主人公の前に初期で現れて圧倒的な強さを見せつけて終盤で味方になってすごくかっこよくなる悪役になります『リメイク』 作:??????
自分は天才であるのかと聞かれれば、その通りだと答えるだろう。幼いころから、神童、夜桜家始まって以来の天才と言われてきた祖父に認められるほどの才を有していた。一応最年少で精鋭部隊の副隊長にもなった。だから自分が天才だという自覚は確かにあった。だが、私は知っている。上には上がいて、そいつは下の者のことなど眼中にないことを。
柊緋色。初めて奴に会ったのは、10歳の誕生日を迎えた時。名家を集めた誕生日会が開かれた。様々な家のものが私のところに挨拶に来る中、興味がないとばかりに外を見ている奴が一人いた。
当時の私はそいつに声を掛けた。当時の私はかなり増長していた。自分より上の同世代を知らないことによる全能感が私に傲慢を与えていたんだ。
「僕の名前は、御影。よろしく」
同世代でも有名だった私は、大抵こちらからあいさつに行けばいい反応をしてもらえていたのだが
「ああ、柊緋色だ。よろしく、夜桜」
下の名前を名乗ったのにもかかわらず、上の名前でしかも呼び捨てで呼ばれたのだ……衝撃だった。
何より、気に食わなかったのは、その目だ。私はおろか、何も映していないその目が気に食わなかった。だから、当時の私は突っかかってしまった‥‥…今思えば命知らずだったなと思う。
「決闘だ!!!」
大騒ぎになったものの、すぐに誕生日の余興だと納得させて私は決闘に準備をさせた。
親も、この時は何故か止めなかった。しかし、その理由を私はすぐに知ることとなった。
一対一の魔法を使った決闘。負けるなんてみじんも思っていなかった。当時の私は、自分の強さに酔っていたのだろう。だから、その結果を受け入れるのは時間が必要だった。
勝負は一瞬。私の放った炎は、もう魔法軍の少佐レベルにすら肉薄していた。だが、そんなものは意味がないとあざ笑うかのように奴の氷は私の炎を消し、私に敗北を叩きつけた。
「……この程度なのか」
あいつは、そう吐き捨てて去って行った。冷えた雪の絨毯の上で私は大の字に倒れたまま、しばらく動けなかった。遅れて湧き上がってきたのは、羞恥心その後は怒り、くやしさそして何とも言えない高揚感。
これが私とあいつとの、ファーストコンタクト。今思えば、よくこれで関係がこじれなかったものだ。いやこじれたからこそ、私は緋色を理解できなかった。
それから、私はあいつに挑み続けた。どうしてもあの目が許せなかった、自分をきちんと認識させたかった。何度も何度も挑み、三年後、一度だけ攻撃を当てたことがある。その時のあいつの驚いた顔は忘れられない。あの時初めて、あいつは私のことを御影と呼んだ。そこからだ、彼とはよくしゃべるようになり、友人と呼べる存在にまで彼は私の中でなっていた。だが、友人だと思っていた男のことを私は理解していなかった。そして一年が経たぬうちにそのことを思い知らされた。
彼が、実の父を手にかけ使用人を殺しにして家を出たと聞いた。助かったのは、妹とあいつの専属の使用人の一人だけだったという。そこから、二年間軍に入った私は緋色を追ってきた。そして———
「久しいな、御影」
今、私の前に、あの日と何も変わらぬ友がいる。あの時には気づけなかった、暗く歪な炎をその目に宿して。
「緋色…お前を拘束する」
「懐かしい顔だな…その服紋章。その年で中佐か。偉くなったな。二年という歳月は人を変えるな」
黒いロングコートに身を包み、散歩するような歩調で歩いてきた緋色は言う。その様子は、まるで勇者の前に現れる魔王の貫禄だ。
「変わったのは、お前じゃないのか。緋色」
「変わった?…俺は、昔のままだ。変わったと思うならそれは、おまえが俺を理解出来なかっただけだ」
「ッ…!」
御影は、顔をしかめた。その顔には、後悔と怒りが浮かんでいる。
「それで?そんな大人数を連れてこんなところに何をしに来た?」
軍の中でもテロの制圧を得意とする部隊。その精鋭たち50人を目にしても緋色の態度の変化はなかった。
「我々の情報網をなめるな。お前が、ここで確認されて放っておくとでも?」
「ははっ、職務怠慢はよくないぞ。御影。お前ここのことを何も知らないでここに来たのか?呆れた男だ」
緋色は心底おかしいというような調子で笑っている。
「何だと…ここは研究所だろう。おまえこそこんなところに何の目的があったんだ。罪なき人たちを大量に殺して!!」
「おいおい。ちゃんと確認はするべきだぞ。いや、そこの困惑している部下にでも聞いてみたらどうだ?」
「なに?」
「中佐…警備の者たちを確認してきたのですが、まだ息があります」
「ッ……」
御影は、困惑したようにつぶやくが相手の狙いを推測し顔色を変えた。
「緋色ォ!お前!まさか!?」
御影の顔色を見て緋色は凄惨に嗤う。
「息がある以上見捨てることはできないよなぁ?御影。何せ体裁的にはお前たちは正義のヒーロー様だ。助かる見込みのあるケガ人は見捨てられない!そうだろう?」
「クソッ!!部隊を半分に分ける!大至急!怪我人を保護!この場から運び出せ!!残りは私に続けぇ!!」
「ハハハハハッ!御影ぇ!戦えるのかぁ?周りの人間を巻き込まないように気を配りながら?俺を相手に?ハンデ無しでも俺に勝てない男がか?」
「何と言われようと私はここでお前の蛮行を止める!」
「蛮行…か。…お前らでは、何も変えられない。正しい行いが、正しい結果を生むとは限らない。そういうことだ。だから、お前らはせめて俺の前に立つな!」
「「ッ…・・」」
冷風とともに、殺気が緋色から放たれる。第三部隊は別名を精鋭部隊と呼ばれる。第三の人間は、能力、実戦ともに高い者が選ばれるのだが、その彼らをもってしても緋色の気迫に押し負けていた。
「クソ!本当に何も変わっていないな。緋色。その恐ろしい実力に少しは近づけていたと思っていたが」
「思い上がりだな。全力のお前でも俺を一人で相手取ることは出来ない」
「ああ、だが…私は一人ではないんだ!緋色!」
「………」
緋色は、後ろに控えている精鋭部隊の面々を視界に入れる…そして、笑った。
「それが、思い上がりだと教えてやる…」
「全員、構えろッ!!来るぞ!!!」
御影は、腰の刀を引き抜いて仲間を鼓舞する。
「氷陣の杭」
瞬間、氷の杭が精鋭部隊の足元から現れる…その時間はほとんどないといってもいい。故に、躱しきれないものが続出し、一瞬で戦いの流れは緋色に傾いていた。
「ぐわあああああああああ」
「いッ…」
「クソォォォ!!……」
「随分躱したな…流石だ」
三分の一がやられ、残りはぎりぎりで躱し傷をほとんど受けていない…しかし、動揺は広がっていく。
「何だ!あの、異常な魔法の発動速度は!?」
「あんなの反則だろ…」
「規模も段違いだ…」
「気を付けろ、あいつは弱冠14歳にして当代最強を噂された男だ!」
「クハハハハッ!!!」
緋色は笑う…鮮烈に、嗤う。哂う。笑う。
「理解できたか?お前と俺との差が?」
顔を伏せる御影に、緋色は笑いかける…もちろん悪い意味でだが。
「ああ、私の剣はお前に届くというのが分かったよ。私たちは、この程度でへこたれるようなやわな鍛え方などしていない!」
御影の目は死んでいなかった。
「何?」
緋色は、訝し気に顔をしかめる…その目には、警戒の色が浮かんでいた。気が付けば、動揺していた部隊の人間たちももうそれほど動揺していない。
「『蒼炎よ』―――我が剣に力を」
御影の刀から青い炎が漏れ出て来ている。
「ほう…俺に接近戦か」
「強化エンチャント…」
青炎は、御影の刀に覆いつくす。
「行くぞ?…緋色ォォ!!」
身体強化魔法によって底上げされた御影の一歩は、爆発的な加速を以って緋色との距離を詰める。
その勢いを殺さず、緋色に向かって御影は刀を一閃。
緋色は、最小限の動きで躱しそのまま勢いを殺さずバックステップで距離を取る。
「『造形』 氷剣」
緋色は、氷の剣を作り御影に肉薄する。
「ッ……!」
緋色の上段からの攻撃に対し、御影は刀を斜めに構え受け流すという選択肢を取った。
しかしそれをあざ笑うかのように、緋色の剣は短剣へと形状を変える。
「何?」
緋色は、強引にそのままの体制から一回転して御影に再度切りかかる。迎撃の姿勢を取る御影だが短剣から長剣に姿を変えた緋色の剣をまともに受け、刀を叩き落とされてしまう。
「終わりだ」
それだけでは止まらず、さらに追撃をしようとするが緋色の頭上に20を超える炎の球が発生した。
「チッ!…」
炎の雨が着弾する頃には、緋色は地を蹴り全力でその場を後退していた。緋色が先ほどまでいた場所には炎の球が雨のごとく降り、地面を焦がしている。それだけで炎の球に込められていた熱量を察する。
「なるほどな」
目を向けるとそこには腕を前にあげた兵士たちがいた。
「俺らのことも忘れるな!!!!!!」
兵士たちが、身体強化を掛け緋色に突っ込んでいく。緋色は嘆息しながらそれを迎え入れた。放たれる拳を躱し、十分に魔力を纏った手で一人の兵士の背中に掌底を放ち、足を払う。バランスを崩した兵士は、反対側から突っ込んできていた騎士に激突した。
「グッ…」
怯んだその隙を逃がすほど緋色は甘くない。瞬時に、魔法を発動させる。
「『氷陣の茨』」
「ぐあああああッ!!!!!」
近くにいた騎士ごと氷の茨に巻き込まれる。
「緋色ォォォ!!!!」
全身に、炎を纏い御影が突っ込んできた。だが、
「残念だ」
緋色は、手のひらを向ける。咆哮と共に放たれる渾身の一刀を受け止めた。片手で行われる真剣白刃取り———それは、現在の両者の技量の違いを示していた。
御影が驚愕の表情を浮かべるのとほぼ同時。
足場であるアスファルトに氷が張り、それは四方八方へと瞬時に展開されて――。
「潮時だ———『氷銀世界』」
騎士団の動きを封じた。膝までを氷で拘束された騎士たちに動ける者はおらず、それは御影とて同じだった。
「ここに用はない。これ以上いても時間の無駄だ」
「待ってもらいましょうか」
声が響く。男だか女だか判断のつかない声…御影でも、兵士でもない声に緋色は驚き目を細める。
「誰だ?貴様…」
シルクハットに、仮面。正体不明の何者かが、翡翠を抱えて立っていた。