菜月スバルに直死の魔眼とか色々組み込んでみた。   作:繭原杏(繭原安理)

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見にくいので章タイトルに「第■章:」を付けました。
そして、少し思うところがあったので(一章は)実質一話からですが、小タイトルは二話に付けます。


普通じゃねぇ……

 「……」

 

 「……」

 

 麗らかな朝。行きは短く感じた道が、何故か今は異様に長く感じる。

 背中に突き刺さる視線に気不味さを感じ、更にこの空気に居心地の悪さが増大する。

 スバルは、無言の空気に耐え切れずに話題を探す。

 一つ、気に成ることを思いついたので振り返って聞くことにした。

 

 「そういやエミリアたん、いつの間に髪型変えたの?」

 

 「ああ、これ? さっきパックがやってくれたの」

 

 そう言ってエミリアは、

 

 「これも僕がリアと結んだ約束の一つだからね」

 

 にゅっとエミリアの背中から顔を出して、パックがそう言った。

 

 「精霊との約束、何でもありだな!?」

 

 てっきり、ケルト神話辺りの誓約(ゲッシュ)の様に厳かかつ神聖な物を想像していたスバルは、パックの言に度肝を抜かれる。

 いや、髪も魔術的に重要な意味を持つし、髪を預けるということはその下にある頭蓋を預けるに等しい行為なので十分厳かではあるが……多分この精霊、そんなこと考えてねぇんじゃねぇかなぁ。

 

 「ははは、まあ、精霊の望む者なんてそれぞれだしね。さっきの微精霊達なんかは術者本人のマナを介した触れ合いかな」

 

 「微精霊?」

 

 「ほら、さっきリアが触れ合っていた子たちだよ」

 

 「……? ああ! あの蛍みたいな光の粒か!」

 

 「蛍、ていうのが何かは分からないけどそうだよ」

 

 「なんで微精霊っていうんだ? いや、なんか見るからに格が違うのは分かるけど」

 

 「うん、格が違うだけだよ。基本はおんなじ精霊だ。でも持つ力の差で区別した方が分かりやすいからね」

 

 「ふーん。因みにパックは?」

 

 「これでもかなり上の方だよ。自慢じゃあないけど、僕の正体を知るものは大抵僕を目にして震え上がるだろうね」

 

 「どんな正体だよ!」

 

 「ふふふ、それはね……秘密だ!」

 

 「ケチー!」

 

 パックとの会話のみが弾む。なんかこう、波長が合うって言うか、話しやすいんだよな。

 そろそろエミリアもさっきの事を忘れてくれたかな、と考えて振り向けば、むくれた美少女がそこに居た。どうやら二人(一人と一体?)だけで盛り上がっていたのが良くなかったようだ。

 

 「初対面なのに、随分息が合うのね」

 

 「あー、ほら、そこはこう、俺って誰に対してもこんなんだからさ!」

 

 「そうそう! 僕の性格と彼、スバルの性格が上手く噛み合っただけだよ! それで話が弾んだだけで、別にリアの事は忘れてないよ!」

 

 「ふーん。ふぅーん」

 

 「拗ねるエミリアたんも可愛いっ! でも笑顔の方が可愛いよ? ほらスマイルスマイル!」

 

 両指で口端を吊り上げ、笑顔をアピールしてみる。

 

 「別に拗ねてないわ。好きにしたらいいじゃない。ずっと二人で話してればいいんだわ」

 

 「拗ねてる! やべぇ、すげぇ拗ねてる!」

 

 「つーんだ」

 

 「つーんって今日日聞かねぇな! いや、そもそも実際に口にしてる奴にもお目にかかったことが無いけど!」

 

 そんな感じで、自分でも何を言っているのかは分からないが兎に角捲し立て、言葉の残弾が大分減ってから気付く。

 横を向いたエミリアの頬、そして肩。それらが軽く震えていることに。

 

 「っく、ふふふふふ! スバルって揶揄うと面白いのね」

 

 「おっとエミリアたん実は小悪魔系!? そんなエミリアたんも可愛いくて大好き! そんでもってマジで嫌われてなくて一安心!」

 

 ほぅ、と溜息をついて、言ったんテンションをリセットする。

 その頃にはもう、エミリアも笑いを止めて、こっちを向いてきていた。

 というか笑いの沸点低くないか? 漫才とか見せたら笑い転げそう。

 ……そんなエミリアたんもありだな!

 なんて馬鹿なことを考えているとは露ほども思っていない様子のエミリアが、笑顔でこっちに進んでくる。

 何かあるのか? すわ髪にゴミでもついていたか? そんでもって「ほら、ここ、ゴミがついてるわよ」なんて言って触って貰えるのか!? などと慌てながら立ち止まり、エミリアはそんな俺の横を抜けて屋敷に入っていった。

 気づけばもう庭からは出ていた。屋敷の前で待つ二人のメイドを見ながら、まさかずっとあそこで待っていたのかなどと考える。

 

 結局、触って貰えなくて落ち込んだ自分を隠しながら俺はエミリアの背中を追いかけた。

 

 

 

 「「当主、ロズワール様がお戻りになられました。どうかお屋敷へ」」

 

 「そう。ロズワールが。……じゃ、迎えに行かないとね」

 

 「「はい。それからお客様も。目が覚めているなら、ご一緒するようにと」」

 

 きれいにハモったその声は、例の姉妹メイドの物。どうやらずっと待ち構えていたのではなく、用事があって呼びに来たらしい。

 気になったのは、先程とは打って変わって真面目になった顔つき。ピリリとした仕事人という感じの雰囲気が、彼女らが本職の使用人なのだと思い起こさせる。

 朝はあんなに気安かったが、やはり雇い主の下ではちゃんとメイドらしく振舞うのだと感心し、いやそれ以外でもメイドらしく振舞ってこそじゃないのか? などと疑問を上げる。しかし、日がな一日気を張り続けていられるような人間もそういるものではない。要所要所で上手く手を抜くのもプロの仕事だ。あの姉妹の場合、それが客の対する接待……いやそれでもおかしくないか?

 そんなことを考えていると、青髪の方のメイド――――――レムがそっと近づいてくる。

 心を読まれたか、などとありもしない事柄に対する危惧をし、身を強張らせる。その隙にレムが懐から取り出したのは、一枚の布?

 疑問に思っていると、何故かそれを額に押し付けてくる。そこで漸く真意を理解し、まずは礼を言う。

 

 「悪いな」

 

 「いいえ、使用人として当然の務めですわ、お客様」

 

 「いいえ、使用人として当然の仕事だから、お客様」

 

 つまるところ、汗を拭ってくれたのだ。

 で、それに対する礼に対し何もしていないピンク、姉のセリフを聞いて朝の調子がまだ生きていることを確認した。

 遊び惚けていた友人が受験期間に入って真面目に勉強しだした様を見るように、納得はあれど何処か座りの悪い感情を抱えたスバルは、少し戻ってきた朝の雰囲気に落ち着きを覚える。しかし揶揄うのも躊躇われるし、取り合えずは踵を返した彼女らに大人しくついていくことにした。

 その傍ら、エミリアにどうしても気に成る質問をしてみる。

 

 「で、ロズワールってのは誰のこと?」

 

 「この屋敷の持ち主……そっか、説明してなかったのよね」

 

 自分の落ち度を反省するように眉を下げるエミリアを見て、スバルは慌てた。

 だがフォローしようとする前に、まず顎に手を当てて考えるような仕草を始めたエミリアの発言を待つことにした。

 暫くの躊躇の後、探す言葉が見つからなかったのか、取り合えずといった感じで説明を始めた。

 

 「えっと、そうね。ロズワールは……会えばわかるわ」

 

 どうやら説明すら無いようだ。

 とは言え、こんな答えが来る場合、相手の人物像は二種類しかいない。

 一つは特徴が無さすぎる場合。あまり身近に居ないので好例が思い浮かばないが、そういう人物もいることは知っている。

 もう一つは逆に個性的すぎる場合。例に挙げられる人物が多すぎるので、此方も具体例は上げない。

 まさか、といった感じで推論を口にしてみる。

 

 「あー、そんなに、個性的だったり突き抜けてたりするのか?」

 

 「「「ええ」」」

 

 「うん、まあ、ずいぶん個性的なのは否定できないねぇ」

 

 満場一致で肯定された。

 何故自身の周りには個性的な人物しか居ないのか、何て疑問が浮かび、「類は友を呼ぶ」という言葉を掻き消しながら頭を抱えた。

 

 「激しく不安だ……」

 

 「えーっと、その、大丈夫。見境なく迷惑を掛けるような人じゃないから」

 

 エミリアのフォローも、結局迷惑を掛けることは否定できていなかった。

 思い描く限りの個性的な人物像を思い浮かべながら予防線を張るスバルだが、まさか相手のロズワールがその想像の斜め上を行く人物だとは思いもしない。

 もしロズワールに対面した直後のスバルが、今のスバルに言葉を贈るならこうなるだろう。

 即ち「上には上がいる」、である。

 

 

 

 

 

 

 ピエロだった。

 第一印象から度肝を抜かされる、頭の出来を疑う突飛にも程があるメイク。何を考えているのか分からない笑顔に、手入れが良いのが分かる紫紺のキューティクルヘアー。

 女性的と言おうか、すらりとした体格で、骨格も別に酷いわけではない。メイクさえなければイケメンになるだろう。

 ぶっちゃけまともな服装に着替えたら見失いそうなほどどきついメイクがインパクトの大半を占め、おばさんのパーマぐらいでしか見ないような紫の髪色については注意が向かなかった。

 人生、十と七年。長いわけでもない生だが、それでも此処まで自己主張の激しい人物は初めてだった。

 

 「あはぁ、目が覚めたんだねぇ。よかったよかったぁ」

 

 喋り方まで特徴的だった。

 粘つくようでいて、一切の不快感が無い。あるのは漠然と漂う怪しさと、それを覆い隠すような胡散臭さ。

 何もかもが今までの人生観から外れていて、推し量ることができない。よく「量り切れない人物」とかって褒める漫画とかがあるが、これはそれとは違う。単純に、規格外の存在なのだ。

 それが演技にしろ、本性にしろ、それを判断する術は無い。

 だが、今まで変人と接してきた経験から、何とか意識を立て直すことには成功した。

 

 「もしかして、ロズワール?」

 

 そうではないという希望と、もし本当に違ったのなら本人はどれほどやばい人物なのかという恐怖を込めながら、恐る恐る問いかける。

 うん、意識は立て直せた。思考に空白は無い。

 でも混乱は健在であったのだ。

 

 「そぉーうだねぇ。私が所謂、此処の館の主にして、この領の領主」

 

 一拍。

 

 「ロズワール・L・メイザース、だよ」

 

 

 

 素直に「放蕩貴族」、または駄目息子といった感じの男だが、それでも警戒は怠れない。

 

 「こんなでも意外と切れ者みたいなのがお約束だし……」

 

 「あはぁ、嬉しい評価だねぇ。もっとまじまじと、見つめてくれてもいいよ? 切れ者な感じがするかい? どーぉ?」

 

 ねっとりと近寄ってきた。怒っているのか喜んでいるのか、好奇心か威圧か。全く訳の分からない行動。本心が読めない。そして、キスでもするのかというくらい近づいてきたので、流石に下がらざるを得なくなる。

 そして、スバルは自身の行動に驚愕する。そう、無意識にでも自身が下がったということに対してだ。

 

 「ま、まさか……俺が下がらざるを得ないだと!? 日頃からあいつらと付き合ってきた俺を引かせるほどキャラが濃いとか尋常じゃねぇ……日常生活に支障きたすぞ!?」

 

 冗談ではない。

 フェチズム三兄弟からオープン野郎、行動の読めない気分屋、そもそも自身の意図をまったく口にしない無口な連中など、一癖も二癖もある連中と付き合ってきてそこそこ突飛な人物に対する耐性はあるという自信のあるスバル。そのスバルを引かせるのだというから、紛れもなく癖の強い変人なのだ。昴が今まで見てきた中でも五指に入る変人である。

 

 「お帰りなさい。大事はなかった?」

 

 そしてエミリアがそんな自分を差し置いて普通に対応するのを見て、更に愕然とする。まさかエミリアの方が変人耐性が高いのかと謎の敗北感を覚えるが、よく考えれば慣れているだけだろうという結論に至る。

 そうであってくれ。こんな純真無垢な子が自分以上に変人と出会いまくってきたなんて考えたくない。

 ……いや、むしろこれが普通なのか? 異世界だし、これが普通なのか?

 いやいやいやいや、さっきも変人だと断言、いや、でも、あれ? あるぇ?

 

 「平気平気。あはぁ、嬉しいねぇ。君の方から私に声をかけてくれるなんて、四日とんで三時間と十九分ぶりぐらいだよぉ。日記に書かなきゃ」

 

 「四日~」とか、正確に時間を計るとかいう更に濃いキャラ設定が付け足され、白目を剥きそうになるのを気合で抑える。おかしくなりそうな頭を理性で抑え、「あれ? まさかこいつストーカーみたいな感じ?」という疑問を封じ込める。

 両手をワキワキと、いやらしくかつ気持ち悪く動かし、そしてどこかからか差し出されたペンとノートを猛然と動かすのを見て、スバルは考えるのをやめた。

 目だけを動かすと、それらを差し出したのは例の姉妹メイドであった。いや、例のとはいってもこの二人しか、この屋敷ではメイドを見かけてないのだが。

 まさかこの屋敷には彼女等しか使用人がいないのでは? という疑問よりも「まさか主の日記を常備しているのか」とか、「冗談じゃなく日記を書いているのか」なんて疑問を飲み込むことに必死になる。

 

 「タンムズの月、十五日。――エミリア様が自分から私に話しかけてくれたよ。ロズワール、嬉ぴー。この調子で仲良くなっちゃうぞぉ、おー。……と」

 

 追い打ちをかけるように、まるでギャルのような文章を口に出してペンを動かすピエロ(男)を視界から認識する。いや、言葉は聴覚だが。

 会心の表情で本を閉じ、メイドに渡して振り返る貴族らしくない貴族、ロズワールの笑みを見て、飽和しきった脳で情報を整理。

 そして、苦節の末にスバルはこう悟った。

 

 この屋敷、普通じゃねぇ……と。

 

 

 

 目を逸らした先のエミリアの微妙にひきつらせた笑顔を見て、引いてるのは俺だけじゃねぇんだなという安心を覚える。ひきつっててもエミリアたんはかぁいいなぁーはははー。

 メイドたちがノートを片付ける際にちらりと真っ黒な紙面が見え、スバルは本気で異世界の道徳関係の心配をし始めた。




【フェチズム三兄弟からオープン野郎、行動の読めない気分屋、そもそも自身の意図をまったく口にしない無口な連中】
スバルの交友関係。一切本編に関わる予定は無い。
因みに各人物の簡単な説明はこうなる。

フェチズム長男:女性の靴下に興奮する紳士。靴下であればどんなものでも可。女性の履いていない靴下などただの布切れだ、と言い切る持論を持つ。現在校内で二桁の支持者を持つ。

フェチズム次男:下着なら男女問わずに興奮できる紳士(変態)。最近「靴下も下着に入るのではないか?」などという命題に答えが出そうだという。正直死ぬほどどうでもいい。

フェチズム三男:制服に興奮するという、ある意味一番まともな、ともすれば紳士にすら見える変態。ただそれが幼稚園服から軍服まで網羅しているのが変態たる所以。どこまで行くつもりなのか。

オープン野郎:口にチャックという機能と口に出す前に考える躊躇いの機能を無くした変態。女子の前で堂々と拘束SMの良さについて語りだし、何故かリョナ方面の良さを全力で語ったことがある。男子生徒、及び職員から「勇者」と蔑まれる。
分からないならそれでいい。そのままでいてください。

自身の意図をまったく口にしない無口な連中:良く図書室に集う変人、という狂人達。誰も彼らが口を開いたところを見たことが無い。そう、授業中ですら。
基本的にハンドサインで意思疎通をするが、簡略化されすぎていて、傍から見たら手を胸の前で振っているようにしか見えない。全員が成績上位者なので、実はテレパシーが使えるのでは? なんて噂がある。多分使えない。きっと使えない。だってただの人間だもの。
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