は、ウィスカに住む人々の注目を集めるに足るひとりとなった。

 あのステージに立って舞うリアの姿を見た人は、かなりの人数になる。だからこそ、道すがら街の人々が俺たちに向ける視線が気になる時が、しばしばあるのだ。

 

 一躍、街の人の知るところとなったリア。

 そこから得られる感触が、おおむね好意的なもので占められているのは、俺としても嬉しいことだ。

 そしてまた、その余慶は――アズラエルにも、確実に及んでいるわけで。

  

 看板娘としてリアを抱えるアズラエルも、影響を受けないわけがない。

 明らかに、客が増えた。

 増えた、とはいっても古書店という商売内容だし、そのへんはお察しだ。

 それでも利用客が増えれば、当然ながら売り上げも上昇する。さすがに「用件はあの時の踊り手さんの姿を見に来ただけ」と堂々とふるまえるお客は少数派で、なにがしかの古書をついでに買っていってくれるからだ。

 また俺とリアにしても、そんな客との間に悶着が起こることもなく、うまく対応できていると思う。

 かくして新たに一冊が売れ、時を同じくしてオーナーから数多くの古書が一気に送られてくる。ひとりの少女の存在が、理想的な循環を生み出す鍵になっていた。

 好調な売り上げを実感できるという環境は、そこにバイトとして関わる俺にとっても悪い気はしない。

  

 ただ。

 そんなふうに、労働の疲れが充実感と良好な関係を築いているなかで。

 まったくの正反対に、売り上げを落としている部門も、実はあったりするのだ……。

 

 

 

 

 

「……まったく、お前も不憫なヤツだよな……」

 

 とある一冊の本。

 そいつを手に取って、俺はつぶやいてみる。

  

 他の書棚に並ぶ古書の売れ行きに比べ、この周辺の連中の人気はあきらかに鈍い。まさに日陰の存在、というやつだ。

 この本自身には、何の罪もない。あるわけがない。

 罪があるとすれば、それは――リアのせい、ということになるのだろう。

 とはいえ、それで彼女を責めるのも酷である。まったくもって、不可抗力なのだから。

  

「一騎ー? って、いたいたー」

  

 びくうっ。

  

「ん? それ何の本?」

  

 ……などと、リアはそんなことを訊ねてきたりはしない。

 そのかわりに含みをもった微笑みをこちらへと向け、彼女は何かを察したようにうんうんと頷いてみせた。

  

「もー。わたしの眼を盗んでそんな本にご執心なんて……一騎のエッチ♪」

「ちゃうわ。俺はただ、本棚の整理をしていてだな……」

「隠さなくたっていいじゃん。若いわたしたちだからこそ性欲をもてあます。うんうん、青春だねぇ~」

  

 妙な理解を示すな。

 まあ、つまりは――。最近売り上げを落としているというのが、つまりはこのテの本なのだった。

 肌色成分たっぷりなビジュアルと、桃色ワールド全開なテキスト。完全に成年男性をターゲットにした内容だ。

  

(そりゃ、会計をする主な相手がリアとあっちゃ……)

  

 ミルレイス・スノー祭で、多くの観衆の注目と喝采を集めた踊り手。ベルティナの有望な卵。

 そしてさらに、抜群のかわいさ。特に一番最後の点は、彼氏である俺が一も二もなく、力強く太鼓判を押せる。

  

(そんな女の子に向かってさ、「このエロ本ください!」なんて臆面なく言える奴がいたら、心底尊敬するわ俺)

  

 言えない。

 とてもそんなこと言えるわけない、普通の客なら。

  

 とまあ、かくなるわけで。

 リアという女の子が世に知られれば知られるほど、特定のジャンルの本の立場はますます不遇になっていくのだった。

 とはいえ、彼女の存在で客足そのものが伸びているのは事実。それを考えれば、こいつらの不遇っぷりが改善される日を迎えるのは、まだずっと先のことになるだろう。

  

「……それよりさ、一騎」

  

 ――さして、時間は経過していなかったと思うけれど。

 俺の思考を遮るかのように、リアの声が意識を現実へと引き戻した。

  

「ちょっとこっち手伝ってよ。わたし一人じゃ、手に余っちゃってさ」

「あ、ああ。分かった」

  

 思いのほか簡単に追及を放棄したリアが、店の入り口の方にある本棚を指差す。

 数日前にまた大量の本がオーナーから届けられたおかげで、そっちはリアが整理に四苦八苦している一角だ。

  

「あ、そうそう、一騎」

「ん?」

「さっきのいかがわしくてえっちい本、欲しいんだったら特別に店員割引でサービスするよ?」

「いらんわっ」

  

  

  ◇  ◇  ◇  ◇

  

  

「――それじゃ、一騎。わたしが上の棚に整理していくから、一騎は下から本をどんどん手渡してくれる?」

  

 さして広いともいえない店内のスペース全域に、整然としながらもびっしりと並べられた本棚。

 さらには天井の位置を高めに設計して、壁ぎわの四方にロフト状の中二階を設けるという構造になっている。

 その中二階の部分にあるのもまた当然、本棚だ。リアが「上の棚」と言うのは、その中二階エリアにある本棚のことだった。

  

「それなら、役割を逆転させた方がいいかもな。本の山を繰り返し持ってさ、階段を昇りつつ何度も運ぶのって、けっこう大変だろ?」

  

 下のフロアに置いたままの、オーナーから新しく届けられた本。当座の仮置き場として中二階の本棚を活用しているのだが、積み重ねた本を何度も上げ下ろしするのはかなりの重労働となる。

 力仕事なら、俺の出番だ。それに、今回はいつも以上に数が多い。いったいどこでこんな大量に集めてくるのだろう、と不思議に思うくらいだ。

 であればこそ、なおさら上には俺が上がるべきではないだろうか。

 代わりに下でおおまかに仕分けつつ、合図とともに差し出す仕事なら、リアの負担はずいぶん軽くなるはずだ。

  

 そう思っての提案だった、のだが。

  

「ううん、一騎は下にいてよ。わたしが上を担当するからさ」

「いや、こういう肉体労働系の要員として俺はバイトしてるわけだしさ。リアは下でゆっくり……」

「いいのっ。わたしがやるって言ってるんだから!」

  

 ムキになったようにリアは急に語気を荒くして……すぐさま、はっと我に返る。

  

「……ごめん、一騎。一騎はわたしのことを考えて言ってくれてるのに……」

「いや、まあ、リアが上でいいってんなら構わんけど……」

「その……ここはわたしの担当場所、だからさ。わたしがやらなくちゃダメだと思うんだ、やっぱり……」

「……そっか。分かった」

  

 そこまで言うリアの意思は、尊重されるべきだと思う。せっかくやる気になっているのなら、無理に損なわせる必要もない。

 しばらく彼女に任せて、疲労の色を見せたときに入れ替わっても遅くはないだろう。

 そう考えて、俺は本人の要望どおりに上へ上がってもらうことにした。

  

  

  ◇  ◇  ◇  ◇

  

  

(そういや、こうやってリレー方式で作業するのって、ひょっとして初めてかも……?)

  

 手始めにひと抱えの本とともにリアが中二階へと上っていったあと、別の箱の封を開けていると、ふとそんなことを思った。

 今まではそれぞれで担当場所を決めて、手分けをしながら整理をするのが常だった。オーナーから送られてくる本の量も適度で、中二階への昇降回数も今回のようには多くなかったのだ。

  

(ただ、今回は送られてきた量がひときわ多いんだよな。リアの言う通り、2人で一気にやった方が正解かも……)

  

 中二階の部分へは、小階段――といえば聞こえはよいが、むしろハシゴを思わせるようなものを使って昇降する。

 ほぼ垂直と思わんばかりの急な傾斜角度を持ち、気軽に使うには安全性が保証できないので、基本的にはお客は使用禁止だ。

  

「おーい、一騎ー?」

  

 と、最初の山の整理を終えたのだろう。はるか頭上から、次の本の山を要求するリアの声が降ってきた。

  

(っとと、いけね……)

  

 俺は慌てて箱から数冊の本を取り出すと、ハシゴ状の小階段の足場に片足をかけつつ、腕を伸ばして受け取ろうとするリアの姿を見上げて――

  

「ぶっ」

  

 思わず本を取り落としそうになる。

  

「ん? どうしたの、一騎?」

  

 明朗快活なリアの性格にまさしくぴったりの、丈の短いスカート。

 そこから伸びる、すらりとした太腿と――さらにはその先にある、彼女の腰部を覆い隠している下着とが。

 下から仰ぎ見る格好の俺の視界に、一切の容赦なく広がっていたのだ。

  

「い……いいいや、何でもないっ」

  

 とっさにそう口走ってしまう、嘘つき野郎な俺。

 俺の手から本を受け取り、足場の上で器用に身体を半回転させながら中二階へと戻っていくリア。その間、俺の視線はずっとリアのスカートの内部に釘付けだった。

 再確認するまでもないけど、リアは俺の彼女だ。下着だって、初めて見るわけでもない。

  

(とは言っても、やはりだな……)

  

 いかに理性に奮起を促そうと、視線がついそちらへと集中してしまう。これが悲しい男の性ってやつか。

 恥ずかしそうにモジモジとしながら、リアが自分の意思で見せてくれる……というシチュエーションもいい。最高のご褒美であり、至福のワンショットとなることは間違いない。

 けれどその一方で、本人の気がつかぬところで見せる彼女の無防備な姿というのも、また大きな興奮をそそるものだった。

  

(いや……。本当にリアのやつ、気づいてないのか?)

  

 たまに、妙なところで勘の鋭かったりするリアのこと。

 だからこそ、そんな疑念も浮かんでくるのだが……。

  

「ふんふふんふ~ん♪」

  

 上の棚の間から聞こえてくるのは、楽しげな鼻歌ばかり。

  

「一騎ー。そろそろ次のもらうから、用意して待っててよ~」

「お、おう」

  

 俺は慌てて、箱の中から数冊の本を新たに取り出した。すかさず、それをリアが受け取りに中二階から姿を見せる。

 小階段に片足をかけたリアを見上げつつ、俺は本を手渡す。またまた、彼女のスカートの内側が覗き放題だった。

 こ、これはたまらん。もとい、いかん。

  

「疲れたら休憩するから、いつでも言ってね」

「い、いや。これなら何時間ぶっ続けても、むしろますます元気になりそうだ」

  

 何を言ってるんだ俺は。

 とはいえ実際、疲労感なんてまるで吹き飛んでいる。

 その後も作業を重ねるたび、毎度のように目に飛びこんでくるリアの下着。

 くりかえしくりかえし、幾度となくその光景を眺めても、いっこうに彼女が感づく様子はなかった。

  

 丈夫さよりも軽快さを優先したように思える、薄めの生地で作られたショーツ。

 淡いピンクという色味のほかには過剰な装飾などは見当たらず、普段から女の子が気軽に身につけていそうなイメージのものだ。

 かといって、完全に素っ気ないデザインというわけでもなく。腰のラインに沿った部分には真っ白で小さなフリルが何枚かひらひらと踊って、チャーミングさを引き立てている。

 書物の保存のために直射日光が制限された店内というのも、またいい。適度なほの暗さと女の子の下着という組み合わせがこんなにも好相性だなんて、今までまるで気づきもしなかった。

 まるで一枚の絵画をじっくりと堪能しながら細かな批評さえも許されるような、今日のリアのサービス精神は大盤ぶるまいだった。

  

(……なんていうか、さ――)

  

 今日のリア。いつにも増して、可愛くないか?

  

「一騎ー。また次のやつ、取りに行くよー」

  

 相手がリアだからこそ。リアが身につけているものだからこそ。何度眺めても、俺の興奮が冷めることはない。

 すでに俺の目蓋の裏側には、リアの大事な部分を覆い隠す薄い布地が、デザインや色彩の一切すべてまで鮮明に焼きついてしまった。

 しかしそれでも、飽きはこれっぽっちも感じない。リアの下着姿だったらいつでも、いつまでも覗きたいのだ。

  

「こっちはいつだって準備OKだぞ」

  

 言いながら、リアが小階段を数段ばかり下りてくるのを期待しながら待つ。

 むしろ、中二階へ運び込んだ本を彼女が整理している時間がもどかしい。

 自然、俺の作業はスピードアップし、普段は拝むことのできないリアのミニスカートの内側を視界に収める瞬間を、階下で今か今かと待ちわびることになる。

  

「一騎、お待たせー」

「うん……やっぱいいなぁ」

「ん? どしたの?」

「あ、いや。えっと、何でもない」

「……ふうん?」

  

 神様お父様お母様、皆様ありがとう。

 やはり何度目にしても素晴らしいものです。

  

 リアという女神の、まるで輝いているようにさえ見える完全無防備な姿。

 本人が気づいていないためまったく遮られることのない、視界いっぱいにまで惜しげもなく解禁された下腹部と、そこから伸びる脚部。

 毎日のように繰り返される舞踊のレッスンで鍛えられているはずの彼女の両脚は、それでいながら筋肉などまるで存在しないかのように、思わず息を呑むほどに美しくなめらかで。

 さらにリアがくるりと身をひるがえすと、いかにも柔らかそうで丸みを帯びた女の子のお尻が、ショーツ越しに姿を現して。

 下から眺めていると彼女が一段一段と上っていくたびに、まるでこちらを誘うかのようにぷりぷりと左右にダンスをするのが、またたまらなく愛らしい。

  

 どうしようもなかった。

 俺の視線は、最後までその部分に惹きつけられっぱなしだった。

  

 

  ◇  ◇  ◇  ◇

 

 

 ――気がつけば、いつの間にか箱の中身はほとんど底をつきかけていた。

 あと2、3回も運べば、この作業も片が付くだろうか。

  

(うーん、惜しいなあ……)

  

 その気持ちは、当然ながらある。

 とはいえ、何度も小階段を昇り降りしていたリアの疲労は、きっと俺の比ではないはずだ。それを思えば、これ以上無理を重ねさせたくない。

  

「おーい、リア。箱の底が見えたから、もうちょっとだぞ。頑張れー」

  

 上の棚の間に姿を消したまま、おそらく整理作業中であろうパートナーに向けて、呼びかける。

  

「ふ~、やっと終わりかぁ。長かったよ~」

「お疲れ様。片付いたら、休憩を入れようなー」

  

 そうだ。休憩している時に、スカートの中が丸見えだったことを明かしてやろう。

 そりゃ最初のうちは怒るだろうけど、いずれはお互いが共有する思い出のひとつとして、笑い話にでもなればいい。

 そんな都合のいいことを考えながら、俺はやがて姿を見せるであろうリアを待ち――

  

(……って、あれ?)

  

 ――しばらくしてから現れたリアは、ついさっきまでの彼女とは、なんとなく雰囲気が違っていた。

 もじもじとミニスカートの前後を両手で引っ張るようにしながら、その内部を隠そうと努力しているように見える。

 そして……今さらのように恥ずかしさを含んだ声音で――

  

「……どうだった?」

「……どうだった、って何が?」

「覗いてたじゃん、わたしのスカートの中」

「ぶっ」

  

 言い逃れは、不可能だった。

 リアはとっくに、気がついていたのだ。そしてそれでいながら、気づかぬふりをしていたのか……。

  

「……見ました。たしかに見てました、ごめんなさい」

  

 ごまかしも言い訳も効かぬと見て、俺は素直に負けを認めた。

 男の本能というやつの、完全敗北だった。ゆえにここは正直に謝るのが、ベストな選択だろう。

 ただ。それだからこそ、同時にまた疑問も浮かんでしまう。

  

「でもさ、リア自身でも気づいてたんなら、どうして……?」

「……て、ほしかったから……」

「ん?」

「あんな本の中の子より、わたしの方を見てほしかったんだよっ!」

  

 ああ……。

 我ながら、鈍いと思う。

 でもようやく、今にして合点がいった。

  

 こう見えて、リアはすごく繊細な心をもった女の子だ。

 一見あけっぴろげで、臆面もなく軽い下ネタ談義を俺と繰り広げるリア。それでいて、唐突の不意打ちな俺からのキスに、照れながら戸惑いを見せる純情なリア。

 過去の記憶を遡っても、矛盾といったふうに取れなくもない双方の表情を彼女は持っていて。

 そして俺は、そんな両方のリアがたまらなく好きなのだ。

  

「……さっきの、エロ本はさ」

  

 本当は、リアも分かっているのかもしれない。いや、分かっているのだろう。

  

「何度も言うようだけど、別に欲しくて手に取ったわけじゃなくてだな……」

  

 でも。

 分かっていても、察していても。

 感情だけが先走り、別の行動を取らせてしまうことは起こり得る。それは、俺にも理解できることだ。

  

「やっぱりさ、その……同じ『覗き見る』にしてもさ。俺にとっては誰よりも、リアのが何倍も興奮するしな……」

  

 素面でそう言うのは、さすがに照れるけど。

 でも、さっきまでの嘘つき野郎とは違う。それこそが俺の本心だから。

  

「そっ、か……」

「……安心するには、まだ不足か?」

  

 そんな俺の問いに、「ううん」とかぶりを振るリア。

  

「一騎の言うことだもん、これ以上疑うわけないじゃない。それに……」

「……それに?」

「一騎がわたしの魅力にメロメロだってことが再確認できたしさ。それだけでも、大収穫だよ♪」

  

 思わず噴き出しそうになるのを、俺はかろうじて耐える。

 まったく、急に雲行きが怪しくなったと思ったら、次の瞬間にはこの快晴っぷりだ。

  

「それじゃあ、そんな一騎の正直さにお応えして、もひとつわたしからもプレゼントしなくちゃね」

「……いやいや、リアさん? というか、ちょっとストップ!」

「ズバリ、わたしそのものを受け取ってね、王子様っ♪」

  

 言うやいなや、小階段の上でリアはくるりと身をひるがえし。

  

「ちょ、だから待てって! 無理っ、受け止めるの無理~!」

  

 迷うことなく、一気にフルダイブ。

 宙を泳ぐようにしながら、真下にいる俺めがけて勢い良く飛び込んで。

 言葉どおりに受け止め損ない、もんどりうって倒れ込みながら――俺とリアは、2人して笑いあった。

  

  

  ◇  ◇  ◇  ◇

  

  

「お店の前に来たら、急に中から『どーん!』ってすごい音が聞こえてきたから。本当に、びっくりしたよー」

  

 ……とは、たまたま今日アズラエルに遊びに来てくれたエルスの弁。

 幸い客が誰もいなかったからの棚整理であったし、怪我などもひとつとして負わなかったけれど。それでも、もし近くに第三者が居合わせていたとしたら、エルスと同様にひどく驚かれたに違いない。

  

「ちょっとしたやんちゃを、リアがだな……」

「へー。ほー。一騎ったら、あんなに熱烈一直線!なわたしの気持ちを、やんちゃの一言であっさりと切り捨てちゃうんだー」

「いや、だって。さすがに無理すぎるだろあれは……」

  

 そんな俺たちのやりとりを前にしながら。くすりと、エルスは笑って。

  

「ふふっ。2人とも、あいかわらずの仲良しさんだね~♪」

  

 ――リアがいる毎日。リアとともにある未来。

 その魅力に満ちた泉の水は、おそらく俺が一生をかけて汲み上げたとしても、尽きることはないだろう。

  

 彼女と時間をともにし。助け合い。

 そしてきっと、数え切れないほどたくさん笑いあって――

 

 そんな人生なら、きっと生涯の終焉のその瞬間までも、悔いることはない。

 そう俺は、確信している。

 

 

 

 

 

「エメラルド・ブルーム」 ―了―

 

 


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