公務員な石動惣一(偽)   作:完龍卞

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CHAPTER 6

 

 

 「ぐぁああああ!!」

 

 

 山奥に潜む大きな屋敷【フィーネの館】。

 

 協力者を除くブラッドスタークなどを除き、当然ながら一般人など気付かないこの場所では、断続的に少女の悲鳴が響いていた。助けを求める声ではない。恐怖に咽ぶ声ではない。ただ瞬間的に与えられる痛みに身体が反射のように悲鳴を上げていた。

 

 

 「苦しい?可哀想なクリス」

 

 

 その屋敷には二人の人間がいた。一人は壁に貼り付けられ、まるで拷問を受けているような悲鳴をあげる、先日ブラッドスタークによって首をへし折られた少女───────雪音クリス。

 

 しかし彼女は雪音クリスではない。

 

 クローン───────すなわち、分子・DNA・細胞・生体などのコピーである。同一の起源を持ち、尚かつ均一な遺伝情報を持つ核酸、細胞、個体の集団。雪音クリスという名の少女のDNAを利用して作り出したクローン人間だ。

 

 

 「でも、貴女がグズグズ戸惑っているからよ?誘い出されたあの子をここまで連れて来るだけだったのに、手間取ったどころかボロボロにされて、遂にはあのスタークなんかに死体として回収されるなんて」

 

 

 あの日、クリスが立花響と風鳴翼を襲ったのは目の前の女性に命令されていたからだった。

 

 『立花響を連れてきなさい』と命を下し、完全聖遺物であるネフシュタンの鎧に同じくソロモンの杖をクリスに手渡した。

 

 ネフシュタンは異常なまでの再生能力を持ち、ソロモンの杖はノイズを意のままに出現させ操れる。この二つがあればシンフォギアという聖遺物のカケラから作られた玩具を振るう適合者の一人や二人何ら障害にはならなかったはずなのに。

 

 

 「…………これで、いいんだよな?」

 

 「なに?」

 

 「私の望みを叶えるには、お前に従っていればいいんだよな…………?」

 

 

 世界から争いを無くしたい。それが雪音クリスの願いだった。テロで死んだ両親。不当な暴力を受けた毎日。腐った大人の作り上げる世界をぶっ壊し、それでも平和を願っていた。

 

 ──────────死んだ両親は夢を持っていた。『歌で平和を』いい歳した大人が見るにはあまりに幼稚で馬鹿らしい夢だと思う。だからきっとパパとママは方法を間違えたんだ。夢を見るのは子供の仕事、叶えるのだってそうに違いない。

 

 

 

 

 

 しかしそれは偽の記憶だ。

 

 ブラッドスタークが脚本を描き、フィーネが埋め込んだ〝偽の記憶〟。

 

 

 「そうよクリス。だから貴女は私の全てを受け入れなさい。私だけが貴女を愛してあげられる」

 

 

 

 

 

 ──────────そしてこの目の前の女性は、フィーネはあたしを救ってくれた。あの地獄の日々から、夢を叶える力を与えてくれた。考えてみれば簡単な話だ。力を振りかざす奴らがいるなら、そいつら全員ぶっ飛ばせばいい。力を振るう人間があたしだけになれば、世界から争いなんて馬鹿なもんはなくなるに違いない。そのための力だ。大嫌いな歌で戦うイチイバルは、何でも願いを叶えてくれる魔法の道具。皮肉な武器でも、傷ごと抉れば忘れられるってことだろ?傷も痛みも、全ては…夢の為と思えば、何だって耐えられr──────────。

 

 

 

 

 

 「──────────ぅあああぁああ!!」

 

 

 

 

 

 バリバリと身体中に電流が走る。フィーネが手元のレバーを引くだけで括り付けられている自分に抗えない激痛が走る。これは罰であり、治療でもあった。体内を食い破られて増殖しつつあるネフシュタンの鎧を一時的に休眠状態として除去するために必要な工程だった。

 

 

 「可愛いわよクリス。覚えておいてね、痛みだけが人の心を絆と結ぶ世界の真実だと言うことを」

 

 

 そしてフィーネの歪んだ趣向でもある。自身の嗜虐心を満たす傾向があるフィーネの屋敷には拷問道具や衰弱死した動物の死骸などが転がっている。しかしそれすらもクリスは気にしていなかった。触れられ、肌を重ねる度に感じる温もりはクリスが欲していたものだったから。

 

 

 「さ、一緒に食事にしましょうね」

 

 

 …………なのに何故だろう。いつもと同じ痛みを与えられ、温もりを与えられているのに、そこに翳りを感じる。任務を失敗した自分が罰せられるのは当然だ。括られて痛みを与えられるのも慣れはしないが受け入れている。ただ、温もりだけが足りない気がした。甘みのない、強い苦味のような温もりはその存在を強過ぎるほど刻み込んでくる。

 

 

 「──────────ぐぁあぁああああ!!!」

 

 

 …………二度と味わえない甘みを痛みと痺れが上書きしていく。だがふと思い出してしまった。馬鹿みたいに甘くて、ただ触れる程度の優しい温もりが頭を撫でたあの時を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「どう、クリス?身体に不調はある?」

 

 「………いや、問題ねえ」

 

 

 グーパーと手の平を開閉しながらフィーネの質問に答える雪音クリスのクローン(もといクローン)。肉体に巣食っていた休眠状態のネフシュタンの破片を取り出し、ようやく不快感が消え去っていた。

 

 

 「なら、早速次の指示よ」

 

 「ああ。今度こそあいつを連れて帰ってくればいいんだろ?」

 

 「いいえ、今回は違うわ」

 

 「ん?」

 

 「明朝にデュランダル、完全聖遺物の移送が行われるの。それを奪って欲しいのよ」

 

 

 クローンの与り知らぬところではあるが、フィーネは裏で繋がっている米国政府と共謀して防衛大臣の殺害を遂行していた。防衛大臣の殺害に二課を襲撃するノイズの存在が重なり、二課本部の最下層に保管されているデュランダルこそが襲撃者の目的であると推測されたが故に保管場所を移そうと考えた政府の情報は、とある理由でフィーネに筒抜けであるので一番手っ取り早い方法で強奪しようと考えたのだ。

 

 

 「もちろんそこにはあの立花響も護衛としているだろうから、一緒に奪えるならそれでもいいけど」

 

 「はっ。奪えって言ってるようなもんじゃねえか」

 

 「そうね。期待してるわよ、クリス」

 

 「…………ふん」

 

 

 鼻を鳴らして治療したから出て行くクローンを見送りフィーネは一層笑みを深くする。期待する、なんて本心でもないことを笑ったのではない。

 

 というかクローンがデュランダルの強奪に成功しようがしまいが、結果は変わらない。強奪できればフォニックゲインのエネルギーを使ってデュランダルの起動を試みるだけ。

 

 強奪できずとも現在二課の後ろ盾として座っていた防衛大臣は既に死に、後釜には利益にがめつい者が配置されている。なので日本独自のシンフォギアシステムを有する二課の防衛システムに関しても受理される可能性は高いと踏んでいる。なのでそこに仕込みをしつつ、デュランダルのエネルギーを利用する策を練ればいいだけだった。かつてのネフシュタンの鎧を起動させた時のように。

 

 

 「…………まあ、気がかりはあるがな」

 

 

 机の中に入れてある数十枚の紙の束を取り出す。いや、紙の束という表現よりは写真の束と言った方が良いだろうか。大量の写真に写り込んでいるのは、誘拐してでも手に入れたいと思っている立花響の写真。

 

 適合者ではない、身体に直接聖遺物のカケラを取り入れ融合したことでシンフォギアの力を振るう仮称第一号融合症例。高水域のフォニックゲインは適合者ではない彼女に宿る数値としては異常であり、その全てが前代未聞といっていい。だが前代未聞というのは学者にとって悩みの種であり、極上のデザートでもある。なんせ知り得なかったサンプルが降って湧いたようなものだ。調べたくなるのは学者の性というものだろう。だからこそフィーネも興味関心を引かれているわけだが…………。

 

 

 

 

 

「パンドラボックス、か」

 

 

 今気がかりなのは写真の束の一番下にある一枚に映る箱のようなもの。数十とある写真の内たったの一枚しかないあたりに興味の薄さが推し量れるが、逆に言えばその一枚分は興味を持っていることに他ならない。そのたった一枚を弄びながら思考を巡らせる。

 

 

 「(たった一人、ブラッドスタークが一瞬だけ起動させたパンドラパネルからは驚異的な数値のフォニックゲインの共鳴を起こした…………しかしあれ以来それが起動することは無かった───────)」

 

 

 ──────────いや、私自ら調べたのだからそこに見落としがあるということもないだろう。

 

 

 「…………まあ、いいわ。何も問題無いようだし」

 

 

 もうそれに目を奪われることもない。フィーネの目的、それはバラルの呪詛を打ち砕き統一言語を取り戻すこと。その為にバラルの呪詛の起点である月を穿つカディンギルの完成を目論んでいる。だがその為に必要なパーツはもうすぐ揃う。

 

 無限のエネルギーを持つデュランダル。

 

 それを打ち出すカディンギル。

 

 それらを完成させる為に必要なら手に入れる事を躊躇うことは無かったが、起動しない聖遺物(パンドラパネル)に用は無い。

 

 

 「さぁ〜て、お仕事お仕事!げーんきに行きましょうか!」

 

 

 櫻井了子に成りきり席を立つ。何処までも目的の為に、終わりの名を持つ者は進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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