主人公の前に初期で現れて圧倒的な強さを見せつけて終盤で味方になってすごくかっこよくなる悪役になります『リメイク』   作:??????

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第6話

その男は、気配もなく降り立った。その男は、戦場に立つにはふさわしくない格好で、シルクハットに、何も描かれていない無地の仮面、そして極めつけは白いタキシードだ。完全に人を馬鹿に仕切っている。

 

しかし、俺は知っている。この男の名は、結露。自らを奇術師と称す魔法使い。原作ではラスボスが率いる組織の幹部で…その強さは作中でも10本の指には入ると言われている。

 

それは、仮にこいつのことを知らなくても理解できるだろう。この男の魔力は、殺気は、存在感は、それほどまでに不気味でその上圧倒的だ。それが分かるからこそ、御影は本来、足止めをするためにはなった魔法である『氷銀世界』を解かずに、警戒したまま動けないのだろう。

 

「君に会うのは二度目ですかね?柊君」

 

結露は、大げさにお辞儀する。

 

「さて、記憶にないな。自分を奇術師なんて自称する道化の知合いなんて俺にはいないはずだ」

 

「相変わらずつれないですね~」

 

「失せろ道化。今お前に時間を割いている余裕はない」

 

「ははっそうカリカリしないでくださいよ~私は、証拠を始末しに来ただけなんですから」

 

そう言って、結露は俺を見る。俺は、その視線に怯むことなく結露を見返す。

 

「証拠を始末しに来た」それを聞いただけで、この男が何を言いたいのかを悟った。背中に、嫌な汗が流れるのを感じる。

 

「……好きにさせると思うか?」

 

「いや~、無理でしょうね~。君がどうやってここを突き止めたのかは知らないけど、ここに来た以上目的は彼女でしょうし?」

 

結露は、仮面に手を当て少し考えこんでから軽やかに声明を上げる。

 

「あなたには私のショーに付き合ってもらいましょう。この道化めが必ず満足させて差し上げますよ?」

 

俺から無意識に出ていた殺気に、誰かがごくりと唾を呑み込んだ。近くいるものにとっては、その音すら耳障りに感じてしまうほどの沈黙。

 

「炎を———」

 

結露はステッキを前方にかざし、炎を直線状に放出した。

 

「氷壁よ」

 

赤い紅蓮の炎が俺に迫るだが、万物を焼きかねないと錯覚させるほどの熱の塊は氷の壁に瞬時に鎮火されていく。

 

「風よ―」

 

結露のステッキから放出された、乱気流がアスファルトを切り裂き迫って来る。

 

「強化」

 

俺は、身体強化魔法でその場を全力で離れて回避した。そのまま、瓦礫と土煙をかき分け、結露の背後に移動する。

 

僅かな土煙の違和感に気が付いたのか、結露は後ろを振り返りステッキをかざすがもう遅い。体に負担がかからない程度に抑えた身体強化は結露の動きを少しだけ上回る。俺の蹴りが、結露の仮面を穿った。

 

「ッ!?」

 

パキリ、と。嫌な音を奏でる仮面。ガラスを砕いた時のような感触を突き放すように、俺は結露の顔面を蹴り抜いた。

 

結露はダメージを軽減するために後方に飛び、先ほど俺が展開した氷壁へと激突した。

 

激突の衝撃と共に氷の砕ける音が鳴り響く。やはりというべきか、宙を舞う破片の中に仮面の破片も混ざっていた。

 

俺は空中で翡翠を受け止め着地する。そして、すぐに結露に視線を向ける。

 

「何の真似だ」

 

「何の話でしょう?」

 

ゆらり———。砕け散る砕氷が降りしきる中ノータイムでその男は立ち上がった。その不気味な糸目を俺に向けて。

 

「お前、俺の蹴りをわざと食らったな?」

 

「ん~、どうでしょうか?」

 

「お前があの程度の不意打ちに対処できないはずがない……それは俺がよく知っている」

 

「嬉しい評価ですね~。で~も、舐めプしてた君に言われるのは心外ですよ」

 

お見通しってわけか。

 

「……彼女を巻き込まないために威力と範囲を絞ったのはわかりますけど、私以外ならその隙は見逃したりしませんよ?」

 

「………」

 

「やはり柊君は甘いですね~」

 

「知った風な口をきくな」

 

「…思うに君は誰かを守りながらの戦いにはあまり向いていないんですよ。眼前の敵を殺す。君の動きはそういう動きですから」

 

俺の怒気は無視して、まるで、ダメな教え子に教育しているのかのように俺の問題点をあげつらっていく。

 

「そんな中途半端な状態じゃ、我らが王には届きませんよ?」

 

糸目を少し見開いてその緋色の瞳でにらまれた瞬間、気温が下がったような錯覚を起こした。

 

「ッ……化物め!」

 

「その様子では前回した話はご検討いただけないようですね…では今回はこれでお開きにしましょうか」

 

パチン―――。結露は、指をはじく。瞬間、結露を中心に風が吹き、砂塵を巻き上げる。その結果、第三部隊と俺の視界を奪った。

 

「これにて閉幕!続きはまたいずれ!」

 

そんなセリフだけを置き去りにして、結露は消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れさまでした。母上」

 

別室にて静かに会議が終わるのを待っていた壮介は入室してきた美鈴にそう声を掛けた。

 

「ええ、ありがとう」

 

「随分お疲れのようですね」

 

 はーっ、と息を吐きながら扇子を仰ぐ美鈴に、聡介が苦笑する。

 

「白百合の長女…かなり曲者ね。あなたも気を付けた方が良いわよ?」

 

「母上が言うんだからよっぽどなんだろうな」

 

ため息をつきながらベンチに腰掛けた美鈴を見て、壮介も腰の刀を鞘ごと抜いて隣の席に座った。

 

「千歌は?」

 

「姉さんは雪花ちゃんの所に行ってくると言い残したっきり連絡なし」

 

「珍しいわね。今日の会議の内容は千歌好みの内容だったのに」

 

「だからこそじゃない?姉さんは随分と雪花を可愛がってるみたいだし」

 

「あら、嫉妬かしら?お姉ちゃんが取られた―みたいな?」

 

「冗談。姉さんに執着されるなんて御免被るよ。先輩もよく姉さんの婚約者なんてやってられたもんだ」

 

壮介は尊敬と呆れが入り交ざったような表情をしつつ、携帯を取り出す。腕に真剣を抱え、右手でスマホを操作する様はひどくシュールだった。

 

「壮介はどうなの?」

 

「どうって?」

 

「そういうあなたは緋色君には興味ないの?」

 

美鈴の問いかけにスマホを操作していた手をぴたりと止め、壮介は腕に抱いている刀の柄を撫でる。

 

「…できれば、木刀を用いた格式ばった試合じゃなくて、本気の先輩と戦ってみたいっていうのはあるけどね…」

 

無意識に笑みを浮かべる自分の息子のバトルジャンキーっぷりに、美鈴は嘆息しつつ会議での報告を思い返す。

 

『研究所は壊滅。ほとんどの人間が一命をとりとめたものの、数名の死体が地下施設から発見された。柊緋色と戦闘を行った精鋭部隊はほぼ壊滅。謎の乱入者との戦闘で柊緋色の追跡もかなわず』

 

(後日、詳細な報告書が作成されるという話だけど、少しきな臭いのよね…。確かに地下施設自体は第四研究所には存在してるけど、現在は使われていないはずだし。身元の確認が、取れたという話も上がってこない。何より、怪しかったのは萩野の言動ね。連絡してきた現場の隊員がより詳細な報告をしようとした瞬間、急に隊員の体調を慮り始めてついには無理やり通信を切った)

 

「きな臭いのよね…」

 

(表面上は自然体だったけど、間違いなく萩野は現場の情報をあの場で流出させることを嫌がった。それに乱入者っていうのも気になるわ。精鋭部隊を一人で相手取れる彼を押さえることができる人物。日本中を探してもそんな人物は数えるほどしかいないはずだ。

 

何より不気味なのは白百合家ね。あの娘……報告の最中一度も動揺してなかった)

 

美鈴は扇で仰ぐのをやめ、立ち上がる。それに倣うように壮介もベンチから立ち上がった。

 

「ま、白百合の長女の件は貴方たちに任せるわー。まだ引退するつもりはないけど、その内あなたたちが相手にすることになるんだから」

 

「えー?丸投げかよ」

 

壮介の心底めんどくさそうな声を聴きながら、美鈴は微笑む。美鈴のその言葉は自分の息子たちに対する信頼度の高さを物語っていた。

 

 


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