菜月スバルに直死の魔眼とか色々組み込んでみた。 作:繭原杏(繭原安理)
つい書いてしまいました。見なくても重大な問題はございません! フレーバーです。
お腹減ったぁ……
冷たい。でもそれは決して不快ではなく、寧ろ温かい体に涼む心地よさがあった。
温もりが染み込んでいき、床と一体になるかのような、まどろみの心地よさ。
箇所は頬。圧し潰されている感覚。いぐさの心地よい香り。畳だ。
耳と畳の間で、隙間に響く気流を鼓膜で感じながら、何故我が家には無い筈の畳に寝そべっているのか思いを巡らす。重く包む布団がまた、微睡みの中から起こさない為である。
可能性は一つ。爺さんの家に泊まったのだ。俺の泊まるだろう範囲で、畳がある家はそこしかないのだ。
昨日は何があったのだっけか。空ろな記憶を辿る為に、磨り硝子の向こうの脳細胞に起床のベルを届ける。
……そうだ。折角の休日ということで、あの後輩の顔を見ようとしたんだ。
あの後輩は異様に朝が早い。午前五時とか人の起きる時間じゃあないだろ。でも、先輩としての威厳を見せるのなら、やはりここは早起きしてびしりと――――――
「……ぱい、先輩」
――――――できなかった。
枕元の心地よい声を聴いて、今日も自身の怠惰を自覚する。
というかなんでこいつは家に来てるんだろうか? 基本、俺が居ないときは来ない筈だが……ああ、そうか、あの虎か。
薄目を開けて、寝返りを打って後輩の顔を拝む。
片手で髪を耳まで掻き上げ、もう片方の手は膝について清楚に微笑む巨乳美少女。
幼馴染と言い切るには微妙な付き合いの長さだが、単なる友人としては親しすぎる。故に幼馴染という表現を使っているが、未だに少し違和感がある。
俺にとっては、何故か懐いてきた出来の良すぎる後輩。大和撫子という言葉の具現。
間桐桜。俺、菜月昴の幼馴染である。
「……ん、おはよう、桜」
寝起きの怠さを引きずりながら、桜に朝の挨拶をする。
それを聞いた桜は嬉しそうに微笑み、「はい、おはようございます。先輩」と返してくれる。
その後、朝ご飯を作り終えたことまで聞かされ、顔を洗いに行くように促された。こうまで甲斐甲斐しく世話を焼いてくれることに対して気が引ける一方、自信のあった家事で惨敗を喫して悔しさが込み上げる。
それでもニコニコと微笑む後輩の前ではそんな劣等感も萎び、取り合えず大人しく顔を洗いに行くのだった。
「おはよー! 昴! 喜べ! 今日は朝から桜ちゃんの手料理だぜぃ? ってあっ! もう知ってるかぁ! かぁ~! 失敗失敗!」
朝から煩い虎である。
「分かってる分かってる。ついでに言うと藤ねぇの差し金だっていうのも知ってるよ。つかそこどいてくれ。洗面所行けない」
「むぅー! 昴、昴、昴ぅー! 何時からお前はそんなに冷たくなったんだ! おねーちゃんは悲しいぞぉう!」
「朝っぱらからこうも煩いけりゃ、対応も雑になるさ」
特筆することなく、いつも通り煩い虎の脇を潜り抜け、洗面所へ向かう。
「ぬあっ! 今何か手酷いというか雑な扱いを受けたようなっ!」
訳の分からない雄叫びを背に、よろよろと歩を進めた。
ジャアアア。洗面台の蛇口は中程まで捻られ、そこそこの勢いの水道水がドパドパ流れる。
手杓で掬って、顔にパシャパシャ。程好く気付け出来た所でタオルを取った。顔を拭きつつ、洗面所の鏡に映る上目遣いの自分と相対した。
相変わらず朧な黒線に覆われた世界には、良くもなければ悪くもない顔が映っていた。クラスでは中の上当たりが精々。あんなに良い後輩が懐く理由の見当たらないフツメン。街中で並んで歩いたら場違いで死にそうになるだろうな。ほつれだらけの世界を見取る眼は、青藤に染まる水晶のように輝き、しかし水晶の様に鈍く曇っている。そんな、無機質に輝く瞳が一対、眼窩に収まっている。
元々は黒真珠の様にきれいな物だった記憶があるが、どうしてこうなったのだろうか。子供の頃の純真さと一緒に、公園に置き去りにしてしまったのか。
頬についた幾条もの平行線は畳の跡。赤くなって跡を残しているそれは、暫くゴシゴシしても消えなかった。ので、諦めてそのままにする。
洗面所を出て、板張りの廊下を軋ませながら居間へと向かう。
味噌汁の香ばしい香りから、今日は和食であると分かった。あの後輩は洋食を得意とするが、最近では和食も行けるようになってきた。ただでさえ得意な洋食も抜かれ気味なのに、最近は和食では太刀打ちできなくなっている。本当に、こんな不甲斐ない相手をいつまでも先輩と慕い続けてくれるのは何故なのか。料理を教えていたのも遥か昔のことのようで、最近では逆に教えられるほどだというのに。
料理には些か自信があったが、これじゃああまり誇れないな。
そんな考えを切り捨てるように襖を開けば、目の前の卓袱台では虎が摘み食いをしており、更によくよく見ればそれは俺の分だったりする。
しかも、個人的に楽しみにしていた漬物を根こそぎ。
この蛮行にはさすがに黙っていられず、取り合えず藤ねぇの分の漬物を取り上げ、俺の存在に気づいた藤ねぇを威嚇するように上から笑いかける。
「随分腹減ってたんだなぁ……? 藤ねぇ?」
「あ、うん。そのー……旨かったぜいっ!」
「これ没収な」
「そんなご無体なっ!」
取り上げついでに一口摘まむ。うむ、ポリポリして旨い。
口の中に広がる紫蘇の匂いと舌を縮ませる心地よい酸味。喉に消えた後も仄かに残る後味が、また次の一個を求めさせる。
結論、最高。
この漬物は漬けた覚えがないので、きっと桜の作った物だろう。今度どんな配合なのか聞いてみよう。
それはともかくとして、何か気にしている様子の桜に声をかける。
「桜、この紫蘇漬け、すっげぇ美味しいぞ。上手くなったな」
「はい! ありがとうございます!」
ぶんぶんと降られる尻尾を幻視しそうな笑顔に、思わず頬が熱を帯びるのがわかる。
一応、此方も思春期の男の子なのだ。こんな無防備な笑顔を向けられたら勘違いの一つや二つ、十や二十はするに決まっている。まあ、違うのは分かっているが。なんせ告白して振られたし。幼い頃、って言うか数年前ぐらいに。初恋だった。
思えばあれが自重を覚えた切っ掛けだったっけなぁ。というか子供の頃から異様な色気を醸し出す桜も悪いのではないか。そう、自己弁護をしてみるが、限りなく虚しくなって来る。未だにその恋は引きずり気味なので、桜と会えるような日は必ず冬木を訪れるのだ。
……え? どうせでっかい胸に欲情してる猿なんだろうって?
この感情をそう片づけられるのは、なんか蟠るものがあるな……
……ま、親父の真似が似合わないのだと気づいたのは最近だけれど、それまでは気付かずに随分と迷惑をかけまくったもんだ。小学校の頃は良くても、中学にその態度が通用するはずもなくて。だからあんなに嫌われてたんだなぁって実感したぜ。
少し遠い目をした俺に不思議そうな視線を向ける桜。その視線に気づいて、「何でもない」と手を振って座布団に座る。当然のように桜の隣だった。他の所も空いてるのに、何故ここに置いたのか。面白がった虎がやったに違いない。
でも今更ずらすのも、なんか「とっても意識してます!」って感じで気恥ずかしいし、このままでもいいか。
隣に正座した桜の方には視線を向けないように努め、目の前のご飯に箸を向けた。漂う湯気と、白く輝くところがまた美しい。実に食欲をそそる。
何度も噛んで、米の細やかな甘みを楽しみながらおかずに目を向ける。今日のおかずは焼き魚だった。骨を取るのが面倒なので苦手だが、桜の作る焼き魚はそんなことが気に成らないぐらい旨いのでよしとする。
「そういえばさぁ、桜ちゃん。うちの弓道部、もうすぐ大会じゃなかったっけ?」
「ええ、そうでしたね。皆さんとても練習に精が入っていますよ」
「へぇ、そうなのか。慎二のやつは……いつも通り余裕ぶってそうだな」
「に、兄さんは……あはは」
取り繕えない苦笑いが聞こえてくる。
慎二とは俺の悪友で、子供の頃は良く一緒につるんだものだ。
天才肌で、学業も武道もちょぅと齧っただけで上々の成果をたたき出す。それは効率的な練習法を見つけるひらめきと努力を苦としない精神のなせる術なのだが、本人のナルシズムめいた自尊心が素直に褒めさせてくれない。
ありたいていに言って、ウザい天才なのだ。
でもどこか波長が合ったのか、俺と慎二は良く一緒に遊ぶ。子供の頃はピンポンダッシュだったり、今はゲーセン巡りだったり。
割と学業に関係しない特技を数多く抱え持つ俺の戦績は、大体五分五分といったところだ。リズムゲームからシューティングゲーム、レースゲームにクレーンゲームなど、遊ぶジャンルは一定ではないが、戦績は拮抗していた。
時折、慎二が喧嘩を売って不良と喧嘩に成ったり、むしろいざこざに首突っ込んで喧嘩沙汰になったりする際にも、背中を預けあえるぐらいの信頼はある。
俺と慎二は、大体そんな感じの付き合いなのだ。
友人というには少しあくどい、故に悪友。
「まあ、慎二はやることはやるからな」
「そうですね、兄さんもああ見えて割と面倒見がいいですし」
「ふぅーん。で、大会優勝できそうなの?」
「さあ、そこまでは……」
「でも慎二なら『僕がいるんだから、優勝ぐらい楽勝でしょ? 足を引っ張るのだけはやめてよね』キラッ。とか言ってそうだな」
キラッ。のところで髪をかき上げるふりを加えると、桜は笑いをこらえる様に俯いた。震える肩と、赤くなった頬がまた可愛い。
……はっ! いけない。また見惚れていた。ニヤニヤしている虎がウザいので紫蘇の漬物を一つかっぱらっておく。喧嘩になった。
それに気づいて仲裁を始める桜。ここでの朝は、大体がこんな感じだ。
食事が終わったら流しに食器を置き、水に浸けておく。その間に洗濯機を回し、庭の洗濯物を畳む。といっても藤ねぇの物しかないのだが。
並んで食器を洗ったり洗濯物を干す姿を夫婦に例えられた。赤面する桜を置いても反論はできなかった。
家事が終われば、特にすることもなくなる。簡単なもので昼は済ませ、夜の仕込みをする。小麦粉をこねこねして、生地を作る。それから縁側に買ってきた煎餅とかを並べて、麦茶を飲むことにした。
「……はぁ。やっぱ桜の作る麦茶は上手いなぁ。なんでだ? 作り方は同じはずなんだが」
「ふふふ、そういって貰えれば嬉しいです」
ほっこりとした空気。日差しを浴びながら、庭を見るともなしに見て雑談に興じる。
どこからか「熟年老夫婦か!」という電波を受信した気がするが、気のせいに違いない。藤ねぇは所用で家にいないからだ。
パリパリと煎餅を齧り、指先を白く染めながら大福を頬張る。白くなった指を舐め、次は金平糖にでもするかと手を伸ばす。
茶菓子を食べ終えれば、次は持ち込んだ宿題やらを片付けることにする。
互いに教え合い――――――そも、後輩に教えられるという時点で、俺の学力もお察しだが――――――和気藹々と語り合う。
この習慣は何時からついたことか。生真面目すぎる桜との話題が
思い起こせば、この屋敷に来たばかりの桜は随分委縮していたのか、全く自分から行動しようとしなかった。慎二とゲームをしていると、自分が混ざろうともせずにじっと観戦していたのだ。
ソレが何となく嫌で、無理やりゲームをプレイさせたりもした。いろんなゲームを試させたが、あまり性に合った様子はなかった。
ならスポーツはどうかというと、庭も広くないことだし、遊ぶならわざわざ公園に行かなくてはならない。それが面倒だという慎二の言で、この案も無しになった。
そんなある日のことだ。何をすれば桜も一緒に輪に入れるのかと頭を捻らせていて、宿題を期日前日まで貯めていたことがある。ぶっちゃけ夏休みだ。
膨大な量に困惑し、こんなにも貯めていたのかと泣きたくなった。そこで慎二に泣きついて手伝って貰ったのだ。まあ、慎二は途中で漫画を読み耽り始めたのだが。
桜は根気良く教えてくれて、分かるまで付き合ってくれた。物分かりが悪い俺でも投げ出さず、年下なのにじっくり教えてくれた。今から思えば情けないにもほどがあるが、当時の俺からすれば桜は下手な同年代よりも大人に見えた。
その最中に笑みを浮かべていたことに気づいたのは、慎二たちを見送った後の事だった。
振り返った記憶の中で、桜は楽しそうに、心を開いていたのだ。
ああ、そうだ。俺はあれから桜と宿題をするようになったんだったな。
緩やかで平穏な午後は、こうして過ぎるのだ。
気が付けば既に空は熟した柿のように赤く染まり、涼しい風が気温を下げる。
もう夕方だ。夜道は危ないので、桜が帰るときには送らないといけないだろう。でもその前に夕食である。
昼に仕込んだ生地は十分に膨らみ、何倍にも体積を増している。それを輪状に丸め、均等な大きさに千切る。
伸ばし棒で円形に伸ばす作業が一番の難所なのだ。均等な力で、均等に生地を回さなければならないからである。隣では桜がニンニクなどを切り刻み、具を作っている。
全て伸ばし終えたら粉を打ち、皮が互いにくっつかないようにする。そして桜の作った具をスプーンで掬い、皮できれいに包む。波状のひだになるように気を付ける。
出来上がった物を並べると圧巻だ。生板一面に所狭しと並ぶのは、果たして食い切れるのだろうかという不安すら与えてくる。でも虎がいるからきっと大丈夫。
鍋にかけた火が中の水を沸騰させた頃合いで投入。皮を破らないように、お玉の丸い部分で押すように掻き回す。
箸を刺して煮えたのを確認すれば完成だ。水に晒して、一つの大皿に並べる。
勿論それだけでいい筈がないので、とりあえず冷蔵庫の中の海藻を細かく切り、ドレッシングと混ぜて海藻サラダを用意する。
桜に任せたコンソメスープも出来上がったようだし、そろそろ虎の声も煩いので並べることにしよう。
「おー! うまそー!」
それが俺たちの料理を見た虎の第一声であった。
先程まで腹を空かせ続けていたせいか、「いただきます」と早口で言って、誰よりも早く箸をつけた。呆気に取られている間に二、三個がその口の奥に消え、早く食べないと自分の分が無くなるという焦りに突き動かされて食事のスピードが上がる。
互いに一言も発しないままの食事は、それでも賑やかな物だった。
噛み締めるのと同時に溢れ出る肉汁のスープを飲み、わんこ蕎麦のように次々口に放り込む。当然の如く、食卓から真っ先に姿を消したのは餃子だった。
次に海藻サラダ。最後にコンソメスープで〆て、コンソメの後味を楽しみながら満腹感にだらけていた。
だが、いつまでもそうしているわけにもいかない。俺は兎も角、桜は家に帰らないといけないのだから。
泊まっていくならまだしも、時刻は既に七時を回っている。夜道は物騒だし、俺が途中まで送ることにした。
ぽつぽつと灯る街灯の道を桜と並んで歩く。
ふと、唐突に桜がこう言った。
「先輩。先輩は、もし私が悪い子だったら、叱ってくれますか?」
唐突で、意味の分からない問いかけ。
何気ない風なので、きっと大した問いじゃないのだろう。だから特に取り繕わず、本心で答えることにした。
「どうだろう。本当に桜が悪いことをしたのなら叱るよ。でも、桜が悪いって確信するまでは桜に味方で居続けるだろうな」
「……そうですか」
そう答えた桜の横顔は、逆光に覆われて見え辛かった。
そして、何気なく一言付け加える。
「ま、何処に逃げても絶対見つけ出すからな。覚悟しとけよ?」
そんな軽口の一言に、何処か嬉しそうな雰囲気が漂うのを感じ取り、正解したのだという感覚を得た。
「それなら、良かった」
今度は良く見えた。街灯に照らされたその笑みは、迷子が親を見つけた時のように喜びに満ちていて、それ以上に安心に満たされていた。
「夜桜」のように艶やかで何処か妖しく。吐き出した息が白く結露し、まるで霧のように薄く漂う。
俺は、ぞくりと震えるような笑みを、その子供のように純粋な笑みの向こうに見た。
何気ない、いつもの一幕。泥のように腐っていた俺の、その中で輝く硝子の様な、当たり前の日常。
俺が、
菜月昴という人は、私が「先輩」と呼ぶお爺様の監視対象だ。
なんでも先輩の養父が魔術師であったらしく、次の聖杯戦争でマスターになる可能性が高いらしい。だがまぁ、魔術の腕はお粗末にも程があるので、例えそうなっても脅威は無いだろうと思った。
今では殆ど警戒する必要もなく、もうお爺様も監視するように言ってくることは無い。
では、私は何故今日もあの日本屋敷へ歩を向けているのだろうか。
居心地がいいのだ。
賑やかな藤村先生と、妙な所で大胆に踏み込む先輩と居る日常は飽きることが無い。あそこは私にとって、日課を忘れられる日溜まりだった。
薄暗い蟲蔵が日常の象徴であった私にとって、あそこは余りにも眩しすぎた。慣れてしまわないように気を付けながらも、その心地よさにどっぷり浸かってしまうくらいには。
その中でも特に心地よいのは、先輩とのんびりしている時間だ。
口にし難いのだが、先輩と居ると胸の内が熱を帯びてくる。冷たい、陶器のような手足に血が通い、人であることを思い出すのだ。
これは恋、なのだろうか? そういうのとは違うかもしれないが、先輩がいなくなることを考えると胸がきゅっとする。
それはこの場所がなくなることへの恐れかもしれないが、私にはどうにもそれだけで片付けていいようには思えなかった。
先輩に料理を教わる時間が好きだ。得意げに、しかし分かりやすく教えられるように試行錯誤する先輩を見るのが好きだ。
食卓につく時間が好きだ。自分の作った料理を、おいしいと言って食べてくれる二人を見ると照れ臭くなる。特に、教えてくれた先輩に言われると照れ臭くて敵わない。ついうつむいてしまう。
縁側でのんびりしているのも好きだ。藤村先生からは老人みたいと揶揄われるけれども、暗い蟲蔵を忘れられる縁側での日向ぼっこが好きだ。
最近では、付き添ってくれる先輩とお茶をするのも好きだ。先輩の選んだお菓子はどれも美味しくて、実のところ少し贅肉が増えてしまっていたりする。それが悩みである。
先輩に勉強を教える時間が好きだ。先輩の苦手な国語は、幸いといっていいものか、あまり学年での差が出ない。あるのは、積み上げた時間の差だけだ。
自分の解説した答えを、「うぬぬ……」と言って眉間に皴を生みながら理解しようとしているところを見ていると、出来の悪い弟を育てているような気分になる。
並んで料理をしている時間なんか、正に夫婦っぽくて大好きだ。玉ねぎを切る先輩の隣で米を砥いで、その隙にちらりと先輩の横顔を覗き見る。真剣な顔で包丁を握る姿にはいつも癒される。
そんな普通の家庭っぽくて、おままごとの延長線上のような時間。特に夫婦っぽいことは意識していないと、誰に聞かせるわけでもなく心の中で呟く。それでいて、藤村先生に揶揄われると赤面してしまう。
ああ、恐らく、私は先輩の事が好きなのだろう。
それでも、この思いは胸に秘めたまま、きっと表に出る事は無い。
だって、変な所で度胸の有る先輩にお爺様のことを告げたら、きっと殴り掛かってしまうだろうから。その様が、ありありと想像できる。
先輩ではお爺様には敵わないだろう。きっと、あの「お爺様に逆らった人」の様に、何も成せずに死んでしまうに違いない。
だから、私はこの想いを告げない。
本来なら、こんな想いを持つことすら駄目なのだろう。お爺様はきっとこの恋心を知っている。それも、私以上に。聖杯戦争に成ったら、それを利用してくるだろうことは目に見えている。もし先輩がマスターに成った日にはどうなってしまうのか。
……ああ、想像もつかない。それはきっと、想像もしたくないからだろう。
先輩と戦いたくない。だから、そんな未来何て来なければいいと。
先輩が、万が一にもマスターにならなければいい。心の底から、そう願った。
それはきっと、恋心からくるものだから。
大切なものを失いたくないという気持ち。私は、此処から先輩への恋心に気が付いたのだ。
そういえば、私は何時から先輩を好きになったのだろうか。
初めは、先輩の監視だった。乗り気ではなかったが、
そして姉さんを時折見かけることがあったから、自分の意思で来るようになった。
いつの間にか姉さんの姿を見なくても落胆しないようになり、先輩との時間を楽しむようになったのだ。
妙に感傷的なのは何故だろうか。まあいい。
感傷ついでに、私が先輩を先輩と呼びだした理由について思い出した。
それは単純なことで、藤村先生から先輩が後輩フェチだと聞いたからだった。当時中学であったし、冗談と本当の事の区別もあまりついていない、純真な頃だったのだ。
藤村先生からすれば揶揄いのつもりだったのだろう。先輩があそこまで狼狽えなければ、今の呼び方は違ったかもしれない。
運良く、先輩は年下フェチだったのだ。兄さんが聞きだしたから間違いない。
やはりこういうことは男同士の方が聞きだしやすい。猥談を振ってくれ、と頼んだ時は嫌そうにしていたが、卵巻きを甘くすると言ったら頷いてくれた。決して三食麻婆豆腐の恐怖に屈したわけではない筈だ。
並木道を抜け、あまり人気のない商店街を、時折呼び止められながら抜けて住宅街に入る。
朝日が昇り始めたばかりの街を眺めながら、坂の付近にある先輩の家へ軽い足取りで向かう。
藤村先生から、今日は先輩が来ると聞いた。ならば行かなくては。それも早めに。
何故なら先輩の寝顔が可愛いからだ。無防備で、幼げで。頬をつんつんするとくすぐったげに身を捩る様には心が満たされる。最近の楽しみの一つといってもいい。
それを見逃すわけには、いかない。
私にとって先輩とはどんな存在か。それは、例えるなら「星」だ。
決して強い光でなく、母の様に包み込んでくれるわけでもない。気まぐれに形を変え、しかしいつも寄り添ってくれる、私の目指すべき
だからこそ、私はその星明りを求める。そして、いつしかその「星」に心を奪われたのだ。
さあ、もうすぐ先輩の家だ。住宅街も半ばまで過ぎ、道まで飛び出した草木を避けて歩く。
こうして私は、今日も日本屋敷へ歩を向ける。
屋敷に着けば、先輩はまだ寝ていた。暫く寝顔を眺め、藤村先生が起きていないのを確認して。手っ取り早く朝食を作ってしまう。
そこから藤村先生を起こし、先輩の寝顔を再び拝む。
だが、いつまでもそうしているわけにもいかない。藤村先生の洗顔はとても短いのだ。
寝顔を堪能するのを諦め、私は先輩を起こすことにする。
「朝ですよー。先輩、先輩」
中々起きないので頬を突いてみようかと迷った瞬間、先輩は寝返りを打って薄目を開けた。
「……ん、おはよう、桜」
その挨拶が嬉しくて笑みを零してしまう。
「はい、おはようございます。先輩」
それから朝ご飯ができたことを告げてから、私は軽い足取りで居間へ向かった。
そして、彼女は問いを投げかける。無数の星統べる星団、プレイアデスの光刺す下に。
夜桜は吐息の霞と共に。
これは前夜。全てが動き出す、その細やかな前兆であった。
なぜこうなったのか。
『お爺様に逆らった人』
既に名前すら忘れられてる可哀そうなおじさん。
一体、何夜さんなんだ……
【タイガー】
冬木市に出没する、謎の
これでキャラは合ってるのだろうか?
というか皆さんは餃子、好きですか?
作者は嫌いじゃありません。率直に言って好きです。
あ、後、光
話題は変わりますが、4月1日の誕辰和色は「桜」色なんですって、知ってました?
作者は調べるまで知りませんでした。
なんとなく運命を感じますね。(すっとぼけ)
幕間は、今のところ別の章を作ったり~、とかは考えてません。
このままです。何故なら作者がこういう形式が好きだからです。
でも不満が多いようでしたら検討します。