菜月スバルに直死の魔眼とか色々組み込んでみた。   作:繭原杏(繭原安理)

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但しスバルは気絶中とする。


幕引き(カーテンコール)

 奇麗な月の見守る下、ラインハルトが行使する魔法の明かりで照らされたスバルの顔は安らかなものへ変わっていく。それにつれて血色もよくなり、青ざめた肌は赤みを取り戻していた。

 最後に解毒の魔法――――――雑菌の消毒を終えてから、ラインハルトは立ち上がった。

 治療の終わりを見てエミリアが言う。

 

 「どうだったの?」

 

 「無事に治療は終わりました。ただ……」

 

 「どうしたの? 後遺症が残ったの!?」

 

 「いえ、そうではなく。ただ……いえ、兎に角体に悪影響はありません」

 

 「……そう、ありがとう、ラインハルト」

 

 「いえ、僕が助けたいと思っただけですから。エミリア様がお礼を言うようなことじゃあないですよ」

 

 「それでも。だって彼は、すばる? は、私を助けてくれた恩人なんだもの。恩を返す前に死なれたら困るわ」

 

 毅然とした態度で礼を述べる。

 その態度に負けたラインハルトは、そのお礼を受け取ることにした。

 

 「はい。それではどういたしまして。ところで……」

 

 「なに?」

 

 「あちらの少女に用事があったようですが……いいのですか?」

 

 ラインハルトが指をさした先には、忍び足で逃げようとしているフェルトとロム爺の姿があった。

 冷や汗一つ流していない様から、慣れ親しんだ動作であることが伺えるが……流石に巨漢のロム爺と逃げるのは無理があったのだろう。

 もとよりロム爺は仲介人であり商売人。それだけの人間なのだ。人を見る目はあっても、一目を逃れる術は持ち合わせていない。

 

 ……いや、家探しなどから品物を隠したり逃げ回るのはできるか。しかし、「発見されていない」という大前提が付くが。

 

 「げっ! ロム爺! やっぱロム爺のせいで見つかっちまったじゃねぇか!」

 

 「だからって置いて行こうとするんじゃない、この薄情者! 誰がお前を育てたと思ってんだ!」

 

 「この貧民街かな!」

 

 「ああそうだよこん畜生!」

 

 「あー、二人ともバレバレだったって、言った方が良いのかなぁ?」

 

 真実を告げるのを躊躇うラインハルト。遮蔽物もさほどない此処で、彼の目を逃れることは不可能に等しかった。

 そもそも出入り口の蝶番が錆びついている上に、エルザの開けた大穴の方にはラインハルトが立っているため、どちらにしろ逃げ切れなかっただろう。

 言い合いをしながらも、この場を切り抜けようと頭をフルに回らせている二人にエミリアが近づく。ロム爺は一瞬だけフェルトを囮にしようかと考えた。もちろん、却下したが。情とかプライドとかのみならず、エミリア一人引き付けた程度ではここから脱出できないからだ。

 

 とうとう年貢の納め時か、賄賂はいくら送っていたかな? と現実逃避を始めたロム爺。尚、このまま捕まる場合はラインハルトが取り調べるだろうから、賄賂は意味をなさないことだけ付け加えておこう。

 その隣でフェルトはげんなりした顔でエミリアを待ち受ける。貰える筈だった高額の報酬は不意になり、その上交渉を掛けてきた男の魔法器(ミーティア)は回収されていたからだ。散々苦労して儲けがゼロ。いや、下手したらここでお縄になるかもしれない上に、ロム爺に賠償金を払わないといけないかもしれないのだ。盛大な赤字である。

 次からはちゃんと依頼内容に気を付けよう。盗み終わっても慢心しないようにしなくては、と教訓を得たフェルト。全く懲りていない。一応法律で縛り首にはできない年齢とは言えど、何処か痛い目を見ないと学ばない節がある。痛い目を見たからと言ってどう学ぶかは分からないが。

 まあ、今は知ることは無いが、彼女が得た教訓は無駄になる。痛い目を見て得た教訓がすぐに無意味になるとは、不憫といえるのだろう。個人的には自業自得と言いたいが。

 

 「で、あなたの依頼人もいなくなったのよ?」

 

 「あー、よし、金貨五枚で」

 

 「渡すの? 渡さないの?」

 

 「…………どう、ぞ」

 

 凄く渋っている。渋っている、が、流石に命の危険には変えられなかった。まあ、どうせこの後没収されるだろうし、罪は少しでも軽くなった方が良いだろうとの考えだった。

 

 「っ!? すいません、エミリア様」

 

 遠目からそれを見守っていたラインハルトが、何かに気づいて受け渡しを止める。

 それに驚いたフェルトは慌てて保身に走る。

 

 「わわわ! あ、その、あれだ! ぼっーとしてた方が悪いんだからな!? あとあれだ、あの、依頼人、エルザ? に脅されてたんだ! ちょーじょー何とかの余地ってのがあるはずだ! だから殺さないでくれ!」

 

 「……この光は……そうか、僕はきっと、このために……」

 

 しかし、生憎とラインハルトはこれを全スルー。自分の世界に入り込み、徽章を見て何かぶつぶつしている。はたから見ると少女の手を掴んで見つめる青年だ。幼女性癖者と間違われても仕方ない状況である。

 

 「あ、あの、ラインハルト? その、これはその、口外しないでもらえたらなーって」

 

 「悪いが、フェルトといったね? 君をただで帰すわけにはいかなくなった」

 

 「あー、その、あー、し、縛り首にはできないはずだぞ? な? そうだよな?」

 

 二人とも徽章を盗んだことに対しての行動だと思い、両方が無かったことにしようと意志を揃えた。しかしラインハルトの耳には入らない。この男、割と自分の世界に生きていたようだ。

 フェルトは殺されるのではないかとびくびくしていた。聞きかじった法律で、十五歳以下は縛り首にできないと聞いたことがあったので助命を嘆願する。まだ十四歳。十分法律に保護される範囲である。

 

 「エミリア様、徽章は王選候補者の手に触れているときに光をその内に宿します。これはご存じでしょうか?」

 

 「え、あ、うん」

 

 「こちらを」

 

 そう言ってフェルトの手に握られた徽章を見せる。その徽章には、確かに()()()()()()()()()()()()()

 そう、これが指すのは即ち――――――

 

 「フェルト、彼女もまた、候補者の器ということです」

 

 「そう、それならば、仕方ないわね……まさかこんな小さな子が」

 

 「年は関係ありません、エミリア様。問われるのは資格のみです」

 

 「……ええ、ごめんなさい。歳は関係なかったわね」

 

 エミリアの憐みの視線と、ラインハルトの強い根性のこもった視線を受け、何かの生贄候補にされたのかと思い込むフェルト。心臓がこれまでなく暴れ、全身から汗が噴き出している。因みに、唯一の家族と呼べるロム爺は保身の方法を考えてるぞ。がんばれ、フェルト。大丈夫、君の未来はあ軽い。間違えた。君の未来は明るい。毒殺とかされなければ大丈夫だぞ。これまで以上に命の危険があるだろうけど、きっとラインハルトが守ってくれるはずだ。

 

 「ど、どういうことだよ! あたしにもわかるように言えよ!」

 

 「つまり、フェルト。いえ、フェルト様。貴女は、今、この瞬間から、王になる定めを得たのです」

 

 「え? おう? 王? え? ええ!?」

 

 「おう、フェルト。がんばれよ。修繕費はツケにしといてやる」

 

 「環境が変わると心細いでしょうし、貴方にも来ていただきたいのですが……勿論、衣食住は保証します」

 

 「ただ飯が食えるってんなら、まあ、構わねぇよ」

 

 あっさりロム爺も丸め込まれた。

 

 この日、貧民街に生まれた灰かぶりの少女盗賊は、精霊使いからの盗品を差し出し、栄光への道を辿ることとなった。

 斯くして王選最後の候補者は見出され、漸くこの世界の物語は始まりを迎える。

 

 王へと至る候補者たちの争い。

 その道は険しく、そして多大な苦労が付きまとうだろう。しかしその先にはそれに相応しい栄光が待っている。

 

 その栄光の価値は人によるが。

 

 

 

 因みに、この後の帰り道。

 

 「ところで、エミリア様」

 

 「どうしたの?」

 

 「彼は、どうしましょうか」

 

 「彼は恩人よ。家で預かるわ」

 

 「竜車まで運びましょうか?」

 

 「いいえ、大丈夫よ。うんしょ」

 

 「情けないなぁ……ふぁぁああぁ。急に眠気が……もう寝るよ、リア」

 

 「ええ、ありがとう、パック」

 

 そして精霊が一体その場から姿を消した後。

 そこには少女に背負われる男の情けない姿があったのだが……

 とある元盗賊がこれをネタに彼を揶揄うこと以外は不利益もないので、まあ、蛇足であるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 ところで。

 皆様は一人お忘れでは無いだろうか。

 

 そう、

 

 

 

 

 

 

 ――――――リンガ屋の娘である。

 

 これは、徽章を巡る一夜の裏の、ほのぼのとした一幕。

 

 

 

 街の雑踏の中に一人、立ちすくむ幼い少女がいる。

 

 「うえぇぇぇ……おかーさん、どこぉ……」

 

 必死に泣くのを堪える少女は、しかし目端に大粒の水滴を貯めている。今にも泣いてしまいそうな、そう、誰かに怒鳴られたらその場で泣いてしまいそうな程。

 

 それを見つけた者が一人。顔を隠すようなフードでその正体を伺うことはできないが、零れる銀髪が特徴的である。彼女は今にも泣きだしそうな少女を見て、どうすればいいのかと狼狽える。

 数瞬の思案の末、彼女は少女の下へと駆け付けることにした。本当は探し物があったのたが……まあ、良いだろう。

 

 「大丈夫? どうしたのかしら?」

 

 「うぅぅ……おねーさん、だれ?」

 

 「わたし? 私は……そう」

 

 ――――――ただの魔法使いさんよ。

 

 そう言った女性に向けて、少女は涙を引っ込めて好機の視線を見せる。

 

 「魔法使い? おねーさん、魔法使い様なの?」

 

 「様ではないわね。でもそう。お姉さんは魔法使いなの。だからこんなことだってできちゃうのよ?」

 

 そう言って何もないことを確認させた手の平を握り、開いて飴を取り出す。

 明らかに何も握られていなかった手から出現した飴を見て、少女は目を輝かせる。

 

 「わぁ! 凄い凄い! まほーだぁ!!」

 

 「はい、これはあげる」

 

 「いいの!?」

 

 「ええ、いいわよ」

 

 「やったぁ!」

 

 女性はそれを見て顔を綻ばせる。その顔を見て、彼女が誘拐犯などと疑う者はいないだろう。

 

 「じゃあ、貴女のおかーさんを探しましょうか。最後にあったのはどこ?」

 

 「なんで知ってるの!?」

 

 「魔法使いだからよ」

 

 「すごーい!」

 

 飴をもごもごとさせながらしゃべる少女は、女性の促しによって記憶を辿り始める。

 

 「たしかー、こっち!」

 

 「あっ、待ちなさい!」

 

 走り出した少女を追って、女性も走る。

 人混みを縫って走る少女は小柄故に素早く、女性もまた、慣れたようにすいすいと進んでいく。

 そしていくつかの路地を抜け、噴水のある広場に出る。

 

 「ここ! ここでおかーさんと歩いてたの! でも、猫を追っかけてたらはぐれちゃって……」

 

 「大丈夫よ、お姉さんが何とかしてあげるから」

 

 また不安に襲われた少女をなだめ、女性は少女の母親を探し始める。

 

 「よいしょ、っと」

 

 「わわ、お姉さん?」

 

 「この方が遠くを見やすいでしょ?」

 

 「……うん!」

 

 それから大声で母親を呼び始め、そして少女は母親と出会えた。

 

 「ありがとうございます! ほんと、なんとお礼を申し上げればいいのか……」

 

 「いえ、別にいいわ」

 

 「ありがとう! 魔法使いのお姉さん!」

 

 「ええ、どういたしまして……じゃあ、私も探し物があるので」

 

 「はい、本当にありがとうございました……あの、何かあったらそこのリンガ屋に来てください! 私たちにできる事なら、お手伝いします!」

 

 母親が指さした先の屋台には、不機嫌そうな店主が佇んでいる。冷やかしにでもあったのだろう。

 

 「そう、ありがとう」

 

 ふわりと微笑んだ銀髪の女性。

 再び頭を下げた親子が頭を上げた時には、彼女はまるで夢でも見ていたみたいにその姿を眩ませていた。

 春の夢のように霞んで消えたその姿は、正しく御伽噺の中の魔法使いのようであった。

 

 こうして一人の迷子は無事に家に帰れたのだとさ。

 めでたしめでたし。

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