菜月スバルに直死の魔眼とか色々組み込んでみた。 作:繭原杏(繭原安理)
我ながら何やってんのかわかんねー。
菜月スバルに直死の魔眼とか色々組み込んでみた。
菜月昴は魔術師である。魔術使いである。
それを誇りに思う節があり、またそんな自分を恥ずかしく思う思春期男児だ。人とは違うことに自尊心を感じながら、その自尊心の感じ方を恥じらう。
とても、思春期男児らしく在った。
菜月賢一の背を見て育った正義の味方志望の一般少年は、今では夜回りしてる半不良だ。自主パトロールというつもりだが、やっていることは唯の深夜徘徊である。
とは言え、さほどボケ老人も多くない昨今ではパトロールする理由もさほどない。そもそも、争いごとなど昴には向いていないのだから。剣道はやっているものの、「剣」を「振るう」ということが妙に可笑しく感じられた。三年やっている今でも、竹刀を持つと違和感が収まらなくなる。
ナイフならまだいい。こっちは違和感なく持てる。だが、そんなものを持ち歩くわけにもいかないだろう。不良やヤクザより先に自分が警察のお世話になってしまう。
……いや、持ち歩いてるけどね? ただのナイフだから。コンバットナイフとかじゃなくて食器だから。殺傷力無いから。
とは言え警察に見つかれば言い逃れはできないので、路地裏を巡り、ナイフを振りつつ人目を忍ぶばかり。
折角こんな「目」を手に入れられたのだから、ちゃんと使ってやらねば。
ソレが、昴が唐突に湧いた異能に対する接し方だった。
万物には終わりが存在する。石が風化して、水が蒸発して、人が死ぬように、何事にも決められた終わりがある。
始まりという概念は終わりという概念と対を成しているために、存在する全て――17世紀では虚数という概念ですら開発されたため、文字通り“全て”――を殺しうる魔眼。
恐らくは、それの劣化版か、廉価版。一時期昴に魔術を教えた魔術師は、彼の目をそう評価した。
終わりを捉える目。
薄らと浮かび上がるのは、暗くて黒い、線のイメージ。
何故自分がこんなものをと思う前に、昴はこの力の使い道を探し、そして見つけた。
怪異を狩るのだ。人では触れられぬ者にも、この目があれば殺すことができる。
そして、色々あって色々経て。
時は流れて、昴は少し大人に近づく。
小腹が空いて深夜のコンビニに買い物に出掛けた時、彼の
――彼は、与えられた者に生きる人でなし。
「ここは……?」
自分は今、コンビニに居たはずだ
自動ドアを出て、駐車スペースを通って通りに出る。それから家に帰る、という当たり前の行動は、その初めの部分で躓いた。
別に裏口から出たわけじゃない。そもそもコンビニに居たのは少しの間で、今はまだ深夜の筈だ。
だからこそおかしい。
深夜のコンビニの自動ドアを抜け、足を踏み出した先は昼間の何処かの街だった。
石畳に馬車?ん?馬車……じゃない?なんだあのトカゲみたいなの。
露店にトカゲみたいな被り物した変人。がやがやと煩い雑踏に見慣れない文字。
一方で何時も通り視界に映る
そこら中に書かれている字は、恐らく地球の人類史上には存在しない。例え此処が地球の裏側だったとして、昴の記憶にはこんな文字の存在は無い。いや、当然遥か遠くの異国なのだから知らない文字があることも不思議じゃないのだろうが、グローバル化が進んだ昨今なら英語が書いてあってもいいじゃないか。というかそもそも異国なら、
頭痛がする。立ち眩む。
頬を抓ってみる。痛い。
右手を見る。コンビニ袋が握られてる。
ついでに視線が下がったことにより自分がジャージを着たままだというのも確認できた。
着古したジャージはボロボロで、みずぼらしい。ここまで汚れていたのか、と今更気付く。
うわー、これコーラの染みか?腹の辺りが他より一層黒い。しかも所々穴空いてるし。
そろそろ買い替えなければ。
「坊主! 邪魔だ!死にたいのか!?」
「えっ!? あっ、すいません」
急に後ろから声を掛けられて振り返ると、そこにはトカゲのようなものに荷車を引かせている男がいた。荷車の上に乗った彼はスバルに怒鳴り、道を開けさせる。
すると、下がった昴の真後ろから、その露店の店主が声をかける。
「よう、兄ちゃん。リンガはいるかい?」
「リ、リンガ? ってこれ……リンゴだよな?」
「リンゴ? いいや、これはリンガだよ。いるのかいらないのか、どっちなんだ?」
なんか変な訛り方をしている。
「い、いや……ははは……」
「ちっ、客じゃないんなら行った行った」
しっしっ、と追い払われる。
愛想笑いをしつつ、人ごみから離れて路地裏らしきところに避難する。
周囲はゴミが散らばっており、また民家の屋根に遮られて日差しも悪く、此処だけ暗い。
思い出すのは露店で使われていた硬貨。どう見てもギザ十どころか日本円の原形すら留めていなかった。
それにトカゲの引いていた馬車の様な物。一瞬で変わった昼夜。
スバルはそこで一息ついて、思考を巡らせ始める。
思考を巡らせ、巡らせ、巡らして――――――
行きついた結論は、
「ふっ。分かったぜ。これはいわゆる、あれだ。つまりそのー」
右手の人差し指を立て、壁に背を持たれかけ。
「異世界、って、奴だな」
引き攣った顔で、そう言った。
「やっべー、魔法とかあるのは知ってたけどまさか異世界まで実在してたのかマジやっべぇ」
そもそも異世界に渡るというのは「第二魔法」の範疇なのではないのか。もしかして、いつの間にか魔法使いになったのか?俺?いや、まだ三十歳じゃないから違うか。
というかジャージはどこで買い替えれば良いんだ?
割と冷静な顔で、しかし内心大混乱中の昴。
どうにもならない、むしゃくしゃした気持ちが体の中を駆け巡り、つい髪をわしゃわしゃ掻く。
外に出たのも気分転換の為、このむしゃくしゃした気持ちをどうにかする為であった。
事故に遭って、視界が変な風に変わり、誰とも関わりたくなくなった。
万が一を想像すると、何かに触れるのが怖くてたまらなかった。
そして、
それでようやく、
違和感。
少し前に思いを馳せていると、違和感を感じた。
その違和感を探ろうと、何となく思考の材料を探して周囲を見回す。すると路地裏の奥の方から出てきた三人の男が昴に話しかける。
「よう、兄ちゃん。随分良いモン持ってんじゃねーか。一寸金分けてくれぇか?なぁに、有り金全部でいいぜ?」
「ああ、言っとくが断るなんて言ったら……分かるよな?」
「安心しろよ、ちょーっとばかし恵むだけだろう?へへ、そんだけだよ。俺たち友達だろ?」
どうやら、異世界でもカツアゲはあるらしい。
追想は程々にして、今はまずこの場をどうにかしなくては。
ていうか、良いモンって、まさか……コンビニ袋?
総計三百円のお菓子とカップ麺?
まあ、異世界だし……
昴は人知れず、ゴロツキ三人組を憐みの目で見た。
こんな安物が、異世界では良いモンに入るらしい。
彼らが「希少性」で判断しているからといっても、どうにも拭い去れない憐れみと、この状況に対する恐怖がごちゃ混ぜになる。
唐突だが、昴は戦闘経験がないわけではない。
子供同士の喧嘩なら何度かあったし、不良に絡まれた友達を助けるために喧嘩したことも何度もある。
その都度ボロボロになって、家族に迷惑をかけることは申し訳ないと感じていた。
喧嘩するときも、感じるのは常にその事だけだった。
今のように、恐怖を感じたことはない。
それは彼らが刃物を所持してるからだろうか?否、ナイフを持って襲い掛かってきた奴になら勝ったことがある。
彼らが複数だから?否、三対一なんて珍しくなかった。まあ、数の差は相当な不利だが。
見慣れない異世界だから、地の利が無い?それもあるかもしれない、ただでさえ意味の分からない状況下で、平時で相手しても不利であろう相手との勝負。
でも、それだけではない。経験から来る直観が告げていた。
体が恐怖を感じている。
何故か。
それは俺とあいつ等の実力差からじゃないか。
昴は、そう考えた。
2020/04/17 19:07 誤字修正
スバル→昴