菜月スバルに直死の魔眼とか色々組み込んでみた。 作:繭原杏(繭原安理)
「……で、その竜の巫女、つまり王選候補の一人がエミリアたんで、他にあと四人の候補者がいるってことか」
「うん、そうだぁね」
ふむ、つまりこういう事か。
好きになった人は王女様でした。
そこはかとなく背徳感が湧いてくるっ!
「で? その選出方法は? なんかあんだろ? こう、テストに受かるとか、抽選とか?」
興奮を誤魔化すように、適当な話題を広げる。ついでに席を立つような雰囲気に流れないようにする。
理由は言うまでもない。察しろ。
「抽選ってぇいうのは、間違ってもないかぁもねぇ」
「というと?」
「これなんだけど……」
そういうと、エミリアがごそごそと何かを取り出す。
竜の意匠、光を秘める赤い宝玉……どうやら俺が取り戻そうとした「徽章」のようだ。
「これ、徽章っていうんだけれどね」
良く見えるように差し出してきたので、身を乗り出してまじまじと見る。
精巧な装飾はまるで機械で掘ったかの様に、隅々まで丁寧に作られている。中心の宝石も真珠のように丸く、まるで雫の様に丸く光沢を帯びていた。
「竜はルグニカの紋章でね、まあ、『親竜王国』なんていうくらいなんだけど。武器とか鎧とか、色々なものにつけられてるの。で、その中でもこれは特に大事で……王選の参加権みたいなものなの」
「へー、すげーよくできてんじゃ……んん?
「な、無くしてないもん。ちょっと手癖の悪い子に取られちゃっただけだもん!」
涙目になって、プイっと顔を逸らした。かわいいな。
赤い頬がこっちを向くが、そんなのは知った事じゃない。
てかさっきからエミリアに対する好感度がぐんぐん上がってるな。このままじゃ箸が転がっても好感度上がりそう。
べた惚れってやつだな!
それはそれとして。
「おんなじだよ! てかそれ再発行とか効くの!? 効きそうにない予感するんだけど!?」
「んんー、まぁあ、同じものをノコノコ貰いにいくっていうのは難しいだろうねぇ」
「まぁ、王とも成ろう人が参加権無くしましたーつったら、そりゃあ支持率はみるみる下がるだろうなぁ」
「ははは、まあ、それだけじゃあないんだけれどね」
それだけではない、とはどういう事だろうか。
補足するように、ロズワールは続ける。
「その宝玉はねぇ、何でもすっごぉぉおおく特殊で特別で希少で貴重でねぇ。実は、
「じゃあもう終わりじゃん! 取り返せなかったらゲームオーバー……あ、だからこんな丁重に持て成されてんのか。取り換えす場に付き添っていたから唯でも返せないし、何なら一部は俺の功績もあった的な?」
「うーん、徽章を取り返すのには特に手伝ってないわよね?」
「そうだった!」
ははは、と元気に笑ってごまかす。
どうやら記憶の整理ができていない。この週で何をしたか、色々とごっちゃになっている。
「でも、交渉を切り上げさせるために態々貴重そうな魔法器を出してもらったし、命も助けてもらったし……そういうところは恩に感じてるのよ?」
……いうべきだろうか。あの時のどさくさに紛れて携帯は回収したことを。
「……そういえば五人候補者がいるって聞いたけど、後の四人は分かってんのか?」
熟考に熟考を重ねた末、頭をかいて誤魔化すことにした。
話題を逸らし、携帯について言及されないようにする。
これ自体は気に成っていたことなので、演技っぽくは無いはずだ。
「んー、もう少し先で顔合わせがあるんだけど、それまでは風聞でしか分からないわ」
「それに、最後の一人も出てきてないしねぇ」
「あっ、そうだ。ロズワール、その事なんだけど」
「んん? どうしたんだい? エミリア様?」
んん? どうしたん? エミリアたん?
「実は最後の一人が見つかったのよ。つい昨日」
「えっ」
「んー、どういう事かな?」
昨日? どこにそんなことを知る時間があったんだ?
「徽章をくすねた悪い子がね、どうにも王選候補者みたいで、返して貰った徽章がこんな風に光ってたの」
「え、それデフォルトじゃないの?」
「んー、徽章はね、王選候補者の所持している時だけ光を放つの、ほら、持ってみて」
椅子から立ち上がったエミリアがこっちに徽章を持ってくる。
いつも――――――というほど長い付き合いではないが―――――――肩辺りにいるパックがいないからか、それともその服装か。少し新鮮な感じがする。
希少を手渡してくれたことに驚き、無防備さを感じつつ解析魔術を掛けてみる。
エミリアの手から離れた瞬間、確かに発光が途切れたのを確認して好奇心が湧いたのだ。
徽章を持ち上げ、手の甲をエミリアに向ける。手の内に徽章を隠し、誰にも見えないように気を付ける。
そして、魔術を作用させる言葉を心の中で呟く。
零れ落ちた言葉は丹田に落ち、熱を帯びた細波を立て全身に痛みを運ぶ。
脂汗を押し隠しながら、表情を変えないように魔術回路を作成した。
そして練り上げられた魔力を術式に通し、手の平から押し出す。
絡まる電子回路の様な青白い魔力が徽章を覆い、その中心の宝玉を重点的に這ってから霧散する。
そして、帰ってきた魔力の内容を検分し、徽章に使われている魔術式と素材、蓄積した年月と経験、更にはそれを想像する上での
だが当然ながら、そんなに深く解析する腕何て俺には無い。分かったのは精々が形と素材だけだ。
至る所の微細な摩耗、目視の不可能な掠り傷。しかし、何よりも異様なのは宝玉の素材だ。
――――――これは、
「――――――っ!」
「どうしたの? スバル」
「いや、いきなり光が消えたから壊れたのかなーって思ってな。いや、ほんとに決められた奴じゃないと光んねーんだな」
エミリアの追及を誤魔化し、その面の下で混乱を治めようとする。
生物由来。それも、これは血だ。
更に言えば、触れるまで気付かないくらいの、高度な封印式の組まれているのだろう跡も、枠にあった。あんな微小な式を刻むのは人では無理だ。確実に、俺の知る魔術師が関わっている。
その中に封印されていたのは簡素な魔術式と夥しい高濃度の神秘。幻想種の血でも固めたのだろうか。
簡素な式の効果は、隠蔽されていなかったので読み取れた。俺に魔術の知識は左程ないが、その中でも知っている式と類似する部分があった。使い魔作成の際に組み込む、遠距離操作式だ。
その術式は今も生きていた。それと別に、条件発動の式もあった。恐らくこっちが王選候補者の手でしか光らない種なのだろうが……それは今は置いておこう。
問題は最初に行った術式だ。腕のいい魔術師なら解析をしたことを隠蔽できたのだろうが、生憎と俺はそんな方法は知らない。下手すると、この式の先の誰かに俺の存在がばれた可能性もある。
……まずい、これはまずい、が、どうすることもできない。
あまりにも情報が少なすぎるのだ。相手が敵か味方か中立か、或いはそもそも気付かれていないのか。それすらも分からない。相手の出方を伺うしかない。後手に回るしかないのだ。
突如として襲ってきた、日常的な危機感に笑みすら零れてきそうだ。思えばこっちに来てからというものの、さして本領を発揮できていないどころか、翻弄されっぱなしだった気がする。
気を引き締めていこう。敵の襲撃に気を付けつつ、呑気に過ごそう。
後手に回るしかないなら、攻めて来た時に重いカウンターをくれてやるだけだ。味方ならそれでいい。
そうして、その後も幾らか団欒を交わす。
「ああ、そうだ」
団欒の最中に、ふと思いついたことを口にする。
「なあ、エミリアたん。恩返しの事なんだけど、今頼んでもいいかな」
「ええ、構わないわよ。何をしてほしいの?」
「んー、どちらかというとロズっちに頼みたいんだけど……」
少しためらった隙に、レムが茶々を入れてくる。
「よもやお客様、男色家で?」
「ちゃうわ! んな悍ましい濡れ衣着せるのやめて!? てかロズっちも自分を抱きかかえるなよ! 安心しろあんたの体には一片足りとて興味は無いっ!」
「男色家であることは否定されない、と」
「否定するわ、してるわっ! バリバリ女体に興味のある男子高生ですよこちとらっ!? おら俺の妄想の餌食になりたいかぁー!」
「きゃー、姉様、助けてください」
「きゃー、レム、何とかしなさい」
「すがすがしいまでの棒読みっ!」
「……まあ、話を戻すとだな。ロズっち。いや、ロズワール卿」
「え? どうしたの、スバル?」
エミリアの声も無視して、席から立ちあがる。
ロズワールの真正面まで歩き、真剣に、校長の話を聞く時以上に真面目に。
「エミリアの代わりに、叶えて欲しい願いがあります」
「ふむ、言ってみるといーぃよ」
姿勢を正し、直立。
そして勢いよく動き――――――
「お願いしますっ! 俺を雇ってください! ぶっちゃけ無職無戸籍無一文の身の上はどう考えてもまずいですっ!」
「えっ」
90°、頭を下げた。
エミリアの動揺が聞こえた気もするが、気にしない。確か無一文ってことは言ったし、無戸籍だってのmさっきの会話で理解してもらえたはず。
……無職とは明言してないけど、無一文で無戸籍な奴が手に職持っているわけないよな。
うん。
「なら執事でもやってみるかぁい?」
「はい喜んでー!」
よしっ!
ジョブ、ゲットだぜ!
その後、とりあえず今日は休みなさいというエミリアの発言で、試用雇用は明日からとなった。
俺は一人で部屋に戻り、窓辺から月を見上げる。
眠れないのだ。
だから朝にできた疑問について、少し考察してみる。
王族が揃って急死? いやいや、血を薄めないために近親相姦繰り返して、遺伝病引き起こした方がまだ科学的だぜ。
でも、世の中には
しかし、王族っていうのは暗殺を警戒しているはずだ。「魔法」なんてものが普及しているくらいだし、そういうのに対す防具とかつけていそうなのだが……それをすり抜けた?
それとも、王族が使うほどの
ま、考えても詮の無いことか。
現実何て、意外と当たり前な事実にあふれていたりする。
意外な事実もありはするけど、な。
でもどうせ近親相姦しまくった所為で遺伝病にかかって、それが一斉に発症しただけだろ。
ん? そういや奇形児は生まれなかったのかな。
近親相姦で生まれる子供は八割がた奇形児で、残りは体の弱い天才って何処かで聞いたことがあるけど……
殺したのか?
だとしたら、俺は、王族が大っ嫌いになっちまうな。
生まれる事に価値すら祝われず、死ぬ事に意味すら決められないなら。
そんな胸糞の悪い終わりは……
「……あー、止め止め!」
らしくもなく考えすぎたか。どうも、最近は思考が暴力的になっていけない。
なんでだろうな。ここ最近、って言うかこの世界に来てからどうにもうずうずする。
拳を振るいたくて、暴力衝動が収まらなくて。
自分を抑えないと、今にも辻斬りをしそうで。
俺、どうしたんだろうか。
のそのそとベットに潜り込み、月明りが照らす部屋を眺めながらぼーっとする。
未だに眠気は無い。なんせ、今まで夜型人間だったんだ。休みだからってだらけすぎたぜ。
だからって日課の鍛錬も済ませたばかり。
……どうせなら、もう少し鍛錬しとこうかな。
そんなことを考えて、自身の五感の強化に魔力を回す。神経の一本一本に魔力が染み渡り、鼓膜はより繊細に。眼球はより高純度に。そんなイメージを込め、術式を組み上げる。
そういや、同じ屋根の下にエミリアもいるんだよな……っ!
急いで術式の精度を上げる。凄い。今ならどこまでも効果を上げれそうだ。今までにない神秘の濃縮を感じるっ! これが……異世界補正!?
まるでちぐはぐなパズルを組み直すように。バラバラな感覚が、ぴったりと合わさるように。
今までの効率、精度を鼻で笑えてしまう効果で術式が組みあがる。
そして、一種、ゾーンともいえる至高に達し、思考すら放棄しかけていた俺は、唐突に集中を切らした。
ん? いや、気のせいか?
何か違和感を感じたような……
まっ、良いか。
気づけば、脳を酷使した事を原因とする眠気が、睡魔を召喚していた。
うん、こりゃ勝てんわ。お休みなさーい。
……長い一日だったな。
「初めまして、ロズワール・L・メイザース。いい夜ね」
「おや、銀の髪に尖った耳なぁんて、まぁるで魔女のようじゃぁないかっ――――――」
「……悪いわね。魔女と呼ばないでもらえる? 不快よ」
「おお、怖い怖い。では、なんとお呼びすれば?」
「そうね。なら――――――」
「――――――王女様、何て如何かしら?」
【徽章の宝玉】
正真正銘、多大な神秘の濃縮された生体素材。
血によって構成されている。魔術を使用した凝縮工程を経て形成された。
経過した年月だけなら数千年はあるが、実際に作成されたのは1800年頃。
【執事】
因果なものである。うん。
【些細な違和感】
それは、彼が遥か過去に置き去りにした、目を背け、都合よく扱う幼少期由来の感覚。
とは言えど、それは彼の持ちうる術式の、ほぼ全てに対して言えるのだが。
スバルの扱う魔術は、その大半が幼少期に培った感覚から組み上げた、日本に源流の存在する魔術である。