菜月スバルに直死の魔眼とか色々組み込んでみた。   作:繭原杏(繭原安理)

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書き溜め投下


第一章:王都裏騒動・始まりの夜
ゴロツキ


 路地裏から出てきた三人組のゴロツキに絡まれる昴。

 一人はナイフまで持ち出し、昴を脅すためにその切っ先を揺らしている。

 じりじりと近寄ってくるその三人組から逃げるように、後ろ足で表通りの方に後退する。

 

 ――――――くっそ! こんなところでからまれるとか、どんだけ治安悪いんだ!?

 

 表通りを見ると、此方の事に気づいていても関わろうとする人は誰もいない。

 

 ――――――異世界の人は随分冷め切ってるなぁ! 俺泣いちゃうよ?本気で泣くよ?

 

 魔術の心得があるとはいえ、昴は唯の高校生。

 ほぼ一般人だ。

 こんな柄の悪そうなゴロツキと戦う機会なんてあるはず無かった。それに、少し前に手に入れてしまった視界故に、やすやすと抗戦を選ぶ事ができなかった。相手が悪人であろうと、安易に殺してしまうかもしれない行動をとれなかった。

 第一、抗戦しようにも先ほどから謎の立ち眩みに襲われ、それどころじゃない。

 鳴りやまない頭痛のせいで、脂汗ダラダラだ。

 そんなところが弱そうに見えたのだろうか。

 

 表通りの様子を窺うために振り返ったのが不味かったのだろう、振り返るとゴロツキ三人組は既に手を伸ばせば届く位置に居た。

 

 「ま、まぁまぁ落ち着こうぜ? 兄弟。俺たちの仲じゃねぇか、まずもう少し距離を取ってだな」

 

 「いやいや何言ってんだ、俺たちの間に距離なんていらねぇだろ?」

 

 ニヤニヤと笑いながら更に距離を詰められる。

 表通りまで後、約25メートル。その一方、ゴロツキ共はもうすぐそこ。これ以上一歩でも動いたら捕まりそうだ。

 ゴロツキのうち二人が昴の後ろに回って、昴を囲う。

 

 三方向からの圧力に、真剣に土下座するかと考え出した昴。

 邪魔が入ったのは、その時だった。

 

 影が四人の間を駆けていく。

 

 「な、なんだぁ!?」

 

 「た、助けか!?」

 

 ファンタジー物の定番を思い出して、そう言う昴。ゴロツキに囲まれている者を助けるアレだ。勿論、本来は主人公の立ち位置なのだが。

 それにゴロツキはぎょっとして目を向ける。カモかと思ったら護衛がいたのだ、逃げる算段を立ててもおかしくない。

 呼ばれた影が立ち止まる。そして振り向く。

 それは一人の身軽そうな少女であった。

 

 少女は口を開く。

 

 「なんかスゴイ現場だけど、ごめんな! アタシ忙しんだ、強く生きろ!」

 

 「「「って、仲間じゃないんかーい!」」」

 

 「いやいやいや、そこは助けようぜ!? なぁ!」

 

 ゴロツキは少女が加勢でないことに安堵し、昴は再び崖っぷちに立たされる。

 そういうことで!と言い残し、少女は走り去っていく。

 壁を蹴って屋根の上に飛んだ辺りを見るに、随分身体能力が高いようだ。

 

 昴は一抹の希望を込めて問いかける。

 

 「……い、今ので毒気が抜けたり、とかは……?」

 

 「むしろ水差されて腹ァ立ったぜ、楽に逝けると思うなよ?」

 

 ですよねー。

 正面の男にそう問いかけ、帰ってきた答えに諦めを含んだ納得をする。

 救いの手はその時に下った。

 

 「――――――そこまでよ、悪党」

 

 日の当たる表通りをバックに仁王立ちする彼女は、まるでヒーローのようだった。

 菜月スバルは、後になってもそう思い返す。

 凛と響いた声音は見えない圧力を伴って、男たちの罵声や雑踏ごと押し流して路地裏に響いた。

 

 「これ以上の狼藉は見過ごせないわ。――――――そこまでよ」

 

 時が止まる、とはこういう事だろうか。

 印籠を翳したご老公のように、或いは、これこそが威厳というものなのだろうか。

 突如乱入してきた少女は当然の如くその場を、その空気を支配し、彼女が近寄っても誰一人身じろぎ一つできなかった。

 逆光が無くなって、その顔がよく見えるようになる。

 芸術品のように整った目鼻。腰まで流れる絹のような銀髪は一つに纏められ、その瞳は深い理性を感じさせる。

 大体160センチメートルぐらいだろうか。この場の誰よりも低い背で、その姿には美しさと同時に幼さが同居している。それが彼女から危うさを感じさせる。

 紺色を基調とした華やかさの無い服装。唯一の特徴はその白いコートに刺繍された『鷹に近い鳥』の紋章。しかしその服装すら彼女を飾り立てる。

 ゴミだらけの路地裏はこの瞬間だけ、彼らにまるで王城にいるかのような荘厳さを感じさせた。

 

 昴は、場違いにもその美貌に見とれた。

 少女を見た瞬間に感じた、体の奥底から湧き出る熱意。

 そして、まるでパズルのピースが嵌る様に、自分の中の「足りない」物が補われるような感覚。

 これまで足りないとすら気付いていなかった、そんな「空洞」。

 それが、満たされたように感じたのだ。

 

 彼女が更に一歩踏み出し、ようやく全員が我に返る。

 

 「待て待て待て! 待ってくれ! な、なんだかわからねえが、こいつは見逃す! だから俺たちのことは勘弁して……」

 

 少女の立ち振る舞いは、知らず知らずの内にゴロツキ達の胸の裡に「畏れ」を生み出していた。

 

 「潔くて助かるわ。今ならまだ取り返しがつくから、私から盗った物を返して」

 

 「だから悪かったって……へ? 盗った物?」

 

 ん?

 なんかすれ違いがある?

 あれ?さっきと同じでまた期待させるだけさせて放置ですか!?

 

 「お願い。あれは大切なものなの。あれ以外のものなら諦めもつくけど、あれだけは絶対にダメ。――今なら、命まで取ろうとは思わないわ」

 

 少女がそう言う。

 その声音には怒りすら籠り始める。力強い言葉で、だからこそ何もなくとも跪きそうな。

 彼女が差し出す手には、何もない。何かを探しに来ただけのようだ。

 

 「ちょ、待って! ……あの、話が食い違ってると思うんだがっ」

 

 「……なに?」

 

 ゴロツキたちが、今自分たちの囲ってるスバルを指差し、

 

 「ええっと、この男を助けにきたわけじゃないんで?」

 

 少女は昴をチラ見し、こう言う。

 

 「……変な格好した人ね。仲間割れの途中? 三対一なんて感心しないけど……私に関係があるのか聞かれたら、無関係と答えるしかないわ」

 

 そう言って少女は振り向き、表通りへ歩を進める。

 ああ、無常。

 神は死んだっ!

 昴は、そう嘆いた。

 

 さっきまで助かると思っては見捨てられるのだが、ひょっとしてこの流れは異世界で流行ってんのかな?

 でもまぁ、あんな可愛い子がこんなことに巻き込まれないだけでもいいか。

 

 「それはそれとして、見逃せる状況じゃないのよ」

 

 直後に振り返って手を突き出し、虚空から氷を出現させてゴロツキ三人に向けて放った。

 

 いやその、俺巻き込まれそうなんですが。

 

 咄嗟にしゃがみ、その直後に頭上をメジャーリーガーもかくやという速度で氷塊が飛ぶ。

 ゴロツキ三人の頭部を的確に打ち抜き、ゴッ、っと鈍い音を響かせる。

 それを見て、昴は判断を下す。

 季節や物理法則を無視した現象。

 間違いない、これは。

 

 「魔術……」

 

 この少女、魔術師だったのか?

 属性は水だろうか。それとも火だろうか。

 いや、それは関係ない。昴は自分の理解できる物を見つけ、安心感に包まれる。

 まあ、大抵の魔術師はキチ〇イなので、安心するにはまだ早いのだが。まともな魔術師であることを祈る。

 「この眼」に気付いてまでそう居られるかは分からないけど。バレない様にすればいいか。

 余裕ができて、ふと視界の隅で動く物陰に気づく。

 

 「やって……くれやがったな」

 

 ふらふらと起き上がる男二人。

 どうやら、今ので一人は完全に伸びたようだ。

 残りの二人は流血こそしているが健在。

 ナイフを持った男とは別の男も、その手には錆びの浮いた鉈のような得物を握って臨戦態勢だ。どこから取り出したんだろう?

 

 「こうなりゃ相手が()()使()()だろうがなんだろうが、知ったことかよ。二人で囲んでぶっ殺してやる……二対一で、勝てっと思ってんのか、ああ!?」

 

 いやいや、流石に魔法使いは無理だろ。

 いや?俺みたいな魔法使いならワンチャン……?

 違う。俺、そもそも魔法使いじゃなかった。

 

 「そうね。二対一は厳しいかもしれないわね」

 

 「じゃ、二対二なら対等な条件かな?」

 

 突如現れた知らない声。

 少女が、見せつけるように左手を伸ばす。

 上に向けて開かれた掌、そこにその毛玉はいた。

 その存在に少女以外は動揺しているが、逆に言えば少女は当然のように受け止めてる。

 そこから見るに、この声は少女の使い魔から発せられた物であろう。

 にしても対話ができるなんて……どれだけ代を重ねた使い魔なんだ?

 よくよく見ると、いつも見えている黒い線がやけに少ない気がする。表面積が小さいからだろうか?

 いや、そういえばあの少女もどことなく線が少ない様な……

 

 「あんまり期待を込めて見られると、なんだね。照れちゃう」

 

 猫を模したのだろうか、灰色で耳の垂れた小さな猫のような使い魔。

 それを見て、起き上がったゴロツキはこう言う。

 

 「精霊使いかっ!」

 

 「ご名答。今すぐ引き下がるなら追わない。すぐ決断して。急いでるの」

 

 精霊?

 随分とファンタスティックな名前だな。って、此処既にファンタスティックな世界か!

 まあ、他の魔術師に魅せられてる夢でないという前提だが、こんな手間をかける意味が見当たらないので違うだろう。

 うーん。モフりてぇ。

 

 スバル、随分と余裕そうである。

 

 そうこうしているうちに、ゴロツキ達は伸びてる仲間を引きずって撤退していく。

 去り際に鉈を持っていた方がこう言い捨てた。

 

 「覚えてろよ、クソガキ。次にこのあたりをうろつくときはせいぜい気をつけろ」

 

 その言葉に対し、彼らに精霊と呼ばれたモフモフが、

 

 「この子に何かしたら末代まで祟るよ? その場合、君が末代なんだけど」

 

 と返す。

 どうやら売られた喧嘩は買うタイプのようだ。

 

 そんなセリフを吐いたのは、せめてもの矜持なのだろう。

 ゴロツキ共はモフモフの返答に、顔を青くして路地裏の奥へと消え去っていく。

 そこまで恐れるものなのだろうか?魔術を知っているということは、少なからず魔術に対する対処法ぐらい知っていそうなものなのだが……

 

 まあ、傭兵やれるほど強けりゃ、こんなきたねぇ所にいるわけねえよなぁ。

 

 安心感に緩み切った心で、昴はお礼を言うために立ち上がろうとする。

 

 「――――――動かないで」

 

 そう少女が告げる。

 え、これ以上まだなんかあんの?

 少女の瞳には、未だに警戒の色が宿っている。

 果て、何かしただろうか。

 それはともかく、立派なエリート童貞である昴には美少女と目が合わせるのは辛いものがあり、つい目を逸らす。

 

 「やましいことがあるから目をそらす。私の目に狂いはないみたいね」

 

 「どうかな。今のは男の子的な反応であって、邪悪な感じはゼロだったけど」

 

 毛玉の言葉に激しく同意する。この程度で疑われちゃぁ、敵わない。

 

 「パックは黙ってて。――あなた、私から徽章を盗んだ相手に心当たりがあるでしょ?」

 

 少女はドヤ顔でそう言った。

 

 あのモフモフの名前はパックというらしい。

 それにしても、はて、「徽章」、とな?

 

 「期待されてるとこ悪いけど、全然知らない」

 

 「嘘っ!?」

 

 そのドヤ顔が崩れると、その下から少女の素の表情がちらりと覗く。

 先ほどまでの凛々しい姿もどこへやら、慌てふためく彼女は掌のモフモフと向き合い、

 

 「ど、どうしよう。まさか本当にただの時間の無駄……?」

 

 「その状態も刻々と進行中だけどね。急いだ方がいいと思うよ。逃げ足がすんごい速かったから、きっと風の加護があるよ、犯人」

 

 風の加護?

 魔術の一種だろうか?

 

 「なんでそんなに他人事なの、パックは」

 

 「手出し口出し無用って言ったのそっちなのに。それと、あの子はどうする?」

 

 何か話し始めた。

 個人的には蚊帳の外で割と寂しい。というかボッチの目の前で話されると、色々気まずい。

 

 「助けてもらっただけで十分だ。急いでるんだろ? 早く行った方がいい」

 

 何て言った直後。 

 

 「あ、れ?」

 

 頭痛が一際強くなり、意識が遠のく。

 全力でフルマラソンした後日のような、鉛のような倦怠感が圧し掛かる。

 思えばここに来た時からあった立ち眩みや頭痛。あれらは貧血の時の症状に似ていた気がする。

 

 久しぶりに外に出たから、かねぇ?

 それとも――――――

 

 前向きに倒れ、ガツン!

 大きな音を鳴らしながら石畳の地面に倒れる。

 薄れゆく意識の中で、少女とモフモフの会話が聞こえる。

 

 「あれれ?」

 

 「さ、さっきの人たちに殴られていたのかしら?」

 

 「――――――で、どうするの?」

 

 「関係ない、でしょ。死ぬほどじゃないもの、放っておくわよ」

 

 「ホントに?」

 

 「本当に!」

 

 

 

 

 「――――――絶対の絶対、助けたりしないからっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが、ツンデレというものだろうか。




2020/04/14 22:52 誤字修正
メートル→センチメートル
2020/04/17 19:15 誤字修正+描写修正
     略
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