菜月スバルに直死の魔眼とか色々組み込んでみた。 作:繭原杏(繭原安理)
――戦慄が走る。
その薄刃の殺気をいの一番に感じ取ったのは、魔獣だった。
人よりも本能に思考回路を根差すからか。死に直結する事柄に関しては、やはり人より勘が働く。その点が獣であり、魔とは異なるところだった。
思うよりも早く対応されたことで調子が出なかったのか。飛び出すなりの奇襲で最後方の一体を仕留め、次いで踏み込みもう一体。
そして死体の右端に動きを感じ、咄嗟に飛び退く。
左足から踏み出した足で、後方へ跳躍。当然勢いが乗るはずもなく、けれど一メートルほどは後退できた。
左腕を木が掠め、そして前方でガチンと歯を閉じた獣が滞空している。
右足で切り返して、前へ行けるだろうか。いや、無理だ。今から攻めようとすれば、着地して態勢を整えた魔獣に迎撃される。ここは左脇の木で攻撃方向を限定させつつ状況把握としよう。
魔獣が態勢を整えるまでの僅かな間に、チラリと戦場を見渡す。
――魔獣の数。十以上二十以下。詳細不明。
――レムの状態。メイド服各部が裂けている。掠り傷はあれど、行動に支障をきたすものは見当たらない。四方から攻撃されて辛そうだ。
――レムが守る子供。ニ人。茶髪と赤みのある金。何故此処に?
と、確認できたのはこれまで。視界の中央に此方へ唸る魔獣を収め、レムに聞く。
「そいつらはどうしたんだ、レム!?」
「森の中に遊びに来た子供たちのッ、逃げ遅れですっ!」
なんて間の悪い。せめて一日、いや、数時間でもずれていてくれればよかったものの。
チッ、舌打ちが出る。苛立ちは思うようにいかない感情から零れている。すぐに
目的は魔獣の殲滅。それはエミリアたちを守るため。
現状の最優先は子供二人を逃がすこと。魔獣に後を追わせない。
次に優先することは魔獣の殲滅。叶うならば、元凶を突き止める。
いまできることは、魔獣の間を突っ切るのと、魔獣の数を削ること。
俺がレムのところまで行くメリットは薄い。今この状況、魔獣の群れを挟み撃ちにできている現状は好都合だ。この状況を維持して、魔獣の数を削るのができること。
それならまずは、目の前で唸るこいつを……増えたか。
都合三体。それが増援の数。レムの方から抜けて出たそれらは、じりじりと回り込もうとしながらに咬み付く隙を見計らっている。
特に、その内の一体は今にも回り込まれそうな位置、真横に居る。
後ろに回られては対処が難しい。だから、早々に処理しなければ。
俺はその魔獣に隙を見せる。勿論、取り返しのつく、作られた隙だ。
それを見抜けなかった件の魔獣は、愚かにも高々と飛び掛かってくる。
俺は一瞬だけ視神経を強化し、飛び掛かる魔獣の腹の線を見分けてなぞる。
どさりと地面に倒れこんだ魔獣に、残る三体がたじろいだ。
今のは隙だ。けれど、飛び込んだところで一体やるのが精々。上手くいったとしても二体程度。残る一体に襲い掛かられて、食い殺されかねない。だからここは待ち。
……ああ、
ああ、俺には使いこなせない重量であることが恨めしい。でも、俺の戦い方とは合わないから仕方ない。
高火力への未練をきっぱり切り捨てる。俺にはこの視界がある。攻撃を当てさえすればいいのだから、取り回し辛い武器は不要なのだ。
バターナイフを順手に握る。かっこつかない武器だが、これでも俺の命綱だ。蜘蛛の糸でさえ死者に救いを齎すのだから、余計な欲は抱かなければ生き残れる、はずだ。
命を預けるにはあまりに頼りない。頼りない、が頼るしかない。俺には切れ味など無縁の話なのだから。持ち易さの方が重要なのだから。
でも、大事なところでぽっきり折れそうなんだよなぁ……
所詮はバターナイフ。そう大した耐久は無い。無理に取り扱えば、線を切りそこなって折れる。
俺を向く魔獣は三体。
レムの方では一、ニ……十一体か。周りに幾らか無残な死体があるし、モーニングスターを警戒しているのかもしれない。膠着状態に陥っている。
けど、それも長くは無いだろう。さっさとこの三体を片付けて、援護に向かおう。
まずは手近な――右側の一体に顔を向ける。殺気をぶつける、何て器用なことはできないが、笑いかけることぐらいは俺でもできる。
だから笑ってやった。思いっきり、獰猛に。
自然界では本来、「笑顔」は威嚇を示すらしい。好戦的な感情を示すのだ。
だからこんな状態で半歩でもにじり寄ってやれば――ほら、飛び掛かってきた。
放物線を描き、俺の手前で頂点に達する。落ちる勢いで喉を噛み千切るのだろうが、その滞空時間は隙でしかないぞ?
「シッ……!」
一振り。残光も軌跡も残らない、振り払うような一振りでその魔獣から命は失われる。
その死骸に少し目を向け、死を確認すると視線を前に戻した。
腕を振る際に踏み出していた歩幅を元に戻す。魔獣は、漸く俺に二体が殺されたのだとわかると、唸りを上げて身構える。低く構えたその姿は二台の
先程のおざなりな飛び掛かりとは一線を画するだろう。滞空時間のような隙など無い、彼らの全力だと思った方が良い。
幸い、左側の一体は一歩下がれば木で射線を防げる。願わくば彼らの飛び掛かりが気を射抜くような威力
ではないように。
そんな威力だったら、そもそももう片方の飛び掛かりを躱すことも難しいか。
上限が分からない。前回、前々回共に嬲り殺しであったから、彼らの全力が分からない。
ならばまあ、最悪を想定するべきだろうな。
一歩下がる。同時に、正面の飛び掛かりを避けるために、左足に力を入れる。
さあ、来い。いつでも――
正面の一匹が飛び出す。描く軌跡は僅かに弧を描くが、ほぼ直線だ。
放物線を描く軌跡が頂点に達する前に俺の喉を噛み千切るだろう。それはもう飛び上がりではなく、
砲弾を思わせる勢いでまっすぐ飛び掛かってくる。それはもう、愚直に。
「良かった、よ!」
左足の横跳びの為の力みを、前へ飛び出すための推進力に変える。ただ前に飛び込むのでは魔獣とぶつかるから、右斜め前方に其れながら。
それは体に染みついた動きで、すらりと動く。交差する瞬間に脇腹の死線を獲物でなぞる。よりも短くて、慌てて突き出した。それで体勢が崩れたが、それすらも飛び込みの勢いに呑み込まれ、予想通りに着地する。
それは、剣道であれば「面返し胴」と呼ばれる動き。
この場に置いて、殺し合いを目的としない「スポーツ」としての技術が使われたのは、間違いなく前提条件の違いからだ。
剣道では、当たればよい。剣術では、殺さないといけない。
そして、
前提条件が違うのだ。必要とする技術が違う。
無駄な力みは要らない。無駄な用心も要らない。無駄な踏み込みだって、必要ない。
無駄、無駄、無駄。
それは大きすぎる優位。こと生死の境を切り抜けた者たちほど、
ドサリと、三体目。
残るは真横に居る、一体。
着地した右足で跳ねる。左足は地につけない。無駄なストッパーとなるからだ。
慌てて向きを変えようとする魔獣に、
――首元を一閃。みるみるうちに魔獣の生命は失われ、死骸という物になった。
「さて、お次はあちらか」
見るのはレムを囲む十数体の魔獣。
これで何対かは挟み撃ちの状況にできる。
戦況が変わった。
先程の膠着状態から一転、空気が更に張り詰める。
魔獣たちは吠え、そしてレムと俺に挟まれた数体が俺に飛び掛かる。
先程の交錯を見ていなかったのだろう。滞空時間の有る飛び掛かりでは俺のいい的だ。けれど、溜めの居る飛び掛かりも、軌道が分かれば怖くない。元からこいつらの脅威は数だったのだから、数体ではなくもっと多くの数で襲い掛かるべきである。
正面の三体。狙う個所は右から腕、首、腿だろう。一体だけ低い弾道だ。
そして右側からもう一体、脇腹を狙う軌道。
これで全部だ。
俺はしゃがみながら前に踏み込み、首と腕を狙う魔獣の下に潜り込む。腿を狙う魔獣を避けるために、送り足には特に気を付ける。
それから左下の魔獣の背中をなぞった。
低い軌道は悪くない。けれど、まだ足りない。そんな勢いでは駄目なのだ。
続いて、放物線の頂点に達した二体を狙う為に腰を捻る。真正面に脇腹を狙った魔獣が見えたが、狙うには遠い。
いけるか?
不安を捻じ伏せて、俺は右足に一瞬だけ過大強化を施し、飛び跳ねた。
結果として、俺は地面に水平に、軽く錐揉み回転することになった。
流れる視界はあっという間に眼前に魔獣の腹を映し出す。
そっとナイフを突き出す。勢いは足りているのだから、後は的確になぞれるかだけだ。残念ながら、腕を狙う魔獣は少し遠かった。
「う、らぁあぁ!」
けれど、首を狙った魔獣は殺せた。確かな手応えを感じ、浮かべっぱなしの笑顔が喜色に染まる。
そこで喜んだのがいけなかった。俺は今、空中に居る。そして、着地など考えずに跳んだのだから、着地に集中しなければいけなかったのだ。
「あだっ、しまった……っ~!」
後頭部に衝撃が走り、失態を悟る。遅れて頭を締め付けるような鈍痛が現れ、涙目になる。
脳に衝撃が走ったためか、薄く流れた涙のせいか、視覚が朧になる。そこで一時魔獣の事を忘れ、頭を振ってしまう。
歯を食い縛り、口を堅く結ぶ。どさりと魔獣の死体が落ちる音がしたが、それを俺は聞き逃す。
俺も痛みには慣れている。鈍痛の方が痛く感じるものだといえど、すぐに俺は復帰した。
惚けていたのは一瞬。刹那としか言えない僅かな時間。
けれど俺でさえ滞空時間を隙となせるのだから、より優れた狩人である獣、その性質を持つ魔獣がこの僅かな時間を隙と出来ないわけがなかった。
ほんの僅かな、些細な隙。
それが命取りになることは俺が先程まで証明して、今度は実感する番だった。
「く、このっ、降りろっ!」
伸し掛かってきた黒。死の線に塗れたそれは魔獣であり、先程襲い掛かった魔獣の生き残りの、二体のうちのいずれかだ。
すぐそこ、手を伸ばせば届く場所に死の線がある。だが、上腕は魔獣の太い太い前足で見事に拘束されていた。体重をかけただけの、技術も何もない拘束だ。数瞬動きを遅らせる程度でしかない拘束だ。
その数瞬は、喉笛に食らいつくには十分すぎる時間だ。
「――っ!」
とっさの判断だ。喉に咬みつこうとする魔獣の鼻に頭突きを食らわせてやる。
首の筋肉に任せたそれはさしたる威力もない。けれど意表を突くには十分だ。問題といえば、額に生えていた角が頭頂部を掠り、痛みを受けたことぐらい。つまり問題なしだ。
軽く頭を仰け反らせた魔獣の緩みに合わせて転がるように体勢を入れ替え――その隙は無い。すぐさま立て直した魔獣を見て取り、もう一度頭突いてやるが、ひょいっと首を背けて交わされた。流石の対応力だと言わざるを得ない。流石ついでに胸を貸してくれてもいいんだぞ?
眼前には魔獣の胸板。違う、そうじゃない。死の線がこれほどまでに近くにあるのに、なぞれない。そのもどかしさが焦燥に変わり、苛立ちに変わる。
苛立ちは即ち怒りとなり、思考から冷静さを奪う。先程までの機械仕掛けの精密さは狂い始め、けれど分泌されるアドレナリンがそれを補足する。
そして、沸き上がる怒りは普段では躊躇う様な行動をさせる一助となる。
目の前に死の線がある。しかし、腕は動かせない。
どうする?
――舌でなぞればいいだろ。
変態的な、形振り構わないとしか言えない凶行は、挟み込む疑問すら浮き上がらぬほどの速さで実行される。
伸びろ伸びろ、千切れんばかりに舌を伸ばし、眼前の死の線を舌の先が捕らえたと思った瞬間、俺は首を振った。
「――!」
「っだらっしゃあぁい!」
声にならない悲鳴。いや、そもそもその断末魔を聞いていないからこそ、その声を勝手に解釈するしかない。
完全に真横を向いた後、魔獣の生死を確認せずにその躯体を投げ捨てる。
仰向けになったその肉体の、その胸部は、じわじわと血が滲みだしていた。鼬の最後っ屁ではないが、舌での反撃というのも、それに負けず劣らず馬鹿げた話ではないだろうか
そんな油断も沸き上がる。だって、窮地から抜け出した直後なのだから。
それを許さないというのは、どこの鬼畜生か。
「っとぉ! お前ら本当に奇襲が好きだなぁ!?」
お前が言うな。魔獣の群れの半数を奇襲で壊滅させた者の台詞ではない。
そんなことはさておき、身を起こそうとした
どうやら身を起こす際に、そちらに背を向けるような形で起き上がってしまったらしい。まさに迂闊。
でも、先程の様に致命的ではない。何せ、まだ完全に組み伏せられていないのだ。振り向いて、その線を確認し、振るったナイフの軌道を微修正する余裕ぐらいはあった。
奇跡的なことだ。完全な背後からの奇襲に、しかし即座に対応するなどとは常人の技ではない。
これまであまり戦士と戦ったことが無かったのか、それとも奇襲を不得手とする個体だったのか。予期せぬ反撃に魔獣は体を竦め、易々とバターナイフによって殺された。
「――ぃよっし! これで四! いや、七か。レムの方、はぁ!?」
立ち上がりざま、レムの戦況を確認するために振り返る。そして、驚愕を覚えた。
それは、眼前に魔獣がいたことではなく、むしろその魔獣が横殴りの鉄風によって右側へ吹き飛んでいったことだ。
眼前を通り過ぎ、何なら鼻頭に掠り傷を残したそれは紛れもなくモーニングスター。
レムの武器だ。
ぐしゃりという音が聞こえるにも関わらず
傷だらけ。辛うじて勝ったという感じのレムは、疲労困憊だ。
モノクロのメイド服は無残に千切れ、傷口は艶めかしく血を垂らす。陶磁のような白い肌に、未だ生への光が灯る碧眼。そして、その惨状で尚、咲き誇る一輪の花のように鎮座するホワイトプリム。
正しく、戦場の華というに相応しい、芸術のような姿だった。
「はぁ、はぁ……これで、最後、ですね……?」
レムは
抱えていた二人の子供の姿は無い。よもや死んだか、何て思いは傍の木の根元に座り込んでいる姿を見て霧散する。
そこに居たのはペトラとメィリィ。ペトラは気絶し、メィリィは満面に笑みを浮かべている。少し妖しげな笑みだ。大人っぽいな。
何故ここに来たのか、と問い詰める前にレムへの返答を優先したのは単に優先順位の問題であるはずだ。
「ああ、多分……っ違う!」
それも、才能を持たなかった未熟者だ。本来の技術を見よう見まねでしか扱えない出来損ないだ。
だから察知が遅れた。だからこうも無様を曝した。
「――死んじゃえ。ここで、大人しく――!」
声がする。笑い声のような、それでも怒りの籠った声。
それを叫んだ声の在処を探す前に魔獣が姿を見せる。
「なっ――うそ、だろ?」
それに対応しようとして、
前を見るだけで、森の闇に浮かぶ赤は無数。左右を見やれば同じような景色が広がり、完全に包囲されているとわかる。
悍ましい赤の灯火。その全てが魔獣の瞳だと分かり、そしてこれまでに屠った魔獣が僅か群れの半数に過ぎないと察した。
そして、
「ははっ。どうしろ、ってんだよ、これ」
乾いた笑いが漏れる。疲れ果て、意識もブラックアウトしかねない。朦朧とした思考。万全とは程遠いコンデションで――お代わり?
どんな冗談だ、それは。
思わず、いつもお守りを下げていた胸元を掴み――そこにペンダントすらかかっていないことに気づいて頭が冷える。
どうやら、冷静なようでも余裕がなかったようだ。二度も殺されれば、余裕も消え失せるのだろう。この一週間、お守りもペンダントも付けた覚えがない。ベット脇の引き出しの中に納まっているのだろう。
「……ああ、くそ。こんなことなら、弾の方を入れて来ればよかった」
お守りの中身を思い出して、そう愚痴る。
どちらにせよ手元にないのだから、無いものねだりでしかない。
いつも頼ってきたお守りが無くなって、握りしめる拳に力が入る。それを意識して解いて、俺は息をする。
どうしようもない。
武器は
そして、小細工も通用しない。この数を相手にできるのは時間稼ぎくらい。
「……やるしかない」
俺は飛び出した。膝を突いたレムの真横を通り抜け、魔獣の群れに飛び込む。
まずはナイフを投げ込む。一直線に突き進んだそれは、切れ味を持たず、しかし魔獣の額に突き刺さる。それは
続いて跳ね上がり、木を踏み台にした二段ジャンプでもって魔獣の群れの中に落ちる。
すれ違いざまに二体の死線を両手でなぞり、たたらを踏みつつも立ち上がったついでにもう一体の命を貰う。
けれど、
前週の焼き直しの様に、背中へ体当たりが成される。
着地の反動でたたらを踏んでいた
姿勢を保とうと両腕を広げ、そこに魔獣が噛みつく。
せめてもの抵抗に、また二体の命を奪う。
噛みついた魔獣は完全に腕を抑え込み、
抵抗はできる。まだ、抗える。
けれど、あの夥しい魔獣の群れを思い出しても、まだそうぬかせるか?
諦めよう。数が、戦力が、人手が足りなかったのだ。
次の週に、期待しよう。
「さぁ! 殺しなさい! 肉を食んで血を飲んで、脳髄を啜って骨を噛み砕いて――」
少女の声がする。
その声には聞き覚えがある。
諦観の中、その声の主の名前を思い出す。
メィリィ。確か、アーラム村の一人の少女。
成程、親を見かけた覚えがないと疑問に思ったが、彼女が主犯だったのか。旅人扱いされていなかったのは……子供だったからだろう。
となると、この魔獣は彼女の使い魔か? 将来有望な才能だよ。
ぜひ、ここ以外で発揮して欲しかった。
空にはニンマリと
その明かりすら心許ない森の、闇の中で喰らうもの。
捕食者は牙を鳴らし、爪を立て、その涎と共に晩餐を貪る。
「あ」
四肢に噛み付いた牙を通して、呪いが送られる。それはどうでもいい。どうせ効かないのだから。効かないけれど、それは痛みが無いわけではない。
腕、背中。どこまでも魔獣だらけの俺。「人気者だ」、なんて軽口は吐けない。
頭皮には爪、眼前には顎。半分の視界には、同じように半分の口内だけが映る。ピンクの舌が何処までも脳裏に焼き付く。
歯並びは良くない。色もよくない。そして臭い。食べかすだらけだ。
そんな最低な口に、齧られて死ぬのだ。これでもう三回目だよ。
いいとこまで行ったんだけどなぁ。へっ。
虚ろな笑いの前に魔獣の口が広がり――
「――
――そして、ギロチンの刃は落ちた。
【バターナイフ】
食器。武器ではない。
武器では、ない。(迫真)
【魔獣の角】
魔獣の第二の命ともいえる、重要な器官。
これを失っても死にはしないが、彼らはこれを失うことを酷く恐れる。
それに触れる者がいれば。ましてや完全に優位に立った状態での反逆ともなれば。
いささか仰け反るのも当然だ。そこに、ちっぽけな力しかなくたって。
【お守りの中身】
今は「とある瓢箪から取り出した米と胡麻」が入っている。
主な用途としては、触媒にして結界を張ったり、災害を呼ぶ程度。
弾とは、菜月昴が受け継いだ形見の魔術礼装。攻撃的に守護する性質がある。
尚、お守り袋の方には極めて特殊な加工が成されており、神秘を保存――正確には隔離することができる。
『――』
それは、獲物の独占権を主張する声。