菜月スバルに直死の魔眼とか色々組み込んでみた。   作:繭原杏(繭原安理)

19 / 78
この小説は、あくまで作者のにわか知識によって成り立っています。
くれぐれもここの知識を言いふらさないでください。特にあとがきのコレは。


気付いてはいけない

 「いやー、マジちょっと……ドン引きだな」

 

 軽くそんなことを言うが、内心はドン引きどころではない。この魔境からどう生き延びようか考え始めている。それと同時に、こんなところに居て一切染まっていないエミリアに、実はエミリアも気づいていないだけでどっかおかしいのでは? と失礼なことを考えている。

 

 「ドン引き! いーぃ言葉だねぇ! 初めて聞いたけど気に入ったよぉ! んふー、人と違う感性を理解されない気持ちよさ……ああ、すばらしい」

 

 ニュアンスは理解したのか、それでも嬉しそうに身をくねらせ始める。罵倒した筈なのにこんな返しをされるとマゾヒストかと疑ってしまう、いや、自分の常識で変人を測るのはダメだ。散々痛い目を見てきたじゃないか、俺。

 しかし、話す内容は分からなくもなかった。実際、中学二年の頃は「理解されない俺かっけー」と思ってたし、そんな自分に陶酔してた。何なら今でも引きずっている。

 きっとロズワールの言っている気持ちよさとは違うが。

 

 「うわぁ、若干共感できるのがやだよ。何? 何なの? 語彙力消し飛ばされるんだけど」

 

 軽口をたたき始め、自身の思考を回す。

 大丈夫。よくよく見れば案外普通だ。もしかしたら演技かもしれないだろ。気絶するほどでは無い。

 そう自己暗示を掛けつつ、冷静さを取り戻したスバル。

 

 「ははっ。まあ、此処まで気安くしてくれるのは嬉しいっつーか? 変に肩肘張った、公式用の態度じゃなくて安心するわ。いや、俺礼儀とか全然なってねーし」

 

 「うーん」

 

 エミリアが顎に手を当て、何かを言おうか言わないか考え始める。

 その様子に不吉なものを感じたスバルは、咄嗟に「まて、待って、待ってください。言わないで」と言おうとしたが、少し遅かった。

 

 「国で公認の変態、なのよね。ロズワール」

 

 「まさか公式でもこれなのかよぉぉぉぉぉ!?」

 

 「「お客様、煩いです」」

 

 驚愕の事実に、スバルは叫ばずにいられなかった。

 こんなんでも貴族をやれるほど人材に困っているのか、それともこんなんでも欠点を補えるほど仕事ができるのか。或いは案外世渡りが上手かったりするのか。

 どうにか「この国の上層部は変態を気に入っている」or「この国の上層部は変態だらけ」という仮説から目を逸らす。そんなことがあっていいはずがない。いいはずがないんだ!

 

 「ま、まぁ、確かにロズワールはすごーく変な人だから、最初は驚くわよね」

 

 「そ、そうだよな! 変だよな! 変な奴だよな! いやーよかった! この世界じゃある程度当たり前かと思ってたけど、違うんだよな! 可笑しいのはこいつ一人なんだな!」

 

 「うぅーん。君、割と失礼だぁね」

 

 わちゃわちゃした雑談には一切の緊張が無い。まさか俺が畏まらない様に態とこんな格好をしていたりするのか、などと思ったが多分普段からこうなんだろうな。からからと笑うロズワールを見てそう思った。

 

 

 

 「あー、まあ、行き成りで驚いたがその前に。この度はベットを貸してくれてありがとうございます」

 

 グダグダな空気を仕切り直して、まずは礼を言う。癪だが。

 

 「いぃーよ、それくらいはぁ。そぉれぇにぃしぃてぇもぉ」

 

 ブツ切りに言葉を伸ばして、じろじろ全身を舐められるように見られる。何処か身の危険を感じる。

 

 「うぅーん。思ったよりかはぁ、普通だぁね」

 

 「まあ、特に何の取得も無い凡人ですし? 才能も? 家柄も? 何なら家も戸籍もお金もないくらい無い無い尽くしですし? 別に自覚してるし。傷ついてないし……」

 

 「あはぁ、別にそういう意味じゃあなくてだぁね。種族的な意味で、だよぉ。ほぉら、私ってば『亜人趣味』の変態貴族で通ってるからさぁ」

 

 「うん? 普通に思考(嗜好)がおかしいのは分かるが……そんなにおかしい趣味なのか?」

 

 ぶっちゃけその見た目の方が変態だと思う。

 

 「今、変な言い方をしなかったかぁね? にしても、ふむ……まあ、私の趣味はどうにも他からしてみれば奇異に映るよぉでねぇ。まぁ、外聞は気にしてはいないのだがぁね。実際、この子たちを雇ったのもそうだし、エミリア様を支援するのにも躊躇いは無いからぁね。もぉっとも、そのあたりに関しては君も同類な臭いを感じるよぉ?」

 

 「どぉーるいぃ?」

 

 傍らのメイド二人を抱き寄せたロズワールに向かって、まるで未知の言葉であるかのように復唱する。

 そんな反応が面白かったのか、ロズワールは気持ち良く笑った。

 

 「ところで、支援ってどういうことだ? そもそもエミリアたんとの関係性が分からないんだが」

 

 「あれぇ、事情を知らない? んふー、不思議だねぇ」

 

 メイド姉妹から手を放し、ずかずかと近寄ってくる。鼻息が掛かるくらい近くに来て、上から見下ろしてきた。

 俺は謎の「引いたら負け」という意識に従って、下から睨み返す。

 どこか懐かしい、心の奥底まで無遠慮に覗かれるような感覚。なんか魔術で精神に干渉されていたりするのかとも思ったが、簡単な自己確認では特に異常は見当たらない。恐らく魔術は使われていないだろう。

 どうせなのでこちらも観察させてもらおう。目の動きから何処を見ているのかを把握し、追い続ける。その意図は? 時折微量に表情を変化させて、それで返ってくる反応から人柄を推測して見る。

 暫く、というには少し長すぎる時間が過ぎ、結論が出る。

 何も分からなかった。少なくとも、自身の感情をそのまま表に出すような人物ではないことが分かった。

 馬鹿っぽい外見に反し、意外と権謀術数は上手そうだ。冗談で貴族をやっているわけではないのか。少なくとも、その地位に座るだけの力はあるのだろう。侮っていれば手痛い目を見そうだ。それに、何を考えているのかが分からないのが不安だ。

 あのうつけっぷりは演技か? それにしては自然すぎる。かといって本性だとも断言できない。

 

 ああ、理解できない。分からない。霧の中を手探りするように、人物が見えてこない。

 実は考えすぎだという可能性もある。その可能性の方が大きいだろう。

 それでも俺にはロズワールが腹に何か隠し持っていると感じた。これは論理的な思考に基づくものではない。

 野性的な、根拠のない本能よりの勘だ。経験に基づく、客観性に欠ける推測だ。

 だがそれは正しい気がする。

 あくまでも、気がするだけだが。

 

 「ふむ」

 

 ロズワールが何かを理解したようだ。俺に何を見たのか。俺の外見から何を見取ったのか。

 冷汗が滲み出る中、ロズワールは耳打ちするように顔を寄せてくる。それを聞こうと、俺は右耳を向ける。

 そして――――――

 

 「ちゅっ」

 

 「うわああああぁぁああぁぁああ!!」

 

 右半身を前に出した体勢から左肩を突き出すように腰を曲げ、連動して右足を下げて体が前に進まないように、もっと言えばロズワールの口に顔が当たらないように注意する。

 稲妻の指令が拳を握らせ、頭で意識するより早く駆け上がった悪寒に脊髄反射。綺麗なアッパーが突き刺さった。

 信じられないほど手応えが軽く、そして漫画の様に軽々と吹き飛んだ辺り、無意識で魔術を使用してのかと考えて、すぐに撤回する。だったら骨の二、三本が折れる感覚は伝わって来る筈だと。

 当たる直前に自分から後ろに跳んだのだろう。信じられない反射神経だ。

 

 ……いや、そもそもどうやって知覚したんだ? あの時、俺の拳は体に隠れていたはず、体の動きで警戒していたにしても、予備動作何て殆ど無かったと自負している。

 ロズワールが実は武道の達人だった? いや、そんなしっかりした体つきではない。確かに綺麗な体幹をしているが、とても武道を修めた者のそれではない。

 なら自動発動式の魔術? それこそ有り得ない。だって欠片も神秘を感じなかったじゃないか。まるで辺りの空気のように神秘を溶け込ませるなんてことはできない。それじゃあ魔術が発動しないからだ。そも、俺がいくら三流だからと言って、魔術を使われたら流石に気付く。だってそこだけ神秘が格段に濃くなるのだから。

 じゃあ元々空気中に濃すぎる神秘が存在している? 西暦以前、例えば神代のように? それこそ有り得ない。そんなに神秘が濃かったら、俺はまず普通に生存できない。現代人は神秘の濃い世界に適応できるようにできてはいない。

 

 そういえば、此処は異世界だったか。なら俺の知ってるのとは異なる魔術体系があってもおかしくは無い。発動の兆候が殆ど観測できない、何て性質があってもおかしくは無い。

 おかしくは、無いのだが……

 

 何だろう、頭を掻きむしりたくなる違和感を感じる。根本的な所で、それこそ呼吸をするのと同じくらい自然的な所でボタンを掛け違えているような。そんな些細な違和感。

 さっきもだ。身体強化術式を使用した時も同じ違和感を覚えた。

 くそっ、折角いつもより格段に効率化出来て気分が良かったというのに……ん?

 

 あれ?

 

 実際に意識して使っていないからわからないが、もしかして。

 俺の魔術、強くなっている?

 性能が上がったから強化倍率も上がったのか?

 

 いやいやいや、そんな馬鹿な。

 在り得ないだろ。

 あり、えない、よな……?

 

 頭を振って思考を断ち切る。今はそんなことを考えている場合じゃない。違和感は放置だ。どっかにでも放り込んでおけ。ぽーい。

 意識を現実に戻し、現在に焦点を合わせる。

 ぼうっとしていた時間は長くなかったようで、今はロズワールが左右をメイドに支えられながら立ち上がっていた。

 未だに火傷したような熱を持つ、しっとりとしたデコを袖で擦りながら、険のある声を作って言い放つ。

 

 「いきなり何しやがるんだ……!」

 

 ああ、だんだん怒りがこみ上げてきた。そう、これでいいのだ。先ほどまでのことなど忘れるのだ。

 目の前の怒りに浸って、さっきの事なんか忘れてしまおう。それが良い。

 

 へらへら笑っているロズワールが、わなわな震える俺に笑って返した。

 

 「あはぁ、痛い痛い。いやぁ、乙女のように純真な目で見てくるから、ついむらむらしちゃってねぇ」

 

 「男色家っ!?」

 

 「ふふふー、どう? 今夜あたり、私の部屋に来ないかぁい?」

 

 「死んでもごめんだっ!」

 

 ギャーギャー騒ぐ俺はさぞかしみっともなかっただろう。

 それでも、俺は先程までの考えを忘れられたことが心地よかった。

 

 

 

 

 

 

 それからロズワールが敵意を見せるメイド姉妹をなだめたり、俺を朝食に誘ってくれたりした。

 丁度腹も空いていたことだし、俺はそれに甘んじることにした。

 メイドに肘を極められたりもしたが、ま、主人に対してあんなことをしでかしたなら仕方のないことだろう。

 

 どうせなら体全身で極めて欲しかった。そうすればささやかな胸のかんしょ……何でもない。

 

 「お客様、今何か不埒なことを?」

 

 「お客様、今何か不埒な顔に……失礼、元からでしたね」

 

 「考えてない考えてない。考えてませんはい……ってか不埒な顔って何よ! 主人が離れた途端、やりたい放題だな!」

 

 「「当然の扱いかと、お客様」」

 

 「ハモらせやがった!」

 

 「ハモ……?」

 

 「あ、エミリアたん。さっきはどうしたんだ? 立ち眩み?」

 

 「う、うん。そんな感じ」

 

 先ほど玄関に置いて行かれたエミリアが追い付いてきた。まあ、魔術を使用した後なら何らかの不具合が起こってもおかしくは無いか。しかもこの世界の魔術はまた少しおかしいし、俺の知らない副作用があってもおかしくは無いよな。

 つか、さっき「精霊との対話」ってさらっと言ってたけどどんな原理でやっていたのだろうか。急造のパスでも作ったのだろうか。

 

 そんな取り留めのないことを考えている間に食堂に着いた。すげぇ、長机だ。白いテーブルクロスに三つ又の蝋燭立てまでありやがる。まさに「貴族の食堂」って感じだな。

 そして、数ある席の一つには二度目の気絶の前に見た金髪ロリ、ベアトリスがいた。

 成程夢ではなかったんだな。と、疑ってもいなかった事実の確認に何故か安堵を覚える。

 手にはグラスを持っている。ワイングラスに近い形状だ。琥珀の様な流体がすっと飲み込まれていくのが見える。というか見せつけられる。まさか酒じゃあるまいか。いやさ異世界特有のジュースに違いない。

 

 姿を見かけたのでどうせなら挨拶をば、と思って右手を上げようとしたが拘束されていたのを思い出す。とたん、それを察したのか、それとも食堂に入ったからなのか、メイド姉妹が離れていった。

 

 「上から見てた感じ、あれなのよ……お前、相当に頭おかしいのね」

 

 「おいコラまて、それは流石に心外だぞ」

 

 開幕からぶっ放してくるベアトリス……いやベア子とかでいいや。ベア子に対し、抑えきれない憤りが込み上げる。優しいと(脳内で)評判のスバルさんといえど、この暴言には耐え切れなかった。

 

 「おうおうおう、俺の何処が頭がおかしいってんだ? このロリ。ん?」

 

 「……聞いたこともない単語だけれど、不快な感じだけはするかしら。そもそも初対面であの男と普通に話せる時点で、おかしいかしら」

 

 「ぐっ……ひ、否定できねぇ! くそっ! 『逆〇裁判』をやりこんでいたのに、なんでこんな言葉に反論できないんだ……っ!」

 

 当然である。

 ともあれ、スバルは秒でロリっ子との舌戦に負けた。この会話だけで彼ら、或いは彼女らがろずわーるにどんな認識を抱いているのかわかるだろう。なまじ合っているがために、訂正できる人物はここにはいなかった。

 

 「つーかそれ酒じゃないだろうな。未成年の飲酒は体に悪いんだぞー?」

 

 「なぁに、ひょっとして飲みたいのかしら?」

 

 クスリと笑ってグラスを差し出してくる。何処か揶揄いの意を感じたので、これは負けてなるものかと思ってしまう。

 

 「お、じゃあ間接キスだな間接キスに成っちまうな。まあ別に俺は気にしてないしベア子も気にしてないようだし別に構わんよな。間接キスだけど問題ないよな俺のファーストキスいやっほーう!」

 

 そも、間接キスはファーストキスに含まないとする主張を掲げるスバルだが、この時だけは撤回することにした。何故ならベア子の恥ずかしがってる顔が見たいため。

 速足でベア子の下まで駆け付け、グラスを奪おうとしてみると。

 

 「ちょ! ベア子ってなにかしら待つかしらそんな速く来るんじゃないかしら待つかしらマツかしらまつかしらぁぁぁぁああぁぁ――――――!!」

 

 頬を赤く染めて逃げ出した。

 こういうところを見ると、書庫での魔女らしさとは別の、外見相応の無邪気さを感じて微笑ましくなる。

 

 「何をニヤニヤしてるかしら!」

 

 「いやー? べっつにー?」

 

 「むっ、むきー! なのかしら!」

 

 怒るベア子を宥め、ワイングラスをテーブルに置かせ、小さな拳でポカポカ叩かれるのを受け入れる。

 一段落して自分の席に座ろうとし、客分ということで下座に座った。間違っても上座に座るなんて馬鹿なことはしない。幼少期の教育、或いは刷り込みの賜物である。

 

 テーブルではまだワイングラスが、中程まで満たす琥珀色の、ゆっくり広がる波紋を呑んでいた。




【違和感】
スバルは既に無意識下に様々な違和感を感じ取っている。
例えば物語のように出来すぎている「出会い」であったり、物語の様な「事件」であったり、また、台本を読み上げてるかのように流暢に流れる「会話」であったり。魔術の使用の際にも自身に違和感を感じるし、何なら息を吸うだけで違和感を感じる。
そう、この異世界そのものに、強い違和感を感じるのだ。

 これは、「異世界だから」、と片付けて言い物なのだろうか……


【デコ】
「額」、というのは魔術的に重要な意味を持つ。例えばヒンドゥー教や仏教におけるチャクラの一か所であったり、旧約聖書において「悲しむ人々の額にしるしをつけよ」という記述があったりする。また、額を合わせることを挨拶とする伝統があったり、額への接吻を「友情の表現」とする文化もある。
これらは偏に額が「個人を象徴するもの」だという考え方があるからだ。
それは「目」の様に、あるいはそれ以上に魔術的に重要であり、此処に魔術刻印を刻む冠位(ロード)もいる。
それはこの異世界でも例外ではない。主に、「固有の対象の座標」という意味を持って呪術等に広く使われる。
また、「友情」の表現という意味から、軽い魅了(チャーム)になったり、或いは友人に対して開示される程度の()()()()()()()などを可能とする。

気を抜いていれば、或いは相手より遥かに腕が良ければ、きっと気付かれずに行使できる程度の、そんな細やかな魔術。
認識阻害した方がバレ難いのは秘密である。


 『お、じゃあ間接キスだな間接キスに(以下略)』
朱に交われば赤くなる。
ベアトリスが「頭がおかしい」と称したのは、割と間違っていなかったりする。

だって――

――事実として、「菜月スバルは()()である」と肯定できるのだから。

そも、日頃から「世界の脆弱性」を直視し続けて平気な人間は、正気であるとは言えない。

十中八九そういう意味で言ったわけではないだろうけど。



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。