菜月スバルに直死の魔眼とか色々組み込んでみた。 作:繭原杏(繭原安理)
(やべぇよやべぇよ。これでもう殆ど書き貯めねぇよ……どうしよ?)
連投二つ目
「着いたっ! 盗品蔵!」
「ここが……」
「いやぁー! 俺有能じゃね?ね?」
「スバルがいなければ、もっと早くこれたと思うんだけど……」
「ええっ!? そりゃあないぜ!」
「ふぅーん。ことあるごとにうちのエミリアの背中に隠れたり、変な方向に逸れて道に迷ったのは誰だったけねぇ?」
「そ、それは、その……」
「……はぁ、悪意があるなら妨害工作だ、って納得いくのに。……ただ役に立たないだけの善意って、悪意より扱い難いのね」
「勉強になったねぇ」
「こんな時に知りたくはなかったわ……」
「あはは……」
気まずい。
日が暮れ始めた頃。
目の前に聳え立つのは、周りの廃屋と一線を画した大きさの廃屋。
昴が聞いた話では、此処の中でスラムの盗品が扱われているのだという。
しかも、中に入るためには暗号が必要で、それを間違えると厳つい巨人のような大男に頭をこん棒でグシャリ、されるそうだ。
運良く合図と暗号を聞き出せた昴は、湧き上がる高揚感を抱えながら、聞いた通りに扉を叩く。
……
…………?
おかしい。何の反応もない。何か間違えたか?
振り返らなくても、後ろの二人(一人と一体?)が冷たい目を向けてきているのが分かる。
「あっ、あっれー!? 合図は合ってるはずなんだけどなー!?」
「歩いてる間に忘れちゃったんじゃないでしょうね、スバルの鳥頭」
「うん! 随分と遠慮が無くなって嬉しい反面、ドスドス心に刺さるね!」
「ふぁ~。もう開けちゃえば? 見たところ、鍵も掛かってないみたいだし」
「……あれ? ほんとだ」
「ん? 本当だ……不用心すぎやしないか?」
眠そうなパックの声で気付く。
見ると、盗品蔵の扉は内側に少し開いていた。
これじゃあ、誰でも入って来放題じゃないか。盗品が更に盗まれるだろ。不用心だなぁ。
そう思いながら、昴は線に気を付けながらその扉を押し開ける。
ふわりと、蔵の中から流れ出す生暖かい風。それは明らかに人の発する体温で暖められた空気で、閉所特有の気の滅入りそうな空気だ。
間違いない。誰かいる。でも、何故こんなに不用心に?
そうだ、それよりも『徽章』とやらがまだ此処にあるか。
既に買い取られていたとすれば……それはとても面倒なことになるだろう。
そして、一歩踏み出そうとして、気付く。
何処か懐かしい、その『香り』に。
記憶の古傷を擽り、足が竦む。
「あ、あれ?」
「どうしたの?」
「いや、なんか……足が竦んで……」
「流石に盗賊の人だって、顔を合わせた直後に襲って来たりしないでしょ。私が開けるわよ」
サテラが昴の横を通り、その戸口を踏み越えようとする。
記憶が遡り、セピア色に褪せた見覚えの無い光景が脳裏を過ぎる。
暗い室内。持っているのは■物。前に立つ■■さ■。這い蹲って、■■■■■て、声を掛けられ、そして―――――
回想は一瞬。しかし、その一瞬の記憶が、その体を無意識に動かす。
「きゃっ!」
無意識の内にサテラの襟首を掴み、一緒に後退するように後ろに飛ぶ。
「けほっ、けほっ……いきなりなにし……! スバル?」
その際に尻もちを突いたサテラは、突然喉が絞まり、咳をしていた。
その原因である昴に文句を言おうと顔を上げ、彼の怯えに気づく。
「あ、ああ、何?」
「……どうしたの?」
理由は分からない。
ただただ恐怖と覚えのない鈍痛が体を襲い、覚えのない幻痛を再現してくる。
呼吸は乱れ、整えようとして深く息を吸い込もうとする。それは傍に居るサテラにも聞こえるくらい、大きな息だった。
アルコールの切れたアル中のように、ぶるぶると手足の先が震える。まるで、
何度でも繰り返そう。菜月昴は一般人である。
かつて魔術師の生まれではあったが、幼い頃にその家は途絶え、紆余曲折あって普通の家庭に養子として迎えられた。
それ以来、この年になるまで全く異常な事には出くわしたことが無い。ましてや、このような『死の恐怖』を感じるような感覚が刻まれることをした覚えなど、一切無い。
『恐怖』。
ただ得体のしれない恐怖が、覚えのない経験が、昴に『この奥はヤバイ』と告げる。
「なんか、ヤバイ……」
そこまで呟いて、ようやく思い至る。先ほどから「盗品蔵」の奥から漂う、この『匂い』に。
鉄錆を思わせる匂い。子供の頃に怪我したりで散々嗅いだ、あの匂い。
「血の香りだ……」
「……ほんとだ。何があったんだろう……」
やがて、サテラもその匂いに気づいたのだろう。先ほどとは変わって、戦意を込めた目つきをする。
その時だった。
「あら、随分勘のいい子なのね。もう少し踏み込んできたら、恐怖無くあの世に送ってあげれたのに……不運ね」
高い、女性の声。辛うじて差し込む夕日の光で、その手にナイフが握られているのが分かる。
そのまま、暗い蔵の奥から歩み出てくる。
左手に、いや右手にも同じようなナイフ。刃の部分が「く」の字型に曲がっている。
「ククリ……?」
「へぇ、物知りなのね。坊や」
ククリ。ククリ刀とも、ククリナイフとも呼ばれる。生活に根ざした汎用大型刃物で、本来戦闘には向かない。理由は様々あるが、「扱いが難しい」というのが一番だろう。
しかし、「40人もの屈強な男達相手に、少女を守りながらククリ一本で救った男の話」があるように、決して扱えないものではなく、その上使用者が少ないから、戦いにくい武器ともいえる。
それを両手に一本ずつ。計二本。
余程腕に自信があるか、見掛け倒しか、それともただの
武器に目を向けさせ、集中が逸れたところを魔術で一撃。
そんな戦い方があることを、昔何処かで誰かに教えられた。のだろうか? 確信が持てない。
だが、恐らく腕に自信がある方なのだろう。両手に持ったククリの、その両方の刃に血糊がべっとりと付いている。
その女性が歩いて来る度に、息は荒くなる。しかしそれに反して足は引かない。むしろ前傾姿勢になっていく。
夕日の下に出てきたのが、ボン・キュッ・ボンの美人だからか?違う。
前後に開いた足は軽く爪先立ちになり、体を庇う様に手が前に構えられる。
誰に教えられたのかも覚えていない。無意識下の行動。それを見た名も知らぬ女性は少し笑う。
「へぇ、『腕に覚えあり』って感じ?やるじゃない、坊や。でも残念、そんなことしても痛いだけだし、その子を逃がそうとしても逃がしてあげないわよ」
そう言って、その女性は昴の斜め後ろに居るサテラに目を向ける。
「銀髪、ハーフエルフ……あらあら、まるでお伽話の『魔女』みたい。怖いわぁ、そんなに睨んじゃって」
余裕気に笑う女性は、ククリを左右に払って傘の雫を払う様に血振りをする。
血が飛び散り、地面を斑に染め上げる。
「切先を斜めにして流し落とす」、「切先が下がるようにする」という方法がある中、態々そんな隙の出来る方法を選んだということは、それだけ余裕という事だろう。
舐められてる。
強者の驕りか。いや、確かな実力への自信だ。
その女性のブレの無い体幹を見ても、如何に鍛錬を積んでいるかが分かる。
何より、その堂に入った構えが、その戦い方に完全に馴染んでいることを伺わせる。
「サテラ。逃げて、出来れば衛兵を呼んできてくれ」
「え、でも……」
「いいからっ!」
「何言ってるの? 逃がさないわよ。貴女が動いたその瞬間、この坊やを切り捨てて貴女も殺してあげるから」
「くっ!」
本当にそれができるだろうからこそ恐ろしい。正直、これほどの実力者の前でこれほど生き延びれているのも、奇跡なほどだ。単なる気まぐれ、それによって昴達の寿命は永らえている。
「にしても、『サテラ』、ねぇ……」
女性は何かその名前に覚えでもあるのか、昴が呼んだ『サテラ』という名を復唱する。
「ふふっ、本当に魔女みたいねぇ……ねぇ、そうでしょ?銀髪の貴女?」
とうとう、女性が完全に蔵の外へ出てくる。
獲物を嬲るように、ゆっくりと歩いてきたその動きも、止まる。
「あんた、名前は?」
そう言って、昴は時間を稼ごうとする。
「あら、ナンパ? ふふ、お姉さんはね、エルザっていうのよぉ」
そこで話が終わる。次の話題を探そうとする昴の後ろで、サテラが声を上げる。
「エルザ、『エルザ』!? まさか貴女、『腸狩りのエルザ』!?」
「あー、サテラ? 何その物騒な二つ名」
聞こえてきた内容に、浮かぶ冷汗が増える。
気づかぬ内に、服がしっとりとしてきている。
「知らないの? 賞金首よ、毎回腹を切り裂いて殺す殺人鬼!」
『サツジンキ』。
その言葉が、昴の心の何処かに触れる。
けれどそれは一瞬で、すぐに意識は目の前の現実に戻る。
「へぇー、随分とえげつない殺し方だこと。そんなことよりどっかのカフェでお茶飲まない? エスコートするよ? 俺」
「残念だけど、お茶より坊やの腸に興味があるかしら。見せてくれない?」
「やだね、死んじゃうじゃん。やだよ」
「そう、残念ね」
一息溜める。昴は身構える。
「――――――じゃあ、力づくで見せてもらいましょうか」
戦闘が始まった。
予め宣言しておきますが、昴君は志貴ではありません。
あ、もちろん「四季」でも「式」でもないよ?