菜月スバルに直死の魔眼とか色々組み込んでみた。   作:繭原杏(繭原安理)

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 張り裂けた時間は、堤防を失う。

 「なんでだよ」

 泣き腫らす幼子は、波に呑まれ。

 「なんで」

 そして、惨劇は開幕する。

 「どうして」

 鉄の染みを、黒く広げて。






 さあ、殺戮を始めよう。殺そう。殺さないと。殺せば。殺すべきだ。
 ■■の名の下に、全ての異物を排除しよう。
 そうすればきっと、愛が手に入る。

 ああ、殺したい。コロしタい。

 ――――――ころさなきゃ、いけないんだ。


とまとはんばーぐ

 「――――――アァ」

 

 残響が、枯れた館に吸い込まれる。最早住民などいない館は意味を失い、そこに紡がれた思い出は死んだ。

 

 未だに夜更けたばかりの館で、赤絨毯を黒染めにする。

 手には、大好きな人(エミリア)の生首。

 

 「なんで」

 

 初恋の人(エミリア)の相貌は苦しみに歪んでいる。

 

 「どうして」

 

 生まれて初めて見た■(エミリア)は、死んでいる。

 

 「なんでだよ……っ!」

 

 生首を、抱えて泣く。

 

 

 

 「君が殺したからだろう。菜月、スバル」

 

 「……え?」

 

 スモークが垂れ込む。

 いや、それは冷気だ。白い霧は、急激な温度の低下により引き起こされた自然現象。

 覆われる下半身は震え、上半身すら寒さに驚く。

 顔を上げれば、そこには一匹の獣がいた。

 

 その声を聴いたことがある。

 名前を呼ぶ声を、聴いたことがある。

 

 それは――――――

 

 「――――――パッ、ク?」

 

 いつもエミリアの傍に寄り添う、小さな氷精霊だった。

 

 

 

 「はぁ、君ならリアの理解者になってくれると思ったんだけどね」

 

 淡々と、まるで思ってもないかのように坦々と。

 

 「僕もね、リアには友人が必要だと思ってたんだよ」

 

 平坦で淡白で、語調の変わらない無機質な肉声。

 

 「だからさ、君がリアに話しかけたときは期待したんだよ」

 

 その中に、秘め切れぬ怒りを押し殺して。僅かばかりの猶予で、諭すように攻め立てる。

 

 「君は、本当に期待外」

 

 

 

 一閃して、首が落ちる。

 獣の頭が、ごとりと落ちる。

 

 聞きたくない、聞きたくない。耳を塞いで血を垂らして。頬を伝う血はもう冷たい。

 疑問は膨らみ、混乱は加速し、呼吸は荒くなる。それこそが生存の証明だった。

 

 顔を抑え、滴る涙をすり抜ける指の隙間から、()()()()()()()目を覗かせて。しかし、スバルはその駆動に気付かず、疑問の海と自己否定の嵐に溺れていく。

 そして、スバルが己と世界を否定するほどに、無機質に恐ろしい蒼は光を増し、魔力の燐光をまき散らし始める。

 気づけないのは当人のみ。毛細血管が破れ、血涙を流すスバルはそれすら気付かずに己を問い殺そうとする。

 

 

 

 なんで好きな子(エミリア)を殺したのか? なんでなんでなんで?

 

 出す答えは、捻じくれた精神の、正常な自己防衛。

 

 いやいや、当然なんだ。

 好きだから殺すんだ。当たり前だ。そうなんだ。好きなら殺さなきゃ。

 父さんも母さんも■■も彼女たちもあの子たちもエミリアもみんなみんなみんな、好きだから死んだ。

 

 合理化。自身はおかしくない。間違ってない。

 

 じゃあ、好きなら殺さないと。

 

 うん、可笑しくないね。

 

 自身の正当化。正義の定義。

 

 好きなら殺すのが、当然だ。

 

 じゃないと、

 

 

 

 ()()()()()()だろう?

 そうじゃないとおかしいから、これで正しいんだ。

 

 人は、それを独り善がりの正義というのだろう。

 

 

 

 思考に浸る自身を引き上げ、現実に戻る。

 窓辺から指す光は街灯を思わせるほどに明るくて、だからこれまでが夢だったのではないかという幻想を抱きながら外を仰ぐ。

 

 見上げた月はどこまでも白く輝いていた。

 

 ああ、きれいだな。きれいだなぁ。

 思わず頬が緩んでしまうほどに。

 

 

 

 キレイだなァ。

 

 

 

 

 

 

 

 気付けば村の入り口まで歩いてきていた。松明の明かりが眩しく、しかし日本のような街灯が無い為か、なかなか俺の事には気付かない。

 どうやら光源の揺れから察するに、村人たちは起きているらしい。夜型とか不健康な。

 まあ、急に寒くなればそうもなるか。どうやら、パックは幻想種か何かのようで、その死体は塵と消えつつ、極寒の冷気を残していったのだ。

 俺は寒くないけど。むしろ熱いくらいだけど。

 

 松明を持った男たちが声を上げて先びまわっている。そんな大声で子供たちが起きないのかと心配になるが、その声の内容が子供たちを探すものだとわかり、また別の異変があるようだと気づく。

 

 取り合えず、手近な位置で話し合い始めた男二人の会話を、家の影から隠れて聞くことにした。

 

 「おぅい、そっちにはいたかぁ!?」

 

 「いんや! そっちはどうだぁ!?」

 

 「こっちもいねぇ! ……やっぱ、これは森の中に行ったんじゃぁねぇのか?」

 

 「馬鹿言うな。あいつらにゃぁ、散々森の怖さを教えてきたし、何より夜の森なんて行けるわけねぇだろうが。不気味すぎるからな」

 

 「じゃあどこへ行ったっていうんだ。家の倅は暢気に寝てたが、あんたン所の次男坊はいなくなってるらしいじゃねぇか。あいつらが別々に遊ぶなんて考えられねぇし、やっぱ誰かに連れ去られたんじゃねぇのか?」

 

 「む……そりゃあ、そうだよなぁ。でも誰がそんなことをするんだ? ここ最近、旅人は碌にきてねぇぞ?」

 

 「おいおい、居るじゃねぇか。一人。あのお屋敷によぉ」

 

 「一人……ってまさか、あの坊主か!? 信じられねぇ。でも、確かに家の洟垂れは懐いてたなぁ。ペトラもアレクもあの坊主に懐いてたやつばっかいなくなってらぁ。てことは、まさか……」

 

 「ああ、そのまさかじゃあねぇのか? 今日はロズワール様もいねぇみたいだしな」

 

 「なっ、じ、じゃあ、レムの嬢ちゃんやエミリア様たちは!?」

 

 「もしかすると、もしかするかもしれねぇ! 長の爺さんに言ってくるぞ!」

 

 「ああ! ここは任せろ! 俺だってまだまだやれるんだよ! 若男の一人ぐらい、足止めしてやらぁ!」

 

 ……誘拐? 冤罪がひどいな。まあ、情況的に真っ先に槍玉にあがるのは俺だろうけど。でも、俺じゃないんだよなぁ。

 うーん、どうしようか。信用して貰う為には……うーん。

 

 

 

 とりあえず、誠意を示すか。

 

 

 

 「今晩は」

 

 「あ? ああっ! 坊主!」

 

 「ああ、坊主だよ」

 

 「てめぇ! 家の洟垂れ共を何処にやった!」

 

 「うーん、誤解なんだよなぁ」

 

 「まて! それ以上近づ」

 

 言い切る間もなくばらけた四肢。驚きを張り付け、しかし震わせる声帯もなく。声なき悲鳴を上げる。肉が地に落ちた、湿った音は何を示すのか。悲しみか、警告か。

 煌煌と燃える松明は、ただその場に残った肉塊のみを照らす。

 

 スバルは、もう、そこにはいなかった。

 

 

 

 スバルが向かった先は大人の集まる広場の中央。

 気配を消し、念の為として身体強化を掛けて屋根の上に昇る。

 できる限りの音を消し。服の擦れ、空気の揺らぎを最小限に。

 魔術回路の駆動を限界まで上げ、生命力を減らして自然と同化させる。

 生成した魔力を使って、認識を逸らす暗示を纏う。

 

 そして、息を殺して耳を澄ます。

 

 彼らの会話を、聞くために。

 

 「……なるほど、子供たちはみんな寝ていると。居なくなった子らも、寝ていると思うべきだろうかの」

 

 周囲に十人近くが集まる広場で、最も近くで話す二人に聞き耳を立てた。それ以外の話し声は意図して遮断し、内容の把握に努める。

 話しているのは背筋の伸びた老人と、まだまだ若い女性。

 その顔はどちらも憂いを湛え、しかし空を見上げる老人と、地に目をやる女性は対照的に過ぎた。

 辺りに燃える松明は自身の細やかな気配隠蔽を助ける。その火の揺らぎが、魔術の不定さを手助けするからだ。

 だから、老人に見つかる心配はない。

 

 「ええ……でも、その」

 

 「ん? どうした。言ってみると良い」

 

 「あの、その……家の子なんですが、その、静かなんです」

 

 「ふむ、それは良いこと……というわけではないのだな」

 

 「はい」

 

 そういえば、これだけ騒がしくしていても子供が起きる気配がない。

 いや、此方としても助かるのだが、これは少しおかしいとも思う。

 続けて、脳内の推測を組み立てながら話を追う。

 

 「それでですね、冷たいんですよ」

 

 暫く思考に耽っている間、大事な所でも聞き逃したのか。

 何故いきなり冷たいのどうこうの話になる? 年頃の男の子なら普通だろう?

 

 「ほぉ、病気ではないのだな」

 

 「はい。額を触っても、まるで死人のようで。でも、息はしてるんです。ほんとに、耳を澄まさないと聞こえないくらいですけど……」

 

 ん? 体調の話だったか。

 

 それから暫く話を聞くも、どうにも有益な話は聞けそうになかったのでその場を離れることにした。

 後に残った肉の山は綺麗に隅に片づけることを忘れない。他の人の邪魔になるからね。

 首を掻っ切れば声を出せない、という点ではみんな素直でいい子だった。

 

 顔に浴びた返り血を袖で拭いながら、血塗れの手をぱっぱと払った。

 辺りに飛び散ったそれらは、夜の暗さに紛れて見えなくなる。

 

 そうして、てくてくと一人夜道を行くが、どうにもしこりがある。

 さっきの会話はどうにも気にかかるのだ。

 だから、離れるついでにそこらの家で、寝ついている子供を探すことにした。

 

 「ん、此処か?」

 

 三件目でようやく、人の気配がする家屋を見つけた。

 ドアを開け、部屋に入り、寝室であるだろう部屋を覗くと――――――

 

 「――――――っ!」

 

 見た瞬間に理解する。

 唯一毛布からはみ出た顔を見るだけでも理解できる以上。

 死の線が複雑に絡み合い、更に深く根を張る姿はまさに重病患者のごとき衰弱で。

 でも、重病患者特有の息の荒さは無い。唯寝込むように、死に落ちていく。

 

 それは、「呪い」と呼ばれるものを受けた友人の姿に似ている。

 

 ああ、そうだ。失念していた。長らく単独で探索していたから、全く気を配っていなかった。

 子供に近づき、その頬を撫でる。生意気な髪形は、恐らくいつも自分の背中に昇りたがる彼だ。

 死の線をなぞらない様に気を付けながら、呪いをしかと見つめる。感染経路は体内深くのようで、これを取り除くのは少々手間だ。呪いを表面化させるために、幾らか面倒な手順を踏む必要がある。

 儀式のための準備が足りないし、道具も材料もない。死の線をなぞるにしても、此処まで深いと命脈ごと絶ってしまいそうだ。

 ……いや、別にいいのか?

 

 いやいや、ちゃんと起きてるときじゃないと伝わらないだろう。まずは起こさないといけないのだ。じゃないと、好意は伝わらない。まあ、こんな夜更けに来るこぅちも悪いのだが。

 それはさておき、逆に言えば感染したて、つまり呪いが表面にある時は死の線をなぞるだけで解決するのだが……もしもの話でしかないのだ。

 

 仕方ない。館の方に行けば、儀式に必要な材料や道具があるかもしれない。

 最悪でも、代用品が見つかればいい。道具はある程度、投影(グラデーション・エア)で代用できる。

 壊れやすいからあまり使いたくはないが……仕方ない。

 

 では、館に戻るとしよう。

 

 

 

 それは虐殺というには穏やかに過ぎ、屠殺というには感情に溢れた殺戮であった。

 眠るように痛みなく、目をつむるように自然に。それでいて、別れを告げる恐怖を持って。

 

 突如として村を襲い、後に無数の肉の山のみを残した殺人鬼は、高笑いもなく、静かに笑みを湛えて(ねぐら)へ帰る。

 それは正に、死神であった。

 

 

 

 館に着いたとき、来るときは閉じたはずの玄関が開いているのが見えた。きっと、何人かで攫われた子供たちの捜索に来たのだろう。勘違いなんだけれどね。

 滑稽だな。なんつって。

 王都で色々推理していた俺を誰かが見ていたのだとしたら、こんな気分だったのだろうか。うわー、今更だけど恥ずかしー!

 

 ま、そんなことはさておこう。

 館に残っているのは、確かラムとベアトリスのみだったはずだ。村に行くときに確認しなかったが、寝ていたりするのかな? それなら明日の朝に出直すことにするけど。

 ああ、その前にお客さんに対応しなくちゃな。

 

 玄関ホールには複数の足跡。土が点々と残るそれを辿り、幾つかの部屋を経由した後に二階への階段へ着いた。

 どうやら二階に上がったらしい。降りた形跡が無いから、きっとまだ二階にいるのだろう。

 

 あ、そういやエミリアがまだ廊下で寝てるんだった!

 やべぇ、エミリアたんの寝顔は俺のもの! なんて言わなくても、他の奴に見せたくはないんだよな。

 うーん、やっちまったなぁ。

 

 今からでも毛布を掛けに行くか?

 何ならこの上着でも掛けるか。濡れてるけど。

 でも毛布の置き場とか知らねぇんだよなぁ……バスタオルもそこまで大きくないし。

 

 うーん。と悩みながら階段を上がり、二階に到着。

 コツ、コツ、と足音を絨毯に吸い込ませながらまっすぐ進み、右に折れる角を目指す。

 赤い絨毯を歩くなんてことはそうそうない経験だが、実際のところ、割と薄いものだな。

 それがここでバイトした中での一番の発見かもしれない。もちろん、エミリアの事を除いて、だけど。

 

 そうして時間もかからず。曲がり角を曲がろうというとき。

 曲がり角の先から、声が聞こえる。

 

 「おい、あのガキやべぇぞ!」

 

 「え、エミリア様……くそっ、あんの糞坊主!」

 

 「ああ、なんて、惨い。ああ……」

 

 三人か。三人も見られたのか。

 ああ、残念だなぁ。

 

 そこはエミリアが崩れ落ちた場所で、パックの消滅した場所でもある。

 覗き込んでみれば、そこには三人の麻のような材質の服を着た男たちが、顔を抑え、握り拳を震わせ、膝を突いてエミリアを半円状に囲んでいた。

 その位置からは俺の事が見えず、彼らは俺に未だ気付かない。

 

 だからだ。一つ、悪戯を仕掛けようと思った。

 

 足音を殺し、両手で顔を覆う男と床に膝と拳をついて俯く男の間の、立ってエミリアを見下す男の後ろに忍び寄る。

 掠れた呼気が一度大きく響き、言葉が零すように捻り出された。

 

 「こんなの。こんなの、人のやる事じゃねぇよ……! あの化け物め!」

 

 一呼吸。

 

 「心外だなぁ。それは

 

 「っ!!!」

 

 「あ゛あ゛あ゛あ゛!!!! で、出やカヒュ」

 

 「ヒィィィィ!!!」

 

 おお、良い反応だ。

 にんまりと笑顔を浮かべて、ホラー演出した甲斐がある。

 だが少しやりすぎたかもしれないな。うん、謝ろう。

 

 声をかける前に間をおいて、意識の隙間を突くように肩に置いていた手を動かす。

 小指は腕を切り落とし、人差し指で首を。

 右手で撫でるように腹をなぞり、裂かれた腹から腹圧で飛び出る臓物を避ける。

 そして、倒れ伏す前に四肢を分解し、意識を失う前にその顔を断ち切り、鼓動を失う前に胴を薙ぐ。

 

 

 ほら、ばーらばら♪

 

 十と八つに、ばぁらばら♪

 

 

 

 「ふぅ、エミリアたんの方はこれで良し、と」

 

 エミリアを近くの部屋のベットに並べ、改めて三人分の肉を見る。

 

 「んー、みんな一緒の方が良いよなぁ」

 

 だから、村まで運ぼうか。

 

 適当に絨毯の一部を切り取って、ソリの様にして館から運び出す。

 階段のところが一番苦労したが、坂まで来ればもう大丈夫だ。幾らか零れたが……まあ、大丈夫だろ。あとはただ、歩くだけでいい。

 

 坂を下る道は、いつぞやの買い物の時を思い出す。

 隣には同僚がおらず、迎えに出てくれる餓鬼どももいないというのは、少し違ったことだろうが。

 

 あ、そういやラムとベアトリスはどこ行ったんだろ。屋敷の中では見かけなかったんだよなぁ……

 専用の寝室にもいないし、禁書庫の術式はどこにも見当たらないし。

 

 やっぱ遠出したのかな? 十五の夜に反抗でもしたかったのかな? や、ラムが十五かどうかなんて知らんけど。

 盗んだ扉渡りで駆けだして、どっかに職務放棄しに行ったのだろうか。ベアトリスは着きそい? 意外と仲が良いんだな、あの二人。羨ましい。

 

 はは、ま、三人の運搬はここらへんでいいか。そう思って、だいぶ重みの減った絨毯を村の入り口に放置する。

 後は起き始めた餓鬼たちに挨拶だな。

 

 ノックして、もしもーし。

 

 ……ん? 返事が無いな?

 おかしい。入ってみよう。

 

 んー、寝室はここか。

 どれどれ、まだぐっすり……

 

 こいつ、死んでやがる。

 

 触れた肌は冷たく、死後硬直で硬くなっていた。

 見える線には生物特有の揺らぎが見えず、物特有の直線しかない。

 それは即ち、()()がもう、()()()()()こと。

 

 「は」

 

 口端が吊り上がる。

 

 ああ、こんなにあっさり死んじまったのかと。なんて、寂しく死んでんだろうかと。

 

 「はは」

 

 深夜テンションで思考が可笑しいぜ。無性に笑えて来る。

 ああ、何が可笑しんだ? 分かんねぇよ。面白いんだよ。

 

 はっ、ははっ。

 

 ああ、アハハ、あはははは。

 

 「かはっ、ハハハハハ!!」

 

 見上げた目に眩しく光を感じた。

 

 夜明けであった。

 

 

 

 

 

 

 日も登り始めた森の向こう。スバルの目の先に一人の人影が現れた。

 それは森の中を歩いてくる。向かう先はスバルの方。即ち、村の方向。

 

 道ではない所を行くあたり、森歩きに自信があるんだろうな。

 

 その見た目を上げるなら、正によくわからない、というしかない。

 フードに肩掛け。気品のある出で立ちながら、森の中を歩いた服に傷は見えない。足取りはゆったりと、しかし着実に。

 荷物は見えないが、旅人だろうか? 胸部の膨らみから、恐らく女性であると判断がつく。顔を覆うフードから零れ出る銀髪は、誰かを想起させる呼び水で。

 

 

 

 ズキリ、と。左手の甲が痛む。

 

 「――――――ぁ」

 

 思い出す。

 それは、男と女の会話。契約の文言。

 

 

 

 『汝の身は我が下に。我が命運は汝の■に。聖杯の寄る辺に従い、この意、この理に従うならば応えよ』

 

 『――――――の名に受けて、誓いを受けましょう』

 

 

 

 「ああ、思い、出した」

 

 掘り返した記憶に、スバルはひとりでに笑みをこぼした。

 ああ、そうか、それなら大丈夫だ。

 

 「あは」

 

 安心した。

 

 「あはははっ!」

 

 まだ救いはあった。

 

 「あははははははははは!!!!!!! ハハハ――――――」

 

 その笑いを止めたのは、己が己の喉に振った短剣だった。

 

 

 

 後は唯、ひゅるりと木立が響くのみ。

 

 そこに人影は無く。当然、女の姿も消え失せていた。

 

 

 

 そして、世界は――――――




――――――あっははははははははハッハはははははははははっははははははははははははははははははははははははははははっははははハハハはははははっはははははははははははははっははははハハハはっははははははははははははははははははははははははははっはははははははははっはははははははハハハハッハははははははははははははははっははははは!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
はは、は……
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