主人公の前に初期で現れて圧倒的な強さを見せつけて終盤で味方になってすごくかっこよくなる悪役になります『リメイク』 作:??????
さて、予想外の展開で柊家が機能しなくなったことで否応なく原作が変わってきてしまうのは想像に難くない。ただ、究極的に言えばどんなに原作が変わっても俺としては主人公が力をつけて、仲間たちとラスボスを打倒してくれれば問題ないのだ。そのためには、主人公強化に必須な彼女を万が一にも殺させるわけにはいかないのである。原作がどの程度変化するかまだ予想がつかない以上、一番不安定な立場にいるこの少女だけは確保しておきたい。だからこそ無理を押してここに来た。
ただ一応知識として彼女を知っているだけで初対面ではあるので、俺はガラス張りタンクの中で死にそうになっている少女に声を掛ける。
「おい、お前名前は?」
「…7000番」
「そうじゃない、お前の本当の名だ」
「本当の名前…黒薙 翡翠」
「…そうか、では黒薙。早速だが質問だ。お前はここから出たいか?」
「…分からない」
死んだ目のまま、黒薙は言う。このままでは死んでしまいそうな雰囲気さえ感じる。当然と言えば、当然だ。彼女は、この研究所で3年間体を弄られ続けたのだ。良く生きていたと思う。正直、父親が行っていた人体実験を知るものとしてはどれだけおぞましいことをされていたのか、彼女の傷とデータを見ればある程度想像がついてしまう。
前世の知識で分かっていたこととはいえ、実際の目の当たりにすると気分が悪くなる。
「…そうか、だがここにお前を殺そうとする者はいない。お前は、図らずも自由になったわけだ。お前は分からないといったが、このままここにいたいのか?いや、そもそも生きていたいのか?」
わずかに目を見開いて、彼女は息をのんだ。そして
「私…今…生きていたいと思えませんでした…」
「ッ…」
言葉に詰まった。原作ではもっと後になってから救出された彼女は、軍の中将に引き取られ原作が開始される頃には多少人間らしい生活を送れるようになっていた。だから、この段階からここまで生きる気力を失っているとは思ってもいなかった。
きっと、彼女はここで死なせてあげたほうが幸せなのかもしれないと俺は思う。俺が知るのはラスボスが倒れるまでの話だけ。その後のエピローグは知らない。彼女が本当に幸せな人生を歩むかなんて誰にも分らないのだ。
だから、これは俺のエゴだ。俺が生き残るために…今は彼女に生きていたいと思ってもらう。
「フン、下らん。お前何歳まで外にいた?」
「…10歳までです」
「はははっは。たかが、10歳……10年間しか世界を見ていないから生きたいと思わないんだ。現にお前は、死にたいとも思ってないのだろう?だったら、お前は、探すべきだ。見るべきだ。生きたい理由など、自分で見つけるものだ。自由を手にしたなら謳歌するしかあるまい?」
「生きていたい理由を探す……あの…あなたの名前は?」
「緋色…ただの緋色だ」
「ひいろは…私を外に連れ出してくれる?」
「ああ、お前がそれを望むなら」
氷の剣を作り、タンクを切り裂いた。ガラスは、砕け、中に入っている液体は外に漏れていく。体に力が入らないのか倒れてくる少女に俺は手を伸ばしてその体を支える。服が濡れて気持ちが悪いとか、謎の液体の匂いがきついとか、そんな感想より先に軽いと思った。
彼女を背負って、研究所内を駆け巡る。あるのは死体、死体死体死体死体死体死体死体。気分が悪くなってくる。一般人なら吐き気を催す光景だ。ここの研究員は、明らかに人を殺すことを快楽として感じて生きていると感じた。そのことを証明するかのようにまともな死体は一つもない……四肢がないもの、溶けていて原型が確認できない死体、恐怖で顔が歪んでいるもの、様々な死体が各部屋に転がっている。想像の数倍気色悪い場所だ。
「あわよくば研究データを回収しようと思っていたが…存外用心深いな」
どうやらあの研究者どもがいた部屋以外には研究資料は残っていないらしい。もっと、小規模な魔法を使えばよかったと後悔しつつも、出口までの最短を走り抜ける。
タイムリミットギリギリの中背中に背負っている彼女が話しかけてくる。
「ねえ、あなたは…なんでここに来たの?」
「ここを出て行けたら教えてやる」
余裕がないため、淡白に返すことしかしない。そして、出口の光を捉え話題をそらす。
「そろそろだぞ」
「ッ………太…陽!?」
3年ぶりに、浴びる光に体が驚いたのか、心が追いつかないのか、その両方なのか。黒薙は背中で硬直していた。
「間に合わなかったようだな」
本当なら声をかけてやりたかったが、そんな時間は残念ながらない。
「黒薙、先に謝っておこう」
「え?」
俺は黒薙の意識を無理やり刈り取り、瓦礫の裏に横にする。
「さて、タイムアタックの時間だな」