菜月スバルに直死の魔眼とか色々組み込んでみた。 作:繭原杏(繭原安理)
気付いた時にはもう、崩れ落ちているのだ。
さァ、お待ちかね。
スバルの無双だよ。
その晩、俺は何時ものように寝ていた。
ふと目を覚ましたのは、何故だろうか。
窓の外を眺めながら、眠れない頭を抱えた。
月を眺めながら、この前のエミリアの舞踏会とか楽しかったなぁ……と意識を飛ばす。
僅か一週間ほどの生活だが、慣れない地での生活は豊富な思い出を与えてくれた。
そんなことを考えて、気付く。妄想する。
そういえば、ロズワールは所用でこの館に居ない。ということは、実質俺以外全員女子のハーレム状態なんじゃね? これって。
なんて馬鹿な妄想は深夜テンションの産物か。或いは、無意識下の本性か。
アドレナリンか。多分違うだろう。絶好調の思考は聴覚をも鋭敏にし、だからこそその音に気づけた。
じゃらじゃらと擦れる金属音。鎖の音。扉の向こう。廊下の彼方から。
館の構造を思い返すも、この付近に鎖の付いた家具なんてない。そもそも、窓は開いていないのだから、風に揺れるわけもない。
ならば、これは人為的なものだ。
誰が何をしているんだろうか? こんな夜更けに。
湧き上がる好奇心に背を押され、スバルは廊下に出る。
そこで見た人影は一つ。
青い髪。双子の片割れ。レムだ。
「お、おう、あー、こんばんは? レム。随分物騒なもん持ってるけどどうしたんだ?」
「……」
嫌な予感が、背筋を駆ける。
「えーっと、こんな夜更けにどうしたん? あ、それは俺もか」
「……」
もし。もし、だ。
この世界が物語なら。菜月
それは、
いいえ。いいえ、だ。
怪異がそんな生温いモノではないのを、昴は知っている。スバルは識っている。
脅威は、一度ではなく連続して襲い掛かる。一度の邂逅は、連鎖して泥沼を生む。
そんなこと、疾うの昔にしっていたことだろう?
そうだな。例えば。
定番中の定番だ。
「俺は眠れなくってな。枕が違うからかなー」
「……」
「はは、は」
「……」
認めろ。菜月スバル。
目を逸らすな。
レムは、明確な殺意を向けている。
「……せめて寝ていれば、楽に死ねたでしょうに」
「……なん、で」
ぽつりと喋りだしたレムに、スバルは問いかける。
突然の殺害宣言。相手は数日ではあるが、仕事の同僚。
ああ、おかしいではないか。おかしいだろう。
でも、だけれど、何故。
俺は、納得しているのか。
「なんでも、何も、ありませんよ」
普段と異なる、激情を抑える震え声。
「そんなに臭いを漂わせておいて、しらを切れるとでも?」
堪えているのは怒りか。それとも喪失への恐怖か。
上げられた顔には、これまでに見たことのない形相が。
突然身に覚えのないことを言われ、スバルは疑問を投げる。
「臭い?」
「ええっ! その忌々しい、憎々しい臭いは、今でも忘れないっ! 私たちの里を滅ぼした、『魔女に魅入られた者』がっ!!」
「ま、魔女?」
魔術師ではないのか。エミリアみたいな女の魔法使いのとこを言う風では……ないのだろう。
もしや西洋の魔女狩り文化に何らかの関係が……あるわけないか。ここ異世界だし。
身に覚えのないことだが、その疑問が逆に思考を冷ます冷や水となった。
そうして落ち着いた思考でレムを見直す。
その姿は、何と言うか、人間臭い。怪異にあるまじき人間味と、怪異にはあり得ない美しさを見て、彼女は怪異ではないことを確信する。同時に、その構えが隙だらけであることも察する。
しかし、恐らくそれを隙だとしないだけがあるのだろう。魔術か、大魔術か、或いは結界……は新しく敷設された気配を感じないからないとして、後は純粋な身体能力だろうか。そこらに気を付けて対話に挑もう。
……うむ。案外冷静だ。
「太々しい! 私たち『鬼族』の村を、それこそ私たちより鬼々しく焼き払い、虐殺し、踏み荒らしたあの日の事は、今もっ!」
轟音。それはレムが腕を振るい窓側の壁に風穴を開けた音。
子供が駄々を捏ねる様に、行き場のない怒りを込めて高速で振られた腕は、鉄球の重みなど感じさせず、掛けられた絵画毎その資産価値を暴落させる。
パラパラと散る粉塵に、崩れ落ちる瓦礫は積み上がらず、壁の外へ崩れていく。
直前で力を抜いたのか、それともまだ理性があるのか。鉄球は外には飛び出ず、寧ろ振りぬくのに丁度良いくらいの位置に落ちる。壁や穴に引っかかって攻撃が緩むという希望は無くなった。
レムはその激情のまま、怒鳴るように吠える。
「忘れていませんっ!」
「何をっ!」
鉄球が、顔をかすめる。
「ああ、そういえば。先ほどは一つ、嘘をついてしまいました」
突然、表情が抜け落ちる。
その剛力で、再び鉄球は手元に。
ああ、恐らく先程の疑問の答えは「高すぎる身体能力」なんだろうな。『鬼族』とか言っていたし、などと答えを得るが、もう意味がない。
既に腕は引き絞られ、眼光は鋭く標準を定め。
「眠ったところで、楽には殺しませんから」
スバルは思考に空白を生み、撓んだ鎖がその末端の鉄球を打ち出すのを遠く感じて。
約44㎏の死が、軽々と振るわれた。
で?
命の危機に、体が跳ねる。
視力強化のされた神経が、外界との相対時間を緩め、向かってくる鉄球をくっきりと映す。
当然のように死の線の描かれるそれを、硬度強化した手刀でなぞる。
沈み込むように無抵抗に、棘付きの鉄球は分かたれ、その向こうのレムの姿を晒す。
まだ、反応が追い付いていない。今の内ならいける。
伸びきった鎖を切り分けながら進み、レムの下に着く。
そして自動的に左右の手刀が動き、首を狙う。
ここにきてようやく反応を見せたレムは、首を庇う為に腕を上げ――――――なかった。
左手はモーニングスターを扱った際に伸びきり、右手で殴るには少し遠い。
故にこそ、蹴り飛ばす選択。
ああ、それは正しい。正解だ。
その目で捕らえた物体の線は、如何なる物でなぞっても確実に死を与えることができる。
要するに、なぞられた時点で
レムの生首が右の手刀に切り飛ばされる。左の手刀は右肩を裂く。
左腕、足、腹、頭。
全てを執拗にバラし、分解し、解体し。分けて割けて別けて、十七分割。
染み付いた動きは、過去に忠実に。
小分けの肉山、醜悪な肉塊と化したレムは、身に纏うメイド服すら覆えない惨状で地に落ちる。
その命脈は、完全に途絶えた。
「え?」
相手にもならない。そも、抵抗らしい抵抗すらできずにレムは死んだ。
ソレを悔しいとみるか、苦しまずに僥倖とみるか。
しかし、スバルを苦しめる、という点でなら。
レムは確かに、それを成し遂げた。
「スバ、ル?」
声がかかる。
背後から、あり得ない声がする。
振り返れば、そこには恐ろしいものを見たエミリアが。
「ちが、これは」
「スバル。何をしてるの? なんで、殺したの?」
「ちがう」
「違わないでしょ!」
否定の言葉。強かに打ち付けられたそれに、叱られた子供のようにびくりとする。
怒気に塗れたエミリアは、激情のままスバルを問い殺さんばかりに詰め寄る。
「なんで殺したの!」
「だから」
「最初っから、レムが目的?」
「違う」
「そんなに私が憎い!? そんなに、ハーフエルフが憎い!!?」
「違、う」
「じゃあ、なんで殺したの」
無言を強いられる。
例えどのような経過があろうと、殺した事実だけは変わらないのだから。
だから、スバルは口を噤むしかない。反論の余地など無いゆえに。
そこに、既に信頼など無いゆえに。
「スバル。スバルは、私の味方だと思ってたのに」
「俺は、エミリアの味方だ」
「私の味方なら、なんでレムを殺したの?」
逃げようのない袋小路。冷静に考えれば、階下に住むレムの遺体がここにあるということ自体がおかしいのだが、それを指摘したところでスバルの罪は変わらない。
スバルはレムを殺した。
エミリアの味方を、殺した。
故に有罪。
判決が、下る。
「さようなら、スバル」
無数の氷棘が襲い掛かる。
スバルはその横殴りの雨を見て、自身の死を確信した。
あんな数を捌けるような身体能力は無いし、エミリアに抗おうとも思わない。
だから、抵抗を放棄して。故に、力みを抜きさって。
目を閉じる。
死を受け入れた。
死ねば元に戻ると、浅い考えで。
最悪の引き金を引いてしまったのだ。
スバルは未だに気づいてない。
何故、自身が咄嗟にレムを殺したのか。
何故、自身の意識が間に合う前に動けたのか。
何故、鉄球を認識できるほどの身体能力があるのか。
予想外と想定外と認識外の原因が重なり。必然が生み出される。
理性で押さえつけられた反射が、遂に動く。
薄目が開く。瞳は無数の弾丸を直視する。
思考を介さず、骨身に染みた動きが捌く。氷製の弾幕に向けて、駆け出した。
自然に、緩やかにすら見えるほど力み無く。
素早く、認識に留まらないほどなだらかに。
まずは暖簾を押し分けるように右腕を払う。五つ、横殴りの力が眼前の氷柱を払う。
左手を下に払い、胴体の前の氷柱を押し下げる。連鎖して足元を埋める氷柱の軌道がずれる。
そしてできた隙間に飛び込み、無傷で弾幕を乗り切る。
微かに裂かれた服の下を見れば、そこにはエメラルドがある。淡く光る、緑がある。
それは急速に頬を伝い、顔を覆う。きっと服の下も同じように、刺青の様に張り巡っているのだろう。燐光が漏れる服の袖がそう思わせる。
それを追うように、「赤」が噴き出す。
臓器稼働の過負荷に血管が破れ、薄い皮膚が耐え切れずに弾けたのだ。
血霧を撒き散らし、秒毎に重くなる体も厭わずに、スバルの意思を超えた反射は一連の動きをなぞる。
突き刺すように抜き手。近距離での手刀。ぶれる腕と、倒れこむ、いや、腕を振るう胴体は切り終えていない部分へ標準を移す。
一閃、ニ閃。
三閃四閃五閃六閃七閃……
そして、スバルが
ばらばらの、精肉の様に成り果てて、果てていた。
何が起こったのか分からない。まるで理解できない。
だが、分かったことはある。
エミリアを、殺したこと。
忌避感は無い。不自然なまでの激情は自身へのもので。
レムと違って、分割されなかった頭部は相も変わらず美しく。しかし歪んでいる。
双眸は相変わらずスバルを睨み上げ、無言の責めを生む。
動けない。エミリアから向けられた感情も、自身の意を外れた体も。
作り物の
人間も犬も虫も壁も絵画も瓦礫も月も猫も絨毯も服も空気も氷も何もかも。
鉄錆の匂いも花の香りも、シルクの手触りも重い手も。
何もかもが、恐ろしくなった。
スバルは、思い返す。
例えあのような状況でも、エミリアは信じてくれると思った。
初恋ゆえの盲目さ。
恋は盲目だが、理想を押し付けられたそれは盲目すら超える「傲慢」で。
スバルの信用は、スバルの向ける信頼は、崩れ落ちた。
傲慢な理想の押しつけは、自己中心的な期待は、自慰的な下賎な感情は打ち砕かれた。
残っているのは唯一つ。
殺すことしかしなかった、過去の遺物。
血塗れの戦利品のみだった。
銀の絹が黒染めになり、それを見た瞳は、脳は、拒絶する現実を分析し、突きつける。
「……あ、」
脳が、現実を押し付ける。
「ああ」
肺が空気を押し出す。
「あああ――――――」
抑えきれない感情は、
「――――――ああああああああああああああ!!!」
大河の如く悲鳴となって流れ出る。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああああああああああああああああああ!!!!!」
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
あああああああああああああああ!!!!!!!!!!!
「あああぁぁぁぁぁああああああぁぁぁぁ!!!!!!」
あああぁぁぁぁぁああああああぁぁぁぁ!!!!!!
「あああああああああああああああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛
嗚呼あああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛嗚呼あ゛あ゛あああああ
アアアアアあああああああ「ああアアアアアああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああぁぁあぁあああああぁああぁあ」あぁぁぁぁああぁぁああぁぁぁぁぁああああああああああああああ゛あ゛嗚呼あ゛嗚呼あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛嗚呼あああああ゛あ゛ああああ」ああああ嗚呼あああああ゛嗚呼嗚呼あああああああああああああああああああああああ嗚呼あああああ」あ「ああああああああああああああああああああぁぁぁあああああああああああああ嗚呼ぁぁぁぁあああアアアアアああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああぁぁあ」嗚呼あぁぁぁぁあああぁぁああぁぁぁぁぁああああああああああああああ゛あ゛嗚呼あ゛嗚呼あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛嗚呼あああああ゛あ゛ああああ」ああああ嗚呼あああああ゛嗚呼嗚呼ああああああああああああああああああああああああああああああ」あ「あああああああああぁっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
【殺人鬼】
殺人貴ではなく、殺人鬼。
信条無く、理性無く、無意識に殺戮を振りまく、人の鬼。
未だに孵らぬ、泥中の卵。
最も唾棄すべき“終わり”の象徴。