公務員な石動惣一(偽)   作:完龍卞

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CHAPTER 3

 

 

 …………【特異災害対策機動部二課】の本部があるリディアン音楽院に連行された、立花響。その後彼女は研究員の一人であり、【ライダーシステム】の発案者兼製作者である影山信彦に呼ばれていた。

 

 

 「あ、あの〜…………信彦さ〜ん?」

 

 

 職員に案内され、影山信彦の研究室に入った彼女だったが、部屋の電気は付いておらず、真っ暗。困ったなと立花響が頭を欠いていると、突如彼は現れた。

 

 

 「らっしゃ〜い」

 

 「っ──────────」

 

 

 言葉にならない叫び。突然後ろに現れた影山信彦に立花響は叫び、至近距離でそれを聞いた彼は床に倒れてはのたうち回っていた。

 

 

 「痛てぇぇぇ!?!?」

 

 「────────ぁ…………って、大丈夫ですか!?えーと…………影山信彦、さん?」

 

 「せ、正解だ…………しかし驚き過ぎじゃねえか?立花響くん」

 

 「す、すみません…………で、でも!こんな暗い部屋にいて突然後ろに現れたら誰だって驚きますよ!?」

 

 「そうか?…………うん、そうだな。この前俺の可愛い妹分にやったら、顔面思いっきりぶん殴られたしな」

 

 

 そう言って笑いながら頷く、影山信彦。そんな彼の様子を見て、立花響は苦笑いを浮かべていた。

 

 

 「そ、それで、信彦さんはどう言った要件で?」

 

 「ん?ああ、すまない。これを渡そうと思ってね」

 

 「…………これを?」

 

 

 影山信彦が彼女に手渡したのは、スライド式の携帯電話型トランスジェネレーター【カイザフォン】とベルト型変身ツール【SB-913 B カイザドライバー】、他にも色々と入った銀色のトランクケース。どちらも彼が密かに作り上げていた新たな量産型ライダーシステム【仮面ライダーカイザ】に変身するために必要な物だ。

 

 元々これは第二世代と呼ばれる、ライオトルーパーと同時期に彼が作り上げたものである。しかしとある危険性があった為、使用することが出来なかったのだ。そして彼が彼女に手渡したそれは、その代償を最大限減少させた最新版なのだ。

 

 

 「これは…………」

 

 「仮面ライダーカイザに変身するために必要な、一般ツールだ。これを使えば、天羽奏のように仮面ライダーに変身することが出来る」

 

 「奏さんの、ように…………どうしてこれを?」

 

 「君は今から、裏の世界へと入っていく。もしも大切な人が巻き込まれたら、その人に渡しなさい。それはノイズや現在動いている悪役に対抗出来る、特別なものだ」

 

 「ノイズに、ですか?それに悪役っt「さあ、行った行った。ちなみに変身方法はそのトランクケースの中に説明書として入ってるから、それを呼んでくれ」あ、あn「ほら帰った帰った」あぁ…………」

 

 

 無理やり研究室から出される立花響。これ以上は話が聞けないと判断した彼女は、親友が待っているリディアン音楽院の寮へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□□

 

 

 翌日。

 

 【特異災害対策機動部二課】の本部があるリディアン音楽院の昼休み。彼もといこの学院のスクールカウンセラーを務める石動惣一はこの時間を利用して、とある人物に会うため、屋上にある知っている人はほぼいないとも言える穴場に向かっていた。

 

 

 「(まだ、来てないのか…………?)」

 

 

 駅前にある、某人気店のパン屋の紙袋を片手に彼は待ち人を探していた。すると穴場にある物陰から、銀髪の少女が彼の目の前へと現れる。

 

 

 「…………やっと来たか。で?例のは?」

 

 「…………これ、だろ?」

 

 「…………おお、これが…………」

 

 

 彼女の目の前に紙袋を出すと、すぐさまに奪われる。そして彼女は中を覗き、例の中身を目にすると目を輝かせた。

 

 

 「これがあの、先着200名様限定で朝早く並ばないと買えないと言われる高級あんパンか!?」

 

 「ああ、そうだ。朝五時に店に向かったが、結構人が並んでてな…………買えないかとハラハラしてたが、無事購入することが出来た…………って聞いてないな」

 

 「ふっふ〜ん♪あんパン♪あんパン♪あ・ん・パ・ン♪」

 

 「どんだけ好きなんだよ、お前…………まあ、そんな表情を浮かべてくれるんだってら、俺も朝早く並んだ甲斐があったよ、クリス」

 

 

 鼻歌交じりであんパンを食べ始める少女【雪音クリス】に、石動惣一は優しげな笑みを浮かべる。彼女と彼の関係は、ただの教師生徒という訳でもなく、それは雪音クリスが幼少期にまで遡る。

 

 石動惣一は仕事はスクールカウンセラーだけではなく、両親が高校生の頃から居なかった彼は、一人で親から継いだ喫茶店を営んでいた。しかしそれだけではお金が足りず、色々なバイトをすることで何とか過ごしていたのだ。そんな時、彼女がまだ生まれていない時期に雪音クリスの両親であるソネット夫婦に出会い、時々面倒を見てもらっていたのだ。

 

 そして喫茶店を営むと同時に、大学のとある研究員として就職した彼は妹のような存在である雪音クリスと出会ったのだ。更に数年後にはその研究員として就職していた研究所の大きなプロジェクトが無事完了し、数年は暇となった彼はスクールカウンセラーとして妹のような存在である雪音クリスが通うリディアン音楽院に就職。

 

 時折こうやって昼食を共に取っているのだ。

 

 

 「…………なあ、兄貴」

 

 「おいおい、学校では先生だろ?」

 

 「良いじゃねえかよ、周りには誰も居ないんだしよ」

 

 「はぁ、全く…………口調も男勝りになっているし、こうなるんだったら俺が持ってる漫画とかアニメなんか見せなきゃ良かったよ。…………それで?」

 

 「…………最近、一緒に昼飯とか食べてなかったけど、どうしてたんだ?」

 

 「…………色々あったんだよ」

 

 「詳しく」

 

 「あ、はい」

 

 

 軽く誤魔化す石動惣一だったが、ハイライトの無い彼女の目にすぐさま白旗を掲げる彼。先程も言った通り、石動惣一と雪音クリスは家族ぐるみの関係を持っており、つまり彼女が父親に次ぐ関係が深い男性と言えば彼なのだ。

 

 そして更には血が繋がっていないが、兄のように関わっていた彼に惹かれていき…………遂には高校生になると同時に彼女は石動惣一に告白。しかし彼は世間体やら彼女の事を考え、ソネット夫婦との話し合いの末成人(十八歳)になるまで婚約と言う関係になったのだ。

 

 

 「───────という事だ」

 

 「ふーん…………立花響、ね…………で?そいつは可愛いのか?付き合いとか思ってるのか?」

 

 

 じろりとジト目で彼を見る、雪音クリス。ちなみに話し合いの内容は至ってシンプル。『雪音クリス、または石動惣一が結婚したいと言う相手が出来れば婚約は解消』というものだ。しかしどちらも未だ好きな人が出来ないので、現在の関係は許嫁、となっている。

 

 

 「おいおい、何言ってんだよ。相手は生徒だぞ?」

 

 「どうだか…………パソコンの中身には、生徒関係のものあったが?」

 

 「んな!?…………ど、どうして、その事を…………?パスワードは掛けたはず…………」

 

 「あたしの誕生日、だろ?…………まあ、あたしの事を思ってくれるのは物凄く嬉しいけどそういう事に使われるのは嬉しくないな〜」

 

 「ぐぬぬ…………はぁ。あ、後クリス」

 

 「なんだ?」

 

 「お守りだ。最近、物騒だろ?結構それ特別な奴だが、やるよ」

 

 「あ、ありがとう…………って、結構綺麗だなこれ」

 

 「気に入ってくれたなら、良かった。やるよ」

 

 

 そう言って彼女に石動惣一が手渡すのは、チェーンに繋がれた縦長の石のようなもの。しかし後にこれが彼女の人生を良い方にも悪い方にも動かすことになるが、まだこの時は彼女自身全く知らないでいた。

 

 

 「もし何かあったら、その石(いし)に意志(いし)を込めるんだ」

 

 「…………面白くない」

 

 「ぐふっ…………は、はっきり言うね…………」

 

 「でもありがとな…………」

 

 「…………ああ、じゃあ俺は用事があるから戻るわ。Ciao〜♪」

 

 

 手をグーパーしながら、彼は学校内へと戻っていく。雪音クリスは彼に貰ったお守りを太陽へとかざしては年相応な笑みを浮かべていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□□

 

 

 そしてあれから一ヶ月。

 

 リディアン音楽院の一年生であった生徒、立花響が【特異災害対策機動部二課】の一員として、シンフォギアの一つであるガングニールの装者としてノイズとの戦いを行うようになった。

 

 しかし彼女が戦うと決意したのとして、側から見ていてはお世辞にも気が気でないぐらい酷かった。別に周りが何もしてないとかではなく、同じくシンフォギアの装者である風鳴翼とライダーシステムを利用した仮面ライダービルドもとい天羽奏は常に彼女のアシストとして動いており、二課とやらのサポート体制も万全と言える。

 

 それでは何が酷いのか。

 

 簡単に言えば戦い方だろう。

 

 シンフォギアを纏うことで身体能力が格段に上がっているらしく、ノイズに対しての能力も相まってそれまで戦闘訓練を積んでいない素人の彼女でも一応はノイズと戦うことができていた。

 

 しかし、シンフォギアを纏ったからといっていきなり戦闘のプロになったわけでもなければ、スタミナが無尽蔵になったわけでもないらしく、その力は本人に由来しているらしいので彼女自身の身体能力がモロに戦闘に響いている。

 

 それは風鳴翼の様に「戦闘を行っている」とはお世辞にも言えず、「逃げてる間に偶然倒せた」「がむしゃらに腕を振ったら当たった」という有様で、戦い方に不安やムラがあるとかそれ以前の問題だ。

 

 まあ、今まで普通の学生だった彼女にそれを求めるのは酷ではあるが、これであれば正直現場よりも訓練に明け暮れていた方がマシではないのかと思えるレベルの不安定さである。

 

 ここで風鳴翼や天羽奏などに特訓してもらうのが一番の近道であろうが、二人は学園生活にアーティスト活動、己の鍛錬にノイズ退治とハッキリ言って自分の時間が存在しているのか怪しいぐらいで多忙な身。

 

 さらに言えばプロのスポーツ選手が最高のコーチになれるかは別問題という事もある。

 

 全く、どうすれば良いか…………【特異災害対策機動部二課】の現在の課題であった。

 

 

 

 

 

 ※風鳴翼と立花響の仲は始めは悪かったものも、天羽奏が間に入ることで、何とか仲直りまで行けていた。の為カッドゥ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いーくしゅ!」

 

 「…………豪快ね」

 

 「くしゅん。うぅー、もしかして私誰かに噂されてる?ノイズの来る日も来る日だし、私呪われてるかも」

 

 「そうかもね」

 

 「否定してくれないんですか!?翼さぁ〜ん」

 

 「変な事言ってる暇があるなら、この程度のノイズ一人で片付けられるようになりなさい。ノイズに逃げられて被害が増えたら私たちが出張る意味がないわ」

 

 「は〜い、仰るとおりです…………」

 

 

 今日も今日とてノイズを倒すことに専念しているが、それでも気分は上がってくれない。今日は本当なら未来と一緒に流星群を見る約束をしていたのだ。それが直前も直前になっての中止。この日の為に課題を終わらせ、提出時間が過ぎても受け取ってもらえた涙の結晶を作り上げたというのに。

 

 その上今日現れたブドウのようなノイズは人を襲うのではなく、背中のブドウを爆発させてあからさまに此方を翻弄していた。結局少し遅れて到着した翼さんが切り捨てたのだが…………。

 

 

 「…………それにしても変なノイズでしたね。まるで私達から逃げてるみたいな…………」

 

 「ええ。逃げている、もしくは…………」

 

 

 【蒼ノ一閃】

 

 

 翼さんが突如剣を振りかぶったと思ったら蒼ノ一閃を茂みに向けて振り抜いた。茂みや周りの木ごと根こそぎ切り裂かれると思いきや、それは直前で切り捨てられた。

 

 

 「…………そう、もしくは誘おびき出されたってやつだよなぁ?お二人さん?」

 

 

 件の人物はあっさりと暗闇から現れた。白いタイツにピンクの荊棘いばらムチ。顔を隠すような覆いで造形は見えないけれど、とても可愛い女の子に見える。

 

 …………そう、私達を襲ったのは、人間の女の子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「貴様…………その鎧は…………」

 

 「へえ、あんたこの鎧の出自を知ってるんだ?」

 

 「…………っ!二年前、私の不手際で奪われたものを忘れるものか!何より、私の不手際で奪われた奏のシンフォギアを忘れるものか!」

 

 

 少女はまるで見せつけるようにヒュンヒュンと音が鳴るようにムチを振るう。それに合わせるように風鳴翼も剣を構えた。

 

 一触即発、風鳴翼の目がまた以前の時のように淀んでいく。この鎧は二年前の罪の象徴。この鎧を起動するために開催されたライブで奪われ、この鎧のために発生した戦いによって天羽奏は命が助かる代わりに戦う力を一時期失った。それを目の前にする残酷は、しかして己の心を弾ませていく。

 

 

 「…………翼さん!待って!待ってください!相手は人です、同じ人間ですよ!?」

 

 「「戦場で何を馬鹿なことを!」」

 

 「「…………」」

 

 「…………どうやら、貴方と気が合いそうね」

 

 「だったら仲良くじゃれ合うかい!」

 

 

 パァン!と豪快な音を立てて伸びたムチは風鳴翼を襲っていく。鋭い身のこなしで避けたり受け止めたりしているが、出力で劣っているのか逃げの一手を取るばかりだ。

 

 

 「(翼さんを狙ってるなら私が行けるはず!私も役に立たなきゃ!)」

 

 

 鎧をまとった少女が此方に警戒を割く様子はない。舐められている、というよりもロクに戦えないのを知られているのかもしれない。

 

 だけど、だとしても…………。

 

 

 「うぉおお!私だって!」

 

 「へっ、ほんと分かりやすい。鈍臭いのがいっちょまえになぁ!」

 

 「うそっ!?こっちに…………ガハッ!」

 

 

 少女が背を向けた時に殴りかかるも、まるで見えているかのように風鳴翼を襲っていたムチが返す刀で此方にその脅威を振るって来た。ノイズの攻撃とは違う、此方に狙いを済まして読み合いが発生する戦い。だがそれはどこまでも立花響に経験不足なものだった。

 

 

 「…………痛ぁ」

 

 「人と戦うのが嫌なんだっけ?ならこいつらでも相手してな!」

 

 

 受け身も取れず吹き飛ばされる立花響に向けて、少女は新たな聖遺物を振るう。そこから光が飛び出て、それが地面についた途端にあるものが生み出された。

 

 

 「ノイズ!?それも操られて…………!?」

 

 「たくらんけ相手にゃ御誂え向きだろうよ!」

 

 

 少女が聖遺物を振るうたびに増えるノイズは、どういうことか響だけを狙いつけるように迫ってくる。最近は戦えるようになってきたとはいえ、まだ風鳴翼に大部分を任せている状態だ。この数をどうにかできるかは怪しいところがある。

 

 

 「…………私を相手に気を取られるとは!」

 

 

 だがこの隙を見逃すほど、防人の剣は鈍に非ず。炎を極めし剣であれば、天翔ける鳥となりて斬り捨てよう。

 

 

 【炎鳥極翔斬】

 

 

 両手に炎を纏った剣を携え、空翔ぶ鳥の如き速さで両翼を振るう。防ごうとムチを構えるが、それは余りにも遅すぎた。ネフシュタンの鎧に十文字の彩りを加えるように、二振りの剣が突き刺さった。

 

 

 「…………やった!」

 

 「…………いや、これは…………」

 

 

 剣で確かに切り裂いた。だが、構えられたムチがいつのまにか風鳴翼の足を絡めとり、剣が刺さったままの状態で空中に打ち留められていた。

 

 

 「お高く止まるな!」

 

 

 絡められたムチを無理矢理振り回して風鳴翼を投げ捨てる。地面に叩きつけられ地を這う彼女の顔を、転がされた先に移動した少女が踏みつけた。

 

 

 「のぼせ上がるな人気者!誰も彼もが構ってくれるなどと思うんじゃねえ!」

 

 「(…………これが、完全聖遺物のポテンシャル…。それも力に振り回されるのではなく、使いこなしているのか…………!?)」

 

 

 ビキ、ビキビキと少女の鎧が音をあげる。それと共に少女に苦悶の表情が浮かぶが、なんということだろう。鎧に空いた裂傷が時を巻き戻すように再生していく。これがネフシュタンの鎧。驚異的な再生能力は不意を打った風鳴翼の一撃をも無かったことにしようとしているのだ。

 

 

 「…………くっ。…………繰り返すものかと、私は誓った!」

 

 「ああん?…………はっ。この場の主役と勘違いしてんなら教えてやる。初っ端はなからこっちの狙いは、あっちでわたわたしてる鈍臭えのを連れ帰ることなんだよ」

 

 「なにっ!?」

 

 「先輩風吹かしてこの有様。鎧も仲間も、アンタにゃ過ぎてんじゃないのかい!」

 

 「…………だとしても」

 

 

 【千ノ落涙】

 

 

 「チッ!」

 

 

 天より降る剣で頭上の少女を追い払うが、戦況は変わらない。立花響と二人で挑んだとして、埋まるには大き過ぎる差。ネフシュタンの鎧にノイズを操る聖遺物。賄いきれない戦力差に敵の目的が立花響である事実。このままでは二年前と同じ、またこの身では何一つ守れないという運命を背負わされるしかない。

 

 

 「(…………そっか。これが、あのとき奏の見ていた風景)」

 

 

 勝てないと分かる眼前の勢力。後ろには立花響。その上あの時の立花響は死に体だったと聞く。つまり奏は自分の身がボロボロであり、しかも助かるかどうかも分からない人間を守るために、あの歌を口にしたわけだ。

 

 

 「(ダメだな。こんな時でも、奏のことを思い出す。出来損ないの剣が出来なかったことをやってみせた片翼の勇姿。そして…………)」

 

 

 身体を起こし、切っ先を少女へと向ける。

 

 

 「…………吹かせられなかった風を、雪そそげなかった汚名を、ここで斬りましょう」

 

 

 戦意が喪失したのではない。むしろ、轟々と吹き荒れるように上がっていく。覚悟を決めた戦士の目で、風鳴翼は立ち上がっていた。それを間近で受けた少女は、それが何を意味するかを汲み取っていた。

 

 

 「…………まさか、歌うのか?絶唱…………」

 

 

 その鬼気迫る姿に戦慄する。手負いの獣は恐ろしい。生きる為にその身を捨てる動物は恐れることを知らない。だが手負いの人間は、知恵がある故にまた違う恐ろしさがある。

 

 人は生きる為に殺すことを厭わなくなり、そして。殺す為に死ぬことを厭わなくなりもする。今の風鳴翼の目は、そういうタイプのものだ。

 

 

 「(今から止める?いや一旦引く?だけどあいつを連れて帰るのがフィーネの命令。それをせずに撤退なんて…………殺されちまう!?)」

 

 「翼さん!大丈夫ですか!?」

 

 

 二人の睨み合いが続く中、ようやく立花響がノイズの第1波を片付けて近づいてくる。

 

 

 「…………ふっ!」

 

 「…………っ!」

 

 

 少女が伸ばすムチを翼が払い上げ、打ち返す。

 

 

 「…………はっ!」

 

 「…………ちょせぇ!」

 

 

 それに合わせて風鳴翼が短刀を投げつければ少女はそれを振り払う。互いに交戦の意思を示し、再び武器を構え合う。立花響だけが、彼女の後ろで立ち尽くしていた。

 

 

 「…………あの!翼さん…………」

 

 「下がっていなさい」

 

 「ですけど…………。私やっぱり…………」

 

 「…………相手を傷つけることを躊躇えば、全てを失う事を受け入れるのと同義よ」

 

 「…………」

 

 「だけど、いい機会かもしれないわね」

 

 「…………え?」

 

 

 突然の返答に彼女を見て、ようやく立花響は風鳴翼がいつもとナニカが違うと理解する。何が違うかわからない。だけど、まるでそれはかつての死に急ごうとする天羽奏のように見えてしまっていた。

 

 

 「…………翼、さん?」

 

 「覚悟を構えろと、貴方にそう言い続けてきたわ。だからこれは私の餞別」

 

 「つばっ…………」

 

 「目に焼き付けなさい。防人の生き様、覚悟を見せてあげる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♪Gatrandis babel ziggurat edenal♪

 

 

 

 ♪Emustolronzen fine el baral zizzl♪

 

 

 

 ♪Gatrandis babel ziggurat edenal♪

 

 

 

 ♪Emustolronzen fine el zizzl♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歌が、響き渡る。風が音の通り道を明け渡すように、周辺はただ一人の歌に支配された。

 

 美しく、儚く、研ぎ澄まされた、最期の歌。

 

 

 「…………天羽々斬の絶唱は、人ならざるモノを断ち切る神の剣。今この地にて、我が運命を斬り捨てよう!」

 

 

 細く蒼々と煌めく剣は収束した力で悲鳴をあげる。ただ一太刀、対象を絶つことのみに特化した絶唱は、心の臓を掴むようにネフシュタンの少女に刃を向けた。

 

 

 「ぐっ!クソッタレが!この場は引いて…………っ!?」

 

 

 絶唱を前に尻尾を巻こうとするも、今更遅く。先程弾かれた短剣が少女の影を深々と突き刺していた。

 

 

 【影縫い】

 

 

 「………ぁ───────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【一閃】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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