菜月スバルに直死の魔眼とか色々組み込んでみた。   作:繭原杏(繭原安理)

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「Fate/Grand Order -神聖円卓領域キャメロット-」上映記念&「Fate/Grand Order THE STAGE -冠位時間神殿ソロモン-」公開記念 「夜空に挑む」

 空には無数の星々。そして、悍ましいほどの力が滞留する円環。

 一見肥えた緑の山々は、しかしその実、人の生存に厳しい。

 惑わし、飢えさせ、そして襲わせ。

 山には、無数の脅威がある。

 毒、獣、崖などは言うにも及ばず。その乱立した木々は方向感覚を乱し、天然の迷宮を生み出している。

 

 だが、もしもの話だ。

 

 もしも、このような森に住み着けるような人がいるならば、彼らはきっと莫大な恩恵を受ける。

 強壮な獣は肉に。その毛皮は寒さを凌ぐ衣に。乱立する木々は外部の手を払いのける隔壁に。

 森は厳しい。しかして、森は母の様に慈愛に満ちていた。

 

 ここは第六特異点。

 第九次十字軍が終了し、エルサレム王国が地上から姿を消した直後の時期。

 1273年のイスラエル。そこには、多くの人々の信仰の寄る辺となる聖地があった。  ユダヤ教、キリスト教、イスラム教。三つの異なる宗教において、いずれからも重要視される聖市。

 ソレが、聖地エルサレムである。

 

 第六の特異点はなんてことない。十字軍遠征の成否が変更されたのみ。

 イレギュラーは、そこに二人の王が介入してしまったことだ。

 

 聖杯を所持するオジマンディアス。偉大なるファラオ。砂漠領域の支配者。

 聖槍を所持するロンゴミニアド。女神になり果てた王。名ばかりの神聖を謳う円卓の獅子王。

 

 そして、そのいずれにも属さぬ矮小な第三勢力。

 聖務を抱えた山の翁。それは歴史の影に隠れた暗殺者。無数の影となり、無数の異端を屠った理念持つ殺し屋。

 彼らは王を抱かず、ただ抗うのみ。

 ああ、それで何故彼らに勝てようか。

 

 山の翁らは、迫りくる破滅を遠ざけることしかできない。

 いつか来る救いを求めて、今を絶え凌ぐ。

 

 そして、星見の台から希望が降り立った。

 

 反旗を翻す。獅子王を誅す。

 これは、まだ聖都に攻め込む前の事。

 

 

 

 

 

 

 「んー、やっぱどこにいても、夜空はきれいだな」

 

 スバルは崖淵に腰掛け、夜空を仰いでいた。

 標高故に凍えるような寒さがある。身を縮こませ、しかしそれでも目は空に。

 そんなスバルのそばに、人影。

 

 「スバル殿。お体を冷やされますぞ」

 

 「……ああ、ハサンさんか」

 

 苦々しさの混じった顔で、スバルは振り返る。

 

 「妙な気分だ。一度俺を殺したあんたと、こうして肩を並べるのは」

 

 「ははは、あの時の事はお忘れください」

 

 「いやいや、無理だろ。すっげぇ怖かったんだぞ」

 

 まあ、ここにきて案外優しいと知ったのだが。

 彼の素に触れたとき、スバルは二重人格を疑った。それほどまでに彼は優しく、しかして仕事の最中は冷徹である。人が変わったように。

 それも暗殺者の才能か。スバルは、呪腕のハサンへの恐怖は持っていない。苦々しさも、地震(自身)へ向けられたものだ。

 長くないふれあいの中、それでもスバルは呪腕の人の好さを理解していた。恐怖は転じて、畏敬へと相成った。

 

 ティタンの腕。

 「呪腕」の名を冠する要因であるその腕は、一目見ただけで彼本来のものではないのがわかる。その腕だけが異様に線が少なく、彼の体には常人以上に死の線が刻まれているからだ。

 スバルは、彼が歴代のハサンの中で――少なくとも、スバルがあってきた中で――唯一、暗殺者としての素質を持たなかったものだと見ている。

 

 静謐のハサンは毒。百貌のハサンは完璧な多重人格。

 どれも異常な特異性を持ち合わせる中、唯一「呪腕」だけは後天性のものであった。

 

 何を思って、彼はその腕を手に入れたのか。彼はハサンとなって何を手に入れたのか。今は後悔してないのか。

 スバルはそう聞こうとして、思いとどまった。

 無粋。故に、スバルは聞かない。

 

 その体捌きを見れば、彼が如何に辛苦したのかが見て取れる。

 無論、他のハサンが素質だけで成り上がったわけではないことなど百も承知。だけれど、彼らには素質があったのだ。

 なるべくしてハサンになった者たちの中、外道を用いてでもハサンになったからには、何かわけがあるのだろう。少なくとも、その名は思い付きで得られるほど軽くないのだから。

 スバルは思いを馳せた。

 

 目の前の彼は、敬意を払うに値する偉業を打ち立てた英霊であると。

 そういうものだと知っていた。知っててはいたのだ。

 だが、実感として()()のは、彼相手が初めてだった。

 

 「……なあ、ハサン」

 

 「なんですか」

 

 スバルは、少し躊躇して、でも踏ん切りをつけるように言った。

 

 「お前は、苦しくないのか」

 

 スバルは、呪腕を自分に重ねていた。

 かつて、素質もなく足掻いていた頃の事を。父に執着し、弟に追い越されるのを憎みながらも研鑽していた日々を。

 

 呪腕は俺だ。あの日、家出せずに屋敷にいただろう俺だ。

 名前を捨てずに、この目を手に入れた俺なのだ。

 

 スバルはそう感じていた。

 

 「苦しい、ですか」

 

 呪腕はスバルの横に座り、同じように空を見上げた。

 地上に住まう命の様に、微かなれど爛々と光り輝く夜空の針孔。暗殺者として、その幾らを宙の間の黒に還してきたことか。

 呪腕は自身の半生を思い返し、独白するように答えた。

 

 「辛いことはありました。沢山、ありました」

 

 初めて人を殺した日。大好きだった肉を食えず、吐き出した。独特な抵抗が手に残り、震えるように腕を抱えて、藁の寝床に逃げ込んだ。

 

 「苦しいこともありました。沢山、ありました」

 

 自身の片腕を切り捨て、悪魔の腕を移植する。自身の存在を欠けさせる行為には多大な痛みと、何よりも大きな喪失感があった。

 切り落とされた自身に腕を見て、もう二度と繋がらないそれが、何処か眩しく感じた。

 

 「泣きたくなることがありました。狂いそうなこともありました」

 

 自分が何をしているのが分からなくなった。ただひたすらに殺し、殺して、殺し続けて。

 理念に従って殺しているはずなのに、その理念すら見失っていた。

 

 「ええ、苦しいですよ。とても苦しい」

 

 呪腕は、自身の半生をそう締め括る。

 スバルはそれに納得して、その死骨の仮面から目を外した。

 

 「けれど」

 

 「……」

 

 まだ、何かあるのか。

 スバルは再びその横顔に目を戻し、話を促す。

 

 「けれども、私は――」

 

 

 

 

 

 

 「――ん? ……ああ、夢か」

 

 スバルは目を覚ます。第七特異点を越え、ほんの僅かな休みを得た後、来る終局特異点に突入するためだ。

 戦力は貧困。本当にあのビーストに敵うのか。千里眼を所持するスバルとて、それは疑わしい未来図である。

 

 だけど、スバルは見てきた。

 困難を乗り越え、逆境を覆し、まるで英雄のように歩いていく人の歩みを。

 それは眩しく、かつての自分が望んだ姿のようでもある。

 

 ――ああ、これが、人間か。

 

 スバルは思った。やはり、人は美しいと。人間の生き様は、その歩みは、やはり美しいのだと。

 目を細めて、スバルは人類最後の希望を眺めてきた。

 

 不可能だと思った。無謀だと思った。盲を見ている気分だった。

 それでも、全てが終わった時に、スバルは気付かされた。

 何も見えていないのは、自分の方だと。

 

 間違いである。人の輝きは、可能性は、そんな矮小な物差しで測れるほど貧困ではない。

 それこそが、英雄王が人に価値を見出したわけであり、彼が至高の財と称した理由であり、スバルが愛した輝きである。

 

 ならばもう、恐れるべきものは無い。

 

 勝ち目はない? 手札が無い? 無茶だ?

 くだらない。その程度、余裕でひっくり返して見せよう。

 

 無理を通す。道理は引っ込んでろ。

 

 堂々と、そんな暴論を口にするように。

 王の凱旋の様にスバルは最後の戦場へと歩を向けた。

 

 

 

 「いいのかい、スバル。もう、戻っては来れないんだよ」

 

 友人がすれ違いざまに声をかける。ロマニ・アーキマン。魔術王であった、唯の人間だ。

 スバルは振り返り、その隙にロマニは続ける。

 

 「あそこへ行くということは、終点に着くと言うことだ。この戦いで勝とうが、或いは負けようが、君はもう人ではいられない。もう、戻ってこれない」

 

 「構わねぇよ」

 

 スバルは笑みを浮かべた。

 

 「――っ」

 

 ロマニは息を呑む。

 その悟ったような笑み(アルカイック・スマイル)には、生に疲れた老人の様な、或いは悟りを開いた僧侶の様な穏やかさと威厳が立ち込めて居た。

 だが、怯まない。ここで退いたら駄目だということを知っているから。

 

 「彼女たちはどうするんだい。彼女たちとの再会の約束は、まだ果たされていない。彼女たちをほっぽり出してまで、君は行くのか?」

 

 「む、それは、その」

 

 スバルは決まり悪げに頭を掻いた。

 ここだ。ロマニは一層力を込めて、スバルを説得しようとする。

 

 「君が行く必要はない。立香君もいるし、僕もいる。また此処に来れるように手回しもする。戴冠は、玉座に着くのはまだ先でもいいじゃないか」

 

 ここに残れ。ロマニはそう言っていた。

 指揮官にあるまじき言葉。しかし、それはこの先を知っているものが友人にかけるものとして、至極まっとうな言葉だ。

 

 「……いや、行くよ、俺は」

 

 「スバルっ!」

 

 スバルは首を振り、引き留めるロマンに否を突き付ける。

 

 「君は、それでいいのかっ!」

 

 「いや、きっとよくない」

 

 「ならっ!」

 

 「でもな、()()()

 

 スバルは、ロマンと呼んだ。

 王としての名前でも、人としての識別名でもなく。彼のカルデアでのあだ名で。

 親しい友人に語り掛けた。

 

 「きっと、この選択に苦しむ日が来る。彼女たちを苦しめることになく日もあるだろう

 

 新しい幸せがあるだろう。だけれど、付き纏う空虚さもあるだろう。

 

 苦しみも、悲しみも、全てかくして立ち上がり続けないといけない。

 

 この先は茨の道だ。そんなことは知っている」

 

 スバルは、そういって一区切り入れた。

 

 「それでも、俺は――――――」

 

 思い出すのは、第六特異点の記憶。あの時に聞いた、夜空の下の独白。

 

 『けれども、私は――――――』

 

 

 

 

 

 

 「『――――――後悔だけはしないと、胸を張る』」

 

 

 

 「――っはは。まるで、英雄じゃないか」

 

 ()()()は誇るべき友人の背中に向けて、そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これより挑むは終局の地。冠位魔術師の固有結界。ソロモンの時間神殿。

 極点の流星雨に照らされる道は二つ。

 

 未来へ続く希望の人。

 終局へ続く切望の■。

 

 星々の煌めく地で、道は分かたれる。

 

 けれど、きっと。

 

 

 

 「立香。もういいのか」

 

 「ああ。スバルも大丈夫そうだな」

 

 「マシュ・キリエライト。体調は万全です」

 

 「そうか、それは何よりだな」

 

 「はいっ」

 

 これより挑むは終局の地。最初の獣。

 魔術を統べる王の似姿。最後の敵。

 

 「じゃあ」

 

 「うん」

 

 「ええ」

 

 背に負うは連綿と繋がれた人の航海図。味方するは流星雨。

 

 「「「――」」」

 

 息を吸い込み、先の見えない黒に踏み出す。

 それは何時か見た宙の合間。「死」にも似た純黒。

 しかし、怯える事は無い。雪花の盾と、最後の希望と、極死の統べ手が居るのだから。

 

 決意は十分。気合は万端。

 

 

 

 それでは。

 

 

 

 これより――――――

 

 『行こう(グランドオーダー)――

 

 

 

 ――――――夜空へ挑む。

 

 ――世界を救いに!(実証を開始します!)




限られた生をもって死と断絶に立ち向かうもの。
終わりを知りながら、別れと出会いを繰り返すもの。
――輝かしい、星の瞬きのような刹那の旅路。

これを、愛と希望の物語と云う。
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