菜月スバルに直死の魔眼とか色々組み込んでみた。 作:繭原杏(繭原安理)
「にしてもあんな罠を掛けられるような恨みを買った覚え、俺、ないんだけど? なに? 知らん内にどっかであってたりする?」
「マナ感知式の罠を発動しなかっただけでも感謝してほしいのだわ……まあ、こんなに早く正解を引き当てられるとは思ってなかったかしら。ほんと、不愉快なのだわ。あと、ベティにあんたのような冴えない知り合いは居ないかしら」
冴えないってひでぇな。
にしても、マナ感知式の罠? 設置式、条件起動の罠か? 何時仕掛けたんだろうか。まさか、俺がここに運び込まれた直後だったり?
脳裏で、俺が寝ている間にせっせと廊下に罠を仕掛けるベアトリスの姿を思い浮かべてみる。
……やべぇ、かわいいな。
両脇にぶら下げているドリルを揺らしながら、額に玉のような汗を浮かべつつルーンとかを刻んでいそうな姿を思い浮かべ、つい頬が緩む。
「……変なことを考えている顔かしら。そのだらしなく緩んだ顔をとっとと引き締めるかしら」
「おっと悪い悪い。ついあんた、えーっと、急な来客に対応してベアトリスがせっせと罠を仕掛けてる姿を想像したら、微笑ましくなってな」
「馬鹿にしてるのかしら!? そもそもあの罠を仕掛けたのは何年も前かしら! 別にあんたの為じゃないかしら!」
「最近じゃあ、ツンデレ乙っていうんだぜ、そういうの」
「意味は分からないけど馬鹿にされてるのは分かるかしら! いい加減にしないと痛い目を見せるかしらっ!」
おっと、揶揄いすぎただろうか?
「いやー、悪い悪い。ツンデレは本人に言うもんじゃないよな、うん」
「~っ! 反省しないなら痛い目を見させるかしら! 少しはこれで学ぶといいかしら!」
そう言ってベアトリスが俺の前に迫ってくる。勿論逃げようとはしたが、部屋の扉が不思議な力で閉ざされていて開かなかった。びっくりして何度かドアノブをガチャガチャさせても、一向に手ごたえが無い。その僅かな時間を突かれ、ベアトリスに左胸――――――心臓の付近をその小さな手で撫でられた。
一見微笑ましい行動。しかし延髄付近の皮膚がキュッと縮まる。
本能で何らかの危険を感知し、体がその手から逃れようとびくりと震え、しかしそれは遅すぎた。
瞬間、神経に錆びた釘を差し込んだような激痛が脳をかき乱した。心臓が破裂しそうなほどバクバクし、血が駆け巡って体熱を上げる。息も詰まる鈍痛に肺が震え、酸素を求めて喉が喘ぐ。欠片程度は残った理性を手放さず、痛みを飲み込むように体を慣らす。体にしみ込んだ痛みの耐え方はこんな時も万全に作用し、さほど時を置かずに波は引いた。
先程までの苦しみが嘘のように冷たい空気を吸っていた俺は、自分が床に膝を突いていることを認識して漸くさっきの事が夢ではないと認められた。それほどまでに跡を残さずに痛みは消え、ただ額に残った汗だけがその凄まじさを物語る。
「何を……!」
「ちょっと体の中のマナに聞いただけなのよ――――――凡庸なのに、変な魂の形をしているかしら。ゲートも閉じっ放しみたいだし」
疑問を口にして、自身の思考を整理する。
ゲート? よくわからないが、恐らく魔術回路のようなものではないだろうか? しかし、それはあり得ない。俺の魔術回路は既に全部開ききっているはずだ。俺の知らない魔術回路何て、それこそ知らないうちに魔術刻印でも移植されて、それを封印されない限り……
それを単なる妄想と切り捨てるには、先程の痛みには覚えがありすぎた。神経の内側に新たな神経を生み出すようなその痛みは、慣れ親しんだ魔術回路を開く際のそれだったのだから。
何が起こった?
その疑問は当然だった。自分も知らない魔術回路。異世界に来ただけ(これでも真っ当な魔術師なら狂死するだろうが)ならともかく、自身の体の中に自身の知らない器官が生えていたのだ。
本当に自分は異世界に来たのか? 実は野良の魔術師に脳みそを弄られつつ夢を見せられているだけではないのか? 体の中に存在する得体のしれない回路は、これまで平静を保ってきたスバルの精神を大きく揺さぶる。
自身の認識を疑い、世界が土台から崩壊する。天地すら定かでなくなり、平衡感覚を失ったスバルは立ち上がろうとした際にふらりと倒れる。その衝撃すら認識できていないかのように血の気の引いた真っ青な顔が、その中に収められた脳髄が、確かな現実の証を求める。
そうして選んだのは痛み。慣れ親しんだ順序で自身の体内を俯瞰し、励起していない魔術回路を全て意識下に収める。そのまま崖から飛び降りるように思い切り、魔術回路を開く。先程も感じた激痛が、今では自信を安定させる精神剤として機能する。
当然の如く、自殺行為とも称される慣れ親しんだ激痛はパブロフの犬の如く、俺の意識を集中させて強制的に安定させた。しかし心の準備もなく同じような激痛を二度も繰り返して無事なわけがない。発痛物質が体内に生成された異物を感知して、ドパドパと流れ出す。体中の神経を駆け巡り、唯一保っていた理性すらも押し流す。
「い、いきなりどうしたかしら!?」
自殺に等しい行為の強硬に、先程まで保てていた意識が薄れ始めた。理性で繋ぎ止める事の出来なくなった意識は呆気なくブラックアウト。意識を絶って夢に逃避したいという気持ちもあったのだろうか。いずれにせよ、スバルは寝起き早々に自身の愚行によって気絶するのだった。
「ん、んん……変な夢を見たなぁ」
なんて馬鹿なことを行ってみるが、流石に俺でも先程の体験が夢ではないことぐらいわかる。現実逃避だ。
背に感じる柔らかさが廊下に出る前のベットのものと同じだったから夢オチにでもしようと考えたが、よくよく考えれば無理がありすぎた。
「あら、目覚めましたわ、姉様」
「そうね、目覚めたわね、レム」
目を開ける前に聞き覚えの無い声が二つ、左右から聞こえる。「姉様」呼びからすれば姉妹だろうか? いや、女子高では百合カップルの攻めを受けが姉様と呼ぶ文化があるらし、此処女子高じゃねぇや。普通に姉妹か。
目を開けて体を起こせば、あらびっくり。どう見ても普通の染め方じゃあ手に入らない青とピンクのつや髪が。流石異世界。ナニコレ遺伝子どうなってんの?
まじまじと見なくても分かるくらいには顔が似ている。背丈も同じくらいだし、もしかすれば双子かもしれない。じゃあなんで髪の色がこんなに違うのかって話だが、いろいろ事情があるのだろう。異世界だし。
着ている服はメイド服。膝上までの丈で、見た目重視なエプロン付きのやつ。染み一つないが、草臥れ具合から使い込まれているのがわかる。清潔感はばっちり。機能性はそこまでありそうにないが、着用者の腕がいいのだろう。仕事の中で着く汚れが無い。仕事をしていたいからかもしれないが、だったらなんでメイド服なんか来てんだって話になるから、その可能性は無いだろう。
鏡写しの様にベットの横から立ち上がるメイドさんたち。そして俺の寝かされているベットを迂回して、部屋の中央で身を寄せ合い、お互いに手と手を重ね合わせて俺を見てくる。その視線は珍獣を観察するようで、警戒心の欠片も見えないような緩い佇まいの中、ほんの少しだけの警戒が見えている。
具体的には、飛び掛かられても逃げ切れる距離を取っている。
「大変ですわ。今、お客様の頭の中で卑猥な辱めを受けています、姉様が」
「大変だわ。今、お客様の頭の中で恥辱の限りを受けているのよ。レムが」
見事な棒読みであった。
「おっと麗しくない姉妹愛だな」
一見して互いを売りあっているように見えて、実際のところありもしない被害による不快感を押し付けあうだけの不毛なセリフ。つーか被害妄想止めてくれません? エロい事考えてないのと聞かれたら、返答には詰まるが。
「しっかし舐め過ぎだなぁ。日本人に掛かりゃ、丸ごと妄想の餌食だぜ? 何なら無機物にだって余裕で欲情できる奴がごろごろいるからな」
但し、本当にそんなにいるのかは分からないものとする。
「不快ですわ。お客様が予想以上に変態で、姉様が可哀そう」
「不快だわ。お客様が並外れて変態で、レムが哀れね」
散々ないわれ様に流石に、少しだけムカッと来た。ので言ってやった。
「おいおい、それ以上言ったら本気で妄想してやるぞ?」
というかメイドが客にこんな態度でいいのだろうか? この、毒舌対応が最近のトレンドなのだろうか。異世界の性癖も割と進んでいるのだな。
なんて考えていると。
「お許しになって、お客様。レムだけは見逃して、姉様を汚してください」
「やめてちょうだい、お客様。ラムは見逃して、レムを凌辱するといいわ」
互いを売り合うのか。いっそ息が合っていて、仲が良いともいえるのか?
どうにも感情がこもってないが、それよりも前に。
「へっへっへ、安心しろよ……姉妹仲良く纏めて餌食にしてやらー!」
ぐわー、といった感じでベットから飛び降りる。なんか近所の子供の遊ぶときみたいなテンションになってきた。何故だろうか?
「きゃー。レムは、レムは見逃してー」
「いやー。ラムに手を出さないでー」
唐突に始まった鬼ごっこ。当然、鬼は俺だ。
狭い部屋……というのも走り回るのは、というのが頭に着くが、それでも物の少なさと息の合った身のこなしに翻弄されて、起きたばかりなのに体が暖かくなり始めた。
暫くはしゃいでると、廊下から足音が聞こえ、直後に部屋の扉が開かれた。
「もっとおとなしく目覚められないの? って言うか怪我人だったんだから、もう少し安静にした方が良いわよ?」
現れたのは、エミリアだった。
「いやー、ついついはしゃいじゃって……ってそうだよ! 俺確か腹掻っ捌かれてたよね!? なんで綺麗に治ってんの? あ、もしかして直してくれた?」
「ええ、私じゃなくてラインハルトがだけど……綺麗に治してくれたわよ」
「マジか! 剣の腕に加えて魔術も一流とか何その超人!」
「まじゅ、つ? いえ、ラインハルトが使ったのは普通の魔法よ。まあ、凄い練度だったけれど。流石は剣聖、ってところかしら」
「ん?
「え? 剣聖だから魔法が上手いのは当然でしょ?」
「ん?」
「え?」
話を聞くところ、この世界の「剣聖」というのは「剣の腕が一番の者」ではなく、家系で受け継がれる加護を所持する者らしい。で、現在の所持者、つまり今代の剣聖がラインハルト。
ついでに言えば、剣聖の加護の所持者は望むだけであらゆる加護を得られたり、
そういうことで、どんなに雑魚でも剣聖に成れば「剣聖」と呼ばれるし、加護が自動的に最強まで押し上げてくれる。問題はそんな強い奴が悪党染みた奴だったら、という時だ。
ラインハルトは度の過ぎるお人好しで、まあ人格の面に関しては問題は無いらしい。だが、過去の剣聖までそうかというと、そうでもないらしい。
なんでも加護に溺れて虐殺をした剣聖が、百年以上前にいたらしい。三日で加護は次代に移ったらしいが、その三日で山のような屍を積み上げ、国中を血の海に浸したのだという。
「竜歴石」とかいうものの力で虐殺が収まって、今では仏教説話みたいな扱いをされているのだとか。また、御伽噺として「悪いことをしたら直ぐに罰が下りますよ」という教訓にもなっているという。
更にこの事から「三日の天下」という諺なんてのもできたと、エミリアが言っていた。日本のものとは微妙に意味が違っていた。どちらかというと、蔑みに使われることが多いようだ。
「まあ、いいわ。血が足りない所にベアトリスが悪戯したって聞いたから来たけど、この分なら大丈夫そうね」
「魔法なら造血ぐらい簡単にできそうだけれどそれは置いといて。もしかして心配してくれた?」
「心配するに決まってるじゃない。だってあんなにパックリ……ううん、やっぱり思い出したくないからいいわ」
「え、何。俺どんだけやばかったの?」
顔を青くしたエミリアを見る限り、R‐18Gに引っ掛かりそうな姿だったのは間違いないだろう。思い出さない、というか聞きださない方が良いだろう。
顔を顰める姿を見て、慌てて話題を転換する。
「そ、そういや此処どこなんだ? まさかエミリアの屋敷?」
「いえ、此処は私を泊めてくれてるロズワールの屋敷よ」
「ロズワール?」
「ええっと、とっても偉い人で、魔法が凄く上手くって、後……うん、少し、変な人、かな」
「おおっと、心配になる言葉尻。なに? ロズワールさんってば変人なの?」
「あの、スバル? あまり、その、そういうことは言わない方が良いと思うわ。うん」
あー、否定はしないんだ。
俺のような不審者にすら気を使えるエミリアにここまでさせるロズワール。一体何者なんだ?
そうやって引いていると、後ろからあのメイド二人が回り込んでエミリアに話しかけた。
「聞いてください、エミリア様。あの方に酷い辱めを受けました、姉様が」
「聞いてちょうだい、エミリア様。あの方に監禁凌辱されたのよ、レムが」
こいつらほんとにメイドか?
先程までのは笑って許せても、風評被害は許せない。ここはガツンと言ってやろう。
そう思って、柄にもなく真面目な顔を取ってみると。
「あなたたちにそんな悪ふざけ……スバルならやりそうだけど、できるはずないじゃない。ラムもレムも、病み上がり相手に遊び過ぎないの」
先手を取ってエミリアがそう叱ってくれた。
「はーい、エミリア様。姉様も反省していますわ」
「はーい、エミリア様。レムも反省したと思うわ」
全く反省の気が見えないが、きっとじゃれあいの様な物なのだろう。形だけのお辞儀は、それでもピシッと綺麗に決まっていた。
あっちにも悪気はないんだし、こっちもエミリアが誤解することが無かったのだから文句は無い。ここで更にくどくど言ったら流石に器がちっちゃ過ぎる。
「うむ、その心、忘れるでないぞ」
なんて調子に乗ってみるのも仕方ないことだろう。
たとえ心が籠っていないとしても、そう思いあがるくらいには気分は良くなったし、美少女の行動はそれだけで価値があるものだ。おもっきし童貞臭の考えだな。
「姉様姉様。お客様が大変ウザいです」
「レムレム。お客様がとても目障りね」
「って、欠片も反省してねぇなぁ!?」
まあ、謝ったくらいで彼女らの毒舌が収まるわけもなく。
起きて数分。会って数分もしないのに、俺は既に彼女らの性格というものを掴みつつある気がしていた。
【魔術回路の生成】
つまり体内に備わっている魔術回路を開く作業。一度やれば良いことだが、どこぞの誰かは態々開けては閉じるなんて自殺みたいなことをしているらしい。自傷癖でもあるのかな?
因みに、その「ある人物」は日常的にリラックスした状態でこれを行っていたので、無意識下の刷り込みで自殺紛いの行動でありながらリラックスできるらしい。
尚、痛みはしっかり感じる模様。「脊髄に焼き
体内の中に
【ルーン】
ケルトとかでも使われるアレ。何故か火に関するものが多い(気がする)。
魔術系統の一つ。
呪文の詠唱ではなく、「ルーン文字」を刻むことで魔術的神秘を発現させる。それぞれのルーンごとに意味があり、強化や発火、探索といった効果を発揮する。
スバルは既に廃れた魔術体系だと聞いているが、ゲームとかでよく出てくるので知ってた。
予め何かに刻んでおくなど、トラップ的な使い方に向いている。
語源としては、「秘密」を意味するゴート語のrunaが挙げられる。(WIKI出)
因みに、ガンドもこれの一種である。