菜月スバルに直死の魔眼とか色々組み込んでみた。 作:繭原杏(繭原安理)
それは本当に時計か?
――――――いや、違う。目だ。目が、遡っている。記録を遡り、記憶を巻き戻し、世界を逆行させる「観測」がある。
「観測」に、「測定」された時間が進む――――――
それは、世界の隙間。連続するはずの時空間の、あり得べからざる断章。
小さな小さな、隙間の時間。
カチ、コチ、カチ、コチ、と。
音無く進む秒針に、意識に輪郭をもたらされる。
未だに
ここには脅威も恐怖も、狂気もない。
心地よい微睡みの淵で、声に起こされる。
――――――愛してる。
女の声がする。
空気を震わせず、脳を震わせる声がする。
聞き覚えが無い、しかし
まるでエミリアの様な、ガラスのように脆い声。
そっと、瞼を開く。
瞼はそこにあるのだろうか。遮るべき光もなく、防ぐ風もない此処で。
果たして、開いた瞼はあったのか。
辺りを見回す。
そこは黒一色の世界。
スバルともう一人の女がいる。そんな世界。
天もなく地もなく、壁もなく荒野もなく。
何もないような、黒一色の世界。狭間の世界。
黒という概念すら怪しい、ともすれば白なのではないかと思うほど突き抜けた、「無」の色彩。
そこは逢瀬の場であり、また、俺が唯一本音を心置きなく吐ける場である。
最後の最後で全てを思い出したスバルは、そう感じた。
愛してると、女が言う。
銀髪の、エミリアのような女だ。
以前見た時よりも見辛く、どうにも認識し難い。
それでも、その惜しみない執着は伝わった。だから、俺はその愛に応えたいと思った。
思い返す。
肉体が消え、理性のみが楔となる空間で思いを馳せる。
この世界は可笑しい所だらけだ。幾ら怪異に慣れたからと言って、それらの創り出す、或いは産み出す異界とはわけが違う。まるで本物の世界を下敷きに、新しく世界を作り上げたような、そんな自然でありながら違和感のある世界だ。いつも住む世界と同じながら、何処か捻じ曲がった世界だった。
決して、人の思念のようにあやふやで定まりの無い、親しみのある恐怖の世界ではない。
それが異世界だ、と言われれば、反論のしようがない。しかし、自身の体調の変化まであったとなれば、それはもう、異世界だからというだけではないのだろうと思う。
あの殺戮衝動には覚えがある。怪異、魔の物、この世に居てはいけない人ならざるモノを相手にした時の殺戮欲求の、その何倍も薄い感じ。
エミリアたちは人ではないのだろうか。いや、基準を俺の世界の人に置くのなら、異世界の住民は確かに人とは言えないのだろうが。そうではない、気がする。
違和感がひどい。今更だが、魔術回路も疲労しきっている。それでも普段通りのパフォーマンスができたのは。いや、普段以上のパフォーマンスができたのは、明らかな異常だ。この世界に来て以来、身体機能が可笑しい。
まるで、今まで着けていた枷を外したように、一段上の力が手に入っている。
それに文句は無い。むしろ、この後の目的を思えば、誘拐犯とは一応目的が一致していると言えなくもない。
だが、訳の分からない好調は理不尽な不調よりも気味が悪い。
それに慣れると、足元を掬われる気がする。それは気のせいなのだろうか。
だからと言って心当たりもないのだから、放っておくしかないのだが。
それは兎も角。そんなことはさておき。
眼前に遠い、銀の乙女を基準にして、世界を見回す。
世界は暗く、黒く、そして終わっていた。
だが、何故暗いとわかるのか。
何故、眼前の乙女を認識できるのか。
見まわす間に、答えを得た。此処には幽かながら、存在があるのだ。
蛍火よりも微かで、細やかな粒。例えるならば、物理の教科書に載っていそうな原子の拡大図のそれ。
元素、とでも呼称すべきもの。
それらは何処か一点。渦を巻いて、俺の後ろに集っていく。
向かい風の様な波が、心地よさの原因なのだろう。
ぼんやりとそれらを眺め、疑問を浮かべる。
自分は、何故ここまでこの空間で意識を保てているのか。
何故自分はエミリアを殺したのか。
世界に感じる違和感。絶えない殺意。どうにも同じ人に見えない、異世界の住民。
……どれも、答えが喉元まで出かかっている。
既に答えを出す材料はそろっている。
そんな気がする。
ああ、そもそもの話。
何故俺は、死に戻れるのだろうか。
俺は本当に、死に戻っているのだろうか。
俺にはそんな異能は無かった。それは確かだ。
なら、この現象は他者手によるものだろう。
誘拐犯なら、俺を死なせたくないわけも分かる。
だが、こんな死者蘇生みたいな、魔法の様な現象がそうそう簡単にできるのか?
抑止力の修正はどうなっているんだ。
そもそもの話、何故、俺なんだ?
そういえば。
先ほど、此処は何処だろうと思った。俺はどうなっているのかと、訝しんだ。
その疑問が、一つの事実を知らせてくれた。
しかし動揺は少ない。納得のみがある。
成程。成程。
肉体が無いから、血に刻まれた衝動もないのか。
さっきまでの狂気は、全部消滅した肉体が引き受けてくれたのかと。
そう納得したのだ。
納得。それで、先ほどまでの狂気には折り合いをつけた。
後は、思い出した「彼女」の事だ。
かつて原初の地獄、第二の母胎が堕ちたあの町。
冬を冠する、慈しむべき後輩と、敬うべき先達と、笑いあう同類の居る街。
冬木での、一連の騒動を。
――――――それは、正に冬の最中である。
年を明け、幾ばくもない。
今にも雪が降らんばかりの極寒の夜空。街灯の明かりの照らすは白霧の吐息。
そして、月を落としたような銀髪の女。
点々と灯る街灯の、それが落とす光の
呆けた俺を呼び覚ましたのは痛みだった。暫く俺の不安を煽っていた、傷跡のような痣。皮膚に浮かぶ霊印。
莫大な魔力を感じさせる神秘の濃縮物。それは、三流といえど魔術師の端くれである俺を振るいあがらせるのに足る、異常な生産物。明らかに誰かの手を加えられている、何らかの力の塊。パスは感じれど一向に呪われることが無かったので放置していたのだが、彼女が何か関係しているのだろうか。
いや、間違いなくしているのだろう。
それが不意に痛み、それと同時に女が顔を上げた。まるで、霊印が女に呼応するように。
そして、それを見たからか、彼女は息絶え絶えといった感じで、俺に助けを求めた。息絶え絶えながらも、俺に救いを見出した。
俺は、助けるべきだと思った。こんなところで死なせるのは忍びないからか。まだ、手を尽くす余地があるからか。
そう。
俺は、
傲慢であろう。思い上がりであろう。
しかし俺は、俺には彼女を助けられると、格上の存在を救えると確信していたのだ。
そして、彼女の指示に従い、魔力の供給を担って、彼女の生命線に成り代わった。
彼女が言うには、彼女は
ピンとくるものではなかった。
普段からメリーさんだの、妖精眼所持者だのと関わってきたが、それらは所詮、神秘の薄れに薄れた現代に適応した、敗北者にして取り残された幻想。弱者にして、行き場を持たない哀れな空想。霞の様に不確かな、刹那の朧に生きるモノたち。
だからこそ、彼女のような勝者について、歴史に認められた英雄について、ピンとこなかった。
それが過ちだったのだろうか。
ロクに理解できないものと、心構え無く、意識無く関わったから。
その結果が、裏切りだったのだ。
前兆は無かった。ああ、全くなかったのだ。
出会ったその日から、自身の家に招き入れて寝食を共にした。それなりに話し合い、仲もよくなったと思った。
友人を訪ねたり、霊地を回って工房の予定地を探したりした。
その最中、冬木に誘拐犯が現れるという噂を聞いた。
時期は今月初頭。攫われた被害者は、一向に見つからない。被害者の共通点は弱いという事ぐらいだ。傾向として女子が多かったが、男がいないわけではない。
やりそうな友人に聞いては見たが、本人はやっていなかった。なら別の誰かがやったのだろう。あいつのニヤニヤ笑いが気に成ったが、そんな場合ではなかった。自分の身内が被害にあうかもしれないのだ。彼女の提案もあり、誘拐犯を探すことに決めた。
被害の時間帯は夜に集中しているらしかった。
だから、夜の冬木を駆けずり回ったわけだ。
駆けて駆けて駆けずり回って。ふと単独行動をとったときに、俺はそれを見つけた。
蹲る一般人に覆いかぶさり、その生命を吸い取る彼女の姿を。
それから、俺らは口論となり、そして俺は彼女に裏切られた。
あの一般人はどうなったのか。少なくとも、死んではいないようだった。
はっ、笑っちまうなぁ。
「怪異喰らい」なんてちやほやされて、思いあがってたのか。
人外は、人の手に負えないから人外なんだってことを忘れていた。
そろそろ時間が来る。
もう、此処にはいられない。
俺は時間が来たからと思索を止めた。
不吉な種への思いを断ち切り、不安の種を未来に送り。
先に押しつけ、幸を望む。
時間が解決してくれると。そう、切に願って。
追い風が背を押し、世界が生まれ、色彩が劣化していく。
人の認識に合わされ、人の基準にずらされ、調整される。
いつの間にか、エミリアに似た女は消えていた。
いつの間にか、瞼が光を遮っていた。
いつの間にか、体を取り戻していた。
そして、絹の手触り、かすかな重み、人の吐息と太陽の光を感じ、俺は目を覚ます。
自身の思考を、型に入れて。
さァ、
――――――
――――――それは隙間に浮かんだ儚い雪片。淡い記憶の、その一節。
銀の乙女の、出会いの話。
その髪は絶望を焼き付けたように黒く、瞳は虚ろで、その顔は死人の肌のように蒼白だった。
貼り付けた笑みですら不釣り合いで、言葉も交わさない内から、きっと陰気で退廃的な
それは
そして、
訳が分からない。何故、初対面の筈の相手にそんなことができるのか。
私は彼が分からない。
でも、一つだけ理解できることがあった。
その時に浮かべていた笑みは凄惨で、疲れの混じったような嘲笑のようで。
泣き掛けの迷子の様にも、漸く悲願を叶えた敗残者のようでもあって。
でも、それが一番似合っていたのだ。
まるで絵画のように。どこまでも、記憶に焼き付く鮮明さで。
だから私は、あれが
そして私は、
それほどまでに、その姿は未だに鮮烈で。
ああ。
――――――
「……変な夢」
少女は目を擦り、その残滓を振り払う。
「あっ! もうこんな時間? そろそろスバルも起きてるころかも!」
その意味を、知りもせず。
推薦に落ちるより、fgoで爆死する方がショックだと実感した今日この頃。
でも慣れればどっちも気持ちいいよね。
この章も折り返し地点を過ぎて後半、物語がようやく激しく動き出すでしょう。
ま、しばらくはまた無双の無い、ほのぼの()時空ですが。
おっとタイプミス。まぁいいか。()くらいは。
あ、ボックスイベのせいで、更新が滞る可能性があります。
頑張りますが。頑張りはしますが。
……皆様は、何周するので?
【見返して思ったこと】
……あれ? これリゼロの二次創作だったよな? FGOの記念しか祝ってなくね?
アニメ化とか、リゼロス配信祝って無くね?
……ま、いいか! 実質型月原作みたいなもんだし!
第■■はだいぶ型月味薄いけど!
2020/ 9/23 21:50
元々予定していたアンケートの取り下げを忘れておりました。大変申し訳ございませんでした。
【夢】
それは彼女の夢。
■■■■の、夢である。
それが何を指し示すのか。それはまだ、先の事。
【水銀灯】
下に立っていると、顔色が悪く見える。
そういう説もある。